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隙間から熊。

 少年は暇をもて余していた。
 リビングのソファーにだらしなく、溶けたようにもたれ掛かっていた。
 いつもであれば、ここですかさずそんなみっともない座り方をしないのとか、だらしがない、恥ずかしい、ちゃんとなさいと、母親の不機嫌な声ががつんと飛んでくるのだが、今日という日に限ってはそうではなかった。
 今日はその、いつも口うるさい母親が地域の役員会の集まりで帰りが遅いのだ。
 少年はいつもなら、母親に叱られてすることができなかったことを存分にするつもりで、今日という日を迎えるための準備をしていた。
 母親がいなくても、父親が代わりに叱るのではないかと、きっとそう考えた方はいるはずだ。
 それは正しくその通りなのだ。母親がいないときや手が離せないときは、母親ほどのきんきん声ではなく、母親よりも言葉数は少なく、そして地を這うように響くバリトンボイスで、少年を叱るのだ。
 一言、やめなさいと。
 父親にそう言われては、少年もその行動を止め、母親に注意されたとき以上に大人しくせざるを得ないのだった。
 しかしながら、今日はその父親も仕事の関係で遠方に出ていて今夜は帰ってこない。いつ帰宅するかはわからないけれど、母親のきんきん声をしのぎさえすれば今夜はどうにでもなると少年は考えていた。
 ゆえに、入念に今日という日を迎えるために準備をしてきたのだ。今日を逃せば、次にこんな日が来るのはいつになるかなんてわからない。
 少年はだらだらするためには余念がない。そしてそのために必死になる。何とも本末転倒な感じではあった。
 何をして、どうやってだらだらしたいかをリストアップした。やりたいことは、たくさんあった。食事の代わりにお菓子をテーブルいっぱいに広げて、お腹いっぱいに食べたい。それから、床中におもちゃを思う存分に並べて遊びたい。
 今日ならそれをしても、何も言われない。勿論リストアップするだけではく、食べたいお菓子をちまちまと自室の秘密の箱に溜め込んだ。さらに、すぐに出したいおもちゃが出せるようにいつも以上に、母親がどうしたのかと思うほどに整理整頓に努めるほどであった。
 しかしながら、やりたいことが自由にできるというのは、案外簡単に飽きてしまうのだと、少年は何となくながらそれを感じていた。
 そう、少年は母親が家を出てから1時間足らずで、自由に飽きたのだ。
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