クリスマスのとある日

彩南町に並ぶ店や木々などに装飾されキラキラ輝くイルミネーション。

そのイルミネーションの輝きを更に光らせる為に流れているクリスマスソング。

そんな色鮮やかな彩南町を神谷拓人は首にマフラーを巻き、片方の手をポケットに突っ込んでもう片方の手はとあるものを掴んでいた。

去年まで一人だったのに今年は自分の横で歩いている人物がいた。

その人物とは、


「拓人さん、地球にはこのような素敵なイベントがあるんですか?」

「まぁな。…ってかよかったのかよモモ。今頃リトん家じゃパーティーやってんだろ?」

「確かにお姉さまやリトさん達とのパーティーも捨てがたいんですが、私はタクトさんと一緒にいたかったんです。だって…」


ポッと顔を赤くして潤んだ瞳で拓人を見つめるモモ。

実際モモは地球に住み始めてから色んな事を勉強していた。

そして勉強しながら拓人の事やこれから先の事を考えていた。


(拓人さんは、いつか本当の姿に戻ったお父様と戦うかもしれない。拓人さんの中でいまだに消えない感情があるせいで。でも私は――)


「どうかしたかモモ?」

「いえっ!何でもないですよ」

「ふーん。まぁ、寒くなったら言えよ」

「はい。でも大丈夫ですよ。タクトさんが握っててくれてますから」


ギュッと握られた手に目を向け嬉しそうに笑うモモ。

本当なら腕を組みたいが、これはこれで拓人の温もりを感じられるとモモは自分の横にいる拓人の横顔を見つめる。


(いつもはめんどくさそうにしているタクトさん。今日だけは優しいアナタといれて私は嬉しいんですよ)


いつもこうならいいのにとモモは小さく呟いて歩いていく。

拓人が連れていってくれる場所はどこだろう?と期待を胸にしまいながら。





~Bar【エクセリオン】~

彩南町の綺麗な夜景が見えるお洒落なBar。

そこの特等席で拓人とモモは食事をしていた。

二人の周りには他に客がいないのか店内に流れる音楽が心地よく耳に届いていた。


「悪いなジェノス。こんな忙しい日に」

「気にすんなよ拓人。お前と俺の仲だろ?それにお前が女の子と来てくれるなんて俺は嬉しいしな」


ここのマスターであるジェノス・ハザード。

拓人とは悪友という関係であり、拓人が気兼ねなく話せる一人でもある。

この二人は過去に色々やんちゃをしておりその時つけられた名は【ケルベロス】であり、拓人とジェノスともう一人の人物はちょっとした有名人なのだ。


「それで注文はどうすんだ?」

「俺はジェノスのお任せでいい。それよりもモモ、食べたい物を頼んでいいからな」

「ありがとうございますタクトさん。ではこのトマトのファルシーをお願いします」

「承知しましたお姫様」


キザッタらしくウインクするジェノスにモモは苦笑しながら、自分の視線を拓人に向けてニッコリ微笑みながら口を開いた。


「意外でした」

「あっ?何がだよ」

「タクトさんがこんな素敵な場所に連れてきてくださるなんて」

「まぁ、ジェノスの店に誰かを連れてきたのはモモが初めてだしな」

「…へっ?」


拓人の言葉にモモは最初こそキョトンとしていたが、その言葉を次第に理解して頬を赤く染める。

拓人にとって西連寺春菜が誰よりも大切なのは誰が見ても分かりきっていた。

そして西連寺春菜もまた拓人の事を同じように。

それでも春菜より自分が先に連れてきてもらっただけでモモは胸を高鳴らせていた。


「お前には何だかんだで助けてもらったりしたからな。これはそのお礼だよ」


そう口にして拓人はジェノスが用意してくれたシャンパンを飲む。


(どうしてこの人は…)


拓人の秘密をギドと同じように知るモモは拓人の言葉を複雑な感情で受け止める。

嬉しいと思いつつ、心の底で消えない何故?という気持ち。


(この人は少なくとも、デビルークをお父様を憎んでいる。ならその娘である私やお姉さまやナナだって。でもタクトさんは――)


モモの知る限り拓人はララにもナナにもモモにもめんどくさがりながらもちゃんと相手をしてくれていた。


「アナタは本当に優しい人ですねタクトさん」

「いきなり何言ってんだ?……ってかそんな顔すんなよ」


そう口にして拓人は小さくため息を吐きながらモモの頭を不器用に撫でる。

どこかぶっきらぼうで撫でる拓人にモモはただジッと上目遣いで拓人を見つめていた。

そんな二人にジェノスは、


「俺も帰ったらリンスちゃんとイチャイチャしようかなー」


モモの注文した料理を手にしながら羨ましそうに眺めていた。








―――――――


「ありがとうございました、タクトさん」

「…んっ」


夜景を楽しみながら食事終えた二人は再び彩南町を並んで歩いていた。

周りにいるカップルのように腕を組むモモに拓人は何も言わずされるがまま。

嬉しそうに笑うモモに対し拓人は次はどこに行こうかと考えている。


(ジェノスの店の次はアイツの店に行くか。色々買いたいしな)


拓人の頭に浮かんだケルベロスの最後の一人でもある人物。

いつもはニコニコ笑っているが、内心は腹黒いアイツも今日は忙しいだろうな。


「次はどちらに行かれるんですか?」

「雑貨屋だよ。悪友が店長しててな。モモみたいな女の子が喜びそうな物とか結構あるんだぜ」


その言葉にモモはまさかと疑問を浮かべる。

タクトさんがそんな風に口にすると言うことは、プレゼントをくれるのでしょうか?

もしそうなったら私は――


「あん?顔が赤いがどうかしたか?」

「いえっ!きっ、気にしないでください!」


モモの葛藤など気付かないまま拓人は呑気に悪友の店を目指し、モモは自分の中にある感情の整理で一人悶々と悩ませていたりする。






~雑貨屋『セイレーン』~

「いらっしゃい。拓人くん」

「久しぶりだなシャオ」


拓人とモモが雑貨屋に入った瞬間、二人はクリスマスソングに迎えられ周りはサンタグッズやクリスマス関連の商品が並び賑やかな雰囲気に包まれていた。

そして拓人の姿を目にして声を掛けてきたのは、この店の店長でありケルベロス最後の一人でもある【リン・シャオリー】だった。

ニコニコ笑いながら話し掛けてくるシャオリーに##NAME2##はいつも通りの返し方をする。


「珍しいですね、拓人くんが女の子とここに来るなんて。前に来た時はキリサキ…」

「その話しは今しなくていい。それよか奥の商品見てもいいか?」

「はい。いいですよ」


モモは二人の会話でいくつか疑問が浮かび上がった。

タクトさんは前にも誰かと来たことがある?

キリサキと聞こえたが、その単語をつい最近どこかで聞いた事があるようなーっと。

あと奥の商品とは?


首を傾げて不思議そうに店内を見渡すモモ。

今現在モモの視界に入っているだけでもかなりの商品があるのに、拓人はそれを全て無視するように奥へと入っていく。


「あのタクトさん?」

「着いたら説明してやるから静かにな。奥の商品関連はあんま知られたくねぇんだよ」

「はっ、はい」


拓人に手を引かれ奥へと進むモモ。

そんな二人をシャオリーはどこか嬉しそうに見つめたままゆっくり口を開く。


「拓人くんが知り合いを奥へと連れていったのはこれで三人目ですよ」


一人は先程口にしようとした女性。

仕事で忙しい彼女を拓人が息抜きで連れてきたのが始まりだった。

もう一人は拓人の悪友でもある彼女。

いつもふらふらとしている浴衣を着た女性。

拓人くんが素で話せる貴重な一人だったから、シャオリーはしっかり覚えていたりする。


「そして三人目は……」


まさか――

ギド・ルシオン・デビルークの娘とは。

キミは相変わらずのようで安心したよ。


「彼らしい」


この場にジェノスがいたら同じように納得するだろうなとシャオリーは一人笑みを浮かべるのであった。




「あの~タクトさん?」

「何だよ?」

「ここって、さっきのお店ですよね?」

「まぁ、混乱すんのは無理ねぇか。ここは特別な場所だからな」


二人がやって来た場所だが、モモは辺りをキョロキョロと見回して困惑していた。

それもそうだろう。

ここに来るまでただの雑貨屋だったのに奥の商品がある場所入った瞬間、モモが目にしたのは星が輝いた空から白い雪が降りまるで別世界のような光景だった。


「ここはシャオリーの気分でよく変わる場所なんだよ。今日はクリスマス仕様ってとこだな」


そう口にしながら拓人は慣れた手付きで商品の置かれた棚をスライドさせたり、くるくると回転させてお目当ての商品を手にしていた。


「地球にはまだまだ未知なものがあるんですね」

「ここは特別なんだよ。普通はありえないからな」


こんな事をするのはシャオリーぐらいだ。

あれで地球人なんて詐欺だな絶対。

もし地球人だとしてもスーパーをつけないと納得出来ねぇな。


「さてと…」


もしここにリトがいれば間違いなく目を丸くしただろう。

あの拓人がクリスマスで一人じゃないだけで槍が降ると言うのに、プレゼントまで買おうとしているのだから。

明日は世界が滅ぶんじゃないかと思うだろう。


「んっ?シャオのやつ新しい商品でも置いたか?」


首を傾げながらプレゼントを選んでいる拓人をモモはジッと見つめる。


(本当にアナタは不思議な人ですね……タクトさん)


私はもっともっと貴方の事を知りたいです。

どんな些細な事でもいい。

貴方の近くにいるだけで私は心地よい気分になりますから。


「こんなもんか」


拓人はモモに見つめられているなど気付くわけもなくどこか満足そうに笑みを浮かべていた。
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