シスターズ襲来

ギド・ルシオン・デビルーク。

かつて戦乱のただ中にあった銀河を圧倒的な力でねじ伏せ、銀河統一を果たした最強の男。

ララの父親であり神谷拓人にとっては誰よりもムカつく存在である。

ギドと拓人が初めて出会った時は最悪の一言しか言えなかった。

二人は互いの名前を口にした途端にぶつかり合いが始まり、この二人は身体から血を流し身体がボロボロになるまで戦っていた。

リトやララや春菜が止めなかったらどうなっていただろうか。

そんなギドと拓人が少し前に共闘してソルゲムや悪の組織を壊滅させたのを覚えているだろうか?

その時ギドが、

『テメェにサプライズしてやるよ』という言葉を拓人に言ったのだが、この時拓人はギドの言葉を全く聞いておらず忘れていたのだ。

つまり何が言いたいのかと言うと、


「お帰りなさいませタクトさん」

「…どうやって入りやがった」


自分のマンションに帰ってきた拓人の部屋には、一人の少女がソファに座りニコニコ笑いながら拓人に手を振っていたのだ。

ララと同じシッポを持ち、桃色の髪をしララと違い幼さが残る顔つきをしている少女。

その名は――


「お久しぶりですタクトさん」

「何の用だモモ?」


ギドの娘にしてララの妹の一人でもあるデビルーク第三王女、モモ・べリア・デビルークが楽し気に笑いながら拓人の部屋にいたのである。












――――――


「ふ~ん、もう一人の妹と一緒にあのチビ王から逃げてきたね~」

「はい」


モモから事情を聞きながら拓人は紅茶が入ったコップを渡して椅子に座ると、モモは柔らかな笑みを浮かべながら紅茶を口にしていた。


(あのチビ王の事だからこのモモともう一人の娘をわざと逃がしたんだろうな。地球に来させたのもララがいるからだろうな)


ザスティンからララの妹達が家出をしたと聞かされ、捜してくれないかと頼まれていた拓人としてはさっさとモモをザスティンに引き渡したいのだが、拓人はどうしても気になることがありモモに問い掛けた。


「モモ、聞きたい事がある」

「何ですか?」

「何故俺の所に来た?普通はララがいるリトの家じゃねぇのか?現にお前と一緒に家出した妹はリトの家にいるんだろ?」

モモから聞いた話では一緒に逃げた妹はララの所に行ったらしく、モモ自身は少し散歩をすると言って拓人のマンションに来たようだ。

拓人の問い掛けにモモは紅茶の入ったコップをテーブルに置いて口を開いた。


「あの日お父様に言われてから、この地球に来るまでアナタの事を調べていました」


モモの言葉に拓人はピクリと眉が動きその目はゆっくり細くなる。

デビルーク星で果たしてどれだけわかったものか。


「タクトさん、アナタはお父様が銀河大戦の時に戦った一族の――」


そうモモが口にした瞬間、まるでタイミングを見計らったように拓人のマンションの窓ガラスが割れて外から三人の男がダイナミックに侵入してきたのだ。

言わなくても分かるだろうが、


「見つけましたよモモ様!」


ギドに連れ戻せと命令され拓人に捜すように頼んでいたザスティンである。

ザスティンの後ろには親衛隊の二人も控えており、ザスティンの登場に拓人はめんどくさそうに頭を掻き割れたガラスに目を向けため息を吐く。


「……ったくよー。入るならせめて玄関から入れよな。誰が片付けると思ってんだよ?」

「すみませんタクトさん。片付けは私達が必ずやりますので。しかし!今は王の命令でモモ様を連れていくのが優先です。ですので…」

「……あのよザスティン」

「はい?」

「モモならとっくにいねぇぞ」

「ぬあっ!ナナ様に続きモモ様まで!追うぞ!」


実はザスティン、ここに来る前にリトの家にやって来てナナを連れ戻そうとしたが、同じように失敗しモモ同様に逃げられたようだ。

「まったく……」


一気に静かになった部屋で拓人は呆れたように頭を掻き、モモが口にしていた紅茶の入ったコップを手にしふと先ほどの言葉を思い返す。


『アナタはお父様が銀河大戦で戦った一族の――』


「……チッ!何でテメェが悲しそうなツラすんだよ」


そう口にして拓人は視線を外に向け、仕方ねぇと呟き部屋から飛び出すのであった。





河川敷の橋の下で再会したナナとモモはそこで身を隠していた。


「くっそ~地球にはザスティンもいたんだった~!」

「もうナナのせいでザスティンさんがタクトさんのマンションまで来ちゃったじゃない」

「はっ?知らねぇよ。ってか誰だよそいつ?」


ナナは初めて聞く名前に怪訝な表情を浮かべながら首を傾げる。

モモと違いナナは拓人の事を全く知らず、どこのどいつだと言わんばかりの目をしていた。

そんなナナに対しモモは、


(あの時タクトさんの瞳が少し揺らいでいた。やっぱりあの人は私が調べた通りの人だった。だからお父様は気に入っているんだわ)


モモの脳裏によぎるのは父親であるギドが楽しく拓人と話していた姿。

お互い皮肉や文句を口にしていたが、互いに認めているようだとモモは感じていた。


(だとしたらタクトさんに頼んでみよう。リトさんとお姉さまの幸せの為に)


モモはリトとララの為に拓人の力を借りようと考えていたのだ。

しかし――


(でも何故かしら。どうしてもそれをタクトさんに言えない自分もいる。どうして――)


二人の幸せの為なら自分はどんな事だってするつもりだ。

それこそ心を鬼にしてもだ。


「とりあえずザスティンに見つからないように姉上の所に戻るか?」

「そうね」


いつまでも隠れている訳にはいかないなと二人は立ち上がりリトの家に行こうとしたのだが、


「見つけましたぞお二人とも!」

「「ザスティン(さん)!?」」


二人を捜していたザスティンが目の前に現れて、ザスティンは二人を前に真剣な表情で口を開く。


「お二人とも、迎えの船を手配しました。今すぐデビルーク星に帰りましょう!」


デビルーク星に帰れば二人に待っているのは勉強漬けの毎日である。

それが原因で家出したと言うのに、素直に帰ってたまるかと二人は身構えたまま動こうとしない。


「仕方ありません」


力づくはあまり好きではないザスティンだが仕方がないと足を二人に進めた瞬間、


「待ちなザスティン」


橋の上から声がして全員が顔を上げると、橋の上に拓人が座っておりガムを噛みながら今の状況を見つめ口を開いていた。

「タクトさん」

「よっと!」


橋の上から飛び降りてなんなく着地し拓人はまるでモモとナナを守るようにザスティンと対峙し、噛んでいたガムをプッと吐き出した。


「何の用ですかタクトさん?」

「悪いがザスティン、この二人の事は諦めて帰ってくれねぇか」

「なっ!?」


拓人の言葉にザスティンはこれ以上ないくらい目を丸くする。

ザスティンとしては拓人の事だから、二人を渡してくれるものと考えていたのに拓人は真逆の事を口にしてきたのだ。

もう驚くしかない。

それはモモも同じであり、表情にこそ出していないが内心ではかなり動揺していた。


(タクトさんが助けてくれるなんて。でもどうして?アナタは…)


ギドとモモだけが知っている。

拓人の秘密を。

だからこそモモも驚く事しか出来ない。


「すみませんが、いくらタクトさんの頼みでもそれは…」

「まぁ、そう言うと思ったよ。…ったくめんどくせぇな」


拓人は悪態をつきながら首を鳴らしまるでスイッチが入ったように雰囲気が変わり、その雰囲気が変わった事にザスティンは息を呑みゆっくり剣を構える。


「じゃあ久しぶりにやるか」

「全力でいきますよタクトさん!!」


二人はフッと笑うと困惑している周りをよそに物凄いスピードでぶつかり合うのであった。











―――――


「そらよ!」

「くっ!」


ぶつかり合う拓人の足とザスティンの剣。

それによって発生する衝撃波。

拓人の強さを知っているザスティンは驚いていないが、実際に拓人の強さを目にしたモモと全く展開についていけてないナナは驚いて口をパクパクさせていた。


「アイツ何者なんだよ?」

「……凄い」


驚く二人を尻目に拓人はザスティンの剣を指二本で挟みながら受け止め、その隙にザスティンを蹴り飛ばしザスティンは地面を転がっていく。

拓人はザスティンの剣をその場に突き刺しゆっくり息を吐いていた。


「流石タクトさん、お強いですね」


膝をついて口元の血を拭いながら口を開くザスティンに拓人は頭を掻きながら口を開いた。


「もう一度言うぞザスティン。この二人の事は諦めろ」


片や頭を掻きながら余裕そうに立ち、もう片方は膝をついて血を拭っていた。

本当に拓人は強い人だとモモは自覚し拓人を見つめたまま胸に手を当てていた。

父であるギドが気に入るのは当然だろう。


「それによザスティン。もし二人を無理やり連れ戻してもまた同じことになんぞ。この二人の為を思うなら少し待ってやれよ(どうせチビ王の事だからまた何かやりそうだしな)」

「タクトさん…」


拓人の内心などわからないザスティンは拓人の言葉に顔を俯かせる。

もしこの場にリトがいたら、

『あの拓人がここまで言うなんて、明日は嵐だろうな~』と口にしたに違いない。

それほどまでに拓人が口にした事は珍しい事であり、ザスティンもまた俯かせていた顔を上げて笑みを浮かべながらゆっくり立ち上がり拓人やモモやナナに背を向けた。


「隊長!?」

「よろしいのですか!?」


ザスティンについてきた二人がザスティンの行動に驚くが、ザスティンは真剣な表情で口を開いた。


「あのタクトさんがあそこまで言ったのだ、私はそれだけで充分さ。このザスティン!友の言葉は信じる男だしな。それに…」


『何かあったら守ってやるよ』


タクトさんが守ってくださると言ってくださったから安心だ。

(拓人はそんなこと口にしていません。ザスティンの妄想である)


去っていくザスティン達を見ながら拓人はゆっくり息を吐く。


「それにしても久しぶりに身体を動かしたなぁ」


本当に今日一日でかなり身体を動かしたと思う。

学校に行けばポルターガイストに遭遇して、夜はララの妹達に巻き込まれる始末。


「タクトさん」

「よけいなお世話だったかモモ?」

「そんなことありません」


拓人の言葉にモモは頬を赤く染め、潤んだ瞳で拓人の手を取りジッと見つめていた。

その姿はハッキリ言って可愛らしく、拓人はそのモモの姿を直視出来ないのか顔をそらす。


「タクトさんが助けに来てくださって私は本当に嬉しいです。ザスティンさん相手にその身を挺して守ってくだって本当に…」


顔を赤くし嬉しそうに笑うモモに対しナナはじーっと拓人を見つめ口を開く。


「お前がタクトってやつか?」

「あぁ?そうだが」

「お前本当にあの覗き魔と同じ地球人かよ?」

「……覗き魔?」


ナナの言葉に拓人はキョトンとさせながら首を傾げる。

自分の知り合いで覗きをする奴と言えばあの禿光か猿山だが、この少女はおそらくさっきまでリトの家にいたはずだ。

だとしたら――


(またリトのラッキースケベが発動したか)


あの親友は一日に一回ラッキースケベを発動しているようだ。

すでにこの少女の中でリトは覗き魔という印象がつけられただろう。


「そういえば私の名前教えてなかったな。私はデビルーク第二王女、ナナ・アスタ・デビルークってんだ。よろしくな」

「あぁ。俺は神谷拓人だ。まぁよろしくな」


気兼ねなく自己紹介するナナに拓人も普通に自己紹介するのだが、モモはその光景をどこか面白くなさそうに見つめていた。


「さてと、とりあえずお前らリトの所に連れて行くからな」

「えっ?私はタクトさんのお家に…」

「却下だ。姉妹仲良くリトの家でお世話してもらえ」

「そんな…!?」


まるで世界が滅亡するかのようなショックを受けるモモに拓人は呆れたようにため息を吐き、ナナはそんな光景を見ながらただ内心こう思っていた。


(いつものモモじゃねぇ)


「…ならリトさんのお家とタクトさんのお家を繋げて」

「何言ってんのお前?」


そう口にしたモモに拓人は戦慄しながらリトの家を目指すのであった。


とらぶる十話
END
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