美しき夜の女神
――三月末。
経理地獄の修羅場をくぐり抜け、事務所の空気も書類の紙粉まみれの疲労臭が漂っていた午後。
「……国木田さん、クマが……」
「……君もだ」
互いの顔を見て、小さくため息をつく。
それでも経理の山を片付け終えた達成感は確かなものだった。
カレンダーを見やれば、今日は社長と乱歩さん、そして与謝野先生が懇親会参加とある。
「あの先生が懇親会?……絶対、場を焦土にして帰ってくるやつ」
それはそれとして──。
「いじりたい……切実に」
スイッチが入った。
***
16時ちょうど。
事務所の一室で、女神が降臨した。
ドレスは夜のような深い濃紺。
腰から流れるようなドレープに、肩にかかる紫のオーガンジーが艶やかで、けれど品のある妖しさを帯びていた。
髪はシニヨンにまとめ、耳元には光を宿したアメジストのイヤリング。
まるで夜の女神がひととき人間界に舞い降りたかのような、美しさだった。
与謝野晶子、完成。
「……君さぁ、あたしを何だと思ってんの?」
「探偵社の宝で、恋も酒も治療も全部似合う美女です」
「褒めても酒は出ないよ」
「いえ、今夜は貴女が出る番です」
「はは、座布団一枚」
そんな軽口を交わしながら、ソファに腰を下ろす与謝野先生。
戦場のような三月を乗り越えた顔ではなく、今夜の役割を楽しみにしている、大人の女の顔だった。
***
あとで帰ってきた社長は──
「……まさか、我が社にこんな『夜の一輪』が咲くとはな……」
と一言だけ残し、静かに自席に戻ったとか。
その夜、懇親会の話を聞いた谷崎は、
「……で、その女神が……与謝野先生だったってオチ……?嘘だろ……」
と顔面蒼白になったという。
経理地獄の修羅場をくぐり抜け、事務所の空気も書類の紙粉まみれの疲労臭が漂っていた午後。
「……国木田さん、クマが……」
「……君もだ」
互いの顔を見て、小さくため息をつく。
それでも経理の山を片付け終えた達成感は確かなものだった。
カレンダーを見やれば、今日は社長と乱歩さん、そして与謝野先生が懇親会参加とある。
「あの先生が懇親会?……絶対、場を焦土にして帰ってくるやつ」
それはそれとして──。
「いじりたい……切実に」
スイッチが入った。
***
16時ちょうど。
事務所の一室で、女神が降臨した。
ドレスは夜のような深い濃紺。
腰から流れるようなドレープに、肩にかかる紫のオーガンジーが艶やかで、けれど品のある妖しさを帯びていた。
髪はシニヨンにまとめ、耳元には光を宿したアメジストのイヤリング。
まるで夜の女神がひととき人間界に舞い降りたかのような、美しさだった。
与謝野晶子、完成。
「……君さぁ、あたしを何だと思ってんの?」
「探偵社の宝で、恋も酒も治療も全部似合う美女です」
「褒めても酒は出ないよ」
「いえ、今夜は貴女が出る番です」
「はは、座布団一枚」
そんな軽口を交わしながら、ソファに腰を下ろす与謝野先生。
戦場のような三月を乗り越えた顔ではなく、今夜の役割を楽しみにしている、大人の女の顔だった。
***
あとで帰ってきた社長は──
「……まさか、我が社にこんな『夜の一輪』が咲くとはな……」
と一言だけ残し、静かに自席に戻ったとか。
その夜、懇親会の話を聞いた谷崎は、
「……で、その女神が……与謝野先生だったってオチ……?嘘だろ……」
と顔面蒼白になったという。
