バレンタインデー

「成る程、お父様に拉致されていたんですね」

「あぁ。お前にも迷惑かけちまって悪かったな」

「いえ。私は拓人さんが帰ってきてくださっただけで充分嬉しですから」


先程春菜に話したようにモモにも事情を話すとモモは嬉しそうに笑っており、拓人はその間に春菜からもらった箱をポケットにしまうのだった。


「…あっ!そうだ」


ふと拓人は手を叩いて何かを思い出したように再び口を開く。


「春菜!」

「どうしたの拓人くん?」

(あれ?タクトさんが春菜さんを名前で呼んでいる?春菜さんもタクトさんを名前で…)


モモは当たり前のように呼び合う二人のやり取りを目にして怪訝な表情を浮かべる。

自分の記憶では二人とも名字で呼び合っていたはずなのにだ。

自分がいない間に二人に何があったのだろうか?


「明日バイクで迎えに行くから待ってろよ」

「へっ?」

「カイの野郎の件も終わったし、明日から学校に行こうと思ってな。ただし毎日とは言わないけどよ。だけど……明日は一緒に行かねぇかと思ってよ」


恥ずかしそうに頬を掻きながら誘う拓人に春菜は満足気に笑いながらゆっくり答える。


「うん!」


少しだけど拓人くんとの距離が近づいた気がする。

今はそれだけでいい。

ゆっくり進んでいけば。


「むぅ~」


嬉しそうに笑う春菜に対し面白くなさそうに頬を膨らませるモモ。

この場には自分もいるのに、忘れられたような扱いにさすがにモモは不満なようだ。


「そんでモモ」

「はい?何ですか?」

「お前にも迷惑かけちまったし、お前のお願いを一つだけ聞いてやるよ」

「えっ?」

「ただ俺が出来る範囲だけどな。だからそんな怒った顔はすんなよ」

「…仕方ありませんね。ただしそのお願いは二人っきりの時にでも頼みますよ」


この時モモは嬉しさのあまりニヤケそうになるが、それを必死に我慢してやれやれと溜め息を吐く。


「…っと!もうこんな時間だし帰ろうぜ」

「うん!」

「はい!」


こうしてまた一日が終わり新しい日常が始まる。

拓人を巻き込むトラブルがさらに拡大するなどこの時誰も予想など出来なかっだろう。






「ふ~ん、せっかく様子を見に来たのに。案外元気そうじゃないっスカ。ねぇ―――恭子ちゃん」

「そうだね。でも私達も心配したって事を教えてあげなきゃね―――サヤ」


物語りは新たなステージへと変わっていく。

【ダークネス】という物語で拓人を狙う者達が増えてしまうのである。


To Loveる
十八話
END


後書き
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