バレンタインデー
そして時間は放課後へと変わり、彩南高校の教室では夕日が入り込んでいた。
リトは今回もララによるバレンタインデーハプニングにより、学園中の生徒に追い掛けられ真っ白に燃え尽きたままララと一緒に下校していった。
そして今教室には日直である春菜が一人だけ残って、今は花瓶の手入れを終えて自分の席で日誌を書いていた。
「結局渡せなかったな…」
ポツリと呟き春菜は鞄から可愛らしくラッピングされた箱を取り出すと、自分の机に箱を置いて顔を俯かせる。
これは春菜が拓人に用意した手作りのチョコレートであり、拓人と会った時に渡そうと決めていたのだ。
しかし拓人は姿を消してどこにいるか分からない。
「拓人くん…」
拓人くんがいないだけで自分はここまで胸が苦しくなるなんて。
「私…」
夕暮れに染まる教室で顔を俯かせる春菜の瞳から溢れる涙。
泣かないと自分で決めたのに強くなると決めたのに。
「拓人くん、どこに行っちゃったの?」
会いたくて堪らない。
アナタの声が聞きたい。
アナタの顔が見たい。
「拓人くん…っ!」
春菜が拓人の名を呼んだ時だった、教室の扉が勢いよく開き春菜は身体をビクッと揺らし扉が開いた方を見て目を丸くした。
「あん?何してんだ西連寺?…ってか今一人か?」
「拓人くん?」
教室に入ってきたのはギドに転送され地球に戻ってきた拓人であり、拓人はキョトンとした表情で春菜を見つめていた。
拓人としては本当になんとなく教室に来ただけであり、まさか人がいるとはまして春菜がいるとは思っていなかったのかそのまま固まっている。
そして春菜は春菜でそれどころではなかった。
何故なら先程まで自分は拓人の事を考え拓人に会いたいと思っていたからだ。
「拓人くん?」
「んっ?今拓人くんって…「拓人くん!」…っと!」
春菜は席を立ち勢いよく拓人に抱き着いて涙を流す。
離れたくないのか拓人に強く抱き着いている春菜。
「…おいおい」
いきなりの事に拓人は目を丸くしたまま自分に抱き着く春菜に目を向ける。
「……ったく」
頬を掻きながら拓人は溜め息を吐くのである。
「じゃあ…ララさんのお父さんと一緒にいたの?」
「あぁ。カイと戦った時の傷は完治してたしな。それでも急に拉致するかよ…」
春菜が抱き着いてから暫くして春菜が恥ずかしくなったのか、顔を赤くしたまま拓人から離れて拓人もまた顔を赤くしたままとりあえず自分の席の机に座り春菜と会話をしていた。
「ところで西連寺」
「なに?」
「…お前が俺の名前を呼ぶなんてね」
「へっ?」
この時春菜は拓人の言葉で自分が拓人を名前で呼んで、しかも抱き着いたことを再び思いだし顔を赤く染める。
あの時自分は無意識に近い状態だった。
会えた嬉しさで咄嗟に口にした拓人の名前。
中学のあの時から口にしなかった名前をだ。
「い、嫌だった?」
「まさか。ただ懐かしくてな。お前にそう呼ばれたのがよ」
夕日を背にはにかんだように笑う拓人に春菜はふと自分の机に置いた箱に目を向ける。
(今しかないよね…)
教室には自分と拓人くんの二人だけ。
放課後で誰もここには来ないはず。
せっかく用意したのだから絶対に渡さないと。
「拓人くん!」
「ん~?」
夕暮れに染まる教室で向かい合う春菜と拓人の二人。
ドクン!ドクン!と春菜は高鳴る音を耳にしながら、どうにか息を吐きながら落ち着きを保ちつつゆっくりとした動きで拓人に近付いて自分が用意したチョコレートを拓人の前に差し出した。
緊張のせいか身体がプルプル震えるが春菜はそれでも拓人を見つめる。
「これは?」
「きょっ、今日はバレンタインデーだったよね。そのっ、拓人くんに渡したくて」
「俺に?」
「うん」
拓人は一瞬キョトンてしたが、春菜の言葉と目の前の箱を交互に目にすると顔を赤くする。
それでも嬉しいのか苦笑して箱を手にした。
「サンキュー」
「拓人くん…」
嬉しそうに笑う拓人に春菜もまた嬉しそうに笑う。
子供のように笑う拓人。
箱を手に今開けるか迷いながらも大切に箱を持っている姿を目にするだけで、春菜は自分の胸が高鳴りが激しさを増していた。
(やっぱり…。私は…)
「なぁ、西連寺!これって今開けても…」
この時拓人はチョコレートに夢中で気付いていなかった。
春菜がかなり接近していた事に。
つまり――
「「………」」
拓人の目と鼻の先には目を閉じた春菜がいて、拓人の唇に春菜の唇が優しく触れ合うように重なったのだ。
(えっ!?ちょっ!?)
この時拓人はいつもより思考が働き、春菜の肩に手を置いて自分と引き離し春菜を見つめる。
先程のキスで春菜は瞳を潤ませ何も言わないまま拓人を見つめていた。
「さっ、西連寺?」
「春菜…」
えっ?何が?
「春菜って呼んで…拓人くん…」
「……」
キスした後でなんつー要求してんだよ。
こっちはさっきのキスで思考がオーバーヒートしそうなのに。
…ってかヤバい。
さっきのキスの感触が頭にこびりついて西連寺を直視出来ねぇ。
あんなに女の子の唇は柔らかくて甘いのか。
「…って違う!そうじゃなくて!」
「―――拓人くん」
「まっ!待て!は……」
再び唇を春菜に塞がれる。
しかも春菜は肩に置かれた拓人の手を振りほどき自分の手を拓人の背中に回して強く抱き着いたままキスをしたのだ。
春菜を知る者がいれば仰天するだろう。
かなりの奥手で恥ずかしがりやの春菜が二回も自分からキスをしたのだから。
(ヤバい…。このままじゃ…あれが…)
神谷拓人。
春菜とのとろけるようなキスで思考がぶれまくる。
逃がさないと言わんばかりの春菜に拓人は、もうどうにでもなれと言わんばかりに手を春菜の腰に回し自分の方に引き寄せた。
「んっ!」
春菜の口から甘い声が溢れる。
それがさらに拓人を刺激したのか、拓人は深く口づけまるで身体が春菜を欲しているかのように春菜を求めていた。
甘く痺れるようなキスを二人は暫く続けるのであった。
――――
まるで二人だけの世界で時間だけが進むが、春菜の手が自分から離れた事に気付き拓人もまた春菜から手を離してその手を春菜の頬に伸ばすと、二人はゆっくり名残惜しそうに唇を離す。
「「………」」
顔を見合せ二人の顔が夕日のせいか、かなり赤くなりお互い目線を外そうとするが、どうしても見つめ合う形に戻っていく。
「……ったく」
「拓人くん?」
「お前には本当に驚かされるよ………春菜」
拓人の言葉で春菜は目を丸くさせた。
今聞き間違いじゃなければ拓人くんは――
「何驚いてんだよ?お前が呼んでって言ったんだぞ、春菜」
間違いじゃなかった。
拓人くんは西連寺ではなく春菜と呼んでくれた。
それだけなのに――
こんなにも嬉しいだなんて。
「…おっ!おい!」
拓人は春菜の瞳から流れる涙に驚く。
まさか泣くなど思っていなかったからだ。
そんなに名前で呼ばれたかったのかと拓人は春菜の頭を優しく撫でる。
「拓人くん…っ!」
「今までごめんな春菜。中学のあの日からお前に何も言わないまま離れちまって」
「拓人くんは何も悪くない。私が原因なのに、拓人くんに全部背負わせたから…」
「俺が勝手にやった事だ。お前は何も悪くねぇよ。だからもう泣くなよ春菜」
ぶっきらぼうだけど優しく春菜に笑い掛ける拓人に春菜は瞳を潤ませたまま目を向ける。
私はやっぱり拓人くんが大好き。
この気持ちは誰にだって負けていない。
「拓人くん…」
「んっ?」
もう一度だけアナタを感じたいと、春菜は目を閉じて拓人にキスをしようとしたのだが、
「ちょっと待った」
「へっ?」
拓人がそれを止めて春菜は首を傾げると拓人はチラリと扉の方を向いて口を開いた。
「五秒以内に入ってこないと怒るぞ――モモ」
「へっ?えっ?モモちゃん!?」
その言葉に春菜はトマトのように全身を赤く染めながら、拓人と同じように扉に目を向けると扉がゆっくり開いて申し訳なさそうにモモが入ってきた。
「いつから気付いていました?」
「今さっきだ。お前の気配は分かりやすいからな」
呆れたように話す拓人に対し春菜は何も言えなかった。
何せモモがいつから見ていたのかと思考を働かせていたからだ。
もしかしてキスを見られたのか?と固まる春菜にモモは髪を弄りながら口を開いた。
「大丈夫ですよ春菜さん。私は何も見ていませんから。正直二人が何をしていたか聞きたいぐらいですので」
「……ふぇ?」
「だろうな。本当についさっき来たようだし」
「拓人さんは本当にすぐ気が付いてくれますね」
そう言いながら嬉しそうに笑うモモに拓人は溜め息を溢す。
リトは今回もララによるバレンタインデーハプニングにより、学園中の生徒に追い掛けられ真っ白に燃え尽きたままララと一緒に下校していった。
そして今教室には日直である春菜が一人だけ残って、今は花瓶の手入れを終えて自分の席で日誌を書いていた。
「結局渡せなかったな…」
ポツリと呟き春菜は鞄から可愛らしくラッピングされた箱を取り出すと、自分の机に箱を置いて顔を俯かせる。
これは春菜が拓人に用意した手作りのチョコレートであり、拓人と会った時に渡そうと決めていたのだ。
しかし拓人は姿を消してどこにいるか分からない。
「拓人くん…」
拓人くんがいないだけで自分はここまで胸が苦しくなるなんて。
「私…」
夕暮れに染まる教室で顔を俯かせる春菜の瞳から溢れる涙。
泣かないと自分で決めたのに強くなると決めたのに。
「拓人くん、どこに行っちゃったの?」
会いたくて堪らない。
アナタの声が聞きたい。
アナタの顔が見たい。
「拓人くん…っ!」
春菜が拓人の名を呼んだ時だった、教室の扉が勢いよく開き春菜は身体をビクッと揺らし扉が開いた方を見て目を丸くした。
「あん?何してんだ西連寺?…ってか今一人か?」
「拓人くん?」
教室に入ってきたのはギドに転送され地球に戻ってきた拓人であり、拓人はキョトンとした表情で春菜を見つめていた。
拓人としては本当になんとなく教室に来ただけであり、まさか人がいるとはまして春菜がいるとは思っていなかったのかそのまま固まっている。
そして春菜は春菜でそれどころではなかった。
何故なら先程まで自分は拓人の事を考え拓人に会いたいと思っていたからだ。
「拓人くん?」
「んっ?今拓人くんって…「拓人くん!」…っと!」
春菜は席を立ち勢いよく拓人に抱き着いて涙を流す。
離れたくないのか拓人に強く抱き着いている春菜。
「…おいおい」
いきなりの事に拓人は目を丸くしたまま自分に抱き着く春菜に目を向ける。
「……ったく」
頬を掻きながら拓人は溜め息を吐くのである。
「じゃあ…ララさんのお父さんと一緒にいたの?」
「あぁ。カイと戦った時の傷は完治してたしな。それでも急に拉致するかよ…」
春菜が抱き着いてから暫くして春菜が恥ずかしくなったのか、顔を赤くしたまま拓人から離れて拓人もまた顔を赤くしたままとりあえず自分の席の机に座り春菜と会話をしていた。
「ところで西連寺」
「なに?」
「…お前が俺の名前を呼ぶなんてね」
「へっ?」
この時春菜は拓人の言葉で自分が拓人を名前で呼んで、しかも抱き着いたことを再び思いだし顔を赤く染める。
あの時自分は無意識に近い状態だった。
会えた嬉しさで咄嗟に口にした拓人の名前。
中学のあの時から口にしなかった名前をだ。
「い、嫌だった?」
「まさか。ただ懐かしくてな。お前にそう呼ばれたのがよ」
夕日を背にはにかんだように笑う拓人に春菜はふと自分の机に置いた箱に目を向ける。
(今しかないよね…)
教室には自分と拓人くんの二人だけ。
放課後で誰もここには来ないはず。
せっかく用意したのだから絶対に渡さないと。
「拓人くん!」
「ん~?」
夕暮れに染まる教室で向かい合う春菜と拓人の二人。
ドクン!ドクン!と春菜は高鳴る音を耳にしながら、どうにか息を吐きながら落ち着きを保ちつつゆっくりとした動きで拓人に近付いて自分が用意したチョコレートを拓人の前に差し出した。
緊張のせいか身体がプルプル震えるが春菜はそれでも拓人を見つめる。
「これは?」
「きょっ、今日はバレンタインデーだったよね。そのっ、拓人くんに渡したくて」
「俺に?」
「うん」
拓人は一瞬キョトンてしたが、春菜の言葉と目の前の箱を交互に目にすると顔を赤くする。
それでも嬉しいのか苦笑して箱を手にした。
「サンキュー」
「拓人くん…」
嬉しそうに笑う拓人に春菜もまた嬉しそうに笑う。
子供のように笑う拓人。
箱を手に今開けるか迷いながらも大切に箱を持っている姿を目にするだけで、春菜は自分の胸が高鳴りが激しさを増していた。
(やっぱり…。私は…)
「なぁ、西連寺!これって今開けても…」
この時拓人はチョコレートに夢中で気付いていなかった。
春菜がかなり接近していた事に。
つまり――
「「………」」
拓人の目と鼻の先には目を閉じた春菜がいて、拓人の唇に春菜の唇が優しく触れ合うように重なったのだ。
(えっ!?ちょっ!?)
この時拓人はいつもより思考が働き、春菜の肩に手を置いて自分と引き離し春菜を見つめる。
先程のキスで春菜は瞳を潤ませ何も言わないまま拓人を見つめていた。
「さっ、西連寺?」
「春菜…」
えっ?何が?
「春菜って呼んで…拓人くん…」
「……」
キスした後でなんつー要求してんだよ。
こっちはさっきのキスで思考がオーバーヒートしそうなのに。
…ってかヤバい。
さっきのキスの感触が頭にこびりついて西連寺を直視出来ねぇ。
あんなに女の子の唇は柔らかくて甘いのか。
「…って違う!そうじゃなくて!」
「―――拓人くん」
「まっ!待て!は……」
再び唇を春菜に塞がれる。
しかも春菜は肩に置かれた拓人の手を振りほどき自分の手を拓人の背中に回して強く抱き着いたままキスをしたのだ。
春菜を知る者がいれば仰天するだろう。
かなりの奥手で恥ずかしがりやの春菜が二回も自分からキスをしたのだから。
(ヤバい…。このままじゃ…あれが…)
神谷拓人。
春菜とのとろけるようなキスで思考がぶれまくる。
逃がさないと言わんばかりの春菜に拓人は、もうどうにでもなれと言わんばかりに手を春菜の腰に回し自分の方に引き寄せた。
「んっ!」
春菜の口から甘い声が溢れる。
それがさらに拓人を刺激したのか、拓人は深く口づけまるで身体が春菜を欲しているかのように春菜を求めていた。
甘く痺れるようなキスを二人は暫く続けるのであった。
――――
まるで二人だけの世界で時間だけが進むが、春菜の手が自分から離れた事に気付き拓人もまた春菜から手を離してその手を春菜の頬に伸ばすと、二人はゆっくり名残惜しそうに唇を離す。
「「………」」
顔を見合せ二人の顔が夕日のせいか、かなり赤くなりお互い目線を外そうとするが、どうしても見つめ合う形に戻っていく。
「……ったく」
「拓人くん?」
「お前には本当に驚かされるよ………春菜」
拓人の言葉で春菜は目を丸くさせた。
今聞き間違いじゃなければ拓人くんは――
「何驚いてんだよ?お前が呼んでって言ったんだぞ、春菜」
間違いじゃなかった。
拓人くんは西連寺ではなく春菜と呼んでくれた。
それだけなのに――
こんなにも嬉しいだなんて。
「…おっ!おい!」
拓人は春菜の瞳から流れる涙に驚く。
まさか泣くなど思っていなかったからだ。
そんなに名前で呼ばれたかったのかと拓人は春菜の頭を優しく撫でる。
「拓人くん…っ!」
「今までごめんな春菜。中学のあの日からお前に何も言わないまま離れちまって」
「拓人くんは何も悪くない。私が原因なのに、拓人くんに全部背負わせたから…」
「俺が勝手にやった事だ。お前は何も悪くねぇよ。だからもう泣くなよ春菜」
ぶっきらぼうだけど優しく春菜に笑い掛ける拓人に春菜は瞳を潤ませたまま目を向ける。
私はやっぱり拓人くんが大好き。
この気持ちは誰にだって負けていない。
「拓人くん…」
「んっ?」
もう一度だけアナタを感じたいと、春菜は目を閉じて拓人にキスをしようとしたのだが、
「ちょっと待った」
「へっ?」
拓人がそれを止めて春菜は首を傾げると拓人はチラリと扉の方を向いて口を開いた。
「五秒以内に入ってこないと怒るぞ――モモ」
「へっ?えっ?モモちゃん!?」
その言葉に春菜はトマトのように全身を赤く染めながら、拓人と同じように扉に目を向けると扉がゆっくり開いて申し訳なさそうにモモが入ってきた。
「いつから気付いていました?」
「今さっきだ。お前の気配は分かりやすいからな」
呆れたように話す拓人に対し春菜は何も言えなかった。
何せモモがいつから見ていたのかと思考を働かせていたからだ。
もしかしてキスを見られたのか?と固まる春菜にモモは髪を弄りながら口を開いた。
「大丈夫ですよ春菜さん。私は何も見ていませんから。正直二人が何をしていたか聞きたいぐらいですので」
「……ふぇ?」
「だろうな。本当についさっき来たようだし」
「拓人さんは本当にすぐ気が付いてくれますね」
そう言いながら嬉しそうに笑うモモに拓人は溜め息を溢す。