ショッピング金色

ギドと共にマフィアを壊滅させてから数日が過ぎて、あの戦いが嘘だったように穏やかな日々をすごし拓人はいつも通り学校をサボっており、今現在彩南町のとある場所でベンチに座ってコーヒーを片手に寛いでいた。

今日も拓人の携帯の着信履歴にはリトの名前がビッシリと残っており、拓人はそれを確認してすぐに削除するとこれから何をしようかと考えている。

悪友達は用事があると言ってダメだったし、家に帰ってもやることはない。


「んっ、あれは?」


ふと拓人の視界に金色の髪が入り、その髪の持ち主はピンク色の髪に彩南校の制服を着たお姫様を含む数人と何やら話をしていた。

どこからどう見ても金色の闇とララ達である。

学校帰りのララ達が金色を何処かに連れていこうとしているようだが、あいにくと拓人とララ達の距離は少し離れているため内容が全て聞こえるわけじゃない。

なので拓人が次にとる行動は一つしかない。


「見つかる前に離れるか」


ゆっくりとベンチから離れて拓人はコーヒーをゴミ箱に放り投げてその場から去ろうとしたのだが、そこで拓人の思いを裏切るような事が起きてしまう。

「あっ…」


拓人が放り投げたコーヒーの缶がゴミ箱に弾かれて、サッカーボールをたまたま蹴っていた少年の足に缶が当たり、缶は少年に蹴られ放物線を描くように缶はそのまま落下してララと一緒にいたリトの頭にコツンと当たってしまうのであった。


「いって…!」


コーヒーの缶が頭に当たりリトは誰の仕業だと辺りを見回して、缶を投げた犯人こと拓人とバッチリ目が合い拓人はニッコリ笑ってリトに手を振りながら消えようとしたのだが、


「拓人ーー!!」

「さらば!」


リトがかつてないほどのスピードで拓人を捕まえて、拓人は再びベンチに戻る事になるのであった。

まさについていない男である。

だが拓人の姿を見て表情が嬉しそうに笑っている少女もいたようで、


「神谷くん」


その少女は頬を赤く染めながら拓人を見つめ、そんな少女を親友二人が複雑そうな表情で見ていた事に誰も気づきはしなかった。





「ふ~ん、地球の服を金色にね~」

「うん!そうなの!」


ベンチに座った拓人に先程のやり取りを伝えながら楽しそうに笑うララ。

拓人としては金色がどんな服を着るんだろうと気になるところなのだが、二つの視線が自分を捉えている事に気付きめんどくさそうに口を開いた。


「そんで俺に何か用か沢田に籾岡?」


春菜の親友である沢田と籾岡の二人がジーッと何かを探るように拓人を見つめていた。

まるで身体に穴を開けるように見つめる二人はお互いの顔を見合せ頷くと二人同時に口を開いた。


「「神谷だよね?」」

「あっ?何言ってんだお前ら」


二人の問い掛けに拓人は怪訝な表情を浮かべる。

一体何が言いたいんだこの二人は?

春菜は春菜で不思議そうな顔をしているし、金色はララに捕まったまま大人しくしているし。

リトはリトでいまだに頭を擦っているが。


「だってさ、私らが知ってる神谷って近付くだけでも怖かったのに」

「雰囲気が前より柔らかくなってるんじゃない?」


中学の時の拓人を知っている沢田と籾岡は本当に目の前にいるのが拓人なのかと疑っているようだ。

おそらくそんな風に見られた原因は一つしかない。


「ヤミちゃんはどんな服がいいの~?」


いまだにヤミを捕まえているララが来てから自分は変わったのかもしれない。

このお姫様は何の躊躇いもなく壁を壊す宇宙人なのだから。


「なぁにタクト?」

「何でもねぇよ。それより金色の服を見に行くんだろ?」


拓人はチラリとララの方に目を向けたあとすぐに沢田と籾岡に話を振ると、二人はハッとした表情になりヤミの手をとるとニッコリ笑って駆け出していった。

そんな二人に連れていかれるヤミは小さく「……私は別に」と呟いていたが二人には全く聞こえていなかったようだ。


「じゃあ私達も行こっか!リト!春菜!タクト!」

「ちょっ!?ララ、まっ!待てーー!!」


リトの叫びなどララには届いていないのか、駆け出すララに連れて行かれるリトの身体は浮いておりその場には拓人と春菜の二人だけが残されてしまう。


(ララさん。私と神谷くんを二人っきりにする為に)


ララは離れる前に春菜にウインクをしていたようで、春菜は緊張した表情でチラリと拓人に視線を向ける。

春菜としては久しぶりに拓人と会うわけで胸がドキドキと高鳴っていた。


「ララのやつ、俺はまだ行くなんて言ってねぇのに」

「いっ、行かないの?」

「どうすっかな~」


わりと真面目に考える拓人に春菜は、恐る恐る勇気を振り絞るように拓人の手に自分の手を伸ばしながら口を開いた。


「少しだけでもダメかな?」

「……ッ!!」


キュッと拓人の服の袖を掴み上目遣いで見つめる春菜に拓人は顔を赤くさせ春菜の手を握り小さく、「…その顔は卑怯だろうが」と呟きララ達のあとを追っていった。


(う~、恥ずかしいよ)


強引に誘ってみたものの春菜は恥ずかしさで顔を赤くさせ胸の高鳴りは最高潮に達していた。












――――――――

~Indies Bland 【Cronos】~

ヤミの服選びという事で沢田と籾岡が連れてきた店は、女性服専門の店でありそこには下着もあるわけで拓人とリトの二人は顔を赤くさせ辺りを見回していた。


「拓人…」

「何も言うな。無心になれ。俺達は置物だ。空気なんだ」

「無茶言うな!!」


いくら女の子と一緒に来たとは言え、男二人でこの場にいるのはハッキリ言って心臓に悪い。

こんなところを知り合いに見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。


「ねぇねぇリト!これ可愛いよ~」

「バッ!こっちに持ってくんな」


ヤミの服選びは沢田と籾岡の二人がやっているのか、ララは可愛らしい下着を手にしてリトに見せていた。

リトはその下着を見る前に顔から煙を出し顔を真っ赤にさせ俯くように下を向く。

可哀想なやつだと拓人はヤミがいる試着室に足を運び、そこにいる春菜と話を始めた。


「どんな感じだ?」

「リサとミオの二人がヤミちゃんに洋服を渡してたから今着替えてると思うよ。ヤミちゃん、きっと似合うだろうな~」


あの二人が選んだ服がどんなものか知らないが金色なら似合うだろう。


「ヤミちゃ~ん!まだ~!」


ふと背後からララの声が聞こえてくると早くヤミの姿を見たいのかララは好奇心を我慢できずにララはカーテンを開けてしまう。


「ラ、ララさん!」

「バッ!ララ!待て!」


何の躊躇いもなくカーテンを開けたララに春菜と拓人は驚くが、それは着替えていたヤミも同じである。

何故ならヤミはいつものバトルドレスを脱いでおり、上半身はバトルドレスで隠して見えないが下半身はバッチリ見えている。

つまりヤミの下着をバッチリ拓人は見たわけで拓人の顔は真っ赤に染まり、ヤミもまた顔を赤くさせプルプル震える。


「落ち着け金色。決してわざとじゃ…」

「み…見ないでください…」


顔を赤くさせたヤミが次にとった行動は実にシンプルである。

髪の毛をトランスさせて巨大な拳に変えると、その巨大な拳を思い切り拓人に叩き込み、拓人はそのまま床に叩きつけられてしまう。


「あら?なにしてんの神谷?」

「気にするな」


ヤミの拳で沈んでいる拓人に籾岡が不思議そうな顔を浮かべ、一部始終を見ていた春菜は苦笑しておりリトはそんな拓人に同情するのであった。


「ヤミヤミ~OKかしら?」

「……はい」


籾岡はとりあえず沈んでいる拓人から視線を外しヤミに声を掛けると、ヤミは小さく答えてカーテンを開けて姿を現した。


「…どうですか?」


いつもバトルドレスを着ているヤミを見ている者達は、今のヤミの姿に新鮮さを感じて目を輝かせていた。

そんな中でヤミはジーッと拓人を見つめ拓人の反応を待っている。


「いてて…」


拓人は頭を抑え地球の服を着たヤミに目を向けて自分の思った事をそのまま口にした。


「ちょっとボーイッシュすぎるけど可愛いじゃねぇか。似合ってんぞ金色」

「あ、ありがとうございます…」


どこか嬉しそうで恥ずかしそうに頬を染め顔を俯かせるヤミに拓人は本当に変わったなと思いつつ背中に突き刺さる視線の持ち主に目を向ける。


「何か言いたそうだな籾岡」

「別に~。ただ本当に神谷って変わったと思ってね。正直言うと今のアンタの方が私は話しやすいしいいと思うわよ」


そう口にした籾岡は拓人から視線を外し、再び沢田と一緒にヤミの服を選びながらヤミに渡し始めた。

そんな籾岡の姿を見ていた沢田は少しだけ驚いていたが、すぐにヤミの方に思考を切り替えて服を選ぶのであった。


(まさか籾岡からあんなことを言われるなんてな)


中学の時の自分を知っている人間からあんな風に言われて拓人はフッと笑う。
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