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たたみが下から笑ってる

『その日、釘は打たれなかった。だけど、心は刺さった。』
(太宰治 視点)

 

任務は順調だった。
……というか、あの歌を聴いた翌日なら何でも順調に思えるというのが正しい。

 

潜入先の会場で、君は完璧だった。
整った衣装、自然な立ち振る舞い、情報収集も抜かりなく。
だけど何よりも、
昨夜のあの呪いのようなメロディを口ずさんでいた人物が、今、
笑顔でワイングラスを傾けているという事実に──

 

脳裏に「コンコンコンコン」の幻聴が鳴る。

 

「……大丈夫ですか、太宰さん。なんだか顔色が」
「えっ、ううん。ちょっとだけ幻聴がね」
「?」
「あ、いや、気にしないで。たたみが笑ってたんだよ」
「……え?」
「冗談冗談」
──こっちが本物の“恐怖と隣り合わせの任務”ってやつじゃないの?

 

無事に任務を終えた帰り道。
君は何事もなかったようにホッと息をついて、俺の袖をきゅっと掴む。

 

「……ちゃんと、守ってくれてありがとう」
その声は柔らかくて、やっぱりあの歌と同じ口から出てきたものとは思えない。

 

「君、もしかして昨日の歌って、呪術的な儀式じゃなかったの?」
「え?」
「え?」
「……ただの、気合い入れですけど?」
「気合いの入り方、ポートマフィアよりエグいんだけど?」

 

──だけど、俺はちょっと嬉しかった。

あの歌に込められたのは、嫌な任務への不安と、それでも逃げずにこなそうとする強さ。
そんな一面を俺だけが知っているのだと思うと、心にじんわり熱が灯る。

 

帰宅後、君は紅茶を淹れてくれた。
ストロベリーとバニラの香りが広がる。
たぶん、あの歌よりずっと効く癒しの魔法。

 

「ありがとうね、今日も無事だった」
「太宰さんがいたからですよ」

 

釘は、打たれなかった。
でも、心にはしっかり“君の頑張り”が刺さってたよ。

 

──ほんと、惚れ直すよね。

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