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過去を視る瞳

──「残像の部屋」
それが、私に宿る異能の名だった。

場所に残された、過去の記憶。
人ではなく、“空間”が抱えた感情や出来事に触れる力。

万能ではない。
使える条件は限られていて、任意の場所で自在に使えるわけでもない。
何より──その記憶が“強く残っている”ことが前提だった。

記憶の再生には、代償がある。
深く遡るほどに、精神を削られる。
見たくなかったものを、強制的に“追体験”してしまうこともある。

でもそれでも──
私は、その力にすがった。

静かな路地。
遠くで鳥の鳴く声が、ひどく耳障りだった。

さっき視た光景が、頭の中でまだ焼き付いている。
焼け跡。破片。悲鳴。叫び。

それでも私は、胸に手を当てて確信していた。

(今の記憶は……三日前のもの。なら──)

──織田作さんは、まだ“その時点では生きていた”。

胸が締めつけられる。
鼓動が耳を打つ。
悔しさ、悲しさ、虚しさ、怒り……感情が一気に押し寄せた。

でも、涙は出なかった。

泣くには、まだ終わっていなかった。

(続きを視よう)

止まってなんかいられない。
彼は必ず、“この地続きのどこか”に足を残しているはずだ。

私はそっと手を床に添え、
再び、能力を発動させた。

“部屋”は、再び開かれる。

視界がぼやけ、空気が震え、
過去と現在が重なっていく。

たとえ、この身を削ることになっても。
この力が、“織田作之助の最期”に届くのなら──

私は、その残像を追う。

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