野良猫みたい
あの雨の日の翌朝。
私は乱歩さんに連れられて、武装探偵社の扉をくぐった。
古びたビルの三階。
廊下に古本の匂いが漂っていたのを、今でも覚えている。
「この子、今日から事務員ね~」
事務室に入るなり、乱歩さんはそう宣言した。
「あと、平然としてるけど──内臓損傷してるみたいだから。与謝野先生よろしくー」
「……え?」
次の瞬間、背後から椅子がガタッと音を立てた。
「ちょっと、乱歩さん!? 何したのこの子!」
駆け寄ってきた女性の声が鋭く響く。
白衣に赤い口紅。目元が鋭い。
探偵社の“治療担当”、与謝野晶子さんだった。
私は、少しだけ首を傾げた。
「……異能……使いすぎました」
その瞬間、彼女の眉間に青筋が浮かんだ。
「バカじゃないの!? 死ぬわよ、あんた!」
それはもう、雷みたいな怒鳴り声だった。
けれど、不思議と怖くなかった。
どこか“叱ってくれる大人”の温かさを、感じていた。
診察のあと、私は改めて探偵社の応接室に通された。
奥に座っていたのは、落ち着いた和装の男性だった。
この探偵社の社長、福沢諭吉。
彼は、私の名前も、能力も、事情も、ほとんど何も訊かなかった。
ただ、一言だけ。
「ここは、人を武器として扱わぬ組織だ。……ゆっくり慣れるといい」
それだけだった。
けれど、私はその声の奥に、
“多くを知る者だけが持つ優しさ”を感じた。
それだけで、十分だった。
私は、初めて“異能者として”ではなく、
“生きている少女として”迎えられたのだと思った。
その日から私は、“事務員さん”として武装探偵社の一員になった。
名前を問われず、
過去を詮索されず、
ただ「今ここにいる私」が許された日。
あれは、生き延びた少女が、生き直しを始めた日だった。
私は乱歩さんに連れられて、武装探偵社の扉をくぐった。
古びたビルの三階。
廊下に古本の匂いが漂っていたのを、今でも覚えている。
「この子、今日から事務員ね~」
事務室に入るなり、乱歩さんはそう宣言した。
「あと、平然としてるけど──内臓損傷してるみたいだから。与謝野先生よろしくー」
「……え?」
次の瞬間、背後から椅子がガタッと音を立てた。
「ちょっと、乱歩さん!? 何したのこの子!」
駆け寄ってきた女性の声が鋭く響く。
白衣に赤い口紅。目元が鋭い。
探偵社の“治療担当”、与謝野晶子さんだった。
私は、少しだけ首を傾げた。
「……異能……使いすぎました」
その瞬間、彼女の眉間に青筋が浮かんだ。
「バカじゃないの!? 死ぬわよ、あんた!」
それはもう、雷みたいな怒鳴り声だった。
けれど、不思議と怖くなかった。
どこか“叱ってくれる大人”の温かさを、感じていた。
診察のあと、私は改めて探偵社の応接室に通された。
奥に座っていたのは、落ち着いた和装の男性だった。
この探偵社の社長、福沢諭吉。
彼は、私の名前も、能力も、事情も、ほとんど何も訊かなかった。
ただ、一言だけ。
「ここは、人を武器として扱わぬ組織だ。……ゆっくり慣れるといい」
それだけだった。
けれど、私はその声の奥に、
“多くを知る者だけが持つ優しさ”を感じた。
それだけで、十分だった。
私は、初めて“異能者として”ではなく、
“生きている少女として”迎えられたのだと思った。
その日から私は、“事務員さん”として武装探偵社の一員になった。
名前を問われず、
過去を詮索されず、
ただ「今ここにいる私」が許された日。
あれは、生き延びた少女が、生き直しを始めた日だった。
