夏祭り

「お前は俺にとって大事なダチの一人だからだよ」

「…えっ?」

「確かにお前はリトの命を今でも狙ってる。だけどな……」


拓人はため息を吐きながらヤミの頭に手を置いて言葉を続ける。


「今のお前にはそれより大事なもんが出来たんじゃねぇのか?俺は変わっていくお前を知ってる。だからダチと認めたんだぞ」

「神谷拓人」


ヤミは拓人の言葉にここで過ごした思い出を脳裏によぎらせる。

この町でいろんな人達と出逢って、親友とも言える存在が出来た。

それだけじゃなく、胸がポカポカする事もヤミは体験していた。

何より――


「…どうかしたか?」

「…ッ!?何でもありません!!」


自分は何だかんだで優しくしてくれる拓人という存在に助けられている。


「確かにアナタの言う通りかもしれませんね」

「だろ?」


そう口にして笑う拓人の表情をチラリと目にして、ヤミは頬が赤く染まり心臓が高鳴る。


いつもめんどくさそうにしている人。

不器用で自分の知り合いには甘い人。

えっちいけど戦いに関しては強い人。

そんなアナタだけど私はすっ、少しだけ認めているんですよ。


「っと、そういえば今何時だ?」


拓人はハッとした表情になり携帯を取り出すと、時間を確認して小さくだが『やっべぇな』と呟くとヤミの手を取り、クレープを食べている春菜とたこ焼きを食べているモモに声を掛ける。


「西連寺!モモ!急ぐぞ!間に合わなくなる」

「へっ?」

「はいっ?」


春菜とモモはキョトンとした表情のまま首を傾げ、いつの間にかいるヤミに驚くがとりあえず拓人についていく。

その時モモはふと目にしてしまう。

拓人とヤミが手を繋いでいる姿を。


(ヤミさんが羨ましいです。私も……)


拓人さんから手を繋いでほしいと、モモはどこか物欲しそうな瞳で拓人を見つめるのであった。





「よっし!ギリギリセーフだな」


ここは拓人や悪友達が時々来る場所であり、今現在拓人達四人しかそこにはいなかった。


「神谷くん。ここって一体…」


全く事情を説明してもらっていない春菜に拓人は、ちょいちょいと手招きをする。


春菜とモモとヤミは首を傾げつつもそこに足を運んで拓人に何があるのかと尋ねようとした瞬間、


「時間だな」


拓人の呟きと同時に夜空に綺麗な花が咲き乱れる。


「この場所が一番綺麗に花火が見えんだよ」


拓人の言葉に三人の目は花火に向く。

夜空に咲き乱れる色とりどりの花火。

その綺麗な光景を目にしつつ春菜は拓人の横顔をチラリと見る。

花火を見つめる拓人はどこか儚げで、いつななく柔らかな表情を浮かべている。

ただそれだけで春菜は胸がドキッと高鳴る。


「……神谷くん」


おそらくこの時春菜は無意識にやってしまったのだろう。

まるで寄り添うように自分の身体を拓人にくっ付けて、自分の手を拓人の手に重ねていた。

心地よい気持ちになりながらただ春菜は花火を見つめる。


(また来年も神谷くんと一緒に)


ToLoveる
第十一話
END
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