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星を宿すこと

 太陽の光を浴びて、その緑色が深まるばかりの木々が覆う山の中にぽつんと、やたらと白い建物が見えてくる。
 町からは車でどんなに急いでも二時間はかかる。途中車ですれ違うことが難しい細く狭い道があったり、舗装もされていなかったりするから、その二時間というのも運転技術がありこの道に慣れた人間であるという条件はついてしまう。
 見渡す限り山々が広がっているここは、全寮制の私立の学校だ。
 幼稚園から大学まで入学したが最後、エスカレーター式に進学していく。
 施設はとても充実していて、全教室冷暖房完備で、屋内プールまで設けられている。体育館だってひとつだけではなく、複数設けてあり、テニスコートや野球場、サッカーコートまで整備されている。それに加えて学校内に医療施設まで整っていて、”何か”が起こったとしても、町におりる必要はなくこの学校だけで済ませてしまうことが可能なほどだ。
 学生向けの寮だけではなく、必要に応じて増設されていった親御さん向けの建物は、正式なものではないにしろ、全国的にみてもトップクラスの規模の団地といって過言ではないだろう。
 これほどまでに設備が充実した学校だから、山奥とはいえ入学希望者は多いはずだろう。
 そう確かに多い。多いのだけれど、入学するためには単に試験にパスすれば良いというわけではない。

 ”ある条件”を満たさなければならない。

 逆に言えば、その"ある条件"さえ満たしていればいいのだ。
 入学してしまえば、授業料はまったくもって免除され、さらにその家族には生活補助費まで支給される。
 そんな噂を聞きつけた人々が、非公開の入学願書を手に入れてはやってくるというのは毎年のことである。
 この入学願書を手に入れられること自体、非常にすごいことなのだけれど、やはりそれだけでは入学は叶わないのだ。
 以前、とても優秀な人材がこの学校への入学を希望したことがあった。
 きっと彼の頭脳をもってすれば、ノーベル賞だって夢ではないだろう。
 この国の最高学府すらもったいなく、海外からも引く手あまたな彼は、簡単には入学できないという噂を嗅ぎ付け、半ば興味本位もあったのだろうけれど、彼は”ある条件”を満たしてはいなかった。
 ゆえに、入学することは叶わなかった。
 それでもしつこく入学を希望し、かつあまりにもしつこく問い合わせてきて通常業務にすら支障がではじめていた。

「有用な人材なんだろう」
「そうですが……」
「それならいいじゃないですか、彼のような人材は有効活用するに限りますよ」

 そう判断されるのなら、仕方はないか。
 やむを得ず、私は彼の入学を許可した。
 あとから知った話だったが、彼の家庭はとても困窮していて、家族ごと面倒をみてもらえる学校でなければ金銭的な問題で進学することができなかったらしい。それに加えて、何より彼には”目的”があった。それは私そのものであった。
 それを知った私は、ああ……それさえも”有効活用”するに限るということなのかという意図に気がついてしまったのだ。
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