このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

扉はひらかれた

最近、太宰さんはよく部屋に来るようになった。

と言っても、決まった時間に来るわけではない。
仕事の帰りだったり、ふとした夕方だったり、
気づけば、窓からひょっこり顔を出していた。

「やあ、今日の夕飯は何かな?」

「太宰さん、それ不法侵入って知ってます?」

「だって鍵、かかってたし」

「……だからですよ」

そんなやり取りが、当たり前のようになっていた。

一緒にご飯を食べる。
お茶を飲みながら、くだらない話をする。
テレビを見ながら、他愛もない冗談を交わす。

彼は何も求めてこない。
私も、何もはっきりさせようとはしない。

けれどその空気は心地よくて、
どこか、“織田作さんが見ていたかった未来”のようでもあった。

同僚以上、恋人未満。
けれど確かに、ただの友人ではない。

そんな曖昧な距離。

ある夜、いつものように窓を開けて入ってこようとする太宰さんに、
私は溜息混じりに言った。

「……太宰さん」

「ん?」

「窓から入ってくるの、そろそろやめてくれませんか?」

彼は、片足を窓枠に乗せたまま、きょとんとした顔でこちらを見た。

「だって、合鍵なんてもらってないし」

私は言葉もなく、静かに立ち上がると、
玄関の小さな鍵をひとつ──差し出した。

「……じゃあ、今渡します」

一瞬、太宰さんの表情が止まった。

そして、ふっと笑う。

「……ありがとう、莉緒」

「……どういたしまして。鍵は貸すだけですから、悪用したら回収します」

「ええ、真面目な“事務員”さんに怒られるのは嫌ですからね」

くすくすと笑い合って、
それでもふたりとも、どこか顔を逸らした。

あたたかい一夜の始まりだった。
1/1ページ
スキ