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2期

『快晴』の空に響き渡る数発の花火が打ち上がる音。

それは、本日ソリア学園の行事が開催される事をコロニー中に伝達する合図。

生徒らはスポーツウェアを身に纏い、闘志をみなぎらせて競技場という戦場へ赴く。

所属するチームカラーのハチマキを額に巻き、己のチームの為に全力を尽くす。

目指すは優勝。

得られるは栄誉。

ソリア学園3大行事の1つ、体育祭が幕を開く。



第 8 話 『体育祭①』



ソリア学園の体育祭は毎年、プロスポーツの試合でも使用されている競技場を貸し切って行われている。

今年もその伝統に則り、全校生徒は競技場へ集結していた。

そのトラックを囲む様に設計された観客席には、生徒らの家族達を始め、多くの見物客で満たされていた。

このソリア学園の体育祭はコロニーで行われる催し物の一環となっており、関係者でなくとも多くの人が足を運ぶ。

地域交流も学園運営において重要な要素となる、との先代理事長の意向を守り続け、現在へとつながっているのである。

競技場の外にはそんな観客を狙って出店も並ぶ。

今では文字通り『祭』としてロカA2の住民の中で認識されているのだ。


「うわぁ……凄い人ね!」

競技場の隅に設置されている本部のテントの中から、ルナは客席の様子を眺め感想を述べた。

「ホント……噂には聞いてたけど、これほどとは思ってなかったわ」

今期の体育祭実行委員長であるシャオメイがルナの言葉に同意する。

「シャオメイが元いた学校の体育祭はどんな感じだったの?」

「本当に学校行事って感じだったわ。ただ入場に結構制限があって、招待を受けた人でないと門前払いを受けるのよ。そんな排他的な学校だっから、こんな風に地域交流するって事はあり得なかったわね。今思い出すだけでも息がつまるわ」

シャオメイが深い溜息をついた。

「へぇー……厳格な学校だったのね。私にはちょっと合わないかな?」

「本当にエリートを輩出はいしゅつする為だけを目的とした学校だったからね。学業も運動も理屈っぽくて全然楽しくなかったわ。ホント、ソリア学園に転校して正解だったわ」

余程窮屈な学園生活だったのだろう、かく言うシャオメイは清々しい表情をしていた。

「あの、シャオメイ先輩。器具の配置で確認したいことがあるんですけど……」

2年生の実行委員の男子がシャオメイに声を掛ける。

「うん、分かったわ。ルナ、ちょっと見てくるからここはお願いね!」

そう言ってシャオメイは後輩と共に本部を後にした。

仕事をしている時のシャオメイは顔つきが変わる。

いつものカオルを追い掛け回す時の姿からは想像できないが。

それでも社長令嬢として、幼い頃から人の上に立つ英才教育を受けてきたのだろう。

今回実行委員長となり、その躍動ぶりは目を見張るものがある。

そういう点はメノリと素質が似ているな、とルナは思うのであった。




全ての準備が整い、開会式が始まった。

生徒らは吹奏楽部が奏でるマーチに合わせて行進しながらトラックを一周し、インフィールド(トラック内側にある人工芝)に整列する。

全学年が行進し終えると、競技場内はシンと静まり返った。

放送委員が式次第の原稿を読み上げ、式は着々と進んでいった。


『続いて、選手宣誓を行います。選手代表、メノリ・ヴィスコンティさん、よろしくお願いします』

「はい!」

名前を呼ばれ、メノリが返事をし前へ出る。

片手を天に向けて伸ばし、設置されているスタンドマイクに向かって宣誓した。

「宣誓!我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、力の限り競い合う事をここに誓います!選手代表、メノリ・ヴィスコンティ」

宣誓を終えると同時に競技場内に拍手が鳴り響く。

無事開会式は終了し、体育祭はいよいよ競技へと突入する。


体育祭の組分けは4チームに分けられる。

クラスごとに赤、白、青、黄に分けられるのだ。

ちなみにルナ達のクラスは赤組、シャオメイのクラスは白組となっている。

競技は上位2位までに得点が与えられ、全競技が終了した時点での総得点が最も高い組が優勝となる。

そしていよいよ彼らの出番が近づいてきた。


『プログラム5番、3年男子100m走です。3年男子の皆さんは、スタートラインに集合して下さい』

アナウンスを聞き、カオル達がスタートラインへと向かう。

くじによって各組ランダムに1人ずつ選出され、名前を呼ばれて4名が上位2位を掛けて競う。


まずはベルの名が呼ばれ、レーンに立つ。

「ベル~、頑張れ~!」

聞き覚えのある声が耳に入り、ベルは声の方へと顔を向けた。

声の主はルナ。

本部のテント内で、いつもの笑顔でベルを応援していた。

ベルのボルテージが一気に上昇する。

「位置に着いて」

審判の呼び掛けで4人がクラウチングの姿勢をとる。

「よ~い……」

バン!!!

ピストルの音と同時に一斉に走りだす。

(ルナが応援してくれている……!無様な格好は見せられない!!)

ベルの熱気が伝わるかの様な、パワフルな走りであった。

しかし、やはり現役運動部の脚力には適わず、1位は青組のエアサッカー部員。

ベルは惜しくも2位でのゴールであった。


走り終えたベルは、2位のフラッグを持った実行委員に連れられ、本部へと向かった。

ルナは本部にて得点処理の仕事をしていた。

「お疲れさま、ベル」

ルナは変わらず笑顔でベルを迎えた。

「ゴメンよルナ、せっかく応援してくれたのに……」

「どうして謝るの?2位だって十分凄いじゃない。得点も入るし、チームにも貢献してるわよ」

肩を落とすベルに、ルナが優しく励ます。

そんなベルの後ろをハワードとシンゴが会話しながら横切る。

「あーあ、やっぱりダメだったねー」

「やっぱりって何だよ!?確かに僕は3位だったけど、あともう少し距離があったら抜けそうだったんだぞ!?」

「それを言うなら僕だって、スタートのタイミングさえ失敗しなければ2位は固かったよ?」

「……まぁ、終わった事をうだうだ言っても仕方ないか!次の競技で挽回しよーぜ!!」

「おー!!」


「ね?ハワードとシンゴは3位だったけど全然気にしてないでしょ?まだまだ始まったばかりなんだから、そんなに気負わなくてもいいのよ」

「……そうだね」

ルナに良い所を見せようとして、少し舞い上がっていたのかもしれない、とベルは反省する。

ベルは自分の両頬をバシンと叩き気合いを入れると、ルナに「ありがとう」と礼を言って赤組の席へと戻って行った。


そして100m走はいよいよあの男の出番が回ってきた。

その名が呼ばれ、彼がレーンに立つと、チーム・学年問わず女子からの物凄い歓声が競技場に響き渡る。

何も知らない地域住民の観戦者はその歓声に思わずビクッとした。

彼の存在を知っている観客は「相変わらずの人気だなぁ」と苦笑いして、レーンに立つ少年を眺めていた。


「うわぁ~、カオルの奴くじ運無いなぁ~」

赤組の男子が応援席からカオルに同情する様な言葉を発した。

「何がだ?」

メノリが腕を組んで男子に聞き返した。

「カオルの隣にいる白組の奴、あいつ陸上部のエースだぜ?」

「へー、そうなんだ」

シンゴが特に驚く様子も無く返す。

「まぁ、カオルなら大丈夫だろ」

「えぇ、カオルだものね」

ハワードとシャアラの、緊張感の無い発言に、男子が怪訝な顔をする。

「見ていれば分かるよ」

ベルに笑顔で諭され、皆がカオルへと視線を向けた。


(くっそー!!何だってカオルばっかモテるんだよ!!)

カオルの隣に立つ白組の陸上部エースは、嫉妬心で燃えていた。

(見てろ……!この競技でぶっちぎりの1位でゴールして、お前の人気を奪ってやる!!)

「位置に着いて~」

隣でそんな計画が企てられているとも知らず、カオルがクラウチングの姿勢をとった。

「よーい……」

バァン!!!

ピストルの音と同時に、陸上部エースが最高のスタートを切った。

(この勝負……もらった……ぁ?)

優越感も束の間、陸上部エースの横をカオルがハイスピードで駆ける。

(く……ウソだ……陸上部で一番速い俺が……!!)

ゴールラインはもう間近。

しかし、前に見える男の背中には追いつく事は出来ず……


「な?大丈夫だったろ?」

ハワードが男子にニヤリと笑みを浮かべた。

「ま……マジかよ、カオルの奴……」

男子は予想外の結果に唖然としてしまった。

「カオルが出る競技は心配無用だ。あとは我々がどれだけ得点を稼げるかに懸かっている。気を引き締めていくぞ!!」

メノリの鼓舞に、赤組の皆が頷いた。


「カオル、1位おめでとう!」

ルナが笑顔でカオルに称賛の言葉を贈る。

「ルナは次の女子100mには出るのか?」

「うん、今年はシャオメイの意向で、実行委員も競技に参加できるようにプログラムと業務を組んでくれたから」

「そうか……頑張れよ。応援してる」

「うん!!」

カオルの激励に、ルナは幸せそうな笑顔を向けた。




『続きましてプログラム12番、3年女子による借りもの競争です。3年女子の皆さんは、スタートラインへと集合してください』


「ルナ!100m走1位おめでとう!」

本部からスタートラインへやってきたルナにシャアラは賛辞を贈った。

「ありがとうシャアラ。そういうシャアラも足速くなったよね?」

「えぇ!毎年体育祭の結果はビリだったのに、今年は初めて3位になったの!チームの得点には結びつかなかったけど、何だか嬉しくって!」

嬉々とするシャアラを見て、ルナも自然と顔を綻ばせた。

「メノリも、さっきの100m惜しかったね」

「あぁ、だがまさかいきなりシャオメイと競う事になるとはな……」

「シャオメイ、凄く速かったよねー」

ルナの言葉にメノリが深く頷く。

「白組のジョーカーは間違いなくシャオメイだ。あの身体能力はルナをも上回っているだろう」

メノリは深い溜息をつくと、ルナへと顔を向けた。

「とにかく、シャオメイと当たった時は十分注意が必要だな」

「う、うん……!」

メノリの言葉に、ルナとシャアラは顔を強張こわばらせながら頷いた。


『名前を呼ばれた方はレーンに入って下さい。赤組……ルナさん』

「あ、呼ばれた!じゃあ行ってくるね!」

「あぁ、全力で行け」

「ルナァ~!頑張って~!!」

レーンに向かうルナに、メノリとシャアラが激励の言葉を贈った。

『白組……シャオメイさん』

「えっ!?」

「なっ!?」

「えぇ!?」

そのアナウンスを聞き、ルナ、メノリ、シャアラの口から思わず驚きの声が洩れた。

ルナの隣のレーンに立ったシャオメイは不敵な笑みを浮かべ、ルナへと視線を送った。

「メノリの次はルナとなのね?手加減しないわよ?」

ルナは思わずゴクリと喉を鳴らした。

(ひゃあ~!メノリに言われた側からいきなり当たるなんて~!?)

「位置に着いて~」

審判の声が聞こえ、ルナは慌てて姿勢を低くした。

(あれこれ考えても、当たったものはどうにもならない……!やるしかないわ……!)

逆に開き直った事で、ルナは覚悟を決めた。

「よーい……」

バァン!!!

ルナとシャオメイの勝負が、文字通り火蓋を切って落とされた。

つづく
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