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1期

第 2 話 『アルバイト』

「う~ん……」

ルナが何やらパソコンのモニターを凝視しながらうなっている。

「今月も結構厳しいで?」

「分かってる」

チャコの言葉にルナは険しい表情で返答した。

今2人がモニター越しに見ているのは家計簿のデータであった。

サヴァイヴから帰還後、家の中にあった食料はほとんど駄目になっていた為、食料の大量購入を強いられ、今月はかなり生活が圧迫されていた。

「しょうがない、アルバイトでも探すかぁ」

「せやけど、ルナの年齢で雇ってくれる店なんて、そうないで?」

基本アルバイトを募集している店の条件には高校生以上と記載されている。

ルナは現在中学2年生、望みがかなり薄い事は目に見えていた。

「明日、みんなに聞いてみるわ」

「ウチも探してみるで。今日はもう遅いから眠りや」

「うん、おやすみ」

チャコに挨拶をし、ルナは床に就いた。




次の日、ルナは登校するなりシャアラに例の相談を持ちかける。

「ねぇシャアラ、どこか私を雇ってくれそうな良いアルバイト先を知らない?」

「アルバイト?」

「うん。今月の家計、かなり厳しくて……」

ルナは苦笑いして訳を説明する。

「そうなんだ。だけどゴメンね、私、アルバイトなんてやった事ないから、よく分からないの」

「そうだよねぇ」

やはりそう上手くはいかない、とルナは溜息をついた。

その後、順次登校してきたハワード、メノリ、シンゴ、ベルの4人にもルナは同様の質問をしてみる。

「私も経験が無いから分からないが、やはり私達の年齢では難しいのではないか?」

メノリの返答にルナは落胆した。

とそこへハワードから意外な提案が。

「なら、僕ん家で雇ってやろうか?」

「「はぁ?」」

ハワードの言葉に、皆が口を揃えて声を上げる。

「僕ん家でメイドとして働かせてやるよ」

ルナはそれを聞き、その情景を思い浮かべた。

ハワードに従事する自分の姿を……。

そこまでイメージして、ルナの顔が引きつる。

「……それは遠慮しておくわ」

「何でだよ!?」

丁重に断るルナに、ハワードは不満気だ。

「当然だ。私がルナの立場でも、お前に付き従うのだけは死んでもゴメンだ」

メノリが呆れた表情でハワードにもの申す。

「なんだとぉ~?」

ハワードとメノリの間に火花が飛び散る。

「毎度飽きない奴らだな」

ハワードとメノリのやり取りを半ば呆れ顔で眺めながら、カオルが教室へと入ってきた。

「あ、カオルおはよう!」

「あぁ」

「ねぇカオル、私達くらいの年齢でも雇ってくれるアルバイト先ってどこか知らない?」

「バイト?」

「ルナ、生活費が苦しいんだって」

シンゴが付け足すようにカオルに説明する。

「どこか無いかな……?」

 ルナのすがるような視線にカオルは困惑した表情を浮かべる。

「まぁ……あるにはあるが……」

カオルが歯切れ悪く答えると、ルナの表情が一気に笑顔になった。

「本当!?」

「いや、だが……」

カオルは何故か悩んでいる。

「お願いカオル、教えて!この通り!!」

ルナが手を合わせて懇願する。

その様子を見てカオルはしばらく考え込んだが、やがて小さく溜息をついて「仕方ないか」と呟いた。

「今日の放課後空いてるか?」

「え?うん、空いてるけど……」

「連れて行ってやる」

カオルの言葉を聞き、ルナは笑顔で「うん!」と返事をした。




放課後になり、ルナはカオルに連れられアルバイト先へ向かう。

メインストリートから外れてしばらく進むと、閑静な住宅街へと出た。

近くには小さな公園もある。

「へぇ~、こんな所があったんだ」

物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回すルナ。

「あそこだ」

カオルの目線の先には、三角屋根の家があった。

コロニーでは珍しいたたずまいだが、その雰囲気は住宅街に見事溶け込んでいる。

「ここは……カフェテリア?」

「ああ」

ルナの質問に淡々と答えながらカオルが店のドアを開ける。

カランカランと来客を知らせる鐘の音を鳴らしながら中へと入ると、カウンター越しに立つ1人の女性が顔を向けてきた。

「いらっしゃ……あら、カオル君。その一緒にいる子はお友達?」

「あの、初めまして!私ルナっていいます!」

「私はこの店のマスターをしているカトレアよ。よろしくね、ルナちゃん」

カトレアが穏やかな笑顔で挨拶を返す。

「でも意外ねぇ~、カオル君が女の子を連れてくるなんて……2人は恋人?」

茶化す様にカトレアがニヤニヤと尋ねる。

カトレアのとんでもない言葉にルナは顔を紅潮させた。

「え、ええええ!?い、いや……私達は……」

不意を突かれ、恥ずかしさと動揺で言葉が上手く出てこない。

「違う」

カオルがわずかに頰を赤らめながら否定する。

「バイト希望者だ」

「よ、よろしくお願いします!」

ルナが深く頭を下げて懇願する。

「そんなかしこまらないで。ルナちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎よ。明日からでも入れそう?」

「え……?あの、雇って……くださるんですか?」

「もちろんよ。カオル君が連れてきた子なら信用できるしね」

「あ、ありがとうございます!カオルも本当にありがとう!」

「気にするな」

ルナに笑顔でお礼を言われ、カオルは気恥ずかしさから、顔を背けた。

その様子をカトレアは微笑ましそうに眺めていた。

「じゃあ、今日はせっかく来てくれたんだから、お客さんとしてカオル君の仕事ぶりを堪能してて」

「え……?カオルもここで働いてるの!?」

ルナが驚いた様子でカオルに尋ねる。

カオルは複雑そうな表情を浮かべながら、小さく頷いた。

「あれ?カオル君、言ってなかったの?」

「……言いそびれただけだ」

気まずそうに返答するカオルに、ルナは苦笑いをした。




カウンターで作業を始めるカオルを、ルナがジッと見つめる。

その視線に居たたまれなくなったのか、カオルは一度溜息をつき、何かを作り始めた。

しばらくして、ルナの前に紅茶の入ったカップが置かれる。

「え?」

「じっと見られると気が散る。おごってやるからそれでも飲んでろ」

キョトンとしているルナにカオルが顔を背けながら言う。

カオルの不器用な心遣いにルナは「ありがとう」とお礼を言うと、カオルの淹れた紅茶を口にした。

「おいしい……!」

絶妙な香りと舌触り、心が綻び身も暖まる気分だった。

「でしょう!?カオル君の淹れる紅茶目当てで来るお客さんも少なくないんだから」

カトレアはきゃらきゃらと嬉しそうにルナに話しかける。

「いいからお前は自分の仕事をしろ!まだシフトとか、給与の事とかルナと相談しなければならない事があるだろう!」

何故かマスターのカトレアよりもカオルの方が格上の様に感じられる。

「そうだったわね、ゴメンねルナちゃん」

カトレアはルナに謝るが、特に悪びれている様子もない。

ルナは笑顔で首を横に振った。

「とりあえず時給は15ダールでどう?」
(※ 1ダール=100円)

「え!?そんなにですか!?そんな悪いですよぉ!」

提示された時給に、ルナは慌てた様子で首を横に振った。

「おい、ルナ」

声を掛けたカオルの表情は呆れたとでも言いたそうだ。

「賃金が高くて断る労働者がどこにいる?」

「だ、だって、時給15ダールだよ!?破格だよ!?」

「……ちなみに言っておくが、俺は時給20ダールだ」

「……へ?」

「お前よりもらっている俺の立場はどうなる」

「あう……」

ルナは言葉を詰まらせた。

そして、観念した様子で首を縦に振った。

「……じゃあ、よろしくお願いします」

「ええ!がんばりましょうね!」

カトレアも笑顔で返した。




その後、ルナはカオルの仕事が終了するまで長居してしまい、現在カオルに家まで送ってもらっている。

初めは断ったルナだが、無視して歩き出すカオルの背中を見つめ、諦めた様子でその後を追った。

「カオル」

「何だ?」

「今日は本当にありがとね」

「騒がしくて迷惑しなかったか?」

カオルの言葉にルナは小さく首を横に振った。

「温かくて、楽しくて、私はああいう雰囲気は好きだな」

「そうか。お前が気に入ったのなら良かった」

ちらっとカオルの方を見ると、微かに口元があがっていた。

そんな小さな仕草を見れただけで、ルナは何故か心踊る気持ちになった。

「それに、カオルの意外な一面も見れたしね!」

ルナが悪戯っぽく言うと、カオルは気恥ずかしそうに顔を背けている。

ルナは家に着くまでカオルとの心地よい雰囲気を満喫した。




家に帰ると、いつものようにチャコが出迎えてきた。

「お帰り~。どやった?」

「うん!アルバイト見つかったよ。明日の放課後から入るから、夜遅くなるね」

「もう見つかったん?何や、いかがわしいバイトやあらへんよな?」

チャコが疑うような目つきでルナを見る。

「そんなんじゃありません!カオルもバイトしているいい雰囲気のカフェよ」

ルナが頬を膨らませてチャコに言い返す。

「何や、カオルもバイトしとったんかいな。まぁカオルがおるなら安心やわ。ルナのミスもしっかりフォローしてくれるやろ」

チャコがケタケタと笑って言う。

「ひっどーい!!」

ルナの叫び声と共に、今日も騒がしい夜が更けていく。

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