一日彼氏

「あら~いつの間にかもう暗くなってるわね」

「誰のせいだと思ってやがる?」


喫茶店から出て辺りを見回しながら会話をしている籾岡と拓人。

籾岡としては拓人と長い時間話せて満足だったのか、とても楽しそうに笑っており拓人は疲れたようにため息を吐いていた。


「さてと」


拓人はバイクに乗りエンジンをかけると、籾岡に目を向け自分の後ろをポンポンと手で叩く。


「乗ってけよ。さすがに夜道を一人で歩かせるなんて出来ないからな。家まで送ってやるよ」

「優しいじゃない神谷。じゃあお言葉に甘えて」


拓人の後ろに乗り籾岡はヘルメットを被ると、再び拓人の腰に手を回して強く抱き着いてくる。

しかし拓人はもう何も言わず、慣れたようにバイクを走らせるのだった。

二人の夜はまだまだ続く。








――――――

「は~い到着!あれが私のウチよ」

「なぁ……」

「ん~?どうかした?」

「何故道案内であんな道を教えたんだよ?」

「だって近道だったんだも~ん」


実は拓人は籾岡を家に送る時に道案内を頼んだのだが、籾岡は近道と言いながらホテル街を走らせて拓人はそこを通る際に顔を赤くさせ胸をドキドキさせて中学生のように緊張していたのだ。

ちなみに籾岡はそれを分かっててわざと案内していたりする。


「じゃあ俺は帰るわ。アバヨ」

「ちょっと待った!」

「今度は何だよ?」


さっさと帰ろうとする拓人に籾岡は腕を掴んでとある提案を口にした。


「せっかく来たんだし、少しだけ上がっていきなさいよ」

「待て!さすがにそれは…」

「いいから。いいから」


最近の女子は強引だなと、拓人は籾岡に引き摺られながらそう思う。

その脳裏に春菜と悪友の浴衣女が浮かんび拓人は意識を黄昏に向けるなかで籾岡の表情を見逃してしまう。

籾岡はニヤリと笑みを浮かべて今からが本番と言わんばかりの表情をしていたなど。


「ここが私の部屋よ」


籾岡の部屋までやって来て拓人はふとある疑問を口にする。


「何でこの家にはお前以外いねぇんだよ?」

「あぁ。私の両親ってさ二人とも共働きなのよ。だからいつも遅いの」

「成程な」


籾岡に引っ張られながら拓人はどこか納得していた。

時折籾岡が街を歩いていたのはそれが理由だったのかと。

悪友の一人が昔籾岡をナンパからこっそり助けた時も夜遅かった時だったしな。


「それよりもさ神谷」

「あっ?」


考え事をしていた拓人は籾岡の言葉に耳を傾けると同時に、自分の身体に籾岡が寄り掛かった事に気付くが不意をつかれたせいか籾岡に押し倒されるようにベッドに倒れてしまう。


「籾岡……」

「今だけは里沙って呼んでよ神谷」

「何を言ってるんだお前は?ってか何のつもり…」


拓人を見つめる籾岡の瞳が潤んでおりその顔も赤く染まる。

そんな籾岡に拓人も顔を赤くしてしまうが、それでも冷静に思考を働かせていた。


「最近ソッチ方面でご無沙汰だったのよ。アンタとなら一夜限りでもいいからさ。ねぇ……神谷」


ゆっくりと近付いてくる籾岡のぷるんとした唇。

その唇が拓人の唇をロックオンしているのは間違いない。

籾岡はペロリと自分の唇を舌で舐めながら、拓人の視界を固定するように手を伸ばしていく。

その行動で籾岡の胸の谷間が見えてしまい、拓人は耳まで赤くしてしまうが必死に理性を保ちながら籾岡の肩に手を置いて自分から引き離す。


「……神谷?」

「悪いが遊びでこんな事しねぇんだよ。それと――」

「きゃっ!!」


押し倒されていた拓人は瞬時に体勢を変えて、逆に籾岡を押し倒すと顔を赤くしたまま口を開いた。


「あんま火遊びはすんじゃねぇぞ。お前は春菜のダチだからお前に何かあったらアイツが悲しむからな」

「結局春菜の為って事かしら?」

「…それもあるが」


籾岡自身おそらく分かっててやってんだろうな。

だけど――


「テメェは俺にとってもダチなんだよ。あんま心配かけるような事すんな」

「……神谷」


そう口にして離れようとした拓人に籾岡は手を伸ばして、拓人の鼻をプニッと摘む。


「……全くからかっただけなのに本気で反応しないでよ。ムードも何もあったもんじゃねーな」


そう口にしてニッコリ笑う籾岡に拓人はため息を吐くのであった。

この時拓人は知らなかったようた、籾岡は拓人の言葉に心が揺れ一瞬襲うつもりだったらしい。


「ねぇ神谷」

「んっ?」

「またバイクに乗せてくれない?」

「…気が向いたらな」


こうして二人の夜は終わり拓人はマンションへと帰るのだった。








――――――

「あ~疲れた」


籾岡の家から離れて拓人は熱を冷ませようと、近くの公園で缶コーヒーを片手に休んでいた。

ここまで女子相手にドキドキしたのは久しぶりだった。

もしこれが春菜だったら、思考回路がショートするかもな。


「さてと帰るか」


この時間帯ならマンションにモモはいないだろうと、拓人が腰を上げてバイクに乗り込もうとした瞬間、拓人の携帯が震えて一通のメールが届いて拓人はそれを目にして固まってしまう。

何故なら相手は―――


『籾岡さんとのデートはどうでしたか?楽しかったですか?』


モモによるメールだったがこの文を見て拓人は意識を遠いところへ向けるのだった。


To Loveる
第十二話
END
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