変わりし朝の始まり

あのバレンタインの日――

タクトさんと春菜さんの二人は教室で何かをしていた。

私はタクトさんの気配に気付いてすぐに向かったが、すでに何かが終わった後だった。

でも二人の間に何かが起こって関係が変わったのは言うまでもない。

元々二人は幼馴染みでお互いを想い合っているのは私でも知っている。

それは私だけじゃない。

お姉様や美柑さんやリトさんですら気づいている。

でもだからといって私の気持ちは変わらない。

もともとポジションにはこだわらないつもりだったから。

タクトさんの中で二番、三番だろうがタクトさんが少しでも私を見てくれればいいのだ。

だけど―――


『マンションに住みたいだ?………それがお前のお願い事なのか?』

『はい!ダメ…ですか?』

『……はぁぁぁぁ~。まぁ、叶えられる範囲って言ったしな。とりあえずララ達には言っとけよ』

『ありがとうございますタクトさん!』


本当なら断られると思っていた私のお願い事。

でもタクトさんは私のワガママを許してくれた。

だから私は―――


「このくせっ毛を直して少しでも大人っぽくしないと」


タクトさんに少しでも見てもらいたいではない、春菜さんと同じぐらい私を見てほしいと心のどこかで考えてしまう。












▽▲▽▲▽▲


「ララのやつ、普通に許可出しやがって」


ララが許可を出さなくても、チビ王辺りが許可出しそうだしどっちみちモモがマンションに住むのは決まっていたか。


「……何考えてんだか」


ソファーに座りコーヒーを口にしながら溜め息を吐く。

あのバレンタインの日に迷惑かけた詫びに一つだけモモのお願い事を叶えると言ったが、まさか俺と住みたいと言うだなんて思いもしなかった。

モモが何か考えているような気もしたが、これに関しては予想外すぎる。

ララもララだ。

普通男の独り暮らしに躊躇いもなく許可するかよ。

『タクトなら大丈夫でしょ?』と言われた時に、リトや美柑に助けを求めたがあの二人は目を逸らしてたっけ。

覚えてやがれ―――


「春菜にも伝えとかないとなー」


春菜―――か。

前まで西連寺って呼んでたのにそれがなかったかのようにしっくりくる。

今ではお互いに名前で呼びあっている。

たったそれだけなのに――


『拓人くん』


春菜にそう呼ばれるだけで顔や胸が熱くなるのを感じてしまう。


「タクトさーん」


春菜の事を考えてメールしようとした拓人の耳にモモの声が聞こえてくる。

どうやら荷造りを終えたようで自分用のマグカップを手にして拓人の横に座る。

まるで恋人のようにぴったりくっつくモモを視界に入れつつ拓人はコーヒーを再び口にする。


「私の荷物はほとんど運び終わりました。今日からよろしくお願いいたします」


ニッコリ笑うモモに一度溜め息を吐くものの拓人は小さく頷くと、ふとある事に気付いてモモを見つめていた。


「なぁ、気のせいじゃないと思うんだが…」

「はい?」

「髪型変えたのか?」

「きっ、気づいたんですか?そのっ、ちょっとだけ変えてみたんですけど…」


どこか嬉しそうに表情が綻び前髪を弄るモモ。

まさか拓人が気づくとは思っていなかったのか、その言葉に胸がドキッ!と高鳴りモモはその高鳴りを拓人に気づかれないように表情を余裕の笑みに変えていくが、


「よく似合ってんじゃねぇか。なんか雰囲気も変わったように見えんぜ」

「……ッ!?」


この拓人という男はモモの心を確実に撃ち抜いていた。

ハッキリ言ってたちの悪い男である。

何せ無自覚で口にしているのだから、モモからしたらたまったものじゃない。

現にモモの余裕の笑みが今にも崩れかけているのだから。

必死に理性で耐えているモモは紅茶を口にして立ち上がると、


「す、少しだけナナと話をしてきます。夜には戻りますので」

「……そこはクローゼットなんだが。……んっ?モモ、まさかクローゼットを改造……」

「じゃあ行ってきますタクトさん」

「おいっ!」


足早に消えていくモモに呆れつつ諦めるしかないかと、コーヒーを飲み終えてカップを二つ片付けて拓人はバイクのカギを手にして出掛ける。

今日からモモが住むとなると買い物はした方がいいな。

久しぶりに料理でもしてみるか。

それにしても――


「モモのやつ何であんなニヤニヤしてたんだ?」






「本当にタクトさんには敵いませんね」


あの人は無自覚にあんな事を言ったに違いない。

確かに少しは気付いてほしいという願望はあったが、あの言葉はクリティカルヒットレベルだった。

今でも胸の高鳴りが止まらないじゃないですか。

あざとい!

本当にあざとすぎますよタクトさん。

クリスマスの時もザスティンさんから守ってくれた時もあの人は。


「でも………」


タクトさんの中で私はあくまでお姉様の妹でお父様の娘にすぎない。

あの人の中で春菜さんの存在があまりにも大きすぎる。

それにタクトさんとリトさんは違う。

リトさんは色んな女性に好かれて、その一人でもあるお姉様は皆で幸せになろうと言ってた。

確かにリトさんがデビルークの王になればこの星のルールは関係なくなる。

お姉様の考えはどこまでも純粋で前向きだ。

でもタクトさんは絶対にそんな事を考えたりしない。

だってタクトさんはお父様と本気で戦おうとしている。

お姉様も知らないタクトさんの秘密。

知っているのは私とお父様だけ………いやもしかしたらお母様も知っている可能性はあるけど、タクトさんがデビルークの王になることは絶対にありえないだろう。

なら私はどうするべきか?

タクトさんの中にある地球のルールを変えるしかない。

だから―――


「ナナ…」

「うわっ!?何でいるんだよモモ!?お前、タクトのマンションに引っ越したんじゃ…」

「ナナ、私と一緒に彩南高校に入学してみない?」

「……へっ?」


まずやるべき事は一つ。

タクトさんの近くにできるだけいること。

タクトさんに惹かれている女性を把握して少しずつ外堀を埋めていく。

それと同時並行でリトさんのハーレム計画をタクトさんと創っていけばきっとうまくいくはず。


「絶対に成功させてみせます」


だから覚悟してくださいねタクトさん!






「あの~タクトさん?」

「何だよ?」

「この料理は?」


夜になりとりあえず計画第一歩が終えた私はマンションに帰ってきましたが、その私の前には白いご飯と豚肉の生姜焼きとサラダと味噌汁がテーブルに並んでいた。

その料理を見れば一目で分かる。


「……タクトさん」

「今日から住むのに出前とか弁当は悪いと思ってな」

ぶっきらぼうに答えるタクトさんだったけど、私はそれどころではない。

私はよくナナにあざといと言われますが、本当にあざといのはこの人の事を言うのではないのだろうか?

だってタクトさんが私の為に料理を作ってくれた。

本当に本当にこの人は――


「あ~久しぶりに作ったから味の保証はできねぇぞ」

「大丈夫ですよ。だって――」


もうすでに嬉しさで胸がいっぱいなんですから。

これからこんな生活が始まるなんて私は幸せです!


「あっ………美味しい」

「そいつはよかったよ」


To_Loveる~だーくねす~
プロローグEND
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