たい焼き少女と幼馴染み

~彩南高校~

「今は昼休みか」

「そのようですね。神谷拓人、これからどうするんですか?」

「とりあえず保健室にでも行くわ。金色は図書室か?」

「はい。ならドクターミカドによろしくと言っておいてください」

「へいへい」


彩南高校にやって来た拓人とヤミはそれぞれ目的の場所に行くために廊下で別れて拓人は保健室を目指していた。

拓人が学校に来ている事に生徒達は驚いて騒いでいるが、拓人はそれに反応する事なく歩いている。

神谷拓人という人物は彩南高校で悪い意味で有名であり怖がる生徒がかなりいた。


(早く保健室でミカドのコーヒーが飲みたい)


唯一学校で安らげる場所を視界に捉え拓人は急ぎ足で向かっていたが、


「失礼しました」


保健室の扉が開いて保健室から出てきたのはクラスメイトの西連寺春菜だった。

春菜は拓人に気付いて一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐにいつもの微笑む表情になって拓人に声を掛けてくる。


「遅刻だよ神谷くん」

「そいつは悪かったな西連寺。まぁどうせ今日も教室には行く気はねぇから欠席でよろしく」


手をヒラヒラ振りながら春菜の横を通りすぎる拓人に春菜はキュッと胸を抑え顔を俯かせる。

このまま拓人を保健室に行かせていいのか?と自問自答しながら春菜は小さく頷くとニッコリ笑ったまま拓人の前に立ち塞がる。


「せっかく学校に来たんだし教室に行こうよ」

「悪いけどパス。俺は西連寺ほど真面目じゃねぇし」

「でも結城くんやララさんだって神谷くんの事を待ってると思うけど…」

「プライベートで会うから結構だ。それよりそろそろ昼休みも終わるし戻った方がいいぞ」


頑なに教室に行こうとしない拓人はこれ以上春菜が自分を追ってくる事はないと確信して保健室に向かうが、今日に限って春菜は引き下がらないように拓人を追い掛けようとした瞬間、


「きゃっ!」


足元を躓いてしまい春菜の身体はガクンと前のめりに傾く。

このままでは春菜が倒れてしまうと気付いた拓人は腕を春菜の方に出して転びかけた身体を自分の方に引っ張った。

すると自分の方に引っ張った事により春菜の身体を受け止めて春菜と床の接触を避けられたが、春菜はキョトンとしたまま顔をあげて固まっていた。

すると次第に自分が拓人の腕の中にいる事に気付き顔を真っ赤にしてバッと勢いよく離れ拓人に背を向けたまま大きな声で謝ってきた。


「ごっ、ごめんなさい!」


かなり混乱しているのがわかるほど顔を赤くしている春菜に拓人は頭を掻きながら口を開く。


「いや、こっちこそ悪かったな。あのまま無視したら西連寺が怪我すると思って引っ張っちまって。大丈夫だったか?」

「えっ、う、うん!ビックリしたけど大丈夫!」

「そっか」


春菜は拓人の方に振り返り手を忙しなく振る。

いつもより大きな声で返事をする春菜の姿に苦笑しながら拓人はとりあえず春菜を落ち着かせようと無意識に手を春菜の頭に置いて撫でていた。


「落ち着けって。あとあんま大きな声出すと他の生徒に変な目で見られんぞ」

「う、うん…」


顔を赤くし恥ずかしそうに俯く春菜を見て拓人は自分の顔に熱を感じハッと我に返り春菜の頭から手を離し背を向けた。


「そんじゃ俺は保健室に行くから気をつけて教室に戻れよ」

「…神谷くん」


結局拓人が教室に行く事はなく春菜はどこか寂しそうにその背中を見つめ、拓人は先程の自分の行動に悪態をつきながら保健室に向かうのであった。


とらぶる一話
END
2/2ページ
スキ