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未来を視る瞳

織田作之助の異能力。
──天衣無縫(てんいむほう)。
五秒以上、六秒未満の未来を視る力。

短く、決定的な予知。

彼の目には、常に“ほんの少し先の未来”が映っていた。
その先に、何があろうと。
どんな絶望、希望があろうと。

けれど今の彼が見ていたのは、“終着点”ただ一つだった。

そして私も、分かっていた。

この時点で、すべての決着はもう、彼の中についている。

どれほど叫んでも。
太宰さんの声でさえ届かないのに──

私の声など、届くはずがない。

橋の上。
灰色の空。
沈みゆく陽の残光が、水面を血のように染めていた。

その道の上で、彼は“ぶつかった”。
自らを“名探偵”と名乗る青年。

──江戸川乱歩。

乱歩は、彼を引き止めようとする。
未来を、終点を、その“先”を警告する。

それでも、織田作之助は答えた。

「あぁ……知っている」

淡々と。
何かを諦めるようにでも、悟るようにでもなく。

それは、“自分にしかできないこと”を、
“今ここで果たす”と決めた者の顔だった。

彼の歩みは止まらなかった。

警告を受け入れ、それでも進む。
未来を視てなお、それでもなお、歩くことをやめなかった。

私は、その背を追っていた。
けれど、どこまで行っても、その背には手が届かなかった。

──本当に、誰にも届かなかった。

“織田作之助”という男は、
最期まで、自分で選んだ結末へ向かって歩いていった。

その姿は、あまりにも静かで、
あまりにも強く、そして美しかった。
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