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1期

──時は22世紀。

宇宙開発が盛んな時代、スペースコロニーで何不自由なく暮らしていた7人と1匹の少年少女達は、修学旅行に出発したその日に宇宙の嵐に遭い、見知らぬ惑星に流れ着いた。

メノリ、ハワード、シャアラ、ベル、シンゴ、カオル、チャコ、そしてルナ。

生存率は絶望的とさえ囁かれていた彼らの奇跡の生還は、コロニー中、いや宇宙中を沸かせる大ニュースとなった。

帰還した彼らはすぐに病院へと搬送され精密検査を実施。健康体である事が確認されると、家族と共に久しぶりの我が家へと帰宅した。

しばらくは身体的・精神的療養を目的として、ソリア学園からは1週間の休養が言い渡され、彼らは各々、やっと取り戻した日常を家族と共に満喫した。

そんな彼らの元に、テレビ局から記者会見を開いてほしいという依頼が舞い込んでくる。

カオルやメノリなど、気乗りしない者もいたが、既にハワードが二つ返事で了承してしまい、日時や会場まで全てセッティングが完了していた為、半ば巻き込まれる形で記者会見の出席を余儀なくされた。

ハワード財閥主体のキナ臭い記者会見であったが、ここで誰もが予想だにしない出来事が起こった。

ハワードが、今回の事故は自分が原因だった、と告白したのだ。

そして、仲間達の家族や学園関係者、宇宙旅行会社などに対し深々と頭を下げて謝罪したのである。

かつてのハワードならば、学園や旅行会社に責任を擦り付けて自分の失態を揉み消していたであろう。

だからこそ、深謝するハワードの姿に皆が驚愕した。

そして、仲間達はそんな彼を責めるどころか弁護し始めた。

彼が責任を感じ続けてずっと苦しんでいた事、しかし漂流したおかげで自分達はかけがえのない仲間を得た事……。

彼らの賢明な訴えが通じたのか、誰もハワードを責めはしなかった。

それどころか、彼らの絆を目にし、涙を流した者さえいる。

苦難を乗り越えた7人と1匹の少年少女達の絆が全宇宙に感動を与えた瞬間であった。

その日の電子新聞の一面は、記者会見一色となっていた。

その見出しには、こうつづられていた。

──『奇跡の生還者達』と。



第 1 話 『復学』



「あああああ!」

室内に響かんばかりの叫び声でルナの復学初日の朝は始まった。

「何やねん!朝っぱらから!」

ダイニングキッチンでワイドショーを見ていたチャコが朝から騒がしいルナに怒鳴る。

「ち、遅刻だぁー!!」

ルナはあたふたと着替えをしながら洗面所へ駆け込む。

「あ~、そういや今日から学校やったなぁ」

慌てるルナとは対称的に、チャコは悠長にジュースをすする。

「もぉ~、何で起こしてくれないのよー!」

髪の毛の寝癖を直しながらチャコに不平を言い放つ。

「サヴァイヴでは起こさんでもちゃんと起きとったやん」

「あの時は生きるか死ぬかの状況だったもの!」

「ふ〜ん。ま、どうでもええけど、文句ばっか言っとったらホンマに遅刻してしまうで?」

「わあああ!?いってきま~す!!」

時計を見てさらに慌てふためくと、ルナは勢いよく飛び出して行った。

「気ぃつけてなぁ」

ルナを見送り、チャコは再びジュースを啜りながらワイドショーを堪能し始めた。




メインストリートの動く歩道オート・ウォークをルナが全力疾走する。

本来ならば立っているだけで勝手に前に進むのだが、時間に押されているルナにはそんな余裕は無い。

「もぉ~、何でこうなるのぉ!?」

ルナは自分自身に呆れる。

これでは入学当初とまるで変わっていないではないか。


自宅からずっと走り続けた成果もあり、ようやくソリア学園が見えてきた。

が、学園の敷地は広大であるため、ゲートにはまだ辿り着かない。

「何でこんなに大きいのよー!!」

遅刻する側からすれば、迷惑以外の何物でもない、と自分の都合の良いように学園に対して文句を付ける。

学園を囲うフェンス沿いを走っていると、前方に見覚えのある後ろ姿を視界にとらえた。

「カオル~!」

ルナの声に反応し、カオルが振り返る。

「おはよう!」

「ああ」

ルナが息を切らしながら、それでも笑顔で挨拶をすると、カオルは簡単に返事をした。

「ゆっくり歩いてたら遅刻しちゃうよ?」

その言葉を口に出して、ルナはデジャヴを感じた。

転入当初も同じ場所で同じ事を言った気がする、と。

あの時と違うのはカオルの反応。

今回はルナの言葉を無視する事無くちゃんと返答してくれた。

「しないさ」

「え?でも……ああああ!あと1分でゲートが閉まっちゃう~!!」

コロコロと表情の変わるルナを見て、カオルは小さく笑う。

「ルナ」

カオルが目配せをする。その目線の先はフェンスの上。

転入当初、カオルが実に優雅にフェンスを飛び越えたのを思い出す。

「でも流石にこのフェンスは私には高すぎるかなぁ」

ルナがフェンスを見上げながら苦笑いする。

「問題ない」

カオルはフェンスに背中をくっつけると、地面と水平に腕を伸ばした。

「俺の腕を踏み台にしろ」

「え?でも……」

「遅刻してもいいのか?」

「………」

しばし悩んだが、ルナは背に腹は変えられないと覚悟を決め、助走をつけて地面を蹴る。

カオルの伸ばした腕を踏み台にし、何とかフェンスを乗り越える事に成功した。

が、空中でバランスを崩してしまい着地に失敗、尻餅をついてしまった。

「痛た~」

続いてカオルがいとも簡単にフェンスを飛び越える。

しかも着地も綺麗だ。

「………」

「どうした?」

「何かちょっと悔しい……」

不満そうな顔つきのルナを見てカオルは苦笑いしながら手を差し出した。

ルナも素直にカオルの手を握り、立ち上がらせてもらう。

「ありがとう」

不満顔からもう笑顔になっている。そんなルナを見てカオルは口元を小さく上げた。

「相変わらず忙しい奴だな」

「何が?」

ルナがキョトンとした顔つきで首を傾げる。

「さぁな」

それだけ言ってカオルは歩き出した。

「ちょっと待ってよ~」

カオルに置いて行かれまいと、ルナはカオルの後を追いかけた。




学園のエントランスへ入る寸前、後ろから不意にかけられた声に振り向くと、そこに立っていたのは生徒会長兼風紀委員のメノリだった。

「あ、メノリ。おはよう!」

「ああ、おはよう」

元気に挨拶をするルナを見て、メノリも微笑んで返す。

しかしそれも束の間、メノリは2人をキッと睨んだ。

その眼光にルナは思わず怯む。

「ところで……お前達に聞きたい事がある」

「ど、どうしたのメノリ?」

「いや、私はゲートが閉まるまで入り口にずっと立っていたのだが、不思議な事にお前達2人の姿を見た記憶がまるで無い。どうやってここまで来たんだ?」

メノリの追及にルナの目が泳ぐ。

一方のカオルは我関せずとでもいうように、涼しい顔をしている。

「そ、それは……」

「さらに言えば、何者かがフェンスを乗り越える所を偶然にも目撃してしまったのだが?何か心当たりは無いか?」

「ご、ごめんなさい……」

メノリの目線に耐え切れず、ルナは素直に謝った。

「全く……で、カオルはどうなんだ?反省しているのか?」

「別に校則違反ではないだろ?」

「む……確かにそうだが、他の奴らが真似しだしたら面倒だ」

「……分かった、気をつけよう」

素直に従うカオルにメノリは拍子抜けした。

昔のカオルなら、どんなに注意しても無視してその場から消えていただろう。

「カオル……変わったな」

「それはお互い様だろ」

「……ふっ、そうだな」

昔のメノリなら、有無も言わさず厳罰に処したであろう。

自分も随分丸くなったものだ、とカオルの言葉に納得し、メノリは小さく笑って頷いた。

カオルもメノリも、目の前にいるこの少女に救われた。

そして、自ら変わるきっかけを得たのだ。

そんな事を思われているとは当の本人は知らず、カオルの真似できる人っているのかな?などと考えている次第であった。

「そういえば、朝から随分と疲れた顔をしているな」

突如かけられたカオルの言葉に、メノリは虚を突かれた様な顔をした。

「……相変わらず目敏めざとい奴め」

メノリは否定せず苦笑いをする。

「メノリ、何かあったの?」

「後で嫌でも分かる」

心配するルナに対し、そう言い残してメノリは教室へと向かって行った。

「……どういう事?」

メノリの言葉の真意が分からず、ルナは首を傾げた。

カオルはメノリが言わんとしている事を理解したのか、深い溜息をつく。

「どうしたの?溜息なんかついて」

「……いや、何でもない」

カオルは深くは語らず、重い足取りで教室へ歩き出した。

ルナは首を傾げながらもカオルの背中を小走りで追いかけるのであった。




教室に着くまでの間、ルナは何やら無数の視線を背中に感じた。

「ね、ねぇカオル……」

「……何だ?」

「さっきからずっと、周りからの視線を感じるんだけど……気のせいじゃ……ないよね?」

「ああ」

カオルも煩わしそうな表情で頷いた。

メノリが言っていた、『嫌でも分かる』というのはこういう事か、とルナは納得した。

教室内では、シャアラ、ベル、シンゴ、ハワードが学園中の生徒に囲まれていた。
皆『奇跡の生還者』に興味津々なのだ。

ハワードとシンゴは自慢気に漂流時の冒険譚ぼうけんたんを話している。

ベルとシャアラは少し照れながらも、思い出を語る様に話している。

一方メノリは、校門で質問攻めにあったのだろう、ぐったりとしてクラスメイトの呼び掛けにもあまり反応を示していない。

仲間達の様子を観察しているうちに、ルナもいつの間にか廊下にいた生徒達に囲まれていた。

何だか芸能人になった気分だなぁ、と今の状況にルナは苦笑いを浮かべた。

丁度ホームルーム開始のチャイムが鳴ったおかげで、ルナは質問攻めに遭う事は免れた。

と思っていたのたも束の間、ホームルームが終わるや否や、『奇跡の生還者』達は一斉に集まった生徒らに再び取り囲まれる。

その仲間達の中にカオルの姿が無い事にルナは気付く。

ルナは自分を囲うクラスメイトに「ちょっとゴメン」と断りを入れて教室を出ていった。




学園最上階に位置する展望フロア、そこにカオルはいた。

ルナは見つけた事に安堵し、ゆっくりとカオルに近づく。

カオルがルナの気配に気付き、首だけを振り向かせた。

「どうかしたの?」

「……ああいうのは苦手だ」

カオルは視線を遠くへと向けたまま答えた。

「ふふっ、カオルらしいね」

「メノリの二の舞にもなりたくないしな」

それを聞き、ルナはメノリの現状を思い出し苦笑いを浮かべた。

「ハワードは嬉しそうに話してたね」

「あいつの場合、ある事無い事、自分の都合の良いように脚色してそうだがな」

「あははっ、言えてる!」

2人で談笑をしていると、休み時間終了を告げるチャイムが鳴る。

ルナが「戻ろっか」と促すと、カオルは静かにコクリと頷いた。




教室に戻ると、ハワードが手を振って2人の名前を呼ぶ。

あれほど集まっていた野次馬は、メノリの一喝によって解散となったとの事だ。

「おまえら、どこいってたんだよ?」

「ちょっとね」

そう言ってルナはカオルへ目配せをした。

「まぁいいや。そんな事より、ちょうど今、放課後みんなで遊びに行こうぜって話をしてたんだ!コロニーに戻ってから、全員集合したのって今日が初めてだろ?その記念も兼ねてさ!」

「ただ単にお前が遊びたいだけだろう?」

「いいだろ、別に!」

メノリに水を差され、ハワードが不満気な表情で言い返す。

「まぁまぁ。楽しそうだし、私は賛成よ」

「カオルは?」

シンゴの問いかけに、カオルは小さく頷いた。

おそらくOKという事だろう。

「どこに行こうか?」

「カラオケとかどうだ?」


 ルナは思う。

コロニーに戻ってきても、私を待ってくれている人なんていない。

みんなには悪いけど、あのままサヴァイヴに残ったままでも構わないと考えた事が何度もあった。

でも、今こうしてみんなで集まって、遊びに行く約束とかして……。

コロニーに戻って来た今でも充実している。寂しいなんて感じている暇が無いくらいに。

だから改めて言わせて?


「私、戻って来れて良かった!」

突然のルナの言葉に皆がキョトンとして視線を向けた。

その楽しげな笑顔につられるように、仲間達の表情も次々と笑顔になる。

こうして、ルナの学園生活は仲間達と共に再び幕を開いたのであった。

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