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色の無い映画のような

七日間の使いを終えて、私は港町へ戻ってきた。
少し遠方まで行っていたから、帰りがけにお土産を買った。
あの子が好きだった柑橘のジャム。
あの子が大事にしていた本の新刊。

(…喜ぶかな)
そんなことを思いながら歩く道は、なぜか落ち着かなかった。

ここ数日、胸の奥がずっとざわついていた。
理由はわからない。
けれど、**「早く帰らなければ」**という衝動だけが募っていた。

(早く……顔を見て、安心したい)

その願いは──欠けた看板を見た瞬間に砕かれた。

焦げついた駐車場。
硝煙の残り香。
荒らされた窓。
張り巡らされた黄色いテープの残骸。

そのどれもが、言葉より雄弁だった。

(……なんで? ねぇ、なんで?)

息ができない。
手が震える。
脈が早くなって、視界が霞む。

けれど、こんなところで立ち止まっている場合じゃない。

私は、自分の能力を使うことにした。

手を地面に置く。
この場所に刻まれた“記憶”が、熱とともに指先から流れ込む。

──“残像の部屋”が開かれた。

時が巻き戻る。
音が、色が、温度が蘇る。

店の奥、カウンター。
マスターが襲われている。
叫ぶ声。駆け寄ろうとする小さな足音。

子どもたちが捕まる。
荒々しい男たちの影。
鳴き声。悲鳴。


時間が飛ぶ。


2階に駆け上がる音、ドアが開く
一瞬で空気が変わる。

「織田作……さん」

彼が銃を手に、部屋の奥へ飛び込んでいく。

だが遅かった。

外。
駐車場の車の中に子供達がいる
その光景を2階の窓から見つけた織田作が、身を乗り出す。


彼が窓を蹴って飛び降りる。
車へ駆け寄ろうとした。

──その瞬間。

爆発。

轟音。熱風。白く焼ける視界。
人の形をしていたものが、空へ吹き飛ばされる。




「……っ……っっ……」

私は、そこで能力を切った。

呼吸ができなかった。
膝が崩れる。
喉の奥が焼けるほど痛い。

(嘘だ……どうして……)

彼らが何をしたというの。
ただ、笑って暮らしていただけなのに。
どうして、命を賭けて守ろうとした人が、
こんなにも無惨に奪われなければならなかったの。

“あの人の叫び”が耳に残っている。

『ああああああああああああっ!!!!』

痛みでも、怒りでもない。
それは、ただの絶望の音だった。

私は、何一つ守れなかった。
あの人が、全部背負って死んでいった。
私だけが、置いていかれた。

──七日間。
それは、あまりにも静かな別れだった。
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