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答え合わせの夜


間接照明の柔らかな明かりが、壁に長く影を落としていた。
夜景は静かで、灯りがまばらに瞬く港が遠くに見える。

窓は少し開いていて、カーテンが夜風に揺れている。

私はその窓辺に腰掛け、手元のカップに口をつけた。
そっと香るのは、アールグレイ。

太宰さんは、ソファに身を預けている。
腕を枕にして横になり、何かを考えるでもなく、目を閉じるでもなく、ただ時間に身を任せていた。

しばらく、ふたりとも黙っていた。

その沈黙を破ったのは、太宰さんだった。

「……ねぇ、莉緒」

「はい」

「どこまで、知っているの?」

その声は、あまりに穏やかで、
けれど私の胸に深く沈んだ。

何を、とは言わない
けれどそれは確かに伝わった

私は少し目を伏せた。
そして、すぐに答えた。

「……ほとんど全部です」

太宰は動かなかった。
だから私も、言葉を重ねた。

「探偵社に来てから、自分で調べたこともありますけど…」

風が、カーテンをふわりと揺らした。

「ポートマフィアのボス、森鴎外が私に接触してきて
その翌日、織田作さんに遠くへのお使いを頼まれて。
……戻ってきたのは、事件の三日後」

太宰の表情は見えなかった。
でもきっと、聞いてくれていると思った。

「全部視ました。異能で、過去を追って。
マスターの最期も、子供たちの姿も。
織田作さんの最期も」

私は、小さく息をついた。

「織田作さんが、私を遠ざけた理由も、
……全部ではないかもしれないけど、分かる気がしました」

「……」

「だから、私は思うんです。
織田作さんを殺したのは、森鴎外だと──そう言っても、きっと間違いじゃない」

沈黙。

太宰はようやく身体を起こし、ソファに背を預けて私を見た。

その目は、とても静かだった。

「……全部、知ってるんだね。
なら……君がここにいるのは、奇跡みたいなものだ」

「いいえ。生きてるのは、織田作さんのおかげです。
探偵社に来れたのは、乱歩さんのおかげ。」

太宰は目を細めた。
その口元がわずかに揺れて、なにか言いかけたように見えたけれど──結局、言葉にはならなかった。

私は言った。

「ねぇ、太宰さん」

「ん?」

「あなたが罪だと思って背負ってること、
私は……もう、そんなふうにしかあなたを見ていないわけじゃないんです」

「……じゃあ、どう見てるの?」

「あなたが、生きようとしていることを、誰よりも知ってる人。
私が、それを手放したくないと思ってる人」

窓の外、夜景の灯りがゆっくり瞬いていた。

太宰は、目を伏せて、ぽつりとこぼした。

「……君って、ほんと、ずるいよ」

「よく言われます」

「……でも、ありがとう」

それだけだった。

けれど、今夜ふたりの間に流れたものは、
言葉以上にあたたかく、確かなものだった。
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