兄の願い
自分には昔の記憶がない。
物心ついた時に今の父と母から自分の本当の両親の事を聞かされ、すでにこの世にはいないという事を教えてくれた。
今の両親は本当の両親と親友だったらしく、自分達に何かあったら湊を頼むと言われ大切に育てていたようだ。
自分としては今の両親も本当の両親であり、これからもその気持ちは変わらないと伝えた。
しかしこの時一つの疑問が頭に浮かんだ。
自分は一人っ子だったのか?
もしかして兄がいたのではないかと―――
『……湊』
顔も思い出せないけど何故かその声だけが耳にいつも残っていた。
――――――
「ぐあっ!!」
「…ガハッ!」
頭を抑え膝をついていた湊の耳に聞こえてきた悠季と奏也の声。
二人は湊の兄である裕理と戦い二対一なのに、悠季のBJはボロボロで奏也のテバイスである二丁拳銃型デバイスは傷だらけだった。
それに対し裕理は鎧どころかマントすら汚れておらず、二人の前に立ち絶対的な強者のオーラで腕を組んでいた。
「どうした、管理局の協力者達よ。まさかそれで終わりとは言わないだろう?」
悠季と奏也の二人は息を荒くし額からうっすらと汗を流しながら裕理を見つめていた。
「…悠季」
「あぁ、神魔杯でクロノと戦った時よりもこの男強くなってやがる」
「…って事はこれが本当の実力だったって事か」
二人は顔を見合せ小さく頷くと左右に別れて裕理を挟むように立ち悠季は剣に風を纏わせ、奏也は拳銃に魔力を込め二人は裕理に対して全力で放つ。
「烈風刃!」
「フレイム弾!」
左右から風の刃と炎の弾丸が迫る状態で裕理は笑みを浮かべ、両手を左右に伸ばしそれを軽々と受け止める。
本来なら確実にダメージを与える魔法なのに、裕理はそれをものともせず手をパンパン叩き何事もなかったように首を鳴らす。
「それで終わりか?なら次は俺の番だな」
そう口にし裕理は奏也の方に体を向けて、ウェイクアップフエッスルを一回吹かせるとその腕に禍々しい力が集まり奏也目掛けて振り抜いて、奏也は咄嗟にプロテクションで受け止めたが、裕理のダークネスヘルクラッシュの前ではアメ細工のように脆く一瞬で粉々になり奏也はマトモに喰らってしまい口から血を吐き出しながら吹き飛ばされてしまう。
「奏也!!」
「…ガッ…ハッ…ッ!」
吹き飛ばされた奏也に駆け寄りサンクチュアリで回復させる悠季は顔を歪める。
あんなものを二度も喰らったら確実に命がなくなってしまう。
プロテクションなど全く意味がないとすれば……。
「どうした管理局の協力者達よ。このままでは死ぬことになるぞ」
「何故それだけの力があってジョーカーズに協力している?お前は湊の兄なんだろ!」
「兄だからだ」
「何?」
「俺は湊の幸せの為に戦っているんだ。その為ならこの手を血に染めても管理局と戦う」
「どういう意味だ…」
全くわからない。
こいつは管理局が作り出したクローンではないはずだ。
それなのに何故ここまで憎むことができる?
一体何がこの男をここまでさせているんだ。
湊の幸せだけじゃなく別の何かがあるはずだ。
「俺と湊の両親は…」
裕理は空に浮かぶ紅い月を見上げ次に膝をついている湊に顔を向けてゆっくり口を開いた。
「お前達が協力している管理局に殺された」
「「なにっ…!?」」
「えっ…」
その言葉に悠季と奏也が目を丸くして、湊は頭を抑えたまま裕理を見上げる。
「やつらの狙いは両親が作った俺と湊専用の二つのデバイスだった」
裕理は変身を解除して青年の姿に戻りゆっくりと話を始めた。
その表情は静かに怒りを隠し殺気だっており、悠季と奏也の二人は息を呑んでしまう。
「やつらはデバイスを奪いそれを量産するのが目的だったらしい。何故だと思う?」
「「………」」
裕理の問い掛けに悠季と奏也は怪訝な表情を浮かべた。
二人とも裕理の力を体験して、その力が異常なのはハッキリ分かっている。
それと同じ力が量産されたらどうなる?
その力を使う者が増えるだけでなく戦力だって上がる訳だ。
(待て、何だこの違和感は…)
悠季の頭にふと疑問が浮かびそれがすぐに何なのか気付いて顔を上げた。
「…まさか」
「気付いたようだな」
悠季はハッとし目を丸くさせる。
たったそれだけで裕理には悠季が何に気付いたのか理解した。
つまりそういう事である。
「…管理外世界か」
「……あぁ」
その言葉で奏也も理解したのようで、目を丸くし視線を悠季に向ける。
考えれば簡単な事だった。
その力は使い方次第で相手からすれば脅威にしかならない。
「父と母はデバイスをそんな風に使う事を反対していた。その力は大切な誰かを守る為に作っていたからな。それをやつらは…」
あれは本当に突然の出来事だった。
デバイスが完成して父と母が子供のように笑い合って、俺もそれにつられるようにはしゃいでいた日にやつらは現れたのだ。
数はそこまでいなかったが、それでも力ない人間を始末するには多い人数が襲いかかってきた。
「そこから先はお前達でも分かるだろ。両親は殺されて、俺も殺されると思っていた。けどやつらはデバイスだけでなく湊にまで手を出そうとしていた。だから俺は無我夢中でデバイスを手にしてやつらをこの手で……始末した」
あの日から自分の両手が真っ赤に染まる幻覚に襲われていた。
それでも必死に耐えていたのは全て湊の為だった。
一人の弟を守る為に裕理は戦っているのだ。
「俺はやつらを許すつもりはない。俺がジョーカーズに協力したのは復讐の為であり湊の為だ。その為ならこの命果てるまで戦う」
そう口にして裕理は悠季と奏也を見つめ、殺気をさらに込めながら肩に乗るコウモリの機械を撫でる。
その殺気に二人は体が動かないのか唇を噛みテバイスを握り締めていた。
この男を止める為には自分達も命をかけるしかない。
しかしそれでこの男を倒せるだろうか?
あの力の前に手も足も出せなかった俺達が。
「……湊?」
すると、今まで頭を抑えていた湊がゆっくり立ち上がり顔を歪めていたはずの表情が消えて、いつもの無気力の表情で裕理と対峙して口をゆっくり開いた。
「……裕理兄さん」
「その呼び方…。どうやら思い出したようだな湊」
かつて兄を呼ぶ時と同じように口にした湊に裕理は、どこか嬉しそうに笑っていた。
「本当にこうしてお前に会えて俺は嬉しいよ湊。お前が神魔杯で戦っている姿を見た時は本当に強くなったと兄として誇りに思った。けどな湊―――」
今まで笑っていた裕理の表情が一変して、冷たく憎しみを込めたような表情に変わり近くにいた悠季と奏也は背筋を凍らせ顔色が真っ青になっていた。
「何故やつらに協力する?やつらは俺達の両親を殺し裏では非合法な研究をしているんだぞ。そんなやつらの為にお前が戦う必要はない。お前は俺と一緒にベルエスで世界を変えるべきだ…」
裕理の言葉に悠季は鋭い目付きになりデバイスを握り締める。
「何を勝手な事を言ってる!お前達が今やっている事が正しいと思ってんのか!お前達がやっている事は殺戮だ。そんな事をしているやつらに…」
「部外者は黙っていろ」
裕理は一瞬で悠季の目の前に現れると、殺意を込めた状態で悠季を拳で殴り飛ばし二丁拳銃で魔力弾を放とうとした奏也の腕を掴み、思い切り悠季目掛けて投げ飛ばすと奏也と悠季はぶつかり地面に倒れてしまう。
「裕理兄さん…」
自分にとって兄は唯一の家族であり大切な家族だ。
兄さんは今まで弟である自分の為に手を血に染めて戦っていた。
俺はどうしたらいい?
「……湊」
「行くな、湊」
裕理によってボロボロになった悠季と奏也が口から血を流し湊を止めようとするが、湊の足はゆっくりと裕理に向かい止まる事がなかった。
このままでは湊が連れていかれてしまう。
だけど体が動かない。
二人が諦めかけたその瞬間、それは上空から飛んできたのである。
『湊ーーーー!!』
「えっ…」
「んっ?」
上空から何かが物凄い勢いで飛んでくると、その何かは湊の頭に直撃して地面に落下してしまう。
その勢いに湊は頭を抑えて涙目のまま目を向けると、そこにはコウモリのような機械がバッサバッサと羽を動かし赤い目で湊を見つめていた。
「キミは…」
湊の記憶通りならあの日体育祭で手に入れた機械であり一回も使用しなかったものである。
手に入れてから使おうとしたが、使う間もなく自室の机に置いていたはずの機械が自分の目の前に現れて湊は首を傾げる。
『こらぁ湊!お前は本当にそれでいいと思ってんのか!?』
コウモリのような機械は飛び上がり、湊の肩に乗り湊を叱るように再び口を開いた。
『湊、お前が戦っていたのは管理局の為じゃねぇだろうが』
「…えっ?」
『お前が戦っている理由は彼女の工藤叶の為じゃなかったのか!!』
「……叶」
その言葉にハッと我に返り湊は足を止めた。
そうだ。
自分はあの子の笑顔を守る為であの子と一緒に生きていく為に強くなろうと決めたはずだ。
あの体育祭の時に理事長に叶との交際を認めてもらってからそう決めていたはずだ。
何でこんな大切な事を忘れていたんだ。
「…裕理兄さん」
「湊?」
湊は裕理から離れるように足を動かしまるで対峙するように立つと真剣な表情でゆっくりと口を開いた。
「…俺は兄さんとは一緒に行けない。俺には……俺には大切な人がいる。俺が戦う理由は……その子と一緒に生きていく為なんだ。だから――」
『いくぜ湊!!』
コウモリの口がパカッと開いて湊の手に噛みつくと、湊の顔にステンドグラスの模様が浮かび湊の腰にベルトが出現して湊はコウモリをベルトに装着させて裕理を見つめた。
「俺は兄さんと戦う。……変身」
湊の体が銀色の鎧に包まれまるで吸血鬼のような姿に変わる。
その姿を目にして裕理はどこか残念そうに息を吐き悲し気な表情を浮かべて、湊と同じようにコウモリを手に持ちその手を噛ませ湊のように変身してその体を真っ赤な鎧が包みマントが靡く。
「それがお前の答えだな湊」
「……兄さんを止める」
紅い月の下で最初で最後のになるかもしれない兄弟喧嘩が始まる。
果たして勝つのは?
次回予告
湊
「…俺は兄さんを止める」
裕理
「悪いが俺は負けるつもりはない。兄としてな」
悠季
「次回S.H.D.C.
第四十二話
『兄と弟』に…」
奏也
「ドライブイグニッション!」
物心ついた時に今の父と母から自分の本当の両親の事を聞かされ、すでにこの世にはいないという事を教えてくれた。
今の両親は本当の両親と親友だったらしく、自分達に何かあったら湊を頼むと言われ大切に育てていたようだ。
自分としては今の両親も本当の両親であり、これからもその気持ちは変わらないと伝えた。
しかしこの時一つの疑問が頭に浮かんだ。
自分は一人っ子だったのか?
もしかして兄がいたのではないかと―――
『……湊』
顔も思い出せないけど何故かその声だけが耳にいつも残っていた。
――――――
「ぐあっ!!」
「…ガハッ!」
頭を抑え膝をついていた湊の耳に聞こえてきた悠季と奏也の声。
二人は湊の兄である裕理と戦い二対一なのに、悠季のBJはボロボロで奏也のテバイスである二丁拳銃型デバイスは傷だらけだった。
それに対し裕理は鎧どころかマントすら汚れておらず、二人の前に立ち絶対的な強者のオーラで腕を組んでいた。
「どうした、管理局の協力者達よ。まさかそれで終わりとは言わないだろう?」
悠季と奏也の二人は息を荒くし額からうっすらと汗を流しながら裕理を見つめていた。
「…悠季」
「あぁ、神魔杯でクロノと戦った時よりもこの男強くなってやがる」
「…って事はこれが本当の実力だったって事か」
二人は顔を見合せ小さく頷くと左右に別れて裕理を挟むように立ち悠季は剣に風を纏わせ、奏也は拳銃に魔力を込め二人は裕理に対して全力で放つ。
「烈風刃!」
「フレイム弾!」
左右から風の刃と炎の弾丸が迫る状態で裕理は笑みを浮かべ、両手を左右に伸ばしそれを軽々と受け止める。
本来なら確実にダメージを与える魔法なのに、裕理はそれをものともせず手をパンパン叩き何事もなかったように首を鳴らす。
「それで終わりか?なら次は俺の番だな」
そう口にし裕理は奏也の方に体を向けて、ウェイクアップフエッスルを一回吹かせるとその腕に禍々しい力が集まり奏也目掛けて振り抜いて、奏也は咄嗟にプロテクションで受け止めたが、裕理のダークネスヘルクラッシュの前ではアメ細工のように脆く一瞬で粉々になり奏也はマトモに喰らってしまい口から血を吐き出しながら吹き飛ばされてしまう。
「奏也!!」
「…ガッ…ハッ…ッ!」
吹き飛ばされた奏也に駆け寄りサンクチュアリで回復させる悠季は顔を歪める。
あんなものを二度も喰らったら確実に命がなくなってしまう。
プロテクションなど全く意味がないとすれば……。
「どうした管理局の協力者達よ。このままでは死ぬことになるぞ」
「何故それだけの力があってジョーカーズに協力している?お前は湊の兄なんだろ!」
「兄だからだ」
「何?」
「俺は湊の幸せの為に戦っているんだ。その為ならこの手を血に染めても管理局と戦う」
「どういう意味だ…」
全くわからない。
こいつは管理局が作り出したクローンではないはずだ。
それなのに何故ここまで憎むことができる?
一体何がこの男をここまでさせているんだ。
湊の幸せだけじゃなく別の何かがあるはずだ。
「俺と湊の両親は…」
裕理は空に浮かぶ紅い月を見上げ次に膝をついている湊に顔を向けてゆっくり口を開いた。
「お前達が協力している管理局に殺された」
「「なにっ…!?」」
「えっ…」
その言葉に悠季と奏也が目を丸くして、湊は頭を抑えたまま裕理を見上げる。
「やつらの狙いは両親が作った俺と湊専用の二つのデバイスだった」
裕理は変身を解除して青年の姿に戻りゆっくりと話を始めた。
その表情は静かに怒りを隠し殺気だっており、悠季と奏也の二人は息を呑んでしまう。
「やつらはデバイスを奪いそれを量産するのが目的だったらしい。何故だと思う?」
「「………」」
裕理の問い掛けに悠季と奏也は怪訝な表情を浮かべた。
二人とも裕理の力を体験して、その力が異常なのはハッキリ分かっている。
それと同じ力が量産されたらどうなる?
その力を使う者が増えるだけでなく戦力だって上がる訳だ。
(待て、何だこの違和感は…)
悠季の頭にふと疑問が浮かびそれがすぐに何なのか気付いて顔を上げた。
「…まさか」
「気付いたようだな」
悠季はハッとし目を丸くさせる。
たったそれだけで裕理には悠季が何に気付いたのか理解した。
つまりそういう事である。
「…管理外世界か」
「……あぁ」
その言葉で奏也も理解したのようで、目を丸くし視線を悠季に向ける。
考えれば簡単な事だった。
その力は使い方次第で相手からすれば脅威にしかならない。
「父と母はデバイスをそんな風に使う事を反対していた。その力は大切な誰かを守る為に作っていたからな。それをやつらは…」
あれは本当に突然の出来事だった。
デバイスが完成して父と母が子供のように笑い合って、俺もそれにつられるようにはしゃいでいた日にやつらは現れたのだ。
数はそこまでいなかったが、それでも力ない人間を始末するには多い人数が襲いかかってきた。
「そこから先はお前達でも分かるだろ。両親は殺されて、俺も殺されると思っていた。けどやつらはデバイスだけでなく湊にまで手を出そうとしていた。だから俺は無我夢中でデバイスを手にしてやつらをこの手で……始末した」
あの日から自分の両手が真っ赤に染まる幻覚に襲われていた。
それでも必死に耐えていたのは全て湊の為だった。
一人の弟を守る為に裕理は戦っているのだ。
「俺はやつらを許すつもりはない。俺がジョーカーズに協力したのは復讐の為であり湊の為だ。その為ならこの命果てるまで戦う」
そう口にして裕理は悠季と奏也を見つめ、殺気をさらに込めながら肩に乗るコウモリの機械を撫でる。
その殺気に二人は体が動かないのか唇を噛みテバイスを握り締めていた。
この男を止める為には自分達も命をかけるしかない。
しかしそれでこの男を倒せるだろうか?
あの力の前に手も足も出せなかった俺達が。
「……湊?」
すると、今まで頭を抑えていた湊がゆっくり立ち上がり顔を歪めていたはずの表情が消えて、いつもの無気力の表情で裕理と対峙して口をゆっくり開いた。
「……裕理兄さん」
「その呼び方…。どうやら思い出したようだな湊」
かつて兄を呼ぶ時と同じように口にした湊に裕理は、どこか嬉しそうに笑っていた。
「本当にこうしてお前に会えて俺は嬉しいよ湊。お前が神魔杯で戦っている姿を見た時は本当に強くなったと兄として誇りに思った。けどな湊―――」
今まで笑っていた裕理の表情が一変して、冷たく憎しみを込めたような表情に変わり近くにいた悠季と奏也は背筋を凍らせ顔色が真っ青になっていた。
「何故やつらに協力する?やつらは俺達の両親を殺し裏では非合法な研究をしているんだぞ。そんなやつらの為にお前が戦う必要はない。お前は俺と一緒にベルエスで世界を変えるべきだ…」
裕理の言葉に悠季は鋭い目付きになりデバイスを握り締める。
「何を勝手な事を言ってる!お前達が今やっている事が正しいと思ってんのか!お前達がやっている事は殺戮だ。そんな事をしているやつらに…」
「部外者は黙っていろ」
裕理は一瞬で悠季の目の前に現れると、殺意を込めた状態で悠季を拳で殴り飛ばし二丁拳銃で魔力弾を放とうとした奏也の腕を掴み、思い切り悠季目掛けて投げ飛ばすと奏也と悠季はぶつかり地面に倒れてしまう。
「裕理兄さん…」
自分にとって兄は唯一の家族であり大切な家族だ。
兄さんは今まで弟である自分の為に手を血に染めて戦っていた。
俺はどうしたらいい?
「……湊」
「行くな、湊」
裕理によってボロボロになった悠季と奏也が口から血を流し湊を止めようとするが、湊の足はゆっくりと裕理に向かい止まる事がなかった。
このままでは湊が連れていかれてしまう。
だけど体が動かない。
二人が諦めかけたその瞬間、それは上空から飛んできたのである。
『湊ーーーー!!』
「えっ…」
「んっ?」
上空から何かが物凄い勢いで飛んでくると、その何かは湊の頭に直撃して地面に落下してしまう。
その勢いに湊は頭を抑えて涙目のまま目を向けると、そこにはコウモリのような機械がバッサバッサと羽を動かし赤い目で湊を見つめていた。
「キミは…」
湊の記憶通りならあの日体育祭で手に入れた機械であり一回も使用しなかったものである。
手に入れてから使おうとしたが、使う間もなく自室の机に置いていたはずの機械が自分の目の前に現れて湊は首を傾げる。
『こらぁ湊!お前は本当にそれでいいと思ってんのか!?』
コウモリのような機械は飛び上がり、湊の肩に乗り湊を叱るように再び口を開いた。
『湊、お前が戦っていたのは管理局の為じゃねぇだろうが』
「…えっ?」
『お前が戦っている理由は彼女の工藤叶の為じゃなかったのか!!』
「……叶」
その言葉にハッと我に返り湊は足を止めた。
そうだ。
自分はあの子の笑顔を守る為であの子と一緒に生きていく為に強くなろうと決めたはずだ。
あの体育祭の時に理事長に叶との交際を認めてもらってからそう決めていたはずだ。
何でこんな大切な事を忘れていたんだ。
「…裕理兄さん」
「湊?」
湊は裕理から離れるように足を動かしまるで対峙するように立つと真剣な表情でゆっくりと口を開いた。
「…俺は兄さんとは一緒に行けない。俺には……俺には大切な人がいる。俺が戦う理由は……その子と一緒に生きていく為なんだ。だから――」
『いくぜ湊!!』
コウモリの口がパカッと開いて湊の手に噛みつくと、湊の顔にステンドグラスの模様が浮かび湊の腰にベルトが出現して湊はコウモリをベルトに装着させて裕理を見つめた。
「俺は兄さんと戦う。……変身」
湊の体が銀色の鎧に包まれまるで吸血鬼のような姿に変わる。
その姿を目にして裕理はどこか残念そうに息を吐き悲し気な表情を浮かべて、湊と同じようにコウモリを手に持ちその手を噛ませ湊のように変身してその体を真っ赤な鎧が包みマントが靡く。
「それがお前の答えだな湊」
「……兄さんを止める」
紅い月の下で最初で最後のになるかもしれない兄弟喧嘩が始まる。
果たして勝つのは?
次回予告
湊
「…俺は兄さんを止める」
裕理
「悪いが俺は負けるつもりはない。兄としてな」
悠季
「次回S.H.D.C.
第四十二話
『兄と弟』に…」
奏也
「ドライブイグニッション!」