すき焼きパーティー

相変わらず学校をサボっている拓人は、ただいまゲームセンターのパンチングマシーンで遊んでいた。

全力で拳を振るい新記録を叩き出していると拓人の携帯が鳴り相手を確認した途端、拓人は目を細めて電話に出るかどうかを考え始める。

拓人の携帯に表示されている名前は[リト]であり、また学校をサボった事を言われるんじゃないかと思い無視すると、再び携帯が鳴り次は[常識人]と表示された。


(リトに続いて美柑だと?一体何の用だ…)


リトならまだしも次にかけてきた相手が美柑だとわかり、拓人は怪訝な表情を浮かべながらも電話に出ることにした。


「もしもし」

『あっ、拓人さん!よかった出てくれて』

「ちょっと忙しくてな。そんでどうかしたか?」


忙しいなど全くもって嘘である。

パンチングマシーンに寄り掛かり寛いでいる姿を見たら誰が見ても嘘だと言うだろう。

ちなみにこれは余談だが、パンチングマシーンの近くでボコボコになった不良達が転がっているのだが決して拓人がやったわけではない。


『実は今日ウチでスキヤキパーティーをやるんですが、拓人さんもどうかなっと思って。リトやララさんも拓人さんを呼ばないかって言ってて』

「スキヤキパーティーねぇ…」


その誘いは拓人からしたらかなり嬉しいのたが、よく自分なんかを誘おうなんて考えたなと拓人は苦笑する。

あの二人の事だから皆で楽しもうって誘っているのだろう。

本当にいいやつらだな。


『拓人さん?』

「んっ、あぁ、何でもねぇよ。でもいいのか?俺なんかが行っても」


単刀直入に聞く拓人はある意味凄いだろう。

しかしそこは聞いておかないと行く気になれない拓人なのだが電話相手である美柑は、


『リトもララさんも拓人さんを待ってますよ。それに私も久しぶりに拓人さんに会いたいですし』

「……わかったよ。そこまで言われたら行くしかねぇな。何か持っていった方がいいか?」

『そこは拓人さんにお任せします』

「りょーかい。リトやララには言っておいてくれよ」

『わかりました。それでは…』

「あぁ」


電話を切り携帯をしまい拓人は床に転がっている不良達を踏みながらゲームセンターを出て自分のバイクを停めている場所まで向かう。


(俺を呼んだってことは他にも誰か誘っているはず。猿かレンかそれとも西連寺とかかな?)


バイクに乗りエンジンをかけ拓人は一気に走り出す。

途中で肉や野菜を買っていこうと考えながら拓人は彩南町を走るのであった。












――――――


『いただきまーす!!』


結城家のリビングで楽し気な声と共に箸が鍋へと進んでいく。

スキヤキという事もあり、食事に誘われた拓人は嬉しそうな顔をして肉を食べていた。


「春菜が買ってきてくれたお肉!おいしー!!」

「うちの近所のお肉屋さんで買ったの」


結城家のスキヤキパーティーに誘われたのは拓人だけでなく、ララと楽しそうに話している春菜とモグモグとスキヤキを食しているヤミがいた。


「拓人さんもお肉と野菜を買ってきてくれてありがとうございます」

「気にすんなよ。その肉も野菜も臨時収入で買ったやつだしな」

「それがケガの原因かよ」


美柑が正面にいる拓人にお礼を言うが拓人は苦笑しながら言葉を返し、その拓人の言葉にリトは呆れたように拓人を見つめていた。

拓人のほっぺたには絆創膏が貼られ右手の指や左手の指は傷だらけである。


「俺の事はいいんだろ?それよりもお前がいるなんて珍しいな金色」

「何か問題ですか神谷拓人?」


拓人の斜め左に座っているヤミは相変わらず淡々とした口調で言葉を返すのだが、お肉や野菜を口にしている時だけは若干表情が綻んでいる。

その表情を見ながら拓人は肩を竦め口を開く。


「別に問題なんてねぇよ。それに俺としては嬉しいと思ってんだぜ」

「嬉しい?何故です?」

「お前がこうしてスキヤキ食ってんのはララ達と仲良くなっている証拠だからな。居心地いいだろこの町は」

「……私にはわかりません。けどこの暖かさは嫌いじゃないです」

「そっか…」


おそらく無意識にやったのだろうが、ヤミは一瞬だけ笑みを浮かべていた。

そのヤミの笑みを見たララ達は同じように笑みを浮かべて、拓人はそれを見ながら考えていた。


(この地球にいればヤミは変われるんじゃねぇか?)


「ふ~もうお腹いっぱーい!」


ララが満足そうに笑い腹を摩っていると、


「あっ、もうこんな時間!そろそろおいとましなきゃ」


時計を見ていた春菜が呟くと、拓人が立ち上がり首を鳴らしながら口を開いた。


「だったらウチまで送って行ってやろうか?」

「えっ?」


拓人の言葉に春菜は頬を赤らめ拓人に目を向ける。

拓人がバイクで来ている事を春菜は知っており、送るとなるとまた拓人と密着する事になる。

春菜の中で嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちがぶつかり合う。


「こんな時間帯に一人で夜道は危ねぇだろ?」


拓人としてはこのまま春菜を一人で帰す気はない。

すでに時間も八時を過ぎており、夜道を歩かせたら何があるかわからないからだ。

不審者(校長)に声を掛けられる可能性だってあるのだから、バイクに乗っけて行こうと拓人は考えていた。


「いいの…?」

「いいから言ってんだよ。そんでどうする?」

「じゃ、じゃあ…」

「え~もう帰っちゃうの?明日学校休みだし三人とも泊まっていけばいいのに~」


春菜が立ち上がり拓人と一緒に帰ろうとした時、ララが不満そうな顔と声を出して二人を引き止めた。

その言葉を聞いて拓人はそっちの方がいいかと考える。

別に春菜を送っていくのが嫌ではないのだが、春菜のウチに行けば秋穂と遭遇する可能性があるのだ。

もし遭遇したら何を言われるかわかったもんじゃない。

それに春菜はララやリト達とまだ一緒にいたいだろうし。

話したいことだってあるだろう。


「そんじゃ、西連寺の事はララ達に任せる」

「あれ?タクトは泊まらないの?」


拓人の言葉にララは不思議そうな顔をして目をぱちぱちさせながら拓人を見ていた。

今の流れなら拓人も泊まるだろうと誰だって思うのだが、拓人は苦笑しながらララに言葉を返した。


「わりぃな。今からダチと会わなきゃいけねぇし泊まれねぇんだよ」

「え~!タクトも泊まろうよ~。私、タクトともお話ししたいのに」

「また今度な。…ってな訳でちょっとリトは外まで見送りな」

「えっ?ちょっ!?」


拓人はズルズルとリトを引き摺りながらリビングから消えていき、玄関からリトの悲鳴が聞こえてくるのであった。


(神谷くん…)
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