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2期

第 15 話 『真夏の夜の夢④』

ここネイチャーアイランドに建存する宿泊施設は、砂浜沿いに建てられたリゾートホテル。

臨海学校中はソリア学園が島ごと貸し切っているが、普段はリゾート地として一般客へも開放している。

一方で、自然との共存を主張している場所である為、環境保護に対するルールには厳格である。

一度でもゴミのポイ捨てをしようものなら、強制追放され、今後一切の利用が不可となってしまう。

それでも予約が殺到しているという事は、それだけコロニーの住人の心の中に、大自然への憧れがあるからなのだろう。


「うわぁ!!広~い!!」

オートロックを解錠し客室に入ったイヴは、歓喜の声をあげた。

「ベッドもふかふかやー!!」

チャコがベッドへダイブすると、イヴも真似するようにベッドへ飛び込む。

「あはは!ホントだ~!」

トランポリンの様にバウンドするベッドにご満悦の様だ。

「ほら、2人とも遊んでないで。もう出発するわよ」

ルナの呼び掛けにイヴは素直に従い、ベッドからぴょんと飛び降りた。

「イヴちゃん、行こっか!」

事前に決めた部屋割りでルナと同じ部屋になったクラスの女子が手を伸ばすと、イヴは「うん!」と笑顔で近寄り、その手を握った。

本来宿泊の予定の無いイヴの寝床については、ルナと同じ部屋、一緒のベッドという事で解決した。

ただそうなると、同室のクラスメイトの少女に迷惑を被るのではないか、という不安があるのだが、彼女は思いの外快く受け入れてくれた。

イヴの人見知りしない人懐っこい性格と愛嬌の良さが自然と武器となっているようだ。

ちなみに宿泊代や食事代、交通費など今回のイヴの旅費諸々に関しては、学園が立て替えてくれる事になった。

持ち合わせの無いルナにとってはありがたい事この上ないのだが、後々の返済で生活が圧迫されるであろう事を予感し、ルナは心の中で涙を流すのであった。




本日のスケジュールは、ホテルに荷物を置いた後、午前中は森林の中央にある湖を目指して散策し、到着後そこで昼食となる。

午後は体験学習として、地球で行われていた技術を学ぶ。

夕食をホテルで摂った後、就寝時刻までは自由行動となっている。

各々の部屋でジャージに着替えた生徒達は、ホテルの正面玄関前へ全員集合した後、各班に分かれ、配布された地図を頼りに湖を目指し出発した。


湖までの道中、生徒達は滅多にお目にかかれない自然と戯れながら散策を楽しんでいた。

「わぁ、可愛い!見て、星形の花が咲いてるわ!」

道端に咲いている珍しい形の花を見つけ、シャアラが駆け寄る。

「何ていう花かしら?」

「もしかしたら新種の花かも知れないぞ!?」

もしそうだとしたら、発見者として一躍有名になれるかもしれない、と同じ班のハワードが膨らむ夢に目を輝かせる。

ハワードの言葉に興味を持ち、班の生徒達が花の側に集まる。

「そうだシャアラ!名前付けたらどうだ?」

ハワードに促され、シャアラはしばし思案する。

「そうねぇ……お星様の妖精『スターフェアリー』なんてどうかしら?」

「さすがメルヘン少女……星の妖精と来たか」

久々に聞くシャアラの名付けに、ハワードは感慨深そうに呟いた。

「でも素敵!私は良いと思うわ」

シャアラの命名に同じ班のメンバーが称賛の言葉を掛ける。

シャアラは一輪だけ花を摘むと、「さぁ、行きましょ!」と皆を促し、上機嫌で再び歩き始めた。

そんなシャアラの後ろ姿を眺め、「ホント強くなったよなぁ」とハワードは口元を上げて呟くのだった。




「コロニーに帰って来たから言える事だけど、自然っていいね!」

深呼吸しながら森林浴を満喫するシンゴの言葉に、ベルがいつもの笑顔で頷く。

「さっきはここの自然には力強さが無いって言ったけど、俺はここの自然も嫌いじゃないよ。何ていうか、弱々しいから逆に護ってあげたくなる感じがするよ」

「ははっ!何だかベル、お父さんみたいな事言うね」

ベルの発言にシンゴが率直な感想を述べる。

「でもベルって、いいお父さんになれそうよね!」

「うん、分かる分かる!いつでも優しいお父さんって感じ!」

シンゴに同意する同班の女子の言葉を聞き、ベルは顔を赤くさせた。

そんなベルの様子が可笑しく、一同は思わず噴き出して笑った。


しばらく進むと、先方に見覚えのある人物の姿が目に入る。

「あれ?シャオメイだ。何してるんだろう?」

シンゴ達は顔を見合せ、向こうで立ち呆けているシャオメイとの距離を縮めた。

「参ったなぁ……どうしよう……」

何やらシャオメイは腕を組んでブツブツと独り言を呟いており、こちらの存在には気付いていない。

「シャオメイ、どうしたの?」

「うひゃあ!!?」

突然声を掛けられ、シャオメイはビクリと体を跳ね上がらせた。

「シ、シンゴ……!?お、脅かさないでよ……!!」

いまだバクバクと鳴る心臓を抑えようと胸に手を当てながら、シャオメイはシンゴに文句を言った。

「別に脅かしたつもりはないんだけどね」

シャオメイの不平にシンゴは苦笑いをして答えた。

「で、こんな所で何してたの?班の人達は?」

「え゙……!?」

シンゴの追及にシャオメイが過剰に反応する。

ギクリという擬態語が合う程に。

「もしかして、はぐれたのかい?」

「な、何い、言ってるのよべ、ベル!?こ、この私がは、はぐれるだなんて……そ、そんな幼稚なミ、ミスをす、する訳な、ないじゃない……!!」

分かりやすい程に動揺しているシャオメイが可笑しく、皆笑いを抑えるのに必死だった。

「ぷっ……くく……シャオメイって方向音痴だったんだ」

「し、失礼ね!!そ、そんなんじゃないわよ!!」

シンゴに茶化されシャオメイは顔を赤くして怒鳴る。

「あはは!じゃあ、行こっか!」

「え!?」

「シャオメイの班の人達ともそのうち会うかもしれないし、そうでなくても目的地は同じなんだから、湖に到着すれば合流できるだろうしね!」

「あ……そ、そうね」

年下にからかわれた事は腹立たしいが、それでも自分の処遇をちゃんと考えてくれていた事を知り、シャオメイの中の怒りが急激に沈静する。

楽しそうに歩き出したシンゴの後ろ姿を見つめ、シャオメイは「ありがと……」と本人には聞こえない声で礼を言った。




「はぁ……はぁ……イヴちゃ……ちょ……待……」

森の中をズンズンと先へ進むイヴに振り回され、ルナとチャコを除くメンバーは息を切らしながら必死に後を追っていた。

「イヴー!こっちに戻ってらっしゃい。少し休みましょー」

先を行こうとするイヴをルナが呼び止めると、イヴは「はーい!」と笑顔で走って戻ってきた。

休憩できる事に皆ホッと息をつき、地べたに座り込むと、ドリンクを口に含みながら体力の回復に集中した。

「みんな大丈夫?」

体力を消耗し、ぐったりとしている班のメンバーに、ルナが労りの声を掛ける。

「てか……何で……ルナは……息……切れて……ないんだ……?」

ぜーぜーと息を切らしている自分に対して、ルナは全く疲れている様子も見られない。

不満げな様子で班の男子がポツリと疑問を口にした。

「ま、伊達に8ヶ月もサバイバルやっとらんっちゅー訳やな。食べ物手に入れる為に、毎日森の中を歩き回っとったら、そらバカみたいに体力も付くやろ」

チャコの説明を聞き、一同は「なるほど」と妙に納得出来た。

「イヴは平気?疲れてない?」

「うん!全然平気だよ!」

そんな会話が聞こえ、一同は愕然とした。

「……何で……イヴちゃんも……息1つ……切らしてないの……?」

いまだ元気いっぱいなイヴを見て、自分達は5歳児にも体力が劣るのか、と一同は小さなショックを受けるのであった。




「痛っ……!」

突然後ろから聞こえた声に反応し、カオルとメノリは足を止め振り返った。

「どうした?」

メノリが即座に声を上げた女子に近寄り尋ねる。

「あ、足を捻ったみたい……」

少女は苦悶の表情を浮かべながら、足首を手で押さえていた。

「大丈夫か?」

メノリが少女の足首を触診すると「痛たたっ!」と涙ぐみながら悲鳴をあげた。

「歩くのは難しい様だな」

少女の容態を見て、メノリはそう判断した。

「メノリ、どけ」

その声を聞き、メノリはカオルに場所を譲った。

カオルの手には平たい木の破片とハンカチ。

何をするつもりなのかと一同が見守る中、カオルはハンカチを細長く裂き、木の破片を添え木代わりにして裂いたハンカチを包帯の要領で器用に巻いていった。

その見事な処置に、周りから「おー!」と感心の声が上がる。

そんな周囲を気にする様子も無く、カオルは少女に背を向けて屈んだ。

「乗れ」

「え……?」

「歩けないんだろ?」

「あ……ありがとう」

少女が背中に体重を掛けたのを確認し、カオルは立ち上がり歩き出した。

「カオル、疲れたら遠慮せず言っていいぞ。代わりにコイツに背負わせる」

「えぇ!?俺!?」

不意に指を差され、同班の男子が思わず叫ぶ。

「当たり前だろう。お前も男ならそれくらい自己申告しろ!ホラ、それまで2人の荷物を持て!」

メノリにみっちり説教され、2人分の荷物を背負う羽目になった男子に心の中で謝りつつ、少女は憧れのカオルに触れているこの時間を堪能するのであった。




昼時になり、別行動をとっていた班が次々と湖へ到着する。

「あ、ルナ!」

先に到着していたルナの班を見つけ、シャアラ達が手を振って歩み寄る。

「あ、シャア姉!ハワにい!」

ルナの後ろでチャコとじゃれあっていたイヴが、2人の存在に気が付き、笑顔で駆け寄ってきた。

「お前ら随分早いな……って、何で他の奴らはぐったりしてるんだ?」

ルナの後ろで「はぁ、はぁ」と息を切らして座り込む生徒達が目に入り、ハワードが思わず尋ねる。

ルナは質問には答えず「あははー」と苦笑いするだけだった。

「あれ?シャアラ、その花どうしたの?」

シャアラの手中にある花が目に留まり、ルナが尋ねる。

「可愛いでしょ?ここへ来る途中で見つけたの!チャコこの花知ってる?」

チャコなら何かデータを持っているかもしれない、と思い、シャアラは屈んでチャコへ花を差し出した。

「ちょっと待ち」

チャコは肉球からセンサーを出し、花へと近づけた。

「あ、それアングレカム・セスキペダレだよ」

「「え……?」」

その言葉に、思わず全員がイヴへと顔を向けた。

丁度データの照合が終わり、チャコが驚愕の表情で皆に伝達した。

「あ……合っとる……この花は確かにアングレカム・セスキペダレっちゅー名前で、かつて地球の熱帯地域に生息しとった花や」

チャコの言葉に、皆唖然としてしまった。

「すごいわイヴ!詳しいのね?」

「うん!パパに買ってもらったお花の図鑑に載ってたの!」

ルナからの賛辞に、イヴは満面の笑みで答えた。

「という事は新種じゃないのかよ。ちぇ~、せっかくシャアラにも名前付けてもらったってのに」

「ホント!?聞きたい聞きたい!」

頭の後ろで手を組んで悔しがるハワードの言葉に、ルナが嬉々として反応した。

サヴァイヴでは定番だったシャアラの命名も、戻って来てからは随分とご無沙汰である。

皆に注目され恥ずかしそうに頬を染めながら、シャアラは先程考えた名前を発表した。

「えっとね……スターフェアリーって名前にしてみたの……」

「星の妖精かぁ……うん!ぴったりね!」

「私もシャア姉が考えた名前の方が可愛くて好き!」

ルナとイヴからの支持もあり、勝手ながら学名『アングレカム・セスキペダレ』はルナ達の間で『スターフェアリー』と呼称される事となった。


「結構みんな到着してるね!」

そんな声と同時に湖へ到着したのはシンゴ達の班。

「ベル~!シンゴ~!」

到着した仲間にルナが手を振って呼び掛ける。

シンゴとベルも手を振ってそれに応えた。

「あ!シャオメイ!」

その中にシャオメイの姿を見つけ、彼女と同班の生徒達が駆け寄ってきた。

「もう、どこ行ってたの?心配したんだからね?」

「あはは、ゴメンゴメン」

仲間達の出迎えに、シャオメイは苦笑いして謝った。

「でも、どうしてシンゴ達と一緒に?」

「それが聞いてよ、シャオメイってば森の中で迷ゴっ!?」

ルナの質問に笑いを堪えながら説明しようとするシンゴの足を、シャオメイが踏みつけて制止する。

「たまたま森の中で会って一緒に行動しただけよ!」

踏まれた足の痛みに、その場に[#ruby踞_うずくま#]るシンゴを見て、周囲は禁句なのだと悟った。

「……シンゴ、何をしてるんだ?」

丁度到着したカオルが、踞るシンゴを不思議そうに見下ろしていた。

「あ、カオ……ル……」

カオルに声を掛けようとして、ルナの口が途中で止まる。

ルナの目には、カオルの背中に負ぶられている女子の姿。

「カオル、ご苦労だった。後は私から先生に話して処置してもらおう」

メノリの言葉にカオルは頷き、少女を地面へと降ろした。


状況を見れば誰でも分かる事だ。

彼女は足を怪我した。

歩けない彼女をカオルがここまで負ぶった。

たったそれだけの事。

それなのに胸がムカムカする。

前にも抱いた事のあるこの感情……。

これは嫉妬だ。

何事も無かったかの様に振る舞うカオル。

怪我をしたにも関わらず、嬉しそうにしている少女。

どちらにも悪意は無い。

それでも心の奥では……

カオルに対して、

『私以外の女の子に触れないで』

負ぶられた少女に対しては、

『カオルに触れないで』

そんな醜い想いが渦巻いていた。

ルナは首を横に振り、嫌な気持ちを消し去ろうと試みるが、それはわだかまりとして心の中に残り続けた。




各々昼食を済ませ、午後の予定である体験学習が始まった。

今回の内容は、火起こし。

現代では電気が主流となり、火に対する重要度、危険度が薄まりつつある。

そこに着目し、人間の祖が生み出した『火』の必要性を学ぶ。

ろくな道具も無かった時代、火を1つ生み出す事がどれだけ大変だったか。

火が生み出された事で、どれだけ生活が豊かになったか。

そして、管理を怠るとどれだけ危険か。

それらを重点的に体験していく。


各班に分かれ、まずは火を実際に起こしてみる事から始まった。

教師達の意向で、まずは手本として奇跡の生還者達に火の起こし方を実演してもらう事となった。

ルナ達は、サヴァイヴでの経験を存分に発揮し、難なく火を起こしてみせた。

それを見て、教師を含む周囲から感嘆の声があがる。

続いて他の生徒達も挑戦してみるが、なかなか上手くいかない。

ルナ達は彼らのサポートに回る事となった。


「はぁ~……まさかルナやカオルもあの奇跡の生還者の1人だったとはねぇ」

シャオメイの班の指導に就いたルナを、シャオメイが物珍しそうに眺めた。

「っていうか、シャオメイ今まで知らずに接してたの?」

同班の女子が苦笑いして尋ねる。

「ハワードとメノリは有名だから知ってたんだけど、丁度その頃は父さんとケンカして家出してた時期でもあったから、テレビとかろくに見てなくてね」

シャオメイの当時の状況を聞き、ルナ達は唖然とした。

「ルナ達が生還したのって1月よ?転入するまでの3ヶ月間、一体何してたの?」

「ロカA2に来るまではホテルの一室を2ヶ月ほど貸し切って過ごしてたわ。そこから学校にも通っていた感じね。で、まぁ色々あってロカA2への移住を決めたって訳」

滅多に聞けないシャオメイの過去話に、ルナ達は「へぇ~」と興味津々に聞いていた。

「も、もう!私の事はいいの!今はルナ達の話でしょ!?」

話した事が恥ずかしくなったのか、シャオメイは僅かに頬を染めて話題転換した。

「そういえばさ、カオルのあの身体能力ってサバイバル生活で鍛えられたものなの?」

「う~ん……確かに鍛えられたとは思うけど、カオルは元々あれくらいの身体能力はあったわ」

ルナの回答にシャオメイがガックリとうなだれた。

「なんだぁ~、もしそうなら私もサバイバル生活やってみようと思ってたのに」

シャオメイなら本当にやりかねない、とルナ達は苦笑いを浮かべた。

「ねぇねぇ、8ヶ月も寝食共に生活してたんでしょ?恋が芽生えたりとかしなかったの?」

「え!?こ、恋!?」

女子の質問にルナは思わず大声をあげてしまい、周囲の視線が集まる。

シャオメイ達から「シーッ!」と注意され、ルナは恥ずかしそうに体を縮込ませた。

「で?実際どうだったの?」

「い、いや……どうって言われても……他のみんなはどうか分からないけど、私はそういうのは無かった……かな?」

今は片想い中であるが、当時はその感情が無かった為、嘘は言っていない。

「ふぅ~~~~ん?」

シャオメイの意味深な反応と表情に、ルナは嫌な汗が身体中から吹き出た。

(そう言えば、シャオメイは私がカオルの事好きだって知ってるんだっけ!?)

何か言い訳しなくては、とルナが口を開こうとした。

「その時はそうでも、今はどうなんやろうなぁ?」

「チャ……チャコ!?」

どこからともなくチャコが現れ、話に割って入ってきた。

「いつの間に……!?っていうか、どこから聞いてたの!?」

「ルナが『恋ィ~!?』って叫んどった時からや。何や、おもろい話してそうやなぁ思うてな」

チャコの返答を聞き、ルナはあの時叫んでしまった自分を激しく呪った。

「なになにー!?ルナ、好きな人いるのー!?」

チャコの思わせ振りな発言を聞き、一気にテンションの上がった女子が「きゃー!」と歓喜の声をあげた。

「え!?いや、ちょっと待って!!」

知らぬ間に話がどんどん進んでいる気がし、ルナは慌てふためいた。

こんな周囲に人がいる状況で暴露されては、たまったものではない。

「しかし、ここで話せっちゅーのは可哀想や」

「チャコ……」

チャコの恩情の言葉を聞き、ルナはホッとした。

いくらチャコでも、そんな悪魔の様な事はしないだろう、と思い直す。

しかし、それも束の間。

「せやから夜までに心の準備しとき」

「え……?どういう事?」

チャコの言葉の真意が分からず、ルナは思わず聞き返した。

「決まっとるやんけ、学校の宿泊行事の夜と言えば、あれしか無いやろ」

「そうね、あれしか無いわよね?」

チャコに賛同するように、シャオメイと女子も顔をにやつかせている。

「えっと……枕投げ?」

「アホゥ!!恋バナに決まっとるやろ!!」

ルナの答えに即チャコの鋭いツッコミが入る。

「えー!!?」

前言撤回、チャコは悪魔でした。

「その時にルナの恋愛について熱く語ってもらうから心の準備ヨロシクね!あ~夜が楽しみ!」

女子は本当に待ち遠しそうな表情で、点火の作業に取り掛かった。

(な、何この展開!?夜になったらカオルが好きな事みんなの前で暴露しなきゃいけないの!?ひ、ひぇぇぇ~!!)

夜に急遽盛り込まれた一大イベントに、ルナは1日中ゲンナリとする羽目となった。


「……俺達、完全に存在忘れられてるよな?」

「……うん。目の前でガールズトークおっ始めるんだもんな……。居づらくて仕方なかったよ……」

「でもさ、ルナって好きな人いたんだな~。それ聞けただけでもラッキーかも」

「そりゃあいるだろ。でもルナが好きになった奴って誰だろうな~。あんな可愛い子に好かれるなんて、そいつ幸せもんだよな~」

そんな会話を繰り広げる、シャオメイの班の男子2人。

側にいたにも関わらず、すっかり存在を忘れ去られた可哀想な男子2人もいた事を、ついでにここに記しておこう。

つづく
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