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3期

「ルナ……」

「ん?」

夕日に照らされ茜色に染まり始めた歩道の真ん中で、買い物袋を両手に抱えたルナは名前を呼ばれ、立ち止まった。

隣には、同じく買い物袋を抱え、真剣な眼差しで彼女を見据えるクラスメイトの男子の姿。

「俺と……付き合ってくれないか?」

「……へ?」

人は皆、誰かを、何かを想う。

『告白』……

それを口にするのは簡単で、実践するには覚悟を要する不思議な言葉。

それを伝える事で、時に通じ合い、時に傷つき苦悩する。

不確実なものでありながら、皆がそれを実行する。

そうしなければ、自分の想いは相手には伝わらない。

相手の想いを知る事ができない。

この日、ルナは想い人ではない男子から告白を受ける事となる。

思春期の少年少女達の想いが交錯し、心惑う学園祭前夜──



第 7 話 『放課後(後編)』



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

数時間前……

「ねぇメノリ、この材料がちょっとだけ足りないんだけど……」

不足した材料のリストが書かれた紙を持って、ルナはメノリへと歩み寄った。

メノリはそれを受け取ると、頭の中で経理を行い、予算と照らし合わせた。

「ふむ……これくらいなら買い足しても予算的に問題ないな」

「よかった!じゃあ今から買ってくるね!」

メノリからOKサインを貰うと、ルナが買い出しへ出かけようとした。

そのタイミングで、ルナは同じクラスの男子に声を掛けられた。

「あ……ル、ルナ!良ければ……お、俺も一緒に行くよ!」

「ううん!私1人で大丈夫だから」

男子の申し出をルナは笑顔でやんわりと断った。

「あ……いや、でも……」

「ルナ、ついでにそいつも連れていけ。それだけの荷物を1人で抱えて戻ってくるのは大変だろ」

メノリの言葉を受け、ルナはやや考えた後、「じゃあ、お願いできる?」と男子へ遠慮がちに確認を取った。

その言葉に、男子は二つ返事で頷いた。




繁華街へ着くと、2人は不足した材料を求めて何件も店を回り、全て買い揃えた頃には『青空』の天球から『夕空』の天球へと移り始めており、辺りは茜色に染まりつつあった。

学園へ戻る道中、男子が隣を歩くルナへ話し掛ける。

「ルナ……さ、学園祭の間、どうするか決めてる?」

「学園祭の間?クラスの出し物と演劇部の助っ人だけど」

「そうじゃなくて、空いてる時間」

そう指摘され、ルナはその事に関して全く考えていなかった事に気が付く。

「その様子だと、ひょっとして何も考えてない……?」

「う、うん。出し物の事で頭が一杯で……」

そう言ってルナは苦笑いした。

「ルナがその……もし良かったらなんだけど、さ……空いてる時間、俺と一緒に回らないか?」

「へ……?」

突然の誘いにルナはキョトンとした。

そもそも、彼とはクラスメイトという以外ではあまり接点が無い。

今回のお使いで、少し話すようになったくらいである。

何故彼が自分を誘うのか、その理由がルナには分からなかった。

「えっと……何で私?」

男子は男子で困り果てていた。

ルナの鈍感さは噂では聞いていたが、実際目の当たりにすると、かなりの強敵である事が分かる。

しかしこのままでは先へ進めない、と意を決したのか、男子は覚悟を決めた眼差しでルナを見た。

ルナは相変わらず頭にクエスチョンマークを浮かべた状態である。

「ルナ……」

「ん?」

「俺と……付き合ってくれないか?」

「……へ?」

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


「もう日も沈んじゃうけど、何か用事でもあるの?」

「……は?」

「え?だって付き合ってほしいって……」

男子は唖然とした。

このご時世、この年代、このタイミングで、こんなベタな勘違いをする女子がいるだろうか?

鈍感だとしても程がある。

「いや、そうじゃなくて……」

「へ?」

「だから……つまり……ル、ルナの事が好きなんだ!」

「…………え?」

ルナは突然の言葉に固まった。

(も、もしかして……私、告白されてる……!?)

「だから……俺と付き合ってくれっ!」

そこで初めて自分の勘違いにルナは気付く。

同時に、恥ずかしさが急激に押し寄せ、顔が真っ赤になった。

「あ……えっと……」

こんな時どう答えればいいのか分からず、ルナは必死に言葉を探した。


ふと、頭にとある人物の顔が浮かぶ。

その人物はルナに優しく微笑みかけていた。

それはルナの大好きな微笑み……


「………ごめんなさい」

自然と言葉が出た。

どう答えるべきかなど、始めから分かっていた事であった。

それでも言葉を必死に探そうとしたのは、その一言で目の前にいる男子を傷つけてしまうのでは?という思いがあっから。

案の定、ルナの返答を聞いた男子は俯いていた。

「……他に好きな奴がいるのか?」

「っ!!!」

不意な質問にルナがビクッと過剰に反応を見せる。

その反応から、ルナの答えは一目瞭然であった。

「……そっか」

男子は沈んだ声でそうポツリと答えた後、無理矢理な笑顔をルナへ向けた。

「な、なら仕方ないな!もともと玉砕覚悟だった訳だし!」

「………ごめんなさい」

ルナにはただ謝る事しか思い付かなかった。

「また……クラスメイトとして仲良くしてくれないか?」

「………うん」

「……よかった。さぁ、もう行こう。メノリ達が待っている」

彼の表情は笑顔であるのに、その声はとても哀しげにルナには聞こえた。

気まずさから2人は前後に並んで道を歩く。

ソリア学園へ到着するまでの間、会話も無く、街の雑音だけがやけに大きく耳へとに入ってきていた。




「お疲れ様……って、お前達、何かあったのか?」

帰ってきた2人の様子がおかしい事に気付き、メノリが尋ねる。

「……ううん。何でもないから気にしないで」

「いや、しかし……」

明らかに覇気の無い笑みで答えるルナをメノリは心配そうに見つめた。

「俺、あっちの手伝いに行ってくるよ!」

一方の男子の声は、無理矢理な笑顔を作り、元気が空回りしているように見える。

2人の間に何かがあったのは明白であるはずなのに、それを深く追及する事がメノリには出来なかった。

男子がルナの横を通り過ぎる。

「………」

先程、またクラスメイトとして仲良くしよう、と約束したはずなのに、上手く接する事が出来ない。

『いつもどおり』がどういうものだったのか、ルナは分からなくなっていた。

「ルナ……?どこか具合でも悪いの……?」

シャアラが心配そうにルナへ声を掛ける。

「……ううん、何でもない!」

ルナは気持ちを無理矢理押し込め、シャアラへ笑顔を向けた。

「……さぁ!本番は明日なんだし、残った分を早く仕上げちゃいましょ!」

そう周りを鼓舞して、ルナは作業へと取り掛かった。

そんなルナの様子を見て、メノリとシャアラはやるせない思いを抱いていた。




日もすっかり沈んだ頃に学園祭の準備作業が全て終了し、居残りしていた生徒達も各々の帰路につく。

ルナは現在、メノリとシャアラと3人で下校している。

暗がりの帰り道を歩いている間、ルナは絶えず2人に話題を振っていた。

ルナは不安や悩みがある時ほど、それを周囲に悟られまいと無理に明るく振る舞う傾向がある。

もはやそれは一種の『癖』となって体に染みついてしまっているようで、ルナ自身は無自覚でやってしまっている。

メノリとシャアラからすれば、もっと頼ってもらいたいという思いがあるのだが、彼女の生育環境がそれを引き起こしているとなれば、強くも言えないのであった。


「じゃあ、また明日ね。メノリ、シャアラ」

分かれ道へと辿り着き、1人帰り道の違うルナが笑顔で2人に手を振る。

「ルナ」

数歩進んだ所でメノリに呼び止められ、ルナは歩みを止めて振り返った。

「私達はいつでもルナの味方だ。何かあったら遠慮せず相談してくれて構わないからな」

メノリの言葉に、ルナは一瞬虚を衝かれた様な表情をするも、その意図を悟り、微笑んで頷いた。

(……ありがとう。それから、ゴメンね)

自分に気を掛けてくれている事に対し感謝の言葉を、そして結局言わず終いなった事に対し謝罪の言葉を、心の中で2人に述べた。




「ルーナちゃん♪」

帰り道、不意に後ろから聞き覚えのある声が耳に入り、ルナは反射的に振り返った。

そこにはいつもの笑顔で手を振るカトレアの姿があった。

「あ、マスター。こんばんは」

ルナも笑みを浮かべて挨拶を交わす。

その笑顔が、いつもの明るい笑顔ではない、無理矢理な作り笑顔をしている事に気が付き、カトレアは首を傾げた。

「ルナちゃん、何かあったの?」

自分では隠しているつもりなのに、どうして周りにはすぐバレるのだろうか?とルナは甚だ疑問に思った。

「何もありませんよ?私はいつも通り元気です」

顔は笑顔だが、声はわずかに震えていた。

当然の事ながら、勘の鋭いカトレアにその手が通じるはずもない。

(全然大丈夫って顔じゃないけど……)

無理に平静を保とうとするルナに、カトレアは小さな溜息を落とすと、「よし!」と突然意気込んだ声を上げた。

思わずその声にルナはビクッと反応した。

「ルナちゃん、これから一緒に夕飯でもどう?」

「……へ?」

突拍子もないカトレアの提案に、ルナはキョトンとしてしまった。


ルナはカトレアに連れられ、とあるパスタ店へとやってきた。

ウェイターに誘導されテーブルに着くと、カトレアはいそいそと立ててあるメニューを開いた。

「ここのカルボナーラがまた美味しいのよ~」

「へぇ~、どれも美味しそう」

そう言いながらも、やはり料理の金額の部分にルナの視線は向けられていた。

そんなルナの様子に気付き、カトレアはクスッと小さく笑った。

「心配しなくても今日は私の奢りだから、遠慮しないで好きなもの頼んでいいわよ」

「そ、そんな!いいですよ!自分の分はちゃんと払いますので!」

奢ると言われすっかり恐縮したルナは慌てて首を横に振った。

「いいから。子供は大人の行為に甘えるものよ」

カトレアに押し切られ、ルナは渋々ながらお言葉に甘える事にした。

(あれ?これと同じ事が、前にあったような……)

今のやり取りに既視感デジャヴを覚え、ルナは記憶を巡らせた。

しかし、丁度そのタイミングでカトレアはウェイターを呼び、料理を注文した為、ルナの思考はそこで遮られる事となった。


料理を待っている間、カトレアがルナへ本題を切り出す。

「さてと……ルナちゃん、何があったの?」

「い、いえ!何も……」

そこまで言いかけ、ルナの口が止まった。

いつもと違い、カトレアが真剣な眼差しでルナを見つめていた。

その全てを見透かす様な瞳の前ではどんな誤魔化しも無意味であるとルナは悟り、今日あった出来事を白状した。

事情を聞いたカトレアは「青春ねぇ~」と言いながら何故か楽しげな表情を浮かべていた。

「ルナちゃんってやっぱりモテるのねぇ」

カトレアに茶化され、ルナは顔を赤らめて首を横に振った。

「そ、そんな事無いです!告白されるのって初めてで……いつも通りでいようって言われても、どう接したらいいかよく分からなくて……」

実際の所、ベルや他の男子に告白されているのであるが、如何せん、ルナはそれを告白と認識していない。

「そんなの当然よ。いつも通りでいられる訳なんてないんだもの」

「そう……なんですか?」

きっぱりと断言するカトレアの言葉を、やや疑い気味にルナは聞き返した。

「ただのクラスメイトとして接するのと、好意を持って接するのと、違いがでるのは当たり前の事よ。今までの関係が変わるリスクを覚悟の上で、みんな想いを告げているんだから」

「でも……想いを告げて関係が壊れちゃうくらいなら、今の関係のままでいいっていう考えもあるんじゃあ……」

何故か後ろ向きな意見を提示するルナに、カトレアがいつもとは違う口調で返答する。

「厳しい事言うようだけど、それは現実逃避よ。だって同じ関係がずっと続くなんて事はありえないもの」

「え!?」

カトレアの言葉に衝撃を受け、ルナは思わず大きな声を出した。


『ウチはなルナ、カオルがどんな答えを出そうとも、この関係だけは変わらへんと思うねん』


前にチャコに言われた言葉が脳裏をよぎる。

カトレアの言葉はそれとはまるで正反対の意見であった。

「……よく分からないです」

「そうね……例えば、もしカオル君が誰か他の女の子と付き合う事になったとしたら……ルナちゃんはカオル君と今までと同じ様に接する事ができる?」

「それは……分からないです……その時になってみないと……」

そうは答えるものの、恐らく同じ様に接するのは難しいかもしれない、とルナは何となく悟っていた。

それでもチャコの言葉を信じたい、という思いとぶつかり、今のルナにはそう答える事しか出来なかった。

「今はまだ分からなくてもいいの。ルナちゃんはまだ中学生なんだもの。でもいずれ分かる時が来るわ。その時は遠慮せず相談してちょうだい。おねーさんがバッチリアドバイスしてあげるから」

そう言ってカトレアはルナへ微笑みかけた。

「……はい」

チャコとカトレア、どちらの言葉が正しいのかは分からない。

それでも、どちらが正しかろうと、相談に乗ってくれる人物がいるという心強さをルナは感じた。

「…………あれ?」

気持ちが少し軽くなり、冷静になった所で、ルナの中で些細な疑問が浮かび上がる。

「どうかした?」

「いえ……あの、今更なんですが……私、マスターに話しましたっけ……?その……カオルの事……」

「あぁ、ルナちゃんはカオル君が大好きだって事?ううん、初めて聞いた」

「な……!?何で知って……じゃなくて……何を言って……!?」

カトレアの発言にルナは激しく動揺し、支離滅裂な事を口走った。

「そりゃあ知ってるわよ。ルナちゃんと初めてあった時からね!あの時はルナちゃん自身、まだ自覚無かったみたいだけど」

カトレアがきゃらきゃらと楽しそうに答える。

シャオメイ、シャアラに続き、カトレアにまでバレていたと知り、自分はそんなに分かりやすいのか?とルナは恥ずかしさで顔を伏せた。

そんなルナの様子を楽しげに見つめながら、カトレアは丁度運ばれてきたパスタを堪能するのであった。




場所は変わり、多目的室。

「……ん?」

突然携帯電話のバイブが作動し、カオルは携帯をポケットから取り出した。

「………」

1通のメールが届いており、その内容を確認すると、カオルは小さな溜息をついた。

「どうしたんだい?」

カオルの様子が気になり、ベルが声を掛ける。

「……悪い野暮用ができた」

そう答え、ベルにメールの文面を見せた。

送信者はカトレア。

内容は、

『切らした食材を買ってくるのを忘れちゃった☆という事で、今日買い出しヨロシクね♡(≧ω≦)』

文面を拝見し、ベルは苦笑いを浮かべた。

「後の事は俺達に任せて、カオルは行って来なよ」

「……悪いな」

ベルに礼を言い、カオルは教室を出て行った。

「あれ?カオルどこ行ったの?」

カオルの後ろ姿を目撃したシンゴがベルに尋ねる。

「帰ったよ。用事が出来たんだってさ」

「そうなんだ。あ、それよりベル!ここのシーンの照明なんだけど……」

演劇の練習もいよいよ仕上げの段階へと突入し、遅くまで教室の明かりは灯っていた。




カトレアに依頼された食材を購入し、カオルはカフェへとやってきた。

扉を開け、中に入ると、そこには意外な人物の姿があった。

「……ルナ?」

カオルは目を丸くした。

店内にカトレアの姿は無く、いるのはルナだけ。

「あはは……ども」

ルナは固い笑顔をカオルへ向けた。

「……またカトレアのはた迷惑な気まぐれに付き合わされたのか?」

「え!?あ、いや……そんなんじゃないよ!?ただ何となく……」

疑うような視線を向けるカオルに、ルナは「あはは」と誤魔化すように笑った。

実のところ、カオルの予想は見事に的中していた。

カオルにお使いを依頼したのも、ルナと2人きりにさせる為の口実であった。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

「そういえば明日から学園祭だったわよね?私もアキちゃん達と行くつもりだから」

「あ、じゃあ私のクラスのお店にもぜひ寄って行ってください。サービスしますよ?」

「ふふっ、ルナちゃんってば商売上手ねぇ。もちろん行くわ」

そんな和やかな会話にルナも油断していた。

グラスの水を飲むルナに、カトレアが「ところで」話を振る。

「ルナちゃんはカオル君と学園祭を一緒に回る約束はしたの?」

不意討ちを食らった為、飲んだ水が気管に入り、ルナはむせてしまった。

カトレアが「大丈夫?」と笑顔でルナの背中を擦った。

「げほっ、げほっ、な……何ですか突然!?」

「だって気になるじゃない♪」

そう答えるカトレアは実に楽しそうであった。

「もう……してませんよ」

ルナが多少ゲンナリとした様子で答える。

「どうして?」

「どうしてって……」

「ルナちゃんも分かってるとは思うけど、カオル君と一緒に学園祭を楽しめるのは今年が最後になるのよ?」

さっきとは違い、カトレアの顔が真剣なものへと変わる。

「でも……明日は本番当日で忙しいから、カオルを誘う余裕なんて……」

そこまで話すと、カトレアの表情は再び笑顔へと戻り、「ふっふっふ」と何か企みの込もった笑い声を口にした。

「それなら今日誘えばいいのよ」

「今日って……もう遅いですし、カオルだって用事があるかも……」

「そこはこのカトレアさんに任せなさい!カオル君をあなたの前に召喚させてみせましょう!」

自信満々に冗談めいた事を口走ると、カトレアは携帯を取り出しメールを打ち始めた。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


カトレアの援護もあり、現在ルナはカオルと2人きりとなる機会を得る事が出来た。

わざわざカトレアが作ってくれたこのチャンスを無駄には出来ない、とルナはカオルに話し掛けた。

「そ、そうだ!演劇の方はどう?」

「問題ないだろ。本番でハワードが緊張のあまりとちったりしなければの話だがな」

相変わらず辛辣な発言をするカオルに、ルナはクスッと小さく笑った。

おかげでルナの緊張も少しだけ和らいだ。

その勢いに乗せ、続けてルナが本題を切り出す。

「あ……あのね、学園祭の時なんだけど……カオルのスケジュールってどんな感じ……?」

「スケジュール?1日目は模擬店と演劇部の手伝いで、2日目は模擬店だけだな……って、それはルナも同じはずだろ?」

「う、うん……そうなんだけど……空いてる時間どうするかとか、カオルは決まってる……?」

もし決まっていたらどうしよう、と内心不安を抱きながら、ルナはおずおずと尋ねた。

「いや、特には」

その返答にひとまずホッと胸を撫で下ろした。

しかし問題は次である。

例え空いていても、一緒に回る事を断られたら……などと悪い考えが頭に浮かんでしまう。

ルナはなかなか次の言葉を言い出せずにいた。


「……もしルナも空いてるなら……一緒に回るか?」

「……………へ?」

一瞬、何を言われたのかルナは理解出来なかった。

カオルが自分を誘ったように聞こえたのだ。

「都合が悪いなら断ってくれて構わないが……」

ルナの反応の悪さを拒否と受け取ったのか、カオルが身を引く様な言葉を続けた。

そこでようやく誘われていると認識し、ルナは慌てて返事を返した。

「そ、そんな事ない!!」

急ぐあまり、思わず大きな声が出てしまった。

カオルもキョトンとした表情をルナに向けていた。

「あ……その……私もカオルさえ良ければ一緒に回りたいなって思ってて……だから……誘ってもらえて嬉しいの」

そう答えたルナは、少し恥ずかしそうに顔を紅くしながらも、微笑んでいた。

「そうか」

カオルもつられる様に小さく微笑んだ。

「あ、そうだ!」

ルナが何か思い付いたような声をあげ、すっと小指を立ててカオルの前へと差し出す。

「……?」

ルナの行動の意図が分からず、カオルは首を傾げた。

「約束しよ?2日目の自由時間は一緒に回ろうって」

こんな子供っぽい事、カオルは嫌がるかな?とルナは提案してから不安に煽られたが、そんなルナの心配を余所に、カオルは意外にもすんなりとルナの小指に自分の小指を絡ませた。

その仕草にルナの心臓が跳ね上がる。

「ああ、約束だ」

その言葉と同時に指切りを交わし、すっとカオルの指が離れる。

離れた途端に何か寂しさの様なものを感じ、ルナは苦笑いを浮かべた。

そして再認識した。

自分はもはやカオルで無ければダメなのだ、と。

「ね、カオル!」

「何だ?」

「学園祭、めいいっぱい楽しもうね!」

「ああ」

明日からいよいよ始まる、カオルと共に過ごす学園祭を心の中で思い描き、ルナは幸せそうな笑顔をカオルへ向けた。

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