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歩幅の中に誰かの影を

今回の任務は、ある地下組織への内偵だった。

依頼主はとある企業。
表向きは正当な物流会社だが、裏で密輸に関与しているらしい。
太宰さんと私は“外部業者”として潜入することになった。

事務職の経験と、冷静な分析力。
それが評価され、私は“同行対象”として太宰さんと選ばれた。

「危なくなったら、無理はするなよ。逃げ道は全部こっちで確保するから」

現場へ向かう前、太宰さんはそう言ってくれた。

(……でも)

(今回は、逃げるつもりなんてなかった)

倉庫内のミーティングスペース。
薄暗い照明の下、数人の男たちが書類を確認していた。

私は、用意された水を静かに運びながら、
会話の隙間に耳を傾ける。

──“明日の便に例のブツが混じってる”
──“管理番号は書き換えてある、帳簿には出ない”

(……情報、取れました)

私はすっと奥のカウンターに戻り、太宰さんとすれ違う際に視線で合図を送った。

彼は小さく頷いた。
この場を離れるタイミングを、測るためだった。

けれど──

「なぁお嬢さん」

背後から、声がかかった。

「ちょっとだけ……こっちで話、聞こうか?」

嫌な空気が走る。
視線が、男たちの間で交錯している。

私は笑った。
静かに、けれど“女”としての余裕を見せるように。

「……そんなに興味を持たれるなんて、慣れてないので戸惑っちゃいます」

そして、隙を見て袖に仕込んだ麻酔針の発射機に触れた。

「ねぇ……近くで話したいって、本当に?」

男が油断したその一瞬。

──シュッ。

針が音もなく射出され、首筋に突き刺さる。

「──っ……!?」

男はその場で崩れた。

もうひとりの男が慌てて立ち上がるが、
私は前に出た足を半歩下げ、動きを封じる位置取りを取る。

(もう、私は子どもじゃない)

太宰さんが動く前に、私はもう次の行動に出ていた。

「入ってください。証拠、出ました」

太宰の無線にそう告げ、私は再び冷静に男たちを見下ろした。

目に見える銃器は持っていない。
けれど、それでも“脅威”にはなれる。

──この手で選んだ武器でなら。

依頼は、成功裏に終わった。
密輸の証拠は全て押収され、関係者は確保された。

社に戻ったあと、私は報告書に取りかかっていた。

横では、太宰さんがぼんやりとソファにもたれている。

しばらくして、ぽつりと呟くように言った。

「……君、あのとき。銃は選ばなかったんだね」

私は、手を止めずに答えた。

「重すぎるんです。私には」

「……でも、躊躇いはなかった」

「守るものがあるからです。
誰かを救う力がないなら、せめて“誰も傷つけない方法”で戦いたいと思っただけです」

太宰さんは、それ以上何も言わなかった。
けれど、どこか遠い目で、何かを見ていた。

──少女ではなくなった“君”を。
──織田作の意志を、確かに抱いて歩いている“今の彼女”を。

見つめるその眼差しに、どこか確かな誇りのようなものがあった。

(私が選んだこの道が、きっとあの人の願いにも繋がっている)

そう思えるほどには、私はもう弱くなかった。
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