クリスマスのとある日

「さてと…」

「これからどうしますかタクトさん?」


シャオリーの店での買い物を終えて拓人とモモは町から離れて住宅が並ぶ道を仲良く歩いていた。


「もう時間も時間だしな。とりあえずリトの家まで送ってってやる」

「私はこのままタクトさんと一夜を過ごしても…」


ポッと顔を赤くして頬に手を当てて笑うモモに拓人はペシッと頭を叩き呆れたようにため息を吐く。


「ダメに決まってんだろ」

「むぅ~」


どうやら拓人のクリスマス効果が消えかけているようで、拓人の表情がいつものめんどくさそうな表情に変わっていた。


「そういうセリフはあんま言わない方がいいぞ。勘違いするやつだっているんだから」

「私はタクトさん以外にこんな事は言いませんよ」

「はいはい」

「嘘じゃないんですが…」


さっきまでとは変わって自分の扱いが適当になりモモは不服そうに頬を膨らませ髪を弄る。

これが拓人らしいと言えば拓人らしいのだが女の子としては複雑極まりない。


「……ったく」


そんなモモに拓人はため息を吐くと、ポケットから一つの小さな箱を取り出してモモに渡した。


「タクトさん?」

「今日付き合ってくれた礼だ。リトん家に着いたら見ろよ」

「…ッ!?」


どこかぶっきらぼうでめんどくさそうにしている拓人にモモは瞳を潤ませる。

あれだけ自分で我慢していたのに、自分の心はこうも簡単に喜んでいた。

どうしようもなく嬉しすぎて綻んだ顔になってしまう。


(ごめんなさいお姉さま。リトさんとお姉さまの恋をサポートしようと思ったのに……)


自分は――

モモ・ベリア・デビルークはこの人の――

神谷タクトさんの近くにいたいんです。


「んっ?どうかしたかモモ?」

「何でもないですよタクトさん」


胸のドキドキが止まらない。

でもこのドキドキがとても心地よい気持ちだ。


「タクトさん」

「何だよ?」

「ありがとうございます」


リトの家に着くまでモモは拓人の腕に抱きつきどこか幸せそうに笑みを浮かべていた。

それに対し拓人は、


(何をそんなに喜んでんだ?)


モモの表情をちらりと目にし首を傾げるのだった。





「んじゃな」

「はいっ!」


リトの家に着いた拓人はモモに別れを告げてその場から去ろうとしたが、リトの家の扉が開いて玄関から出てきた人物を目にし足を止めた。

何せそこにいたのは―


「あん?金色じゃねぇか」

「神谷拓人ですか?どうしてアナタが?」


リトに誘われサプライズゲストとしてパーティーに呼ばれたヤミが拓人の前に現れ、拓人は怪訝な表情を浮かべヤミもまた不思議そうな表情を浮かべ首を傾げていた。


「俺はさっきまでモモといたからな」

「プリンセスモモとですか?」

「あぁ…」


そのモモはおそらく自分の部屋でプレゼントを見ているだろうな。

少しでも喜んでくれればいいけど。


「アナタの事だから家にいると思いましたが」

「最初はそうしようと思ったんだけどな。悪友に会う約束を思い出して外に出たんだよ。モモはそのついでだな」

「そうですか」


ヤミの言葉に拓人は微かに違和感を感じた。

本当に微かだが金色の機嫌が悪くなった気がする。

何か変な事でも言ったか?


「それでアナタは今からどうするんですか?」

「ちょっと寄る所があるからそこに行くかな。そんでマンションに帰るつもりだが」

「じゃあ私も一緒に行きましょう」

「…本当にどうしたお前?」

「お気になさらず」


いや無理じゃね?と拓人は口にしないものの、自分の横を歩く金色を本当に金色か?とまるで珍獣を見るような目で見つめるのであった。









――――

「あの二人がね~」

「はい。美柑の為にサプライズと」


結城家のパーティー内容を聞いて拓人は苦笑しヤミはただ淡々とその内容を拓人に説明していた。

どうやらリトとララが美柑の為にいつも忙しい両親をパーティーに呼んだらしく、さらに一番の友であるヤミも招待したようだ。

そのパーティーで美柑はとても嬉しそうに笑っていたらしい。


「相変わらず優しいこった。そんでお前はどうだったんだよ?」

「私ですか?」

「あぁ…」


ヤミがこのようなイベントに参加してどう思ったのか拓人は少し気になって問い掛けた。

ヤミにとって経験した事のないイベント。

暖かく笑いが溢れる場所で美柑と過ごしたヤミはどこか嬉しそうに少しだけ笑みを浮かべている。


「悪くはなかったです」

「そっか。良かったじゃないか金色」

「えぇ…」


ヤミの言葉に拓人は何かを思い出したようにポケット手を入れると、


「金色」

「どうかしましたか神谷拓人?」


横を歩く拓人が足を止めた事でヤミもまたピタリと足を止めて拓人を見つめると、拓人はポケットから小さな箱を取り出してそれをヤミの目の前に差し出した。


「あの、これは?」

「クリスマスプレゼントだよ。もしかして知らねぇのか?」

「そうではなくてどうしてそれを私に?」


ヤミは箱と拓人を目をパチパチさせながら交互に見ていく。

あの神谷拓人が自分にプレゼント?

一体どういうつもりだろうか?

もしや私をからかうつもりでは?


「お前が何考えてるか知らねぇがとりあえず受け取れよ」

「…分かりました」


ヤミは恐る恐る箱を手にし何が入ってるか考える。

爆発しないとなると爆弾ではない。

ならばビックリ箱のようなものか?

それとも何かの武器だろうか?


「考えすぎだろ」

「仕方ないでしょう。アナタからのプレゼントなどたい焼きと洋服以外なかったんですから」

「それもそうだな。まぁ、一人になったら見てみろよ。そんな怪しいもんじゃないからよ」

「そうします」


ヤミはそう口にして困惑したままプレゼントをバトルドレスにしまう。

ただそんな姿だけでも昔とは違うなと拓人は息を吐きながら目にしていた。








―――――


西連寺春菜。

神谷拓人の幼馴染みであり、拓人の事が昔から気になっている女の子。

そんな春菜は今日クリスマスを両親と姉と過ごしており、不意に外に目を向け拓人の事を考えていた。


(神谷くん、今頃何してるんだろ?)


春菜の脳裏によぎる拓人の姿。

今日も喧嘩しているのだろうか?

それとも一人で過ごしているんだろうか?

もしかしてモモちゃんと一緒なのかな?


(胸が痛い…)


春菜は最近よく拓人と一緒にいるモモの事を考える。

普通に見れば兄妹のように見える二人だが、モモが拓人を見つめるその瞳はそれ以上の感情が見え隠れしていた。

あれはまるで自分の親友であるララさんが、結城くんに向けている感情と同じ【恋する瞳】である。


「は~るな~」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「それはこっちのセリフよ。あんたこそどうしたのよ?まぁ、拓人くんの事でしょうけど」

「うぅ…」


本当に姉には敵わないと春菜はたじろぎ、そんな春菜を見て秋穂はやれやれと肩を竦める。


「そんなに気になるなら電話してみればいいじゃない。案外マンションで寝てるかもよ」

「でも今日はお父さんとお母さんと過ごすって約束だったし」

「そこは私がなんとかしてあげるわよ。それより早く」

「でも…」

「でももかかしもないの!拓人くんの事気になるんでしょ?」


秋穂の言葉に春菜は小さくだが頷く。

最近拓人と会えば昔ほどではないが話せるし、めんどくさがりながらも傍にいてくれていた。


「神谷くん…」


そう呟いて春菜は携帯を手に持ち拓人に電話をしようとした瞬間、アパートのインターフォンが鳴り慌てて携帯を机に置いてしまう。


「誰かしら?春菜出てくれる?」

「うん」


春菜はチラリと携帯を一度目にしつつも、来客を待たせる訳にもいかず玄関に向かい扉を開けて固まってしまう。

そこにいたのは、先程まで自分と姉が話題に出していた拓人であり拓人はいつも通りの顔をしたまま手を上げて拓人の横にはヤミがいた。


「神谷くん?」

「久しぶりだな西連寺。今大丈夫か?」

「ふぇ?」


急にやって来たかと思えばそんな事を口にした拓人に春菜はキョトンとした顔のまま次第に顔を赤く染める。


「あの、今日は両親が来てて」

「えっ?オジサンとオバサンがいんの?んじゃここでいいか」


拓人はこれまたポケットから小さな箱を取り出す。

当たり前のようにポケットから箱を出す拓人にヤミは以前読んだ青いタヌキ型ロボットが脳裏をよぎる。

そして拓人とそのロボットを重ねて頬をピクピクさせてしまう。


『仕方ないな~金色は』


ダメだ。

これ以上想像したら神谷拓人をまともに見れなくなってしまう。

忘れよう。


「神谷くん?」

「どうしても今日渡したくてな。最後にお前に渡したのは小学生の時だったから久しぶりになるけど…」


拓人は春菜の手を掴み箱を手のひらに置いて普段なら絶対に見れないよう優しげな笑みを浮かべていた。


「クリスマスプレゼントだよ」

「えっ…」


拓人の言葉に春菜は驚き目を丸くする。

自分の手のひらに置かれた箱を目にして再び拓人に目を向けて顔を真っ赤にしてしまう。


「中身は後で見てくれ」

「神谷くん」


春菜の胸の鼓動がうるさく鳴り響く。

優しく笑う拓人の表情にもドキッとしてまともに顔を見れなくなる。

こうしてプレゼントをくれた事は本当に小学生の時以来だった。

本当に嬉しくて春菜はどうしようもなく体温が熱くなっていく。


「さて用もすんだし帰るぞ金色」

「よろしいのですか?」

「こいつを渡すだけだったしな。それに――」


今の自分が春菜の両親と会える訳もないしな。

大切な娘を中学の時に危険な事に巻き込んでしまったから。

どんな顔して会えって言うんだよ。


「まぁ、アナタがいいなら私はついていくだけですから」

「んっ?マンションまで来るきか?」

「何か問題でしょうか?」

顔を赤くしている春菜を尻目に拓人とヤミはさっさと帰ろうとする。

ヤミは一度だけ春菜に目を向けながら拓人に返答する。


「じゃあ俺は帰るぞ西連寺」


ゆっくり背を向け金色と帰ろうとした拓人の服の袖を春菜がキュッと掴んだ。


「んっ?どうかしたか?」

「神谷くん」


背を向けたままの拓人に春菜はゆっくり近づいてその背中に抱き着きながら小さくだがこう口にしていた。


「…ありがとう神谷くん。本当に嬉しい」

「お前が喜んでくれたなら俺はそれで満足だ」


そうぶっきらぼうに返す拓人だが、この時ヤミだけはしっかり目にしていた。

拓人の耳が真っ赤に染まっていた事に。

本当に素直じゃない人だとヤミは呆れたように溜め息を吐く。

そしてそんな二人をこっそり見ていた秋穂は、


「良かったわね春菜。でも――」


お父さんとお母さんに何て言えばいいかな?と自分の横でバッチリ見ていた二人に冷や汗をかいていた。


To Loveる
第十五話
END
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