「オイラが思うに、お前さんはただのニンゲンじゃない。少なくとも…“この世界”ではな」

『！！ ……え…？』


サンズの言葉に、口から小さな声が零れた

頭の中で、警鐘が鳴っている


「“現実的じゃない” “夢かと思った” “モンスターなんてにわかに信じられない”…これまでのお前さんの発言は、“この世界”のニンゲンじゃ有り得ないんだよ」

『……どういう、意味…？』

「……その昔、地球には“ニンゲン”と“モンスター”っていう2つの種族がいた」


だがある時、2つの種族の間に戦争が起きた

そして、長い戦いの末、ニンゲンが勝利した

ニンゲンは魔法の力で、モンスター達を地下に閉じ込めたんだ


「その結果が、この“地底世界”だ」

『……そんな…』


呆然とするソラを横目に、サンズはニヤリと口角を上げた


「にわかには、信じられないか？」

『！！』

「だがな、これは事実だ。お前さんにとっては残念なニュースだろうが」


目を細めるサンズを見て、ソラは視線を下にさげた


『……いや…もう、解った』

「！」

『実際…お前みたいなスケルトンや、ここにいるモンスター達を見ちまったんだ…これが“現実”だって事ぐらい、嫌でも解る』


すっかりぬるくなってしまったココアを見詰め、ソラは低い声で言う


『……変なこと…言うようだけど…』

「お前さんが言いたいこと、大体予想がつくぜ」


若干茶化すような返しに、ソラは深く息を吐いた


『……違うのか…“私のいた世界”と、“この世界”は…』

「……ああ、そうだろうな」


サンズの肯定の言葉が、重く心に圧し掛かった


「“異世界転移”って知ってるか？“トリップ”とも言うんだが…お前さんはきっと、その現象に陥ったんだろう」

『……トリップ…』


異世界転移やトリップという言葉は聞いた事がある

漫画やアニメでよくあるような、全く別の世界に飛ばされてしまう現象

そんなものは創作、夢物語だと思っていた

でも、それがまさか、現実で起こるなんて


「何が切欠でこうなったのかは分からないが…こっちに来る前に何があったのか、覚えてないのか？」

『……いや…』


私はただ、家で休日を過ごしていただけだ

元の世界はまだ夏で、外から聞こえるセミの声はうるさくて

エアコンを点けても蒸し暑い自室で、窓から見える青空を眺めながら、“暑いなぁ”なんて思いつつゲームをしてて

それで……それから………


『………ッ』


咄嗟に口元を片手で覆い、声が漏れ出るのを抑えた

……私の、平凡で幸せだった“日常”が

全て、奪われた事を知った


「……まあなんだ、分からないなら無理して話す必要はないさ」


心中を察したのか、サンズはソラの背中をポンッと優しく叩いた


「異世界から来たってんなら、“地上”に出た所で意味無いだろうな」

『………』

「ほら、そう暗い顔するなよ。“この世界”も案外悪くないかもしれないぜ？」


俯くソラを励ます様に、サンズは先程よりも明るい声色で言う


「悪いニュースばかりのお前さんに、オイラが良いニュースを教えてやるよ」

『……？』

「このグリルビーズを出て少し行った先に、とある家があるんだ。そこはタダで寝泊まりが出来る上に、期間は無制限」


そこまで言うと、サンズはソラに向かってパチリとウインクをした