色の無い映画のような
それは、曇り空の午後だった。
港の近く、ポートマフィアの本拠地から少し離れた通りの陰。
私はひとり、織田作さんを待っていた。
その日も、彼の指示で本の返却に来ていて、帰りに合流する予定だった。
冷えた風が吹いて、私は袖をぎゅっと握る。
ひとりの時間は嫌いじゃなかったけれど、あの人の足音を待つ時間だけは、少しだけ、心が弾んでいた。
そのときだった。
「君は、恋をしているね?」
突如、真横からかけられた声に、私は肩を跳ねさせた。
振り向くと、そこには白衣を着た男が立っていた。
背筋が真っ直ぐで、年齢はよくわからなかったが、目だけが妙に深く、どこまでも冷たい水のようだった。
私は何も言えず、ただ黙ってその人を見返す。
すると彼は、ごく自然に一歩近づき、私の頭に手を伸ばした。
「髪を伸ばしてみるといい。……きっと、彼はそういうのが好きだから」
ふわり、と頭を撫でられる。
恐怖ではなく、ただ、理解できない。
この人は、何を言っているのだろう。
私の気持ちを、なぜ知っているのだろう。
「……」
言葉が出ないまま、視線だけがわずかに下がった。
その瞬間。
遠くから、知っている足音が近づいてきた。
「……!」
織田作さんだ。
手に本の袋を提げ、少しだけ早足で、こちらを見ていた。
その顔には、明らかな“焦り”が浮かんでいた。
「君は……今、失くすには惜しいな」
頭上から、そんな声がした。
けれど、私は顔を上げることができなかった。
どうしてかは分からない。
ただ、あのとき感じたのは、確かに“恐怖”だった。
理屈ではない。
本能が、「この人に触れてはいけない」と告げていた。
「……ボス、その子に何か?」
織田作さんの声は、淡々としていたけれど、その奥に緊張があった。
「いいや。ただ視界に入っただけだよ」
白衣の男は、静かに微笑んだだけだった。
それが、ポートマフィアの現ボス――森鴎外だと知ったのは、数日後のことだった。
その日の帰り道、私は織田作さんに「あの人と何を話していたのか」と問われた。
私は正直に、言われた言葉をすべて伝えた。
「髪を伸ばしてみるといいって……きっと、彼がそういうのが好きだからって……」
織田作さんはしばらく黙っていた。
そして、笑わなかった。
その日の夜、私は「少し長いお使いに行ってくれ」と頼まれた。
内容は、いつもの仕入れの延長のようなものだった。
期間は、ちょうど“七日間”。
私はうなずいた。
けれど胸の奥で、
何かが、ひどく冷たくざわついていた。
七日後、私は“戻ってはいけなかった”場所に帰り着く。
そこにあったのは、静かで、決定的な“終わり”だった。
港の近く、ポートマフィアの本拠地から少し離れた通りの陰。
私はひとり、織田作さんを待っていた。
その日も、彼の指示で本の返却に来ていて、帰りに合流する予定だった。
冷えた風が吹いて、私は袖をぎゅっと握る。
ひとりの時間は嫌いじゃなかったけれど、あの人の足音を待つ時間だけは、少しだけ、心が弾んでいた。
そのときだった。
「君は、恋をしているね?」
突如、真横からかけられた声に、私は肩を跳ねさせた。
振り向くと、そこには白衣を着た男が立っていた。
背筋が真っ直ぐで、年齢はよくわからなかったが、目だけが妙に深く、どこまでも冷たい水のようだった。
私は何も言えず、ただ黙ってその人を見返す。
すると彼は、ごく自然に一歩近づき、私の頭に手を伸ばした。
「髪を伸ばしてみるといい。……きっと、彼はそういうのが好きだから」
ふわり、と頭を撫でられる。
恐怖ではなく、ただ、理解できない。
この人は、何を言っているのだろう。
私の気持ちを、なぜ知っているのだろう。
「……」
言葉が出ないまま、視線だけがわずかに下がった。
その瞬間。
遠くから、知っている足音が近づいてきた。
「……!」
織田作さんだ。
手に本の袋を提げ、少しだけ早足で、こちらを見ていた。
その顔には、明らかな“焦り”が浮かんでいた。
「君は……今、失くすには惜しいな」
頭上から、そんな声がした。
けれど、私は顔を上げることができなかった。
どうしてかは分からない。
ただ、あのとき感じたのは、確かに“恐怖”だった。
理屈ではない。
本能が、「この人に触れてはいけない」と告げていた。
「……ボス、その子に何か?」
織田作さんの声は、淡々としていたけれど、その奥に緊張があった。
「いいや。ただ視界に入っただけだよ」
白衣の男は、静かに微笑んだだけだった。
それが、ポートマフィアの現ボス――森鴎外だと知ったのは、数日後のことだった。
その日の帰り道、私は織田作さんに「あの人と何を話していたのか」と問われた。
私は正直に、言われた言葉をすべて伝えた。
「髪を伸ばしてみるといいって……きっと、彼がそういうのが好きだからって……」
織田作さんはしばらく黙っていた。
そして、笑わなかった。
その日の夜、私は「少し長いお使いに行ってくれ」と頼まれた。
内容は、いつもの仕入れの延長のようなものだった。
期間は、ちょうど“七日間”。
私はうなずいた。
けれど胸の奥で、
何かが、ひどく冷たくざわついていた。
七日後、私は“戻ってはいけなかった”場所に帰り着く。
そこにあったのは、静かで、決定的な“終わり”だった。
