旧校舎パニック

ミシミシと音が鳴りこのまま崩れるんじゃないかと拓人は視線を天井に向けると、天井から勢いよく何かが落ちてきて拓人達の目に入ったのは巨大な化け物とその化け物の触手に捕まっているヤミと沢田と籾岡の二人だった。

あのヤミが捕まっている事に拓人は怪訝な表情をしていたがすぐにその答えにたどり着く。

ヤミはにゅるにゅるが苦手だったなと。


「…っと!あぶねぇな」


化け物の触手を避けながら舌打ちをしていると、いつの間にかララまで捕まっておりまともに戦える者が自分だけとなってしまった拓人。


「…不快です!」


なんとか触手から逃げようとするヤミだが、その触手が顔や胸に触れた瞬間ヘナヘナと力を失ったかのようにぐったりとする。

ヤミとララが戦えない状況では自分が戦うしかないと拓人が拳を握り締めていると、拓人の横からフライパンを持ったリトが化け物に駆け出していた。


「うぉぉぉぉぉ!!」


まるで特攻隊のように突っ込むリトを化け物の触手は虫を叩くように振り下ろし、リトの身体は吹き飛ばされていき床に転がってしまう。


「大丈夫かリト?」

「なっ、なんとか…」

「無茶しちゃダメよ。アナタと化け物の体格差を考えなさい」

「けど…」


床に転がるリトを唯が支え心配して声を掛けるとリトは悔しそうな顔になる。

確かに唯の言う通りである。

自分と化け物では勝負にならないに決まっている。

しかしこのまま放ってはおけない。


「二人ともあとは任せな」


そんな二人のやり取りを見ながら拓人がガムを口から吐き出して二人の前に立ち口を開いた。

拳を握り真剣な顔をする拓人にリトが何かを言おうとしたが、先に唯の方が呆れたように口を開いた。


「私の話を聞いていなかったの神谷拓人。いくらアナタが不良でもあんな化け物に勝てるわけないじゃない」


唯の言葉は確かに正しい。

しかしそれは拓人の事をよく知らないからである。

逆に拓人の事をよく知っているリトは拓人の後ろ姿を見ながら口を開く。


「怪我だけはするなよ拓人」

「誰に言ってる。俺があの程度のやつにてこずるかよ」


そう口にしたと同時に拓人は化け物に向かって駆け出す。

その目は獲物を見つけた肉食獣のように変わっているのであった。


「ひひひ!俺の縄張りを荒らしてくれたお前らをどうしてくれようか」


ヤミやララや沢田や籾岡を捕まえていた化け物が悪い顔をして笑っている。

このまま捕まえている者達をどう処理するか考えているようだが、この化け物はその考えをすぐ消すことになる。

何故なら――


「楽しそうだな宇宙人。俺も混ぜてくれよ」


化け物の前に同じような化け物が現れてその化け物は笑ったまま触手を踏み潰していたのだ。


「がぁっ!」


踏み潰された事により化け物は身体中に痛みが走り目を血走らせる。

それにより触手の拘束がさらに強まったのか、ヤミ達が苦しそうにする姿を目にし拓人は飛び上がり化け物の頭に飛び乗る。


「なっ、何だお前は?」

「さぁてな。それより早くその触手からアイツらを離してやりな」

「だっ、誰が離すものか!こいつらもお前も俺の縄張りを荒らしに来たんだろ!」


拓人の言葉に化け物が抵抗するように声を上げるが、拓人はまるで化け物を脅すかのように口を開いた。


「もう一度言う。アイツらを離してやれ。じゃないと――」

「何をするつもりだ」

「お前の頭にでかい傷がつくぞ」

「何をバカな…っ!!」


そう化け物が口にした時だった、少し離れた場所から誰かの悲鳴と打撃音が聞こえてきた。

化け物はその巨大な目を打撃音の方に向けると、そこには気絶していたはずの春菜が悲鳴をあげながらリトを振り回して化け物の仲間であろう宇宙人を凪ぎ払っていたのだ。

どうやら気絶していた春菜が目を覚ました時に春菜の前に化け物達がいて恐怖が限界突破したのだろう。


「いやぁぁぁぁ!!」

「お、落ち着け西連寺!」


リトの声など全く聞こえていないのか、春菜は化け物達をぼこぼこにしていつの間にか巨大な化け物の所までやって来てリトを振り下ろそうとしていた。


「くっ、来るんじゃねぇ!!」


化け物が残っている触手で春菜を捕まえようとしたが、


「何してんだテメェ」

「ひっ…!」


拓人がその触手を再び足で踏み潰し春菜を捕らえる事は出来なくなった。


「いやぁぁぁぁ!!」


そして春菜はリトを思い切り化け物に振り下ろし、化け物の頭には巨大な傷が刻まれてリトと共に化け物はノックダウンするのであった。





「……」

「ご、ごめんなさい結城君…」


春菜の乱舞が終わりリトは打ちのめされた宇宙人と同じようにボロボロの姿で倒れており今は春菜が膝枕をして介抱していた。

涙目で謝る春菜にリトは大丈夫と口にしている。

そんな二人を見つめていた拓人にヤミがゆっくり近づく。


「助かりました神谷拓人」

「俺は何もしちゃいねぇよ。リトや西連寺があの化け物を倒したしな」


今現在も目を回して気絶している化け物を見ながら苦笑する拓人にヤミは小さく首を横に振る。


「貴方があの宇宙人のにょろにょろを踏み潰した時、私は何故か安心してしまいました」


苦手で不快なにょろにょろに捕まっていたのにあの瞬間、拓人が現れて捕まっていた自分達を助けるために戦ってくれた。

ヤミとしてはそれが何故かひどく心地のよいものだったのだ。


「貴方にカリが出来ましたね。いつかお返しします」

「まぁ、楽しみに待っとくよ」


これは全くの余談だがこの旧校舎にいた化け物達は故郷の星でリストラされたらしく宇宙を放浪していた時にこの場所に流れ着いたらしい。

それでこの旧校舎に住み着いてこの場所を守るために幽霊騒動を起こしていたようだ。

それをいつの間にか現れたミカドが知り合いの宇宙人に彼らを紹介する事で話し合いを終わらせた。


「結局無駄骨だったな…」


幽霊を見たかった訳じゃないが噂の真相が宇宙人だった事に拓人はため息をはく。

やはり噂は噂でしかなかったようだ。


「あら?どこに行くのかしら拓人君」

「帰るんだよ。帰って寝る」


宇宙人達と話していた御門はその場を離れようとした拓人に声を掛け拓人はめんどくさそうに答える。

やることは終わったはずだと御門にアイコンタクトを送る拓人に御門は、


「何を言ってるのよ?まだ旧校舎の幽霊を見てないじゃない」

「はっ?幽霊なんざいなかったじゃねぇか」

『いえいえ。幽霊もちゃんといましたよ』

「だからいないって言ってんだろうが」


ふと拓人はこの時ある疑問が頭に浮かぶ。

今自分は誰と会話をしていた?

そして何故リト達は顔色を真っ青にさせている?


「拓人君、ゆっくり後ろを見なさい」

「あん?後ろがなんだよ」


御門の言葉に拓人はゆっくり振り返り目にしたのは、ニッコリ笑って浮いている少女の姿だった。

はっきり言って少女は生きている人間でなく、誰がなんと言おうとその姿は紛れもなく幽霊であった。


『皆さんどうもありがとうございました。これで私も静かに過ごす事が出来ます』


静まり返った旧校舎内で少女の声が全員の耳に聞こえてきて、


「「「ぎゃーーー!!」」」


旧校舎内に巨大な悲鳴が上がり拓人はその悲鳴を聞きながらため息を吐いていた。


「幽霊って本当にいたんだ」

「えっ?驚かないの?」

「全く。やっぱりララの発明品が恐怖対象だったんだな」

「タクト~!!」


最後の最後までこんな事になるなんてな。

やっぱり学校はあまり行くもんじゃないなと拓人は内心思いララと鬼ごっこをしながら旧校舎から去っていくのであった。


とらぶる二話
END
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