このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

色の無い映画のような

私は──孤児だった。

名もない街角で、名前のない日々を過ごしていた。
行くあてもなく、その日をどうにかしのぎ、
飢えと寒さを言い訳に、生きることだけに執着していた。

そんなある日、
“碌でもない大人”が私の存在に気づいた。

食べ物と引き換えに、言葉を失わせようとした手。
もし、あの日、彼が現れなかったら。
私は今、ここにいなかっただろう。

──彼の名は、織田作之助。

長身で、少し陰のある横顔。
どこか人と距離を置いたような佇まい。
なのに、あのとき私に向けられた手は、
ひどく温かく、優しかった。

「うちに来い。……ただし、飯と本と煙草の匂いしかないぞ」

あのとき、煙草の煙が空に溶けていくのを、妙に綺麗だと思った。

彼がポートマフィアの殺し屋だと知ったのは、しばらく経ってからだった。
その肩書きは、私には実感のない言葉だった。
だって、彼は誰より静かで、理知的で、本を読みながら紅茶を淹れる人だったから。

私の身体に残っていた痣が癒えたころ──
私は、自分に異能力があることに気づいた。

それを伝えると、彼はただ一言、

「そうか」

と言っただけだった。

恐れも、驚きもなかった。
その夜から、彼は静かに私の訓練に付き合ってくれた。
無理をしすぎないように、負担がかからないように。
“残像の部屋”という力がどう動くのか、私よりも真剣に考えてくれた。

「力は使うためじゃない。守るためにあればいい」

織田作さんは、そう教えてくれた。

生活のための術も、彼がすべて教えてくれた。
家事。炊事。掃除。勉強。
どれも、普通に生きるには必要なことだと、彼は言った。

私がつまずくたび、
彼は黙って本を差し出し、
何も言わずにそばにいてくれた。

彼は読書が好きで、静かで、よく笑わない人だったけれど──
たまに私が拙い料理を出すと、ふっと目を細めて「うまい」と言った。

私にとって、彼は恩人であり、師であり、
兄のようで……そして、たったひとりの“正しさ”だった。

あの人がいたから、
私は“生き方”を知った。

その生き方を、今でも胸に抱えている。
何が正しいかなんて、世界は教えてくれないから。

だけど、**織田作之助が私に教えてくれた“正しさ”**だけは、
今も確かに、私の中で息づいている。
1/3ページ
スキ