ショッピング金色

中学の時拓人は春菜を守る為にかなりの問題を起こし、その結果学校中の生徒から嫌な顔をされたり負の感情で見られていた。

籾岡もその一人であり拓人としては全く気にはしていなかった。

彩南校に入学してからも拓人を見る人達の目にいい感情はなかったのだが、おそらくこの日から籾岡はリトに接するように拓人と接していくだろう。


「よかったね春菜」

「…うん」


こうしてヤミの服が決まるまで拓人と籾岡と沢田によるファッションショーが始まり、この時だけは確かに三人の姿が友人のようにララと春菜とリトの三人には見えていたようだ。


「ん~、いっそうのことミニスカートとかどうだ?」

「成程ね。神谷にしてはいいチョイスじゃない」

「もしかして~誰かで妄想とかしてるんじゃないの~?」

「…何を言ってるんだか」


籾岡と沢田が拓人を弄り、拓人はその二人の言葉をなんとか返していた。










――――――


「ん~!」


それからしばらくしてようやくヤミの服が決まり、ミニスカートに可愛らしいデザインの服を着たヤミを連れて外に出た拓人達は店の近くで話をしていた。


「これでいいんですか?」

「うんうん!バッチリ!」


いつもとは違う服を着たヤミはどこか戸惑った様子で籾岡に尋ねると、籾岡は満面の笑みで頷きながらヤミに答えた。

その言葉にヤミは次に拓人に視線を向け拓人の反応を聞こうとジーッと見つめたまま動こうとしない。

拓人はなんと言ってくれるのだろう?とヤミは無表情のままだがどこか期待しているようにも見える目で拓人を捉えている。


「…すっげぇ可愛いぜ金色。似合ってる」


頬をポリポリ掻いてヤミに答える拓人だが、たったそれだけの言葉でもヤミとしては嬉しかったようで微かにヤミの胸がドキンと鳴る。


「あっ、あの…。本当にこれは頂いていいんですか?」

「いいよいいよ!ヤミヤミにプレゼントだから。ねぇ神谷!」

「確かに金色にプレゼントするとは言ったが、他の服や下着に関して身に覚えがないんだが…」


実はヤミの服代を払ったのは拓人であり、会計する際に拓人が目を離した一瞬の隙に籾岡と沢田の二人がこっそりと服や下着を入れていたらしく拓人は首を傾げていた。


『あの神谷くん…』


首を傾げている拓人に春菜が申し訳なさそうに口を開いて説明し拓人の疑問は解決したのだがこの二人は何事もなくヤミと話していたのだ。


「…ったくよ。今回は金色の服を選んでくれたからいいけどよ。次はねぇからな」


頭を掻いてため息を吐く拓人にリトは苦笑して籾岡と沢田はハイタッチをかましていた。


「あの神谷拓人」

「んっ?」

「ありがとうございます」


ヤミの言葉に拓人はフッと笑い頷く。

拓人としてはヤミがこうやって地球の文化に興味を持ったことが嬉しかったりする。

こうして普通の女の子と変わらない日々を過ごしてくれるだけで拓人は満足なのである。


「それじゃ、これから神谷の奢りでクレープでも食べにいかない?」

「おっ!ナイスだねリサ!」

「ナイスじゃねぇよ。誰が奢るか」

「「え~!!」」


何故この二人の方が残念そうな顔をするんだ?

あと、春菜も春菜で残念そうな顔をしないでくれ。

リトはご愁傷さまみたいな顔でこっち見んな。しばくぞ。


「クレープなんざいつでも食えんだろうが。俺は疲れたからもう…」

「うほっ!カワイー子がいっぱ~い!」

「ねぇ~ね~キミ達。そんなツマラナイ男達と遊ばないでオレラと遊ばない?」

「……あっ?」


拓人がその場から去ろうとした瞬間、前方から拓人の声を遮るように数人の男達が現れて男達はララ達にナンパをしてきた。

男達は拓人とリトを無視するようにララ達に近付くが、そこで拓人が前に出て鋭い目付きで男達と対峙した。

不機嫌さ丸出しである。


「あっ?何だテメー」


男の一人が拓人を見つめ不快そうな顔をすると、拓人は男達全員を見つめたまま口を開いた。


「テメェラこそ何だよ?人がダチと楽しんでる時に邪魔しやがって」

「んだと!!」


男の一人が拓人の胸ぐらを掴み睨み付けると、春菜が「神谷くん!!」と慌てたように声を出す。

どうやら春菜に心配されたらしく拓人は顔だけを春菜に向けてニッコリ笑って口を開いた。


「心配すんなよ西連寺。こんな雑魚にやられたりしないから」

「このガキ!」


胸ぐらを掴んでいた男がその言葉にキレて拓人を殴ろうとしたがすでに拓人が動いていた。


「おせぇよ」


拓人の拳が男の顔面を捉えており、男は胸ぐらから手を離して片膝をついていた。

片膝をついた男に拓人はトドメと言わんばかりに足蹴りをかまして男を蹴り飛ばすと指を鳴らしながら他の男達に目を向けた


すると、


「神谷拓人」


ナンパ集団を殲滅しようとした拓人の横にヤミが並び、ヤミは自分も協力すると拓人にアイコンタクトを送る。

確かにヤミがいればすぐに終わるだろうが、


「金色もララ達と一緒にいろ」

「何故ですか?」

「決まってんだろ。今日のお前は地球の服を着た普通の女の子なんだよ。その服で戦って破れたりしたら困るだろ。俺としても嫌だしな。だから大人しくしてな」

「……はい」


拓人はポンッとヤミの頭に手を置いて優しく撫でると、リトにアイコンタクトを送りララ達を下がらせてナンパ集団と向き合うとニッコリ笑って口を開いた。


「覚悟しろよテメェラ。本気でぶちのめしてやるからな」


この日の出来事をナンパ集団は一生忘れはしないだろう。

赤い悪魔による圧倒的制裁を。


「…やっぱり強いですね」


ヤミはその拓人の強さを久しぶりに目にしてポツリと呟く。

自分も一度だけ拓人とやりあったが結局引き分けで終わってしまった。

だがあの時と違い今の方が本気なのだろう。

一度戦ってみたいなとヤミは思いつつただジーッと拓人を見つめる。


「神谷くん‥」


それとは逆に春菜は拓人を心配した表情で見つめていた。

拓人は何の躊躇いもなく男達を殴り地に沈めていた。

本当なら喧嘩なんかしてほしくはない。

だけど自分に拓人は止められない。

だって――


『俺は西連寺を守れるならいいんですよ秋穂さん。アイツの為なら何だってしますから』

『拓人くん…』

『幼馴染みですしね』


姉と拓人が話していた内容を春菜は覚えていた。

なら自分に何ができる?


「神谷くん…」


まだ拓人との距離は遠いままだ。

だから少しずつ距離を縮めるしかない。

春菜は拓人の姿を目にしもう少し頑張ろうと自分の中で決めるのであった。

拓人による制裁が終わり、地面にはモザイクだらけの物体が転がっていた。

拓人は息を吐いて身体を伸ばし目を細める。

少しだけストレス発散になったなと口にはしないが内心そう思う拓人はモザイクを見つめる。


「神谷拓人」

「何だよ金色?」

「相変わらず強いですね。今度私と戦ってくれませんか?」

「勘弁してくれ。お前相手に本気になれっかよ」

「…それは私では役不足だからですか?」


若干ヤミの目がつりあがり不機嫌さを出しているが、拓人は小さく首を横に振って答えた。


「ちげぇよ。本気で戦ったら少なくともお前を傷つける可能性があるからな。俺にとってお前は…」


そう言いながら拓人はヤミのほっぺたを掴みフッと笑って再び口を開いた。


「ダチだからよ。ダチを傷つけたくねぇんだ」

「……変な人ですね。アナタは」


自分のほっぺたを掴む拓人にヤミは無意識にだが口元を緩める。

表情こそ無表情だが微かに緩まった口元をみる限りヤミも悪い気はしないのだろう。


「さてと…」


拓人はヤミのほっぺたから手を離して、リト達に背を向けるとゆっくり歩き出した。


「拓人!」

「わりぃなリト。今日はもう帰るわ。また今度遊ぼうぜ」


またな~と背を向けたまま手を振りながら歩く拓人にリトではなく籾岡が口を開いた。


「神谷!」

「ん~」

「ちゃんと学校に来なさいよ!春菜や結城やララちぃが待ってるんだからね」

「‥‥リサ」


籾岡の言葉に拓人は一度足を止めて背を向けたまま肩を竦める。

どうやらまだ行く気はないようで籾岡の言葉にも返さない。


「あと私やミオも待っててあげるから来なさいよ!」

「‥‥気が向いたらな」


肩を竦めたまま去っていく拓人に籾岡はため息を吐く。

どうしてあんな事を言ったのだろうか?とらしくない自分に呆れていると、


「リサ…」


春菜が不思議そうな顔で籾岡に目を向けていた。

それは春菜だけではなくリトやミオも不思議そうにしている。


「なんか見てらんなくてね。春菜がアイツと昔みたいに戻りたいんじゃないかって思ったらつい」


春菜と拓人が幼馴染みなのを籾岡は知っていた。

しかし自分が知ったのはあの中学の時の事件のあとであり、春菜の気持ちを知っていたがどうしようもなかったのだ。

拓人は誰であろうが叩きのめしていたのだから。

例外として結城リトがいたりするのだが。


「なら私も少しだけ協力しましょうか?」

「ヤミちゃん?」


話を聞いていたヤミが口を開くと、皆の視線がヤミに向けられる。


「私も神谷拓人が学校に来てくれればありがたいですし」


ヤミとしては拓人と話せればそれでいいのだが本当にそれだけなんだろうか?


(それに――)


ヤミの脳裏に浮かぶ拓人の笑った顔。

ヤミにとってあれは――


(暖かいものでした)


ほんの少しだがヤミの心に暖かい何かが流れ込んでいた。

それがまだ何かは分からないがヤミにとって嫌なものではない。


「神谷拓人…」


とらぶる七話
END
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