バレンタインデー
あの騒動から数日が過ぎて、彩南町では二月十四日のバレンタインデーをむかえていた。
男にとっても女にとってもドキドキする日であり、彩南高校では自分のゲタ箱を確認している者や机の引き出し部分を覗いている者で溢れかえっていた。
特に猿なんとかさんは、『ギブミー!チョコレート!』と叫んでおり女子がドン引きしていたりする。
これには友達であるリトも苦笑している。
「………」
そんな中であの騒動で獅子王に拉致され拓人に助けてもらった幼馴染みの西連寺春菜は一人顔を俯かせていた。
何故なら―――
「春菜、まだアイツは見つかんないの?」
「……うん」
「全く!どこに消えちゃったのかしらね神谷は」
「………」
獅子王が彩南高校に現れあの事件は無事に終わり、拓人は二・三日保健の先生でもある御門の屋敷で眠っていたのだが、いつの間にか御門の屋敷から姿を消して行方不明になってしまったのだ。
マンションにも帰っておらず、モモがもしかしたら帰ってくるかもしれないと思いマンションに泊まっているようだが拓人は一度も帰ってはこなかった。
その事を知らされ春菜は見るからに元気をなくして落ち込み、無理に笑っているのが誰からも分かるぐらい辛そうにしていた。
沢田と籾岡の二人がいつもの調子で話し掛けても、楽しそうに笑えていない春菜。
「…ったく。今日はせっかくのバレンタインデーなのに」
「幼馴染みを悲しませるとは何してんのやら」
やれやれと肩を竦める籾岡と沢田に春菜は苦笑したまま視線を外の景色に向ける。
神谷くんはあの日、獅子王くんを倒して昔のような優しい笑みで笑いかけてくれた。
でもそのあと倒れてまるで死んだように目を閉じてしまった。
今でもあの時の光景が鮮明に思い出される。
神谷くんが死んでしまうのではないかと。
神谷くんがいなくなるのではないかと。
「……どこ行っちゃったの?神谷くん」
小さく呟いて春菜の声は誰の耳にも届く事はなくただ虚しく消えていく。
「神谷拓人…」
金色の闇ことヤミはたい焼きを手に持ち彩南高校のベンチに腰掛けボーッと空を眺めている。
あの騒動のあと神谷拓人は姿を消した。
ドクターミカドの治療途中だったのに、彼は忽然といなくなりそれから誰も彼を見てはいない。
(あれが神谷拓人の本当の力…)
ヤミの脳裏によぎる廃工場での拓人の姿。
血を流し身体が震えてもなお獅子王という男を倒す為に戦っていた神谷拓人。
あの強さを目にし一度手合わせ願おうかと秘かに誓いつつヤミはたい焼きを口に入れる。
(どうしてでしょう?今日のたい焼きは…)
いつも食べているはずなのにここ数日美味しいと思えなかった。
いつもはそう――
「本当にアナタという人は厄介です」
ヤミにとって神谷拓人は抹殺対象である、結城リトの友人でしかなかった。
しかし神谷拓人は自分の事をダチだと言ってくれた。
自分が迷ったら助けてやると言ってくれた。
ぶっきらぼうでめんどくさがりでエッチな人だけど、自分はそんな神谷拓人と一緒にいて胸がほんのり温かかった。
『あっ?たい焼きキャンペーン?』
『はい。今日は感謝祭?といものらしです。どうです?』
『どうですって殆んどお前が食うんだろうが?』
『そうですが?』
たい焼きの入った袋を無意識に握り締める。
「……アナタはどこで何をしているんですか?」
そうポツリと呟いてヤミはただジッと空を見つめる。
ちなみにだが―――
「今日のヤミちゃんもまた過激ですぞぉぉぉぉ!!」
校長が鼻息を荒くして抱き着いてこようとしたのをヤミは予定調和のようにトランスで撃退したのだった。
「タクトさん…」
拓人の部屋でモモはソファーに座り膝を抱え髪をクルクルと弄りながら拓人の事を考えていた。
あの日自分が廃工場に着いた時、全てが終わって拓人は倒れていた。
その光景を目にし自分の身体の中に宿ったもの。
拓人がいなくなってしまうのではないかという恐怖と、拓人をここまで傷つけた獅子王カイに対する殺意を込めた怒りであった。
今すぐにでも己の使う植物で獅子王カイという男に地獄を見せたかったが、理性でそれを押し止め倒れている拓人に少しでもと植物で傷を癒していたのだ。
絶対に死なせたくなかった人。
一緒にいて安心出来るこの人をモモは失いたくはなかった。
だからこそ―――
「アナタに会いたいです」
最初の出会いはモニター越しでの会話。
ぶっきらぼうでめんどくさそうにお父様と話していたタクトさん。
でも春菜さんの事になると無意識に優しくなっていたタクトさん。
最初こそリトさんとお姉さまの為に利用しようとした。
でもタクトさんといる間に私は少しずつ彼に惹かれていった。
私の我儘を聞いてくれて私にいろんな事を教えてくれた。
「タクトさん…」
アナタは今どこにいますか?
私はアナタがいないだけでこんなにも―――
『あぁ?植物とか好きかって?』
『はい。実はタクトさんにお渡ししたい花があるんです』
『まぁ、動かなきゃもらうかな』
私が差し上げた花達。
タクトさんのマンションには全て飾られている。
タクトさんは全ての花達を大切にしてくれていた。
「本当にどうしようもないですね」
堪らなくアナタを求めている自分がいる。
会いたいです。
「タクトさん…」
姿を消した拓人の事をモモはずっと考えていた。
ただ静かに時計の音だけが部屋の中で響き続けるその空間で。
とある惑星のとある場所で一人の男と一人の男が目にも止まらぬ速さでぶつかり合っていた。
一人は狼の耳が生えて身体には雷を身に纏い、もう一人の男は尻尾を生やしてその風格は圧倒的な王と呼べる風格をしていた。
「…ったく!テメェは本当に…」
「いいぜタクト。やっぱりテメェは俺の相手に相応しい」
「言ってろ」
雷を纏った脚で踵落としを喰らわせようとするが、両腕でガードされ男の尻尾に収束した巨大なエネルギーを至近距離から喰らい男は舌打ちをしながら後退する。
「オレ様の全力とやりあって生きてるなんざ、本当にテメェは面白れぇなタクト」
「それが人を無理矢理連れてきたやつの言うセリフかよギド?」
「別にいいだろうが。礼はすんだからよ」
雷が消滅し狼の耳だけが残った拓人は軽く息を吐いて目の前の男に目を向けると、その男は大人の姿から子供の姿に戻り腕を組んだまま楽しそうに笑っていた。
「やっぱりまだ戻れねぇか」
大人から子供に戻った男ことギドはニシシと笑う。
「まぁ、俺の実験に付き合ってくれた礼はするから安心しろよ」
「テメェの礼は心臓に悪いだろうが」
そう口にして拓人は身体を伸ばしゆっくり息を吐くと、いつもの姿に戻りどこか疲れたような顔をしていた。
「お前も時間切れだったか」
「まぁ……な」
ギドだけが知っている拓人の正体。
モモも知ってはいるが、まだ半信半疑の為に数には入らず拓人の先程の姿を目にしたのはギドだけである。
「お前いつまで隠しておくつもりだ?いつかはバレんのによ」
「隠しているつもりはないけどな。バレるまでは秘密にしているだけだ」
自分の正体を知ってリトや春菜達は驚くだろうが、きっとそれだけのはすだ。
だからと言って自分から話すつもりはないが。
「そんじゃさっさと帰るかハーフのガキ」
「そうだな。…って事で早く地球に転送しろよチビ王」
いつもの感じで話しギドが指を鳴らすと、拓人の姿がこの場から消えていきギドは一人空を見上げ小さく呟いた。
「もう少しでアイツとケリつけなきゃいけねぇな」
その時自分達二人はどうなるだろうか?
今はまだ考える時ではないもしれないが。
男にとっても女にとってもドキドキする日であり、彩南高校では自分のゲタ箱を確認している者や机の引き出し部分を覗いている者で溢れかえっていた。
特に猿なんとかさんは、『ギブミー!チョコレート!』と叫んでおり女子がドン引きしていたりする。
これには友達であるリトも苦笑している。
「………」
そんな中であの騒動で獅子王に拉致され拓人に助けてもらった幼馴染みの西連寺春菜は一人顔を俯かせていた。
何故なら―――
「春菜、まだアイツは見つかんないの?」
「……うん」
「全く!どこに消えちゃったのかしらね神谷は」
「………」
獅子王が彩南高校に現れあの事件は無事に終わり、拓人は二・三日保健の先生でもある御門の屋敷で眠っていたのだが、いつの間にか御門の屋敷から姿を消して行方不明になってしまったのだ。
マンションにも帰っておらず、モモがもしかしたら帰ってくるかもしれないと思いマンションに泊まっているようだが拓人は一度も帰ってはこなかった。
その事を知らされ春菜は見るからに元気をなくして落ち込み、無理に笑っているのが誰からも分かるぐらい辛そうにしていた。
沢田と籾岡の二人がいつもの調子で話し掛けても、楽しそうに笑えていない春菜。
「…ったく。今日はせっかくのバレンタインデーなのに」
「幼馴染みを悲しませるとは何してんのやら」
やれやれと肩を竦める籾岡と沢田に春菜は苦笑したまま視線を外の景色に向ける。
神谷くんはあの日、獅子王くんを倒して昔のような優しい笑みで笑いかけてくれた。
でもそのあと倒れてまるで死んだように目を閉じてしまった。
今でもあの時の光景が鮮明に思い出される。
神谷くんが死んでしまうのではないかと。
神谷くんがいなくなるのではないかと。
「……どこ行っちゃったの?神谷くん」
小さく呟いて春菜の声は誰の耳にも届く事はなくただ虚しく消えていく。
「神谷拓人…」
金色の闇ことヤミはたい焼きを手に持ち彩南高校のベンチに腰掛けボーッと空を眺めている。
あの騒動のあと神谷拓人は姿を消した。
ドクターミカドの治療途中だったのに、彼は忽然といなくなりそれから誰も彼を見てはいない。
(あれが神谷拓人の本当の力…)
ヤミの脳裏によぎる廃工場での拓人の姿。
血を流し身体が震えてもなお獅子王という男を倒す為に戦っていた神谷拓人。
あの強さを目にし一度手合わせ願おうかと秘かに誓いつつヤミはたい焼きを口に入れる。
(どうしてでしょう?今日のたい焼きは…)
いつも食べているはずなのにここ数日美味しいと思えなかった。
いつもはそう――
「本当にアナタという人は厄介です」
ヤミにとって神谷拓人は抹殺対象である、結城リトの友人でしかなかった。
しかし神谷拓人は自分の事をダチだと言ってくれた。
自分が迷ったら助けてやると言ってくれた。
ぶっきらぼうでめんどくさがりでエッチな人だけど、自分はそんな神谷拓人と一緒にいて胸がほんのり温かかった。
『あっ?たい焼きキャンペーン?』
『はい。今日は感謝祭?といものらしです。どうです?』
『どうですって殆んどお前が食うんだろうが?』
『そうですが?』
たい焼きの入った袋を無意識に握り締める。
「……アナタはどこで何をしているんですか?」
そうポツリと呟いてヤミはただジッと空を見つめる。
ちなみにだが―――
「今日のヤミちゃんもまた過激ですぞぉぉぉぉ!!」
校長が鼻息を荒くして抱き着いてこようとしたのをヤミは予定調和のようにトランスで撃退したのだった。
「タクトさん…」
拓人の部屋でモモはソファーに座り膝を抱え髪をクルクルと弄りながら拓人の事を考えていた。
あの日自分が廃工場に着いた時、全てが終わって拓人は倒れていた。
その光景を目にし自分の身体の中に宿ったもの。
拓人がいなくなってしまうのではないかという恐怖と、拓人をここまで傷つけた獅子王カイに対する殺意を込めた怒りであった。
今すぐにでも己の使う植物で獅子王カイという男に地獄を見せたかったが、理性でそれを押し止め倒れている拓人に少しでもと植物で傷を癒していたのだ。
絶対に死なせたくなかった人。
一緒にいて安心出来るこの人をモモは失いたくはなかった。
だからこそ―――
「アナタに会いたいです」
最初の出会いはモニター越しでの会話。
ぶっきらぼうでめんどくさそうにお父様と話していたタクトさん。
でも春菜さんの事になると無意識に優しくなっていたタクトさん。
最初こそリトさんとお姉さまの為に利用しようとした。
でもタクトさんといる間に私は少しずつ彼に惹かれていった。
私の我儘を聞いてくれて私にいろんな事を教えてくれた。
「タクトさん…」
アナタは今どこにいますか?
私はアナタがいないだけでこんなにも―――
『あぁ?植物とか好きかって?』
『はい。実はタクトさんにお渡ししたい花があるんです』
『まぁ、動かなきゃもらうかな』
私が差し上げた花達。
タクトさんのマンションには全て飾られている。
タクトさんは全ての花達を大切にしてくれていた。
「本当にどうしようもないですね」
堪らなくアナタを求めている自分がいる。
会いたいです。
「タクトさん…」
姿を消した拓人の事をモモはずっと考えていた。
ただ静かに時計の音だけが部屋の中で響き続けるその空間で。
とある惑星のとある場所で一人の男と一人の男が目にも止まらぬ速さでぶつかり合っていた。
一人は狼の耳が生えて身体には雷を身に纏い、もう一人の男は尻尾を生やしてその風格は圧倒的な王と呼べる風格をしていた。
「…ったく!テメェは本当に…」
「いいぜタクト。やっぱりテメェは俺の相手に相応しい」
「言ってろ」
雷を纏った脚で踵落としを喰らわせようとするが、両腕でガードされ男の尻尾に収束した巨大なエネルギーを至近距離から喰らい男は舌打ちをしながら後退する。
「オレ様の全力とやりあって生きてるなんざ、本当にテメェは面白れぇなタクト」
「それが人を無理矢理連れてきたやつの言うセリフかよギド?」
「別にいいだろうが。礼はすんだからよ」
雷が消滅し狼の耳だけが残った拓人は軽く息を吐いて目の前の男に目を向けると、その男は大人の姿から子供の姿に戻り腕を組んだまま楽しそうに笑っていた。
「やっぱりまだ戻れねぇか」
大人から子供に戻った男ことギドはニシシと笑う。
「まぁ、俺の実験に付き合ってくれた礼はするから安心しろよ」
「テメェの礼は心臓に悪いだろうが」
そう口にして拓人は身体を伸ばしゆっくり息を吐くと、いつもの姿に戻りどこか疲れたような顔をしていた。
「お前も時間切れだったか」
「まぁ……な」
ギドだけが知っている拓人の正体。
モモも知ってはいるが、まだ半信半疑の為に数には入らず拓人の先程の姿を目にしたのはギドだけである。
「お前いつまで隠しておくつもりだ?いつかはバレんのによ」
「隠しているつもりはないけどな。バレるまでは秘密にしているだけだ」
自分の正体を知ってリトや春菜達は驚くだろうが、きっとそれだけのはすだ。
だからと言って自分から話すつもりはないが。
「そんじゃさっさと帰るかハーフのガキ」
「そうだな。…って事で早く地球に転送しろよチビ王」
いつもの感じで話しギドが指を鳴らすと、拓人の姿がこの場から消えていきギドは一人空を見上げ小さく呟いた。
「もう少しでアイツとケリつけなきゃいけねぇな」
その時自分達二人はどうなるだろうか?
今はまだ考える時ではないもしれないが。