誘いの声
「あ~疲れた」
朝の出来事からようやく解放された拓人は缶コーヒーを持ちベンチに座り空を見上げていた。
春菜に対する想いやモモの件がバレてこれから先登校する度に面倒ごとが増えるのかと戦慄している。
「もう帰ろうかな~」
うん。そうしよう。
今日一日学校に来たんだし俺は頑張ったと思う。
このままいれば確実にろくでもない事が起きそうだしな。
主にララの発明的な意味で―――
「……んっ?」
「――神谷拓人」
ベンチから立ち上がろうとした拓人の前に誰かが現れてその人物を確認すると、
「久しぶりだな金色」
「はい」
宇宙で最も危険視されている凄腕の殺し屋。
今は拓人の親友でもある結城リトの抹殺命令を受け地球に来ており、日々リトの狙いつつもいつの間にか地球の生活に馴染み、今もタイヤキの入った袋を手に持ち拓人を見つめていた。
「珍しいですね。アナタがこんな時間に学校にいるなんて」
「俺もそう思うわ。そして今から帰ろうかと考えている」
この男はもうマンションに帰る気である。
まだそんな時間でもないのに拓人はさっさと帰ろうとしていたが、
「じゃあ暇という事ですね」
「いや、帰るって「隣失礼します」……おいっ!」
いつの間にかヤミは隣に座りタイヤキの入った袋を拓人の膝の上に置いて読書を始めた。
えっ?何で金色のやつ普通に読書してんの?
しかもタイヤキの入った袋を俺に渡して呑気に食べてるし。
もしかして金色が食い終わるまで動けないのか?
「神谷拓人」
「何だよ?」
「もう怪我は大丈夫なんですか?」
「……とっくに治ってるよ。何だ心配してくれてんのか?」
あのカイとの一件であんなに傷だらけだった俺を間近で見てたもんな金色。
春菜もだけどあの時は本当に皆に心配かけちまったもんな。
「アナタは目を離すと本当に危ない人ですね。アナタに何かあれば美柑が悲しみます」
「そいつは悪かったな。……なら金色はどうなんだ?」
「……えっ?」
「お前は心配とかしてくれんのか?」
拓人の問い掛けにキョトンとするヤミ。
神谷拓人が怪我をしたら私はどう思う?
そんな事一度も考えたこともない。
だって神谷拓人は強い人。
確かにカイという男と戦った時アナタは大怪我を負った。
でもその時私はアナタが負けたなんて思っていなかった。
アナタなら必ず立ち上がるってどこかで信じていたから。
だから私が心配する必要なんて――
必要なんて――
「私は…「あっ、タクトさん!ヤミさんも」…ッ!?」
「…んっ?モモじゃねぇか。マジで転入してたなんてな」
「黙っていてごめんなさいタクトさん。でもこれからは学校でもマンションでも一緒ですね」
ニッコリとまるでヒマワリのように明るく笑うモモに拓人は空を見上げながら遠い目になる。
これ下手したら二十四時間モモと一緒って事だよな。
モモのやつまさか俺を監視するつもりか?
「モモ・べリア・デビルーク」
「何ですか?」
「今聞き間違いじゃなければ学校でもマンションでも一緒だとおっしゃいましたか?」
「ふふっ、少しでもタクトさんと一緒にいたくて私はこの学校に転入したんですよヤミさん。マンションはタクトさんに私のワガママをきいてもらったんですけど」
全部金色に喋りやがったなモモのやつ。
あと金色―――
何故そんな冷たい目で俺を見ている?
言っとくがお前の想像しているような事は一切ないぞ。
そんでモモはモモで何故金色を見ながらニヤリと笑っている?
「神谷拓人…」
「なっ、何だ?」
「アナタはえっちぃ人です」
「急に何を言い出す?」
「アナタがプリンセスにいつ手を出すか分かりません」
「出さないが?」
「酷いですタクトさん。私はいつでも準備万端ですのに」
「余計な事を言うなモモ」
「なのでアナタを監視する為に私もアナタのマンションに住みます?」
「「……えっ?」」
ヤミの言葉に拓人とモモは目を丸くする。
今金色は何と言った?
俺がモモに手を出すかもしれないから監視する為にマンションに住むと言ったか?
待て!待て!待て!
「金色、急にどうした?そんな事言うタイプじゃ…」
「私にも分かりません。ですが―――アナタはやはり色んな意味で放っておけません」
だから大丈夫ですよね?と言わんばかりに拓人を見つめるヤミに対し、拓人は再び空を見上げながら深く溜め息を吐く。
やっぱり学校に来るとろくなことねぇな。
また何日間かサボった方がいいんじゃないか?
そして――遠い目をする拓人の傍にいたモモはヤミの言葉に一人興奮していた。
こんな事がこんな事が起きるなんて!
タクトさんにとって春菜さんが一番なのは確定で、タクトさんはハーレム否定派の人だ。
だから私は学校に来てタクトさんに惹かれている女性を把握しなければならなかった。
それなのにまさか初日からこんな展開になるなんて!
ヤミさんはリトさんをターゲットとして狙い続けている間タクトさんと色んな時間を過ごしていた。
ヤミさんの好物である[たいやき]の味。
リトさんの話ではそれをヤミさんに教えたのはタクトさんだったらしい。
だから私はわざとヤミさんの前でマンションの事を口にしたけど、予想以上の展開に私はがらにもなく興奮してしまいました。
「じゃあヤミさんも転入してみませんか?」
「……転入?」
「はい!それに今ならタクトさんのマンション付きですよ」
「……モモ。金色の転入に関しては口を挟むつもりはねぇが、それ以上は勝手がすぎるぞ」
「………あっ」
拓人の言葉にモモは胸に痛みが走ったように表情が歪む。
さすがに早まった。
今のタクトさんの言葉で冷静になったけど頭が真っ白になってしまった。
ダメだ。何も言葉が浮かんでこない。
嫌だ嫌だ嫌だ。
タクトさんに嫌われたく―――
「………タクトさん」
しゅんと落ち込み顔を俯かせるモモにタクトはたいやき入りの袋をヤミに渡して、ベンチから立ち上がるとモモの顔を自分の胸にくっつけどこかぶっきらぼうに頭を撫でる。
「わりぃ、強く言いすぎた。だから今にも泣きそうな顔すんなよ」
モモは今の状況に困惑して固まってしまう。
今私はタクトさんに何をされているんでしょうか?
タクトさんの胸に私の顔がひっついて、さらに頭をぶっきらぼうですけど撫でられている。
「……タクトさん?」
顔を上げればタクトさんはどこかバツが悪そうにしていて、少なくとも先程と比べて怒った雰囲気は感じられない。
もしかして落ち込んだ私を慰めてくれている?
「もう大丈夫だな?」
「……はい」
拓人はモモから離れてゆっくり息を吐く。
何やってんだろうな俺は?
普段ならこんな事絶対にしないのに。
最近モモとの距離が近すぎて接し方がバグっちまったか?
「モモ、お前が何を考えてんのか知らねぇが一人で突っ走りすぎだ」
「私とした事がらしくなかったですね。すいませんでしたタクトさん」
拓人に謝るモモだがさっきまでの落ち込みが嘘かのようにモモはいつもの雰囲気に戻っていた。
「金色も迷惑かけたな。さっきのモモの言葉は忘れて……」
「いえ。少し考えさせてください」
「何でだよ!?」
このままなかった事にできるかと思ったのに、金色のやつ忘れるどころか真剣に考えてやがる。
このままいくと確実にろくでもない事が起きる。
「なぁ、こ「うわぁぁぁ!よせっ!」……んっ?」
「今の声はリトさん?」
拓人はヤミに何とかして諦めてもらうかと口を開こうとした時、少し離れた所から急にリトの声が聞こえてきて三人の視線はそちらに向く。
何やらリトが大慌てでこちらに来ているようだが一体何が起きた?
「拓人!」
「どうしたリト?また嫁の発明品が暴走したか?」
「嫁じゃねぇって!じゃなくてあいつらがいきなり襲ってきて…」
「………あん?」
リトの言葉に拓人の視線はリトを追いかけてきた集団に向く。
その集団の中には朝拓人を襲撃してきたリトの友達でもある猿山の姿もある。
「何か変なもんでも食ったか?」
「いえ、そんな風には見えませんが…」
モモが怪訝な表情を浮かべ拓人は鋭い目付きで集団を見つめる。
朝の出来事からようやく解放された拓人は缶コーヒーを持ちベンチに座り空を見上げていた。
春菜に対する想いやモモの件がバレてこれから先登校する度に面倒ごとが増えるのかと戦慄している。
「もう帰ろうかな~」
うん。そうしよう。
今日一日学校に来たんだし俺は頑張ったと思う。
このままいれば確実にろくでもない事が起きそうだしな。
主にララの発明的な意味で―――
「……んっ?」
「――神谷拓人」
ベンチから立ち上がろうとした拓人の前に誰かが現れてその人物を確認すると、
「久しぶりだな金色」
「はい」
宇宙で最も危険視されている凄腕の殺し屋。
今は拓人の親友でもある結城リトの抹殺命令を受け地球に来ており、日々リトの狙いつつもいつの間にか地球の生活に馴染み、今もタイヤキの入った袋を手に持ち拓人を見つめていた。
「珍しいですね。アナタがこんな時間に学校にいるなんて」
「俺もそう思うわ。そして今から帰ろうかと考えている」
この男はもうマンションに帰る気である。
まだそんな時間でもないのに拓人はさっさと帰ろうとしていたが、
「じゃあ暇という事ですね」
「いや、帰るって「隣失礼します」……おいっ!」
いつの間にかヤミは隣に座りタイヤキの入った袋を拓人の膝の上に置いて読書を始めた。
えっ?何で金色のやつ普通に読書してんの?
しかもタイヤキの入った袋を俺に渡して呑気に食べてるし。
もしかして金色が食い終わるまで動けないのか?
「神谷拓人」
「何だよ?」
「もう怪我は大丈夫なんですか?」
「……とっくに治ってるよ。何だ心配してくれてんのか?」
あのカイとの一件であんなに傷だらけだった俺を間近で見てたもんな金色。
春菜もだけどあの時は本当に皆に心配かけちまったもんな。
「アナタは目を離すと本当に危ない人ですね。アナタに何かあれば美柑が悲しみます」
「そいつは悪かったな。……なら金色はどうなんだ?」
「……えっ?」
「お前は心配とかしてくれんのか?」
拓人の問い掛けにキョトンとするヤミ。
神谷拓人が怪我をしたら私はどう思う?
そんな事一度も考えたこともない。
だって神谷拓人は強い人。
確かにカイという男と戦った時アナタは大怪我を負った。
でもその時私はアナタが負けたなんて思っていなかった。
アナタなら必ず立ち上がるってどこかで信じていたから。
だから私が心配する必要なんて――
必要なんて――
「私は…「あっ、タクトさん!ヤミさんも」…ッ!?」
「…んっ?モモじゃねぇか。マジで転入してたなんてな」
「黙っていてごめんなさいタクトさん。でもこれからは学校でもマンションでも一緒ですね」
ニッコリとまるでヒマワリのように明るく笑うモモに拓人は空を見上げながら遠い目になる。
これ下手したら二十四時間モモと一緒って事だよな。
モモのやつまさか俺を監視するつもりか?
「モモ・べリア・デビルーク」
「何ですか?」
「今聞き間違いじゃなければ学校でもマンションでも一緒だとおっしゃいましたか?」
「ふふっ、少しでもタクトさんと一緒にいたくて私はこの学校に転入したんですよヤミさん。マンションはタクトさんに私のワガママをきいてもらったんですけど」
全部金色に喋りやがったなモモのやつ。
あと金色―――
何故そんな冷たい目で俺を見ている?
言っとくがお前の想像しているような事は一切ないぞ。
そんでモモはモモで何故金色を見ながらニヤリと笑っている?
「神谷拓人…」
「なっ、何だ?」
「アナタはえっちぃ人です」
「急に何を言い出す?」
「アナタがプリンセスにいつ手を出すか分かりません」
「出さないが?」
「酷いですタクトさん。私はいつでも準備万端ですのに」
「余計な事を言うなモモ」
「なのでアナタを監視する為に私もアナタのマンションに住みます?」
「「……えっ?」」
ヤミの言葉に拓人とモモは目を丸くする。
今金色は何と言った?
俺がモモに手を出すかもしれないから監視する為にマンションに住むと言ったか?
待て!待て!待て!
「金色、急にどうした?そんな事言うタイプじゃ…」
「私にも分かりません。ですが―――アナタはやはり色んな意味で放っておけません」
だから大丈夫ですよね?と言わんばかりに拓人を見つめるヤミに対し、拓人は再び空を見上げながら深く溜め息を吐く。
やっぱり学校に来るとろくなことねぇな。
また何日間かサボった方がいいんじゃないか?
そして――遠い目をする拓人の傍にいたモモはヤミの言葉に一人興奮していた。
こんな事がこんな事が起きるなんて!
タクトさんにとって春菜さんが一番なのは確定で、タクトさんはハーレム否定派の人だ。
だから私は学校に来てタクトさんに惹かれている女性を把握しなければならなかった。
それなのにまさか初日からこんな展開になるなんて!
ヤミさんはリトさんをターゲットとして狙い続けている間タクトさんと色んな時間を過ごしていた。
ヤミさんの好物である[たいやき]の味。
リトさんの話ではそれをヤミさんに教えたのはタクトさんだったらしい。
だから私はわざとヤミさんの前でマンションの事を口にしたけど、予想以上の展開に私はがらにもなく興奮してしまいました。
「じゃあヤミさんも転入してみませんか?」
「……転入?」
「はい!それに今ならタクトさんのマンション付きですよ」
「……モモ。金色の転入に関しては口を挟むつもりはねぇが、それ以上は勝手がすぎるぞ」
「………あっ」
拓人の言葉にモモは胸に痛みが走ったように表情が歪む。
さすがに早まった。
今のタクトさんの言葉で冷静になったけど頭が真っ白になってしまった。
ダメだ。何も言葉が浮かんでこない。
嫌だ嫌だ嫌だ。
タクトさんに嫌われたく―――
「………タクトさん」
しゅんと落ち込み顔を俯かせるモモにタクトはたいやき入りの袋をヤミに渡して、ベンチから立ち上がるとモモの顔を自分の胸にくっつけどこかぶっきらぼうに頭を撫でる。
「わりぃ、強く言いすぎた。だから今にも泣きそうな顔すんなよ」
モモは今の状況に困惑して固まってしまう。
今私はタクトさんに何をされているんでしょうか?
タクトさんの胸に私の顔がひっついて、さらに頭をぶっきらぼうですけど撫でられている。
「……タクトさん?」
顔を上げればタクトさんはどこかバツが悪そうにしていて、少なくとも先程と比べて怒った雰囲気は感じられない。
もしかして落ち込んだ私を慰めてくれている?
「もう大丈夫だな?」
「……はい」
拓人はモモから離れてゆっくり息を吐く。
何やってんだろうな俺は?
普段ならこんな事絶対にしないのに。
最近モモとの距離が近すぎて接し方がバグっちまったか?
「モモ、お前が何を考えてんのか知らねぇが一人で突っ走りすぎだ」
「私とした事がらしくなかったですね。すいませんでしたタクトさん」
拓人に謝るモモだがさっきまでの落ち込みが嘘かのようにモモはいつもの雰囲気に戻っていた。
「金色も迷惑かけたな。さっきのモモの言葉は忘れて……」
「いえ。少し考えさせてください」
「何でだよ!?」
このままなかった事にできるかと思ったのに、金色のやつ忘れるどころか真剣に考えてやがる。
このままいくと確実にろくでもない事が起きる。
「なぁ、こ「うわぁぁぁ!よせっ!」……んっ?」
「今の声はリトさん?」
拓人はヤミに何とかして諦めてもらうかと口を開こうとした時、少し離れた所から急にリトの声が聞こえてきて三人の視線はそちらに向く。
何やらリトが大慌てでこちらに来ているようだが一体何が起きた?
「拓人!」
「どうしたリト?また嫁の発明品が暴走したか?」
「嫁じゃねぇって!じゃなくてあいつらがいきなり襲ってきて…」
「………あん?」
リトの言葉に拓人の視線はリトを追いかけてきた集団に向く。
その集団の中には朝拓人を襲撃してきたリトの友達でもある猿山の姿もある。
「何か変なもんでも食ったか?」
「いえ、そんな風には見えませんが…」
モモが怪訝な表情を浮かべ拓人は鋭い目付きで集団を見つめる。