縮まる距離
それは中学生の時の忘れもしない出来事だった。
一人の男が大切な幼馴染みを守る為についた嘘が原因で二人の距離は遠くなりいつしか二人は他人のような関係へと変わってしまった。
『拓人くん…』
『悪かったな春菜、俺のせいでお前にまで迷惑かけちまって』
『違うの拓人くん。私がちゃんと言わなかったから』
全てが終わったあとに夕焼けに染まる屋上で話したあの日。
そこには自分と拓人くんしかいなかった。
今にして思えばあの時、屋上には誰かがいて話を聞いていたのかもしれない。
『獅子王も仲間ももうここには来ねぇし、中学にも迷惑かけねぇと思うしな。だから春菜――』
夕日をバックに拓人くんが口にしたある言葉。
それを口にしてから拓人くんは人が変わったように雰囲気が変わり悪い噂が広まっていった。
『もう俺は――』
―――――
「…ッ!!」
ガバッと起き上がり目が覚めた春菜はチラリと時計を確認して小さく息を吐いた。
時刻はまだ夜中であり、自分が設定したアラームが鳴るまでかなり時間があった。
あの日の事を夢で見てしまい春菜はキュッと手を握り締め、自分の胸に手を当てて顔を俯かせる。
「…神谷くん」
不器用で本当は優しい人。
今は少しずつ彼との距離が近付いて、昔のようにとまではいかないが彼と話せるようになり春菜自身嬉しさが混み上がっていた。
「今何してるのかな?」
ポツリと呟き春菜は布団から出て水を飲みに行こうとしたのだが、
「……あれ?」
春菜の身体がふらついて視界が揺らぐのであった。
「とりあえず来たものの、本当に大丈夫かよ?」
神谷拓人、ただいまとある場所でいくつか袋を手にし絶賛お悩み中である。
拓人の目の前には西連寺という名前のプレートがあり、拓人はう~んと唸りながら頭を抱えていた。
そもそも何故拓人がここにいるのかと言うと、春菜が体調を崩し寝込んだと姉である秋穂から連絡があり看病の為に来てくれないかと頼まれたからだ。
拓人は最初『秋穂さんがやれば』と返したのだが、秋穂さんからは『でも春菜が拓人くんって寝言を言ってたから』と言われ拓人はため息を吐いてここまでやって来たのだ。
「……ったく」
小さく息を吐いて拓人はインターホンを押して、片手にぶら下げている袋を持ったまま扉が開くのを待つ。
「はーい!…あっ!拓人くん!いらっしゃい」
「遊びに来たんじゃないんですが。とりあえず知り合いの医者から薬をもらってきたんで西連寺に渡してください。あと栄養のある食べ物もいくつか買ってきたんでそれを食べさせて…」
「拓人くんが直接渡せばいいじゃない?」
「……はっ?」
秋穂の言葉に拓人は間抜けな声を出して固まってしまう。
この人は何を言ってるんだ?と拓人は呆れたように見つめていたが、秋穂はそんな拓人の事などお構いなしに拓人の手を掴み家の中に入れた。
「秋穂さん、さすがに部屋の中までは行きませんよ」
春菜の部屋まで引き摺られて拓人はめんどくさそうに頭を掻きながら口にする。
確かに春菜の事が心配だが、ここで部屋に入れば春菜が驚いてしまうのではないかと思い拓人は足を止めていたが、秋穂は首を横に振りドアノブに手を置いて口を開いた。
「春菜も素直じゃないけど、拓人くんも素直じゃないわね。本当は春菜の事が気になって仕方ないくせに」
「体調崩したって聞いたら誰だって心配しますよ」
「本当にそれだけ?」
その問い掛けに拓人は答えられず頭を掻いてため息を吐く。
「仕方ねぇか」
会ったらすぐに帰るかと決めて拓人は扉をノックしようとしたのだが、
「一名様ごあんなーい!」
「ちょっ!?」
秋穂が扉を開けてしまい拓人はそのまま春菜の部屋に入ってしまうのであった。
「全くあの人は…」
悪態をつき春菜の部屋に入った拓人は呆れた表情で頭を掻いて視線を春菜がいるであろうベッドに向けてそのまま固まってしまう。
何故なら春菜は、
「……へっ?」
パジャマを脱ぎ下着を外そうとしていたようで拓人を見つめたたまま固まっており、春菜の白く柔らかそうな肌や髪をおろして色気が漂っている姿は拓人を釘付けにしていた。
その光景に拓人はしばらく固まっていたが、春菜の顔がプルプル震え真っ赤に染まっていく事に気付き次に自分に襲い掛かる衝撃にそなえて歯を食い縛りそのまま春菜を凝視する。
「きっ……」
この時拓人が思った事は一つだけ。
秋穂さん覚えてやがれである。
「きゃああああああ!!」
―――――
「……その、ごめんね拓人くん」
「悪いのは俺だからな。謝んなって。それに…」
拓人の脳裏に浮かぶのは先程の春菜の姿。
アクシデントとは言えバッチリ春菜のあの姿を見てしまい拓人は顔を赤くして春菜の顔を見ようとしない。
余程刺激が強かったのか拓人の顔は赤いまま。
「神谷くん?」
そんな拓人を春菜は首を傾げて見つめていた。
ちなみに春菜はちゃんと着替えており、今はベッドに腰掛けており床で座っている拓人を見つめていた。
「でも神谷くんがお見舞いに来てくれるなんて」
「秋穂さんから連絡があったからな。それにリトからも最近無理してるって聞いてたから様子見もかねて来たんだよ」
「あっ、ありがとう」
拓人はこれはお見舞いの品とも言わんばかりに、飲み物や食べ物が入った袋を春菜に渡して春菜は嬉しそうな表情でそれを受け取りただジッと拓人を見つめていた。
どんなに距離が離れても拓人の不器用な優しさは変わらない。
普段はめんどくさそうにしたりどこか壁を作っているけれど、こんな風に心配してくれて会いに来てくれる。
「ねぇ神谷くん…」
「んっ?」
「学校には来ないの?皆神谷くんを待ってるよ…」
「あー……」
春菜の急な問い掛けに拓人は困ったように頬を掻く。
実はこの男、ヤミの洋服選び以降も学校をサボっていた。
登校したとしても保健室で惰眠を貪り教室に行こうとはしない。
しかもサボっている日は他校の生徒と遊んだり、バイクでドライブをして自由奔放に一日を過ごしていたのだ。
「結城くんもララさんもミオやリサもヤミちゃんも待ってるよ。それに…私…だって…」
「わかってるよ。でもな……って大丈夫か?」
「へっ?」
拓人は春菜の顔が次第に赤くなり呼吸が荒くなっている事に気付き春菜の額に手を当て、自分の額にも手を当て春菜の熱が上がっている事に気づいた。
「熱が上がってるな。早く薬を飲んだ方がいい」
拓人は御門からもらった薬を春菜に渡して、春菜は拓人が持ってきた飲み物と一緒にそれを口にして息を整えてベッドに横になった。
「とりあえず今は寝てろ。俺のことは後でいいしな。今は自分の身体の事だけを考えろよ」
「神谷くん…」
「お前に何かあったらそれこそ嫌だからな」
拓人はそう口にしてゆっくり春菜の額に手を置いて優しく撫でた。
本当ならこんな事出来るはずもないのだがこの男、春菜の寂しそうな顔を見て身体が勝手に動いたようだ。
「何だか夢みたい」
「あん?」
「神谷くんがこんなに近くにいて、昔みたいに優しくしてくれてる。本当に夢を見てる気がするの」
どこか遠くを見つめる春菜に拓人はバツが悪そうに視線をそらす。
自分で選んで自分で決めたというのに、目の前の少女といるとそれが無駄だと思ってしまう。
少女の言葉は自分にこれほど影響があるのかと、苦笑してしまうほどに。
「ねぇ神谷くん」
「どうした西連寺?」
春菜からの返答はない。
ただ沈黙が続くなか春菜が顔を拓人に向けて口を開いた。
「そのっ…もう少しだけ…このまま…」
「……ったく。わかったよ」
頬が赤く染まる春菜に拓人はフッと笑って春菜の手を優しく握った。
春菜の目が次第に閉じて嬉しそうに眠る様子を確認して拓人は小さく呟く。
「春菜、お前はこんな俺をずっと待ってくれてるんだよな。本当に敵わねぇよお前には」
拓人は空いたもう一つの手で春菜の頭を優しく撫でながら小さく呟く。
「幸せそうな寝顔しやがって」
そう口にした拓人の表情は無意識なのか笑みを浮かべていた。
とらぶる八話
END
一人の男が大切な幼馴染みを守る為についた嘘が原因で二人の距離は遠くなりいつしか二人は他人のような関係へと変わってしまった。
『拓人くん…』
『悪かったな春菜、俺のせいでお前にまで迷惑かけちまって』
『違うの拓人くん。私がちゃんと言わなかったから』
全てが終わったあとに夕焼けに染まる屋上で話したあの日。
そこには自分と拓人くんしかいなかった。
今にして思えばあの時、屋上には誰かがいて話を聞いていたのかもしれない。
『獅子王も仲間ももうここには来ねぇし、中学にも迷惑かけねぇと思うしな。だから春菜――』
夕日をバックに拓人くんが口にしたある言葉。
それを口にしてから拓人くんは人が変わったように雰囲気が変わり悪い噂が広まっていった。
『もう俺は――』
―――――
「…ッ!!」
ガバッと起き上がり目が覚めた春菜はチラリと時計を確認して小さく息を吐いた。
時刻はまだ夜中であり、自分が設定したアラームが鳴るまでかなり時間があった。
あの日の事を夢で見てしまい春菜はキュッと手を握り締め、自分の胸に手を当てて顔を俯かせる。
「…神谷くん」
不器用で本当は優しい人。
今は少しずつ彼との距離が近付いて、昔のようにとまではいかないが彼と話せるようになり春菜自身嬉しさが混み上がっていた。
「今何してるのかな?」
ポツリと呟き春菜は布団から出て水を飲みに行こうとしたのだが、
「……あれ?」
春菜の身体がふらついて視界が揺らぐのであった。
「とりあえず来たものの、本当に大丈夫かよ?」
神谷拓人、ただいまとある場所でいくつか袋を手にし絶賛お悩み中である。
拓人の目の前には西連寺という名前のプレートがあり、拓人はう~んと唸りながら頭を抱えていた。
そもそも何故拓人がここにいるのかと言うと、春菜が体調を崩し寝込んだと姉である秋穂から連絡があり看病の為に来てくれないかと頼まれたからだ。
拓人は最初『秋穂さんがやれば』と返したのだが、秋穂さんからは『でも春菜が拓人くんって寝言を言ってたから』と言われ拓人はため息を吐いてここまでやって来たのだ。
「……ったく」
小さく息を吐いて拓人はインターホンを押して、片手にぶら下げている袋を持ったまま扉が開くのを待つ。
「はーい!…あっ!拓人くん!いらっしゃい」
「遊びに来たんじゃないんですが。とりあえず知り合いの医者から薬をもらってきたんで西連寺に渡してください。あと栄養のある食べ物もいくつか買ってきたんでそれを食べさせて…」
「拓人くんが直接渡せばいいじゃない?」
「……はっ?」
秋穂の言葉に拓人は間抜けな声を出して固まってしまう。
この人は何を言ってるんだ?と拓人は呆れたように見つめていたが、秋穂はそんな拓人の事などお構いなしに拓人の手を掴み家の中に入れた。
「秋穂さん、さすがに部屋の中までは行きませんよ」
春菜の部屋まで引き摺られて拓人はめんどくさそうに頭を掻きながら口にする。
確かに春菜の事が心配だが、ここで部屋に入れば春菜が驚いてしまうのではないかと思い拓人は足を止めていたが、秋穂は首を横に振りドアノブに手を置いて口を開いた。
「春菜も素直じゃないけど、拓人くんも素直じゃないわね。本当は春菜の事が気になって仕方ないくせに」
「体調崩したって聞いたら誰だって心配しますよ」
「本当にそれだけ?」
その問い掛けに拓人は答えられず頭を掻いてため息を吐く。
「仕方ねぇか」
会ったらすぐに帰るかと決めて拓人は扉をノックしようとしたのだが、
「一名様ごあんなーい!」
「ちょっ!?」
秋穂が扉を開けてしまい拓人はそのまま春菜の部屋に入ってしまうのであった。
「全くあの人は…」
悪態をつき春菜の部屋に入った拓人は呆れた表情で頭を掻いて視線を春菜がいるであろうベッドに向けてそのまま固まってしまう。
何故なら春菜は、
「……へっ?」
パジャマを脱ぎ下着を外そうとしていたようで拓人を見つめたたまま固まっており、春菜の白く柔らかそうな肌や髪をおろして色気が漂っている姿は拓人を釘付けにしていた。
その光景に拓人はしばらく固まっていたが、春菜の顔がプルプル震え真っ赤に染まっていく事に気付き次に自分に襲い掛かる衝撃にそなえて歯を食い縛りそのまま春菜を凝視する。
「きっ……」
この時拓人が思った事は一つだけ。
秋穂さん覚えてやがれである。
「きゃああああああ!!」
―――――
「……その、ごめんね拓人くん」
「悪いのは俺だからな。謝んなって。それに…」
拓人の脳裏に浮かぶのは先程の春菜の姿。
アクシデントとは言えバッチリ春菜のあの姿を見てしまい拓人は顔を赤くして春菜の顔を見ようとしない。
余程刺激が強かったのか拓人の顔は赤いまま。
「神谷くん?」
そんな拓人を春菜は首を傾げて見つめていた。
ちなみに春菜はちゃんと着替えており、今はベッドに腰掛けており床で座っている拓人を見つめていた。
「でも神谷くんがお見舞いに来てくれるなんて」
「秋穂さんから連絡があったからな。それにリトからも最近無理してるって聞いてたから様子見もかねて来たんだよ」
「あっ、ありがとう」
拓人はこれはお見舞いの品とも言わんばかりに、飲み物や食べ物が入った袋を春菜に渡して春菜は嬉しそうな表情でそれを受け取りただジッと拓人を見つめていた。
どんなに距離が離れても拓人の不器用な優しさは変わらない。
普段はめんどくさそうにしたりどこか壁を作っているけれど、こんな風に心配してくれて会いに来てくれる。
「ねぇ神谷くん…」
「んっ?」
「学校には来ないの?皆神谷くんを待ってるよ…」
「あー……」
春菜の急な問い掛けに拓人は困ったように頬を掻く。
実はこの男、ヤミの洋服選び以降も学校をサボっていた。
登校したとしても保健室で惰眠を貪り教室に行こうとはしない。
しかもサボっている日は他校の生徒と遊んだり、バイクでドライブをして自由奔放に一日を過ごしていたのだ。
「結城くんもララさんもミオやリサもヤミちゃんも待ってるよ。それに…私…だって…」
「わかってるよ。でもな……って大丈夫か?」
「へっ?」
拓人は春菜の顔が次第に赤くなり呼吸が荒くなっている事に気付き春菜の額に手を当て、自分の額にも手を当て春菜の熱が上がっている事に気づいた。
「熱が上がってるな。早く薬を飲んだ方がいい」
拓人は御門からもらった薬を春菜に渡して、春菜は拓人が持ってきた飲み物と一緒にそれを口にして息を整えてベッドに横になった。
「とりあえず今は寝てろ。俺のことは後でいいしな。今は自分の身体の事だけを考えろよ」
「神谷くん…」
「お前に何かあったらそれこそ嫌だからな」
拓人はそう口にしてゆっくり春菜の額に手を置いて優しく撫でた。
本当ならこんな事出来るはずもないのだがこの男、春菜の寂しそうな顔を見て身体が勝手に動いたようだ。
「何だか夢みたい」
「あん?」
「神谷くんがこんなに近くにいて、昔みたいに優しくしてくれてる。本当に夢を見てる気がするの」
どこか遠くを見つめる春菜に拓人はバツが悪そうに視線をそらす。
自分で選んで自分で決めたというのに、目の前の少女といるとそれが無駄だと思ってしまう。
少女の言葉は自分にこれほど影響があるのかと、苦笑してしまうほどに。
「ねぇ神谷くん」
「どうした西連寺?」
春菜からの返答はない。
ただ沈黙が続くなか春菜が顔を拓人に向けて口を開いた。
「そのっ…もう少しだけ…このまま…」
「……ったく。わかったよ」
頬が赤く染まる春菜に拓人はフッと笑って春菜の手を優しく握った。
春菜の目が次第に閉じて嬉しそうに眠る様子を確認して拓人は小さく呟く。
「春菜、お前はこんな俺をずっと待ってくれてるんだよな。本当に敵わねぇよお前には」
拓人は空いたもう一つの手で春菜の頭を優しく撫でながら小さく呟く。
「幸せそうな寝顔しやがって」
そう口にした拓人の表情は無意識なのか笑みを浮かべていた。
とらぶる八話
END