お宅訪問
「紅茶を持ってくるから待っててね」
「あっ、あぁ…」
どこか楽しそうな顔をしながら自分の部屋を出ていく春菜を見つめ拓人は何故こうなったのか考え始める。
自分は確かにバイクに春菜を乗っけてドライブしたあとに家まで送ってバイクから降ろしたはずだ。
問題はそのあとである。
そのまま帰ろうとした時に制服を掴まれて、春菜からお茶でもどうかな?と言われたのは覚えている。
自分はその時に断ったはずなのにいつの間にかここにいた。
一体何が起こったのだろうか?
全くもって謎である。
「……んっ?」
ふと拓人の視線が一つの写真たてに向く。
その写真たてを手に取ると拓人の表情はどこか懐かしいものを見るように変わる。
「…こんな頃もあったなぁ」
写真に写っている自分は鼻にバンソーコをつけて楽しそうな顔で西連寺と手を繋いでいた。
今では想像出来ないほど仲良く写っている写真を目にし拓人は自分の口角が上がっているのに気づく。
こうして写真を見ると自分もだが西連寺がどれだけ可愛くなっているのかわかる。
学校でも人気があると猿が言ってたのも素直に頷ける。
「神谷くん、お待たせ」
「そこまで待ってねぇよ」
写真を見ていた拓人の耳に扉が開く音と春菜の声が入ってきて、拓人の視線は写真から春菜に変わる。
紅茶の入ったカップを春菜はテーブルに置いて無意識なのか拓人の横に座った。
「神谷くんは紅茶でよかったかな?」
「大丈夫だよ。ってかわりぃな」
「いいの、私こそ無理に誘ってごめんなさい」
「気にすんなよ。それに俺も久しぶりに西連寺と話したかったしな」
「神谷くん…」
拓人の口からそんな事が発せられ春菜の胸は微かに高鳴る。
拓人と春菜は幼馴染みなのにこんな風に話したり遊んだりなど全くしないのだ。
お互い高校生という事も関係しているが、拓人は学校にすら来ないし春菜と会うことだってほとんどない。
今日のように会うのは本当に奇跡とも言えるだろう。
「その写真」
拓人から視線をそらし春菜が目にしたのは拓人が手にしていた写真たてだった。
その写真に写っているものが何か知っている春菜の顔もまた拓人と同じように懐かしいものを見るように変わる。
「懐かしいよなぁ。確かこん時、西連寺のヘアピンを探してたんだっけ?」
「うん。公園を走ってた時に落としたヘアピンを神谷くんが必死に探してくれたんだよね」
その時のヘアピンはちゃんと拓人が見つけて春菜に渡しており、春菜はその思い出を忘れないようにそのヘアピンは大事に保管しているのだが拓人はその事を知らなかったりする。
「あっ、ヘアピンで思い出したんだけどさ…」
「?」
拓人はポケットに手を入れて一つの小さな袋を取り出した。
その袋を見て春菜は首を傾げるが、拓人はその袋を春菜に渡すように春菜の手をとり春菜の手のひらに置いた。
春菜はその袋を手にし不思議そうな顔をしたまま中身を確認すると『あっ…』と呟く。
「可愛い」
袋に入っていたのは、女の子が喜びそうなデザインをしたヘアピンであり春菜はそれを見て嬉しそうに笑う。
「神谷くん、どうして?」
「勘違いすんなよ。ダチと遊んでた時に手に入れたもんで捨てる方法がなくて渡したんだからな」
「…うん!」
どこまでも素直じゃない拓人に春菜は嬉しそうに微笑む。
昔と同じで素直じゃなく不器用な拓人の性格に春菜は嬉しい気持ちを胸に込めた。
―――――
「…っともうこんな時間か」
紅茶を飲んでいた拓人は春菜の部屋にある時計を目にし夕方をとっくに過ぎている事に気づき口にする。
悪友には『遅れる』とメールを送らねぇとな、と思いながら携帯を操作し始める拓人を春菜はジーッと見つめていた。
(神谷くん、誰とメールしてるのかな?……あれ?どうしてそんなこと気にしてるんだろ?)
「送信っと……」
携帯をポケットにしまい拓人はふと自分を見つめている春菜に気づいて声を掛けようとしたが、春菜は拓人と目が合った瞬間ドキッと胸が鳴り頬を赤くさせ立ち上がってしまう。
「どうかしたか?」
「なっ、何でもないよ。それより神谷くん、紅茶のおかわりどうする?」
「ん~、もう帰るし遠慮しとく。ありがとな」
紅茶が入っていたカップをテーブルに置いて拓人は立ち上がり春菜の部屋を出ていこうと扉を開けると、扉の前には小さな生き物がおすわりをして待ち構えていた。
「ワンッ!」
「おっ!」
扉の前でおすわりをして待ち構えていたのは、春菜がこのウチで飼っている愛犬のマロンだった。
マロンは春菜の部屋から出てきた拓人を見るなり勢いよく吠える。
まるでご主人様と何をしていたんだと言わんばかりに吠えるマロンに拓人は、苦笑しながら手を伸ばすとマロンは思い切り拓人の手に噛みついてきた。
おそらく拓人のちょっとした雰囲気を感じ敵と認識したのだろう。
そんなマロンに拓人は苦笑したままもう片方の手でマロンの頭を撫でると、マロンはゆっくりだが口を離して拓人の手は解放された。
「拓人くん大丈夫!?」
「こんぐらい平気だよ。それに西連寺が心配でやったんだろうから怒ったりするなよ」
春菜はマロンに噛まれた拓人の手を優しく握って心配しているのがわかるぐらい不安気な表情を浮かべている。
それに対し拓人は全くダメージを感じておらず平気そうに笑っていたのだが、とある事に気づいて頬を赤くしてしまう。
そう自分は今春菜に手を握られており、春菜との距離がかなり近いのだ。
「あっ…」
春菜もすぐにそれに気づいて顔を赤くするのだが、拓人の手だけは離そうとしなかった。
「「……」」
ジッと見つめあい固まったままの二人だが、この空気はとある乱入者により呆気なく壊されてしまう。
「ただいま春菜~。お土産にケーキを……」
春菜の部屋に入ってきたのは、春菜の姉である西連寺秋穂だった。
秋穂は自分の妹が男の手を握り顔を赤くしている姿に気づいて、邪魔をしてしまったと謝ろうとしたがその相手が拓人だとすぐに気付き嬉しそうな顔をして声を掛けてきた。
「もしかして拓人君!?」
「えっ、えぇ。久しぶりですね秋穂さん。…っと西連寺」
「へっ?あっ、あぁ!!ごめんなさい!!」
拓人の声に思考がストップしていた春菜はハッと我に返って拓人の手を離すと部屋から出ていってしまった。
どうやら姉に見られたのが恥ずかしかったようだ。
(仕方ないか…)
春菜もだが自分も秋穂が入ってくるまで思考がストップしていた。
目の前には潤んだ瞳で顔を赤くした幼馴染みがいたのだ。
秋穂が入ってこなかったらどうなっていたのやらと考えてしまう。
「…何です?」
「ん~、べっつに~」
春菜同様に頬を赤くしていた拓人を秋穂がニヤッと笑いながら見ている事に気づいて、拓人はめんどくさそうな表情になり口を開くと秋穂はどこか楽しそうな顔で返してきた。
「だって春菜から拓人君とは話さなくなったって聞いてたのに、さっきの二人を見たら本当なのかな~と思っちゃってね」
「本当ですよ。って言っても信じないでしょうけど」
「もちろんよ!」
清々しいほどの笑顔で答える秋穂に拓人はため息を吐いて頭をカリカリ掻く。
この西連寺秋穂という人物は本当に昔から変わらない人である。
拓人が小学生の時からこんな風に自分と春菜を茶化していた。
拓人にとっておそらく誰よりも苦手な人だったりする。
「でも…」
春菜の部屋から出ていこうとした拓人に秋穂は笑みを浮かべながらもゆっくり口を開いた。
「昔みたいにお互い名前では呼んでないのね」
「昔と違って今はお互いなかなか会ったりしませんしね。それに…」
「それに?」
「もう西連寺をあんな目に合わせたくないですから」
そう口にしてフッと笑う拓人に秋穂は小さく『そっか…』と呟く拓人を見送る。
拓人と春菜に何があったかは秋穂も少しは知っている。
だからこそ拓人の気持ちも理解しているが、それと同じように妹の気持ちも理解しているだけにこれだけは拓人に伝えたかった。
「拓人君」
「はい?」
「春菜はアナタが思っているより強い子よ」
「…知ってます。これでも幼馴染みですから」
ニコッと笑って拓人は春菜のウチから去っていき、秋穂はため息を吐きながらもその表情はどこか嬉しそうにしていた。
拓人も春菜もキッカケさえあれば壁を壊すだろう。
昔みたいに笑い合う二人を思い浮かべながら秋穂はまるで誰かに話し掛けるように口を開く。
「アンタも少しは頑張んなさい――――春菜」
「……うん」
こうして春菜のドキドキの一日は終わり、拓人は相変わらず学校をサボるだろうと考えながら春菜は少しずつ頑張っていこうと秘かに決意するのであった。
とらぶる四話
END
「あっ、あぁ…」
どこか楽しそうな顔をしながら自分の部屋を出ていく春菜を見つめ拓人は何故こうなったのか考え始める。
自分は確かにバイクに春菜を乗っけてドライブしたあとに家まで送ってバイクから降ろしたはずだ。
問題はそのあとである。
そのまま帰ろうとした時に制服を掴まれて、春菜からお茶でもどうかな?と言われたのは覚えている。
自分はその時に断ったはずなのにいつの間にかここにいた。
一体何が起こったのだろうか?
全くもって謎である。
「……んっ?」
ふと拓人の視線が一つの写真たてに向く。
その写真たてを手に取ると拓人の表情はどこか懐かしいものを見るように変わる。
「…こんな頃もあったなぁ」
写真に写っている自分は鼻にバンソーコをつけて楽しそうな顔で西連寺と手を繋いでいた。
今では想像出来ないほど仲良く写っている写真を目にし拓人は自分の口角が上がっているのに気づく。
こうして写真を見ると自分もだが西連寺がどれだけ可愛くなっているのかわかる。
学校でも人気があると猿が言ってたのも素直に頷ける。
「神谷くん、お待たせ」
「そこまで待ってねぇよ」
写真を見ていた拓人の耳に扉が開く音と春菜の声が入ってきて、拓人の視線は写真から春菜に変わる。
紅茶の入ったカップを春菜はテーブルに置いて無意識なのか拓人の横に座った。
「神谷くんは紅茶でよかったかな?」
「大丈夫だよ。ってかわりぃな」
「いいの、私こそ無理に誘ってごめんなさい」
「気にすんなよ。それに俺も久しぶりに西連寺と話したかったしな」
「神谷くん…」
拓人の口からそんな事が発せられ春菜の胸は微かに高鳴る。
拓人と春菜は幼馴染みなのにこんな風に話したり遊んだりなど全くしないのだ。
お互い高校生という事も関係しているが、拓人は学校にすら来ないし春菜と会うことだってほとんどない。
今日のように会うのは本当に奇跡とも言えるだろう。
「その写真」
拓人から視線をそらし春菜が目にしたのは拓人が手にしていた写真たてだった。
その写真に写っているものが何か知っている春菜の顔もまた拓人と同じように懐かしいものを見るように変わる。
「懐かしいよなぁ。確かこん時、西連寺のヘアピンを探してたんだっけ?」
「うん。公園を走ってた時に落としたヘアピンを神谷くんが必死に探してくれたんだよね」
その時のヘアピンはちゃんと拓人が見つけて春菜に渡しており、春菜はその思い出を忘れないようにそのヘアピンは大事に保管しているのだが拓人はその事を知らなかったりする。
「あっ、ヘアピンで思い出したんだけどさ…」
「?」
拓人はポケットに手を入れて一つの小さな袋を取り出した。
その袋を見て春菜は首を傾げるが、拓人はその袋を春菜に渡すように春菜の手をとり春菜の手のひらに置いた。
春菜はその袋を手にし不思議そうな顔をしたまま中身を確認すると『あっ…』と呟く。
「可愛い」
袋に入っていたのは、女の子が喜びそうなデザインをしたヘアピンであり春菜はそれを見て嬉しそうに笑う。
「神谷くん、どうして?」
「勘違いすんなよ。ダチと遊んでた時に手に入れたもんで捨てる方法がなくて渡したんだからな」
「…うん!」
どこまでも素直じゃない拓人に春菜は嬉しそうに微笑む。
昔と同じで素直じゃなく不器用な拓人の性格に春菜は嬉しい気持ちを胸に込めた。
―――――
「…っともうこんな時間か」
紅茶を飲んでいた拓人は春菜の部屋にある時計を目にし夕方をとっくに過ぎている事に気づき口にする。
悪友には『遅れる』とメールを送らねぇとな、と思いながら携帯を操作し始める拓人を春菜はジーッと見つめていた。
(神谷くん、誰とメールしてるのかな?……あれ?どうしてそんなこと気にしてるんだろ?)
「送信っと……」
携帯をポケットにしまい拓人はふと自分を見つめている春菜に気づいて声を掛けようとしたが、春菜は拓人と目が合った瞬間ドキッと胸が鳴り頬を赤くさせ立ち上がってしまう。
「どうかしたか?」
「なっ、何でもないよ。それより神谷くん、紅茶のおかわりどうする?」
「ん~、もう帰るし遠慮しとく。ありがとな」
紅茶が入っていたカップをテーブルに置いて拓人は立ち上がり春菜の部屋を出ていこうと扉を開けると、扉の前には小さな生き物がおすわりをして待ち構えていた。
「ワンッ!」
「おっ!」
扉の前でおすわりをして待ち構えていたのは、春菜がこのウチで飼っている愛犬のマロンだった。
マロンは春菜の部屋から出てきた拓人を見るなり勢いよく吠える。
まるでご主人様と何をしていたんだと言わんばかりに吠えるマロンに拓人は、苦笑しながら手を伸ばすとマロンは思い切り拓人の手に噛みついてきた。
おそらく拓人のちょっとした雰囲気を感じ敵と認識したのだろう。
そんなマロンに拓人は苦笑したままもう片方の手でマロンの頭を撫でると、マロンはゆっくりだが口を離して拓人の手は解放された。
「拓人くん大丈夫!?」
「こんぐらい平気だよ。それに西連寺が心配でやったんだろうから怒ったりするなよ」
春菜はマロンに噛まれた拓人の手を優しく握って心配しているのがわかるぐらい不安気な表情を浮かべている。
それに対し拓人は全くダメージを感じておらず平気そうに笑っていたのだが、とある事に気づいて頬を赤くしてしまう。
そう自分は今春菜に手を握られており、春菜との距離がかなり近いのだ。
「あっ…」
春菜もすぐにそれに気づいて顔を赤くするのだが、拓人の手だけは離そうとしなかった。
「「……」」
ジッと見つめあい固まったままの二人だが、この空気はとある乱入者により呆気なく壊されてしまう。
「ただいま春菜~。お土産にケーキを……」
春菜の部屋に入ってきたのは、春菜の姉である西連寺秋穂だった。
秋穂は自分の妹が男の手を握り顔を赤くしている姿に気づいて、邪魔をしてしまったと謝ろうとしたがその相手が拓人だとすぐに気付き嬉しそうな顔をして声を掛けてきた。
「もしかして拓人君!?」
「えっ、えぇ。久しぶりですね秋穂さん。…っと西連寺」
「へっ?あっ、あぁ!!ごめんなさい!!」
拓人の声に思考がストップしていた春菜はハッと我に返って拓人の手を離すと部屋から出ていってしまった。
どうやら姉に見られたのが恥ずかしかったようだ。
(仕方ないか…)
春菜もだが自分も秋穂が入ってくるまで思考がストップしていた。
目の前には潤んだ瞳で顔を赤くした幼馴染みがいたのだ。
秋穂が入ってこなかったらどうなっていたのやらと考えてしまう。
「…何です?」
「ん~、べっつに~」
春菜同様に頬を赤くしていた拓人を秋穂がニヤッと笑いながら見ている事に気づいて、拓人はめんどくさそうな表情になり口を開くと秋穂はどこか楽しそうな顔で返してきた。
「だって春菜から拓人君とは話さなくなったって聞いてたのに、さっきの二人を見たら本当なのかな~と思っちゃってね」
「本当ですよ。って言っても信じないでしょうけど」
「もちろんよ!」
清々しいほどの笑顔で答える秋穂に拓人はため息を吐いて頭をカリカリ掻く。
この西連寺秋穂という人物は本当に昔から変わらない人である。
拓人が小学生の時からこんな風に自分と春菜を茶化していた。
拓人にとっておそらく誰よりも苦手な人だったりする。
「でも…」
春菜の部屋から出ていこうとした拓人に秋穂は笑みを浮かべながらもゆっくり口を開いた。
「昔みたいにお互い名前では呼んでないのね」
「昔と違って今はお互いなかなか会ったりしませんしね。それに…」
「それに?」
「もう西連寺をあんな目に合わせたくないですから」
そう口にしてフッと笑う拓人に秋穂は小さく『そっか…』と呟く拓人を見送る。
拓人と春菜に何があったかは秋穂も少しは知っている。
だからこそ拓人の気持ちも理解しているが、それと同じように妹の気持ちも理解しているだけにこれだけは拓人に伝えたかった。
「拓人君」
「はい?」
「春菜はアナタが思っているより強い子よ」
「…知ってます。これでも幼馴染みですから」
ニコッと笑って拓人は春菜のウチから去っていき、秋穂はため息を吐きながらもその表情はどこか嬉しそうにしていた。
拓人も春菜もキッカケさえあれば壁を壊すだろう。
昔みたいに笑い合う二人を思い浮かべながら秋穂はまるで誰かに話し掛けるように口を開く。
「アンタも少しは頑張んなさい――――春菜」
「……うん」
こうして春菜のドキドキの一日は終わり、拓人は相変わらず学校をサボるだろうと考えながら春菜は少しずつ頑張っていこうと秘かに決意するのであった。
とらぶる四話
END