揺らぐ輪郭
あれから──
私は、探偵社の事務員として日々を過ごしている。
初めは手探りだった書類整理も、
慣れてくるにつれて“どの依頼が赤字になりやすいか”まで見えてくるようになった。
報酬額と人員配分、依頼難度のバランス。
経理帳票と請求書の突合。
時折、数字と睨めっこしすぎて胃が痛くなる日もある。
……でも、大丈夫。
最近は、国木田独歩がいる。
彼は意外と事務作業にも向いていて、
事務所にいるときは積極的に経理関連の確認にも手を貸してくれる。
おかげで、私の負担は少しだけ減った。
もちろん、依頼によっては現場に同行することもある。
私の異能は《残像の部屋》──
戦闘向きではない。
けれど、“空間に刻まれた記憶”を辿ることで、事件の真相に至る糸口になることもある。
乱歩さんや国木田さん、谷崎さんと一緒に現場に出ると、
思わず「本当にこの人たちは人間なのだろうか」と思うほど圧倒される。
でも、頼れる仲間がいるというのは、心強いものだと最近は思えるようになった。
少しずつ──
本当に少しずつだけど、
私の日常は、賑やかになってきている。
笑う時間が増えた。
叱られることも減った。
朝にちゃんと目が覚めて、夜に少し寂しさを感じるくらいに。
そこに、新しい“変化”が加わったのは、ほんの最近のことだった。
──太宰治が、探偵社にやって来た。
織田作さんの友人。
あのとき、“声の届かなかった”人。
彼とは、まだ直接同行したことがない。
私の異能も、まだ見せていない。
織田作さんが彼に何か話していたのか、私にはわからない。
けれど、もし何も伝えていなければ──
太宰さんは、私の能力のことを知らないはずだった。
けれど、彼もまた乱歩さんと同じく、“真実に勘が鋭い人”だ。
そう長くは隠せないだろう。
そんなことを考えていた矢先、
機会はすぐに巡ってきた。
「午後の依頼、太宰と同行してもらえる?」
そう乱歩さんに言われたとき、
私は少しだけ、胸の奥が音を立てるのを感じた。
(……やっぱり、来た)
避けては通れないものだと、思っていた。
私の過去。
彼との距離。
そして、あの力。
すべてを包み込むように、
静かに午後の陽が、窓辺を照らしていた。
私は、探偵社の事務員として日々を過ごしている。
初めは手探りだった書類整理も、
慣れてくるにつれて“どの依頼が赤字になりやすいか”まで見えてくるようになった。
報酬額と人員配分、依頼難度のバランス。
経理帳票と請求書の突合。
時折、数字と睨めっこしすぎて胃が痛くなる日もある。
……でも、大丈夫。
最近は、国木田独歩がいる。
彼は意外と事務作業にも向いていて、
事務所にいるときは積極的に経理関連の確認にも手を貸してくれる。
おかげで、私の負担は少しだけ減った。
もちろん、依頼によっては現場に同行することもある。
私の異能は《残像の部屋》──
戦闘向きではない。
けれど、“空間に刻まれた記憶”を辿ることで、事件の真相に至る糸口になることもある。
乱歩さんや国木田さん、谷崎さんと一緒に現場に出ると、
思わず「本当にこの人たちは人間なのだろうか」と思うほど圧倒される。
でも、頼れる仲間がいるというのは、心強いものだと最近は思えるようになった。
少しずつ──
本当に少しずつだけど、
私の日常は、賑やかになってきている。
笑う時間が増えた。
叱られることも減った。
朝にちゃんと目が覚めて、夜に少し寂しさを感じるくらいに。
そこに、新しい“変化”が加わったのは、ほんの最近のことだった。
──太宰治が、探偵社にやって来た。
織田作さんの友人。
あのとき、“声の届かなかった”人。
彼とは、まだ直接同行したことがない。
私の異能も、まだ見せていない。
織田作さんが彼に何か話していたのか、私にはわからない。
けれど、もし何も伝えていなければ──
太宰さんは、私の能力のことを知らないはずだった。
けれど、彼もまた乱歩さんと同じく、“真実に勘が鋭い人”だ。
そう長くは隠せないだろう。
そんなことを考えていた矢先、
機会はすぐに巡ってきた。
「午後の依頼、太宰と同行してもらえる?」
そう乱歩さんに言われたとき、
私は少しだけ、胸の奥が音を立てるのを感じた。
(……やっぱり、来た)
避けては通れないものだと、思っていた。
私の過去。
彼との距離。
そして、あの力。
すべてを包み込むように、
静かに午後の陽が、窓辺を照らしていた。
