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2期

「ねぇ、メノリ」

同じ赤組の女子に声を掛けられ、メノリは少女へと顔を向けた。

「どうした?」

「ルナ、どこ行ったか知らない?次、選抜リレーだからそろそろ集まらないと……」

「いや、私は知らないな。本部にはいないのか?」

「うん。少し覗いてみたけど、いなかったわ」

「どこかで実行委員の仕事をしているのかも知れないな。忘れてるという事はないだろうから、時間には間に合うんじゃないか?」

「……そうね、ありがとう!」

少女は納得し、メノリに礼を言って走って行った。


「誰か!誰かいませんか!?」

倉庫に閉じ込められたルナが扉をガンガンと叩いて自らの存在を外へ知らせる。

何度か試みるが、成果は得られない。

「そうだ!携帯を使えば……」

次の案を思いつき、ジャージのポケットをまさぐった。

しかし、そこには目当ての物の感触がない。

「しまった……本部の机の上に携帯置いてきちゃったんだわ……」

ルナはガックリと肩を落とし、倉庫内に置いてあるマットに腰を下ろした。

「何とかここから出る方法を考えないと……」

暗い倉庫の中、ルナは脱出に悪戦苦闘していた。



第 10 話 『体育祭③』



『プログラム29番、3年生による色別対抗選抜リレーです。3年生の選抜選手の方は各バトンゾーンへ集合してください』


「大変よ!ルナがまだ来てないみたい!」

血相を変えたシャアラが慌てた様子で赤組の応援席へと駆け込む。

「はぁ!?ルナの奴、一体何やってんだよ!?」

ハワードが焦りの声をあげる。

女子の中で最も身体能力の高いルナが抜けるのは、赤組にとって大打撃である。

それが伝染する様に、赤組の中で不安の色が広がっていった。

「最後にルナを見た者はいるか!?」

メノリが声を張り上げて問いかけるも、赤組の生徒らは顔を見合せ、首を横に振った。

実行委員として動いているルナの行動を把握するのは例え同じ組であっても難しい。

(マズいぞ……このままでは……!)

メノリの顔にも焦りの色が窺える。

「俺が探してくる!!」

自ら名乗りを上げたのはベルであった。

ルナの身に何か遭ったのでは?と嫌な予感が頭をよぎり、居ても立ってもいられなくなったのだ。

「分かった!頼……ん?」

そこまで言いかけ、メノリは何かに気付いた様子で周囲を見渡した。

「カオルはどこへ行った!?」

先程までいたはずのカオルの姿はそこには見当たらなかった。

その声に、ルナを探しに駆け出そうとしたベルの足も不意に止まった。

「だぁ~もう!!何であの2人はいつもこうなんだ!重要な場面では決まって自分勝手に動いてばかりだしよぉ!もう少し協調性を持ってだな……」

「……それをハワードが言うんだ」

憤慨するハワードの発言にシンゴがポツリと呟いた。

『赤組の選抜選手は、早く指定された場所へ集合してください』

「くっ……仕方がない!ルナの代わりに私が、カオルの代わりにベルが走る!」

アナウンスに急かされメノリは苦渋の決断を下した。

「まぁ、仕方ないか!残りのメンツで一番運動能力が高いのはメノリとベルだもんな」

ハワードがメノリの案に同意を示した。

他の者達もそれに続いて頷く。

「で、でもルナは……」

ベルの中では、ルナを一刻でも早く見つけたい思いで一杯であった。

「今2人を探しに行っている時間は無い!」

突き放す様なメノリの言葉を聞き、ベルは拳をギュッと握りしめる。

「大丈夫よベル!ルナ達は私達が探すから!」

ルナ探索を名乗り出たのはシャアラ、シンゴ、ハワードの3名。

メノリは「頼んだ」と言ってバトンゾーンへと歩き出した。

それぞれが目的の為動き始める中、ベルは拳を握りしめたままその場から動かなかった。

その様子を見たメノリは、歩く足を止め、立ち尽くすベルの元へ近づく。

「今すぐに探しに行きたい気持ちは分かる。私だってルナ達が心配だ。だが今はリレーでルナ達の代走に専念するべきだと思う。戻って来た時に負けていては、2人が責任を感じてしまうだろうからな」

メノリに諭され、ベルはハッと気付く。

2人は自分達の中でも人一倍責任感が強い。

だからこそ、自分達で少しでもその責任感を軽減できれば、とメノリは考えていた。

「2人の事はシャアラ達に任せたんだ。私達は私達に出来る事をしよう」

メノリに励まされ、ベルは力強く頷いた。

今自分に出来る事……それは不在となったカオルの代走を務めあげる事。

ベルは闘志を燃やし、メノリと共に指定位置へと向かった。


一方の3人はルナとカオルの探索中であった。

「探すっつっても、どこを探すんだ?」

ハワードが先を行くシンゴに問いかける。

「まずは本部に行って実行委員の人にルナの行方を聞いてみようと思うんだ」

シンゴが提案を述べると、ハワードは「なるほどなー」と納得した。

そんな2人の後ろをシャアラが暗い顔で付いていく。

「どうしたんだよ?シャアラ」

ハワードが元気の無いシャアラが気に掛かり、声をかける。

「ルナ、無事だといいけど……」

シャアラが顔を俯かせて呟く。

ルナが心配でたまらない様子だ。

「心配すんなって!」

「……え?」

ハワードの言葉を聞き、シャアラは伏せた視線をわずかに上げた。

「ここはサヴァイヴにいた時より遥かに安全なコロニーだぜ?あの2人を危険に晒すものなんて無いって!」

ハワードが明るくシャアラを励ます。

それに勇気づけられたのか、シャアラの顔にも少しだけ笑顔が戻った。

「そう……よね?ルナとカオルならきっと大丈夫よね?」

「あぁ!当然だろ!」

ハワードによって重くなった空気が少し軽くなる。

3人は本部のテントへと向かった。


「倉庫……?」

「はい、終わった競技の器具を片付けるって1人で」

ハワード達が本部テントにいる実行委員に尋ねたところ、返ってきた返答はそのようなものであった。

「その倉庫ってどこにあるんだ?」

「観客席の下に中へ続く入口が見えますよね?あそこから入って左の通路の一番奥にあります」

実行委員は指でルートを辿るようにハワード達へ丁寧に伝えた。

「よし!行ってみるか!」

ハワードの言葉にシャアラとシンゴが頷く。

「どうもありがとう!」

「いえ、それよりもあの……」

シャアラの礼に首を振り、実行委員の少女がおずおずと尋ねる。

「ルナ先輩、何かあったんですか……?ついさっきもカオル先輩が来て、同じ様な事を聞いてきたので……」

「「カオルが!?」」

少女の言葉に3人が驚きの声をあげる。

「カオルがいなくなったのって、ルナを探してたからだったんだ」

「ったく、せめて一言声を掛けてけっての」

ホッとするシンゴに対し、ハワードは不満そうな表情で愚痴を言う。

「でも2人の居場所が分かって良かったわ!早く行きましょう!」

実行委員の少女に再度「ありがとう」と礼を言い、シャアラは走りだした。

「あ!おい、待てよ!」

先を行くシャアラの後を、慌ててハワードとシンゴは追いかけて行った。




「ふん……ぬ~……!!」

倉庫内ではルナが脱出を試みようと奮闘していた。

今は倉庫内にあった高跳び用の棒をてこの原理を使って扉を開けようとしている所であった。

「っはぁ~!ダメだわ、ビクともしない……」

ルナは力尽き、その場にへたりと座り込んだ。

万策尽きたルナは、倉庫の隅に体育座りをし自責の念を感じていた。

(せっかくの体育祭なのに……私は何をやってるの?競技も実行委員の仕事も中途半端で……ホント最悪……)

自分の情けなさに悲しみが沸き起こり、ルナは自身の膝に顔を埋めた。

「誰か気付いて……お願い……」

ガン!!!

突然倉庫内鳴り響いた扉を叩く様な音にルナは顔を上げた。

(誰かが気付いてくれた!?)

ルナは扉に駆け寄り、自らの存在を精一杯知らせる。

「閉じ込められたんです!お願いします!助けて下さい!!」

枯れんばかりの声で、ルナは叫んだ。

「下がっていろ!」

返事が返ってきた。

ルナの心が安堵感で一杯になり、思わず涙が出そうになった。

声に従い、ルナは扉から離れる。

ガン!!

ガン!!!

音が響く度に、扉に凹みが出来ていく。

そして……


ドガン!!!!

ベコベコに歪んだ扉は、ゆっくりと音をたてて倒れ、倉庫内に再び光が射し込んだ。

ルナは眩しさで目を細める。

ようやく明順応してきた瞳に映ったのは、カオルの姿であった。

「カオル……!」

(いなくなったの、気付いてくれたんだ……!)

嬉しさでルナの瞳が涙で濡れる。

「あ!2人共いた!」

通路の向こうからシンゴの声が届いた。

「みんな……」

仲間達が2人の元へ駆け寄る。

「ルナァ~!!」

シャアラが今にも泣き出しそうな声でルナに抱きついた。

「ルナ……無事で良かったぁ」

「シャアラ……心配かけてゴメンね?」

ルナが優しくシャアラの頭を撫でる。

「全くだぜ!ったく」

口では不平を言うものの、内心ホッとしているハワードであった。

「ほら、早く戻ろうよ!ルナとカオルの代わりに、メノリとベルが頑張ってくれてるんだし!」

シンゴの提言にルナとカオルが頷く。

「あ、でも扉……」

ルナがハッと思い出した様に後方に倒れる扉に視線を向ける。

一体弁償にいくら支払う事になるのだろう、と顔が真っ青になった。

「問題ない。ハワードが何とかする」

「は!?扉壊したの僕じゃないだろ!?」

カオルに突然話を振られ、ハワードが反論する。

「中に人がいるにも関わらず、勝手に扉が閉まるシステムの方が問題だと思うが?」

カオルからの視線を受け、耐えられなくなったハワードはついに折れた。

「……分かったよ。僕からパパに頼んで、管理会社に苦情言ってもらうから」

「えぇ!?そんな悪いよぉ!!」

何となく事が大きくなっている気がし、ルナは慌てて首を横に振った。

「ルナは悪くないんだから気にする必要はないの!」

珍しくシャアラに強く言われ、ルナは「は、はい」と同意するしかなかった。


ルナ達が戻ると、選抜リレーは終了していた。

結果は2位、シャオメイがいる白組には一歩及ばなかった。

「なるほど……それは災難だったな。だか無事で何よりだ」

経緯を聞いたメノリは、微笑んでルナを迎え入れた。

「うん、心配かけてゴメンねメノリ。それにリレーの代走まで……」

「いや、気にするな。こちらこそ2人の穴を埋められず、2位という不本意な結果で終わった……すまなかった」

「ううん!メノリとベルが出てくれなかったら、棄権になってたもの。謝る必要なんてないわ」

ルナに笑顔で言われ、メノリも自然と口元を上げた。




『プログラム30番、最終種目です。実行委員長、リン・シャオメイさんより種目の説明がありますので、皆さんご清聴お願いします』


アナウンスを聞き、競技場内が静寂になる。

シャオメイが壇に上がり、マイクに向かって説明を始めた。

「実行委員長のリン・シャオメイです。皆さんのお陰で今年の体育祭は大成功だったと思っています。さて、いよいよ次が体育祭最後の競技となります。今まで伏せていましたが、最後らしく一番盛り上がれる競技を考えました!では発表したいと思います!」

全員が次の言葉に注目し、息を飲む。

「それは……『全選手対抗・サバイバル鬼ごっこ』!!」

聞き覚えのない競技に場内は騒然とする。

「普通の『鬼ごっこ』は知ってるわよね?『サバイバル鬼ごっこ』はその応用と考えればいいわ。今巻いているハチマキを奪い合い、残った最後の1人が優勝となるの。言わば全員が鬼!敵も味方も関係ない!学年も性別も関係ない!さぁ、この中で勝ち残るのは誰かしら……?」

シャオメイの不敵な笑みに皆ゾクリとした。


「へっ!本物のサバイバルを経験した僕達に勝てるかっての!」

「ハワード、サバイバルの意味が違うし……」

自信満々に言うハワードにシンゴは呆れた様子で呟いた。

「ちなみに、この競技も上位2名に得点が加算されるわ。1位にはドドーンと100点!2位にも半分の50点が加算されるわよ!つまり、現在最下位のチームにも逆転優勝のチャンスはあるって訳!」

それを聞き、周りから歓声が飛ぶ。

「さらにさらに!この競技で勝ち残った1名には……豪華賞品として『ドリームワールド』の一日フリーパス・ペアチケットをプレゼント!!」

説明しておこう。

ドリームワールドとは、かつて地球で来客数世界一を誇ったテーマパークに名残のある、現在宇宙最大の遊園地である。

そんなテーマパークのフリーパスが無料で手に入れられるとあらば、大人・子供関わらず、喉から手が出るほど欲しい代物である。

「賞品のスポンサーはハワード財閥が請け負ってくれました!皆さん、ハワードに盛大な拍手を!」

「最高だぜ!ハワード!」

「素敵!ハワード!」

全校生徒から拍手喝采を浴び、ハワードもその調子に乗った。

「これくらいお安い御用だって!」


「全く、調子のいい奴め」

メノリが呆れた様子で呟いた。

「まぁいいじゃない。お陰でみんな楽しそうだし」

ルナがいつもの笑顔でメノリを宥めた。

「ところでルナ、現在の赤組と白組の得点差を知ってるか?」

「え?うーんと……ゴメン、そこまで把握してないわ」

不意に出題された質問にルナは首を横に振った。

「先程聞いたら赤組は現在230点で3位、白組は340点で1位だそうだ。つまり110点もの点差がある……」

メノリの言いたい事をルナは何となく察した。

「私達赤組が優勝するには1位も2位も赤組の必要があるって事ね?」

「そうだ。それはつまり、シャオメイとの勝負は避けて通れないという事だ。シャオメイに対抗できるのはカオルとルナだけだろう……だから、何が何でもお前達は勝ち残るんだ!」

今までの競技でシャオメイの実力を身を持って知っているだけに、それがいかに難しいか分かる。

ルナはのしかかるプレッシャーにゴクリと喉を鳴らした。

つづく
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