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願いと祈り

「──織田作ッ!!」

響いたのは、太宰さんの声だった。
視界の中で、彼が駆け寄っていく。
崩れ落ちるように、血の中に沈むその身体を抱きしめた。


織田作さんの声が微かに震えていた。
その喉から漏れた音が、あまりにも静かで、あまりにも遠かった。

私は異能の中で膝をついた。


「……あと、少し…………」

内臓が痛む。頭が割れるように熱い。
込み上げるものを吐き出すと、それは血だった。

(……お願い、もう少し……もう少しだけ……)

異能の限界は、とうに超えていた。
でも、今ここで切るわけにはいかない。
これだけは、絶対に“最後まで視なければ”ならなかった。

彼の声がした。

「……お前に……言っておきたいことがある」

苦しげな呼吸の中でも、その声だけは凛としていた。

太宰さんが、黙って彼の顔を見つめていた。

私には、それだけでわかった。

──もう助からないのだ。

今、この瞬間にも、彼の命は少しずつこの世から離れていっている。

「……人を救う側になれ。どちらもおなじなら……いい人間になれ」

「──その方が、幾分か……素敵だ」

その言葉は、まるで未来に向けて放たれた矢のようだった。

遺言ではない。
それは、“願い”だった。
命を懸けてまで、彼が太宰治という人間に遺そうとした、たった一つの希望。

太宰さんは、目を伏せたまま、静かに呟いた。

「……人は、自分を救済するために存在する、か……」

「……確かに、その通りだな…………」

その言葉を最後に──

私の意識は、闇に沈んでいった。

崩れゆく意識の中で、
私はまだ、彼の声を探していた。

(……ありがとう、織田作さん)

たった一言すら伝えられないまま、
“残像の部屋”は、そっと閉じられた。
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