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帰路の黄昏

探偵社に戻ったのは、外も暗くなった頃だった。

依頼は無事終了。
あとは報告書をまとめて提出するだけ。

私はデスクに向かい、
淡々とキーボードを叩きながら、事件の概要と時系列を記していく。

ふと、気配を感じて顔を上げると──
ソファに寝転がっていたはずの乱歩さんが、
こちらを見て、にこにこと笑っていた。

言葉はない。
けれど、その表情が雄弁に語っている。

──「ね、悪いようにはならなかったでしょ?」

あぁ、やっぱりこの人には敵わないな、と。
改めてそう思った。

あの日、雨の中で手を差し出してくれた人。


「アイコンタクトなんて、仲良いんだねぇ?」

背後から声がする。

太宰さんだった。
いつの間にか、私の報告書を覗くように立っていた。

その声音はいつも通り軽くて、
けれど、どこかくすぐったいような色が混じっている気がした。

「……乱歩さんが、私の“拾い主”なのでね」

私は画面から目を離さず、淡々と返した。

「ふぅん……ちょっと、悔しいかも」

「……え?」

思わず、タイピングの手が止まった。

冗談のようで、本気にも聞こえる。
本気のようで、冗談にも取れる。

(……どっちなの?)

胸の奥が、静かにざわついた。

彼が何を考えているのかなんて、まだ分からない。
けれど、ひとつ確かなのは、
こうして並んで笑える距離まで、戻ってきたということ。

私は視線を報告書に戻しながら、
あの日、乱歩さんに拾われたときの言葉を思い出していた。

失せ者は、見つかりましたよ。
乱歩さん。

そう心の中で呟き、
私は小さく笑って、報告書を仕上げた。

少しこそばゆい気持ちをそっと胸にしまいながら、今日という日を終えていく。
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