小道をぬけて
*
あの日以来、私は寂しさと落ち込みでめぐみにまだ話せていなかった。
話してしまったらもっと寂しい気持ちがでてきてしまうからだ。
窓の外を眺めながらため息をする。
今日何度目のため息だろう。
休憩時間も賑やかな教室は余計に私の心をザワっとさせていく。
『……はぁ。時間止まんないかな、なんて』
「止まってほしいの?」
え。
急に頭上から声が聞こえ顔を向けるとそこにはクラスの男子。
西山大樹。
サッカー部でキャプテン、部員みんなの憧れでクラスでもモテる男子だ。
普段そんなに話もしないのに話しかけてきたことにびっくりする。
私の事なんて気にもせず、目の前の席に腰掛ける。
「で?なんで止まってほしいの?」
(あ。)
『いや、意味なんてないけどなんとなく、かな』
私は曖昧な返事をする。
意味ない……そんなの嘘だ。
引っ越すことが夢であればって思いたくなるほど、現実を受け入れたくないだけなんだ。
この育ってきた環境が好きだし、それに親友と離れたくはない。
まだ伝えることすらしてないけど、伝えたらめぐみはどんな顔をするのか。
ふと表情まで考えてしまう。
そんなめぐみはいつもの様に図書館へ行っていて教室にいない。
安心しているが、戻ってきた時話さないといけないのはわかっている。
私の気持ちを察してかなんなのかはわからないけど、西山くんは外を見ながら
「まぁわからなくもないけど」
『ん?』
「いや、時間とかさ止まってほしいなんて俺でも思うよ」
『西山くんでもあるの、そういうとき』
「そりゃーあるよ。試合の時とか友達と遊んでる時とか寝てるとき」
『寝てるときは止まってほしいね』
「だろ?日曜とか繰り返されたいよ」
ため息つきながら言うもんだから、私は笑ってしまった。
少し話してか私の気持ちも明るくなれたような気がする。
そこへめぐみが戻って、私の席まで歩いてきた。
西山くんと私を交互に見るや、
「え。二人ともそんなに仲良かった?」
意外な組み合わせだなーなんて言いながら私の横へ座る。
「いや、そんなに話したことねーけどため息ついてたから声掛けただけだよ」
「え、紗枝何か悩み?どうしたん?」
そんなこと聞かれたら話さないとってなるけど、
帰りに伝えよう。
そう心にしまい、ううん、なんでもないよ。と笑顔で伝えたのだった。
*
帰り道。
いつもの様にカフェに寄り、物語の話を聞かせてくれるめぐみ。
今日も童話を何冊か借りてきたらしく、小説の新作のイメージを話している。
「それでね?
転校してきた子が過去に知り合ってたって話にした方がいいのかなーって思うんだけどさー」
『うんうん』
「会えてもそこからどう恋心へもっていくかなんだよねー」
私の夢の話を小説に加えたいめぐみは、夢で見た内容をメモしつつストーリーをまとめていく。
メモにはあらすじや設定、様々な展開に一つ一つ細かく書かれていた。
物語を書くってすごいなーと感心していると、注文していたパンケーキが運ばれてきた。
新作のストロベリームースのかかったパンケーキはホームページの写真よりも美味しそうでなにより、可愛いアレンジもされていた。
ココアに包まれたマシュマロを入れるとお花が咲くなんて、可愛いしスイーツ好きの女の子には写真を撮りたくなってしまうのもわかる気がする。
『わぁ。おいしそー!』
「ほんと!ここに来てよかったわぁ」
ナイフとフォークでふわふわのパンケーキを食べ始める。
『「いただきます!!」』
想像異常に美味しくて、何回でも食べたいと思えた。
*
食べ終え、幸せを噛み締めているとめぐみが率直に聞いてきた。
「で?私に話あるでしょ?」
(……きた)
そう、今日は伝えなくちゃいけない。
だから放課後、めぐみをカフェに誘い、検索したパンケーキ屋さんへと食べに来たのだ。
ほかの場所でも良かったかもしれないけど、せめて楽しく過ごしながら話したい。
パンケーキの無くなったお皿を見てからめぐみを見つめる。
めぐみも私のことを見て話すのを待っててくれている。
『やっぱり……わかってた?なにかあるって』
「そりゃね、何年一緒にいると思ってんの?」
察しのいい彼女は今日の休み時間から私の異変に気づいていたらしい。
『さすが親友』
「だろ?」
ドヤ顔しつつ、
「冗談はさておき。」
『うん』
私は意をけして伝えた。
親のこと、引越しをすること。
会えなくなってしまう寂しさ、
今まで思っていた心のもやもやを全て。
涙目になっていく私をゆっくりでいいからと最後まで聞いてくれる。
最終的には泣き始めちゃったけども変わらず、めぐみは話を聞いて頷いてくれていた。
話終えると、めぐみの目にも涙が流れていた。
私達は涙がひくまで、寂しさが落ち着くまで一緒に泣いていた。
中々居ない、こんなにも信頼して安心できる親友なんて。
寂しいけど、、苦しいけど、、
伝えることができてよかった。
*
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