幼馴染みとして

あの旧校舎の出来事から数日が過ぎて拓人は相変わらず学校をサボっており、今現在もバイクに乗って楽しげな表情を浮かべ彩南町をドライブしていた。

言うまでもないがヘルメットなどしているはずもなく、当たり前のようにルールを破ってドライブを楽しんでいる。


(今日はアイツん所にでも行くかな。ちょうどアイツが喜びそうな本も手に入ったし)


彩南町に住む悪友の事を思い浮かべながらスロットルを開けた時だった、


(あれは……)


拓人の視界に幼馴染みである春菜の姿がうつり、春菜はガラの悪そうな不良達に囲まれて助けを求めるかのようにキョロキョロしていた。


(アイツら…!)


春菜を囲んでいた不良達を見て目付きを鋭くし拓人はバイクの進行方向を変えて春菜の元に向かうのであった。

もちろん不良達をボコボコにする為に。










―――――

春菜が不良に囲まれる数分前に戻るのだが、春菜は夕暮れの帰り道を一人で歩いていた。

春菜は帰り道を一人で歩きながら今日も学校をサボった幼馴染みである拓人の事を考えてため息を吐く。

あの旧校舎の時自分は拓人とまともに話すことが出来なかったうえに気を失ってしまった。

しかも――


(リサもミオも神谷くんとはあまり関わらない方がいいって言ってたし)


そもそも神谷くんの悪い噂が流れ始めたのは中学生の時からだった。

その噂が流れた原因は春菜自身も関係していたが、その噂は歪んだように広まり神谷くんが全て悪いという形で流れてしまったのだ。


(もう昔みたいに話せないのかな…)


まだ仲良く話していた時の事を思いだし春菜が顔を俯かせたまま歩いていると、


「ひゅ~彼女~今からどこに行くの?」


目の前にガラの悪い不良達が現れて一瞬のうちに春菜は三人の不良達に囲まれ春菜の表情は怯えたように真っ青になる。


(どどど、どうしよう!?)


誰かに助けを求めようとしても、すれ違う人達は見て見ぬふりや不良達の眼光にびびってしまい助けに来る気配はなかった。

不良達はニヤニヤしながら春菜に声を掛けてくる。


「キミ、凄く可愛いよね~。今から俺達と遊びない?」

「や、やめてください…」

「いいじゃん!いいじゃん!ちょっとだけだしさ」

「…っ!!(誰か…神谷くん…っ!)」


不良の一人の手が春菜の身体に伸びてくる事に気づき春菜はキュッと目を閉じて幼馴染みである拓人の名を呼んだ瞬間、


「西連寺!!」

(今の声は…!)


春菜の助けに答えるかのように春菜の耳に入ってきたのは自分の幼馴染みの声であり、その声の持ち主はキキーッとブレーキ音を鳴らしバイクから降りて春菜を守るように不良達の前に現れた。


「神谷くん…」


自分の願いが叶った事を目にし、春菜は拓人の姿を見て心臓を大きく跳ねさせる。

確かに自分は拓人の事を思い浮かべたが、まさか本当に来てくれるなんて思わなかったからだ。


「何だお前?」


不良達はいきなり現れた拓人を見て不快感丸出しで威圧するように声を掛けてきたが、拓人はその威圧をものともせず逆に低い声を出して口を開く。


「あっ?テメェらこそ何だよ?人のダチに何しようとしてんのかわかってんのか?」


拓人の言葉と拓人の放つ冷たい雰囲気に不良達はアイコンタクトを交わし春菜を拐う前に拓人を始末しようと拓人の前に立ち睨み付ける。


「いきなり出てきてカッコつけてんじゃねぇぞ」

「俺達の邪魔をしやがって!」

「ただじゃおかねぇぞ!!」


不良達の言葉に拓人はフッと笑って不良達をバカにしたような顔をしてゆっくり口を開く。


「テメェらこそ覚悟しとけよ。テメェらが誰のダチに手を出したのか」


その言葉が引き金となり不良の一人が拓人に拳を振るう。

その拳を振るった不良はこの時全く気づいていなかった。

自分の拳が拓人に当たる前に拓人の拳が自分の顔面に触れていたなど。


「がっ!」


不良がその事に気づいたのは己の鼻から鼻血が流れた瞬間だった。

不良はそれに気づき自分が喰らった拳の威力に目を丸くしていたがすぐに意識を失い倒れていく。


「……はっ?」


まるで糸が切れたマリオネットのように仲間が倒れた事を目にして不良の一人は間抜けな声を出す。

確かに仲間が拳を振るっていたのははっきりと目にしていたのに自分が瞬きした時には仲間は地に沈んでいたのだ。


「次はどっちだ?」


倒れた不良を踏んづけたまま鋭い目付きをする拓人に不良の一人が自分でもわかるぐらい震えた口調で拓人に問い掛ける。


「お、お前何者だ?」

「俺か?俺は彩南高校二年の神谷拓人だよ。名前ぐらい知ってんだろ?」


拓人の言葉に不良達は一気に顔色を青くさせる。

それはもう病的なほど真っ青でありまるで化け物を見るような目で震え出す。

不良達としては信じられないからだ。

何故なら拓人は――


「お前があの獅子王を潰した男なのか…」

「正確には獅子王が率いていた仲間もろともだけどな」

「「ひっ!ひぃぃぃぃ!!」」


拓人の笑みに不良達は腰を抜かしてしまう。

その反応を見て拓人は舌打ちをし春菜は顔を俯かせた。

獅子王という単語は二人にとって聞きたくない単語だからだ。

特に春菜としては思い出したくない人間なのだ。


「今すぐそこで気絶してるやつを連れて消えろ。そうしたら見逃してやる」

「はっ、はい!」

「失礼しました!」


不良達は気絶した仲間を担ぎその場から目にも止まらぬ速さで走り去りその場には拓人と春菜だけとなる。

拓人はため息を吐いてすぐにでもその場から去ろうとしたが、


「まっ、待って!」


春菜が拓人の制服の袖を掴みそれを止めた。

拓人はそれを簡単に振りほどく事が出来るのだが、自分も春菜に言いたいことがあるのか素直にその足を止める。


「神谷くん、助けてくれてあり…」

「西連寺、少しは自覚しろよ。お前はそこら辺にいる女よりかなり可愛いんだ。もし俺が来なかったら今頃どうなってたかわかんだろ?」

「……」


春菜が拓人にお礼を口にしようとしたが、その前に拓人がどこか呆れて少し不機嫌そうにも見える表情で春菜を叱るように口を開いた。

春菜は拓人の言葉を聞いて顔色を真っ青にして身体を震わせる。

確かに拓人の言う通りだ。

もし拓人が助けに来なかったら今頃自分は不良達にめちゃくちゃにされていたに違いない。

それを想像して震える春菜に拓人は、


「頼むから少しは自覚してくれよ。お前に何かあったら…」

「神谷くん?」


徐々に勢いをなくしていく声と何かを我慢するように変わる拓人の表情。


ゆっくりと絞り出すように拓人は春菜を見つめて口を開く。


「耐えられねぇんだよ」

「ッ!!」


その言葉と表情は春菜にとって完全に不意打ちだった。

最初はどこか呆れて不機嫌そうに話していたのに、最後の言葉の時だけは拓人の本心と表情だとわかったからだ。

そんなダブルパンチを喰らい春菜は自分の胸が高鳴ったことに気付いて頬を赤く染める。


「…ちょっとらしくなかったな。やっぱさっき俺が言ったことは忘れてくれ」


拓人の表情がいつものめんどくさそうな表情に変わり春菜は拓人の言葉に小さく頷くが赤く染まった頬だけは消えることがなかった。


「あのっ…神谷くん…」

「何だよ?」


いまだに頬が赤い春菜は何かを言いたげな表情で拓人を見つめる。

まだ春菜は拓人と話したい気持ちが残っているのだ。

このまま別れたらまたいつ会えるかなんてわからない。

少しでも拓人と話す為に勇気を見せようと口を開く。


「そのっ…久しぶり…遊びに…」

「なぁ、西連寺」

「はっ、はい!」

「ちょっとドライブしない?ちゃんと西連寺を家に送るからさ」

「へっ?」


勇気を出そうとした春菜の言葉を遮るように拓人が口を開きポンポンと自分の後ろを叩くと、春菜は首を傾げて不思議そうな顔をしたが拓人の発した言葉の意味に気付いて顔を赤くさせる。

どう考えても自分が乗るスペースは拓人と同じではないか。

つまり拓人に抱きつかなくてはならない。


「どうする?嫌なら別に…」

「お、お願いします」

「りょーかい」


フッと笑って拓人は春菜にヘルメットを渡すと、春菜はそのヘルメットを被り拓人はバイクのエンジンをかけバイクに乗る。

春菜はゆっくりと拓人の後ろに来て拓人に引っ付くとバイクはゆっくりと走り出した。

バイクが走り出した事で春菜は落ちないように拓人に抱きつくのだが、この時拓人の表情は自分の髪の毛と同じぐらい赤くさせていた。

何故なら――


(西連寺の胸の感触が…)


春菜が抱きついた事により春菜の胸の感触が背中に伝わりバイクの運転どころではない。

しかもカーブを曲がる度に春菜が強く抱きつくもんだから背中に伝わる感触がよりリアルになる。


(西連寺は絶対に気付いてねぇな…)


こちらとしては嬉しい限りだがもしこれ以上抱きつかれたらいろんな意味でヤバいな。


「神谷くん」


そんな拓人の心情に気づいていない春菜は拓人に話し掛けてくる。


「どうかしたか?」

「さっきは言えなかったから今言うね。助けてくれてありがとう」


振り返りはしないが今の春菜は笑っているだろう。

それにさっきより抱きつく力が強まったのを感じる。


「お前が無事でよかったよ」


ボソッと呟き春菜に聞こえないように発した拓人は顔を赤くしたまま彩南町をバイクで走り春菜は家につくまでドライブを楽しんだのである。


とらぶるさんわ
END
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