四柱突入!

「お断りだよ豆狸。そんな事したらボルキアに氷のオブジェにされちまうからな。それに――」


スパーダはひょいと立ち上がりポケットに片手を突っ込んで首を鳴らしゆっくり口を開く。


「お前小さいから俺的に却下なんだわ」

「……んっ?小さい?えっと何を言ってるんや」


スパーダの言葉の意味が全く分からないはやては困惑した表情で首を傾げるが、スパーダは可哀想なものを見るような目ではやての身体のある一部分に目を向ける。

詳しく言うならはやての胸の部分だ。


「ボルキアが言ってたぜ、八神はやてって態度はでかいが胸は小さいってよ。俺ってさ何でもデカイ方が好きなんだよな~。いや~残念っ!!」

「……ほぅ」


その瞬間、確実に冷たい風と空気が凍りついたのをヴォルケンズは感じた。

その発生源が自分達の前にいるはやてである事に一瞬で気付きカタカタ震え始める。


それに対しはやてはニコニコ笑いシュベルトクロイツをブンブン振り家族であるヴォルケンズの方を向きながら口を開いた。


「皆、作戦変更や」

「はっ、はやて?」

「こいつの根性を叩き直したる。私を豆狸とか皆を闇の書のプログラムとか言ったのも許さへんけど何より――」


はやてにとって何より許せなかったのは、


「誰の胸が小さいや!絶対に許さへん!覚悟しい!!」


己の胸を小さいと言われた事である。

実のところはやての胸は小さいわけではない。

ただただ周りがはやてより大きいだけであり決して小さくはない。


『主はやて、落ち着いてください』


完全に怒っているはやてをユニゾンしているアインスンが宥めるが、はやての心はマグマのように燃え上がり元には戻らないようだ。


「怖い、怖い。まぁ、お前ら全員を相手にすんのが俺の役目だしそれぐらい怒ってくれた方がやりやすいってもんだ。かかってこいよ八神はやてに闇の書のプログラム共。ただし――」


スパーダはフッと笑って一歩だけ足を踏み出すとスパーダの身体が蜃気楼のように揺れはやて達の視界から姿を消していつの間にかはやて達から少し離れた場所に移動していた。


「風帝スパーダ・ディシーズを捉える事が果たしてお前らに出来るかな?」


不敵に笑うスパーダにはやて達は気を引き締める。

こうして風帝との戦いは始まりを告げたようだ。






~四柱・悠季side~

ショウやはやて達がジョーカーズと対峙している頃、ナデシコから四柱に転移した悠季と湊と奏也の三人は紅い月が浮かび蝙蝠が飛んでいる場所に立っていた。

不気味としか言えないこの場所を見て悠季と奏也は顔を強張らせているが、湊はただジッと紅い月を見上げ何かを考えていると紅い月が急に輝きだして三人はあまりの眩しさに目を閉じる。


「チッ、目眩ましか」

「何も見えない」

「……眩しい」


悠季と奏也が悪態をつくなか湊だけは正直な感想を述べる。

相変わらずと言えば相変わらずなのだがそれが湊である。


『管理局に協力する者達よ、俺のフィールドへようこそ』

「「「!?」」」


光が消えたと同時に三人の前に現れたのは、蝙蝠のような機械を肩を乗せ紅い月をバックに飛んでいる男だった。

その男の姿に悠季と奏也はあっ、とした表情になり湊だけは頭を抑えていた。

まるで何かを思いだそうとしているように見える。


「お前は確か神魔杯でクロノと戦っていた」

「裕理だったな」


神魔杯の会場にいた悠季と奏也が男に向かってそう口にすると、男はフッとわらってその言葉に答えるように口を開いた。

それが湊にとって衝撃的なものであり、悠季や奏也すらも驚愕する事になる。


「お前達に改めて名乗ろう。俺の名は有里裕理。そこにいる有里湊の兄だ。久しぶりだな湊」

「……えっ?」


男の言葉に湊は唖然とし悠季と奏也は目を見開き二人を見つめていた。

何故なら二人とも湊に兄がいるなんて知らなかったからだ。

昔からの付き合いである朝倉純一や工藤叶や杉並もそんな事を言ってはなかった。


「ちょっと待てよ、湊の兄が何故ジョーカーズの味方をしている?」


対峙する裕理に悠季が鋭い目付きでそう問い掛けると、裕理は真剣な表情で悠季の問いに答えた。


「それは簡単な話だ。俺はジョーカーズの協力者であり管理局に復讐する為に戦っているからだ」

「管理局に復讐だと?どういう意味だ?」


裕理はその悠季の問いに答えることなく肩に乗る機械を手にし機械に手を噛ませると、裕理の顔に何かが浮かび上がり腰にベルトのようなものが出現した。

裕理は何も言わない。

これから先は戦いで答えるらしい。


「本気でかかってこい。少しでも手を抜いたら死ぬぞ。――変身」


そう口にして裕理は機械をベルトに装着すると、裕理は己の身体に赤い鎧を纏いマントを靡かせながら三人の前に立った。

悠季と奏也はお互いの顔を見合せ小さく頷くと己の武器を手にし裕理と向かい合う。

その中で湊は頭を抑え片膝をつき対峙する裕理を見つめている。


「悠季」

「あぁ、湊には悪いが本気でやるぞ。四柱破壊が俺達の役目だからな。それに――」


湊の兄だとしたら戦わせる訳にはいかない。

身内同士で戦いなんてさせたくないし傷つけたくない。

これは命をかけた戦いになる。

身内が身内を殺すなんて後味が悪いだけだ。


「奏也!」

「おぅ!!」

「お前達では俺には勝てない。絶対にな!!」


悠季と奏也対裕理の戦いが始まった。

三人の戦いを見ながら湊は自分の中に何かが流れ込むのを感じ目を閉じていた。


『湊には何もするな!』

『お前らに俺達の両親のデバイスは渡さない。――変身!!』


「……これは」


その何かを湊はうっすらだが思い出し始めていた。

果たして湊が忘れている事とは?

湊と裕理の兄弟の過去とは?


紅い月がただ浮かび上がりその紅い月をバックに蝙蝠が飛び、その蝙蝠が湊を見つめているなど誰一人気づいてはいないだろう。










――――

~四柱・稟side~

悠季達が裕理と戦いを始めた頃、稟と純一とハヤテと樹の四人は一人の男と一人の女性と対峙していた。

この場所はボルキアがいる銀世界やスパーダのいる自然溢れる世界や裕理のいる不気味な世界とは違いただ荒野が広がっているだけだった。

本当に何もない世界で対峙する者達。

稟は自分の正面にいる男の姿にポツリと呟いた。


「……エグザ」

「久しいな土見稟。王を目指す男よ」


神魔杯で稟を圧倒的な力で叩き潰した男が目を開けて四人の姿を目に捉え静かに口を開いた。

ただそれだけなのに純一やハヤテは額に汗を浮かべる。

二人ともエグザの放つプレッシャーや圧倒的な力を感じているのだろう。


「お前がここを守っているジョーカーズなのか?」

「その通りだ」

「ふーん、それじゃあ横にいる女の子と一緒に戦うのかい?」


稟の横に並ぶようにトンファーを装備した樹が現れ、樹はエグザの横にいる女の子に目を向け問い掛ける。

エグザがその問いに答えようとしたが、女の子が一歩足を踏み出し胸を張りながら樹の問いに答えてくれた。


「僕はエグザの戦いを見守るためにここにいるんだよミドリバイツキ。本当は一緒に戦いたかったのに……。でもエグザはキミ達と一人で戦いたいって言ったから。だから僕はただ見てるだけ。僕の事は気にしなくていいよ」


女の子の言葉に樹は顎に手を置いて『ふむ…』と声を出しチラリとエグザに目を向け口を開いた。


「成る程ね。でもいいのかい?」

「何が?」

「一人で僕達四人と戦えるのかと思ってね」

「それなら安心しろ――」


樹の言葉に女の子ではなくエグザが静かに返し拳を握り構えた瞬間、四人は強大な力を感じ無意識に息を呑んだ。

まるで心臓を鷲掴みされたように四人は息苦しさを感じるなかエグザはただ一言口にした。


「ジョーカーズ土帝エグザ・シュラハト、今こそ本気でお前達と戦おう。土見稟よ――」

「なっ、何だ?」

「あの大会で答えられなかったお前なりの王について答えてもらうぞ」


その言葉は稟の胸をドキッとさせる一言だった。

あの大会以降稟はずっと考えていたのだ。

王とはなにか?

自分は神界や魔界の王についてどう思っていたのか。

自分にあの二人を継ぐだけの力があるのだろうか?と。


「――あぁ!覚悟しろよエグザ!これが俺の答えだ!純一!ハヤテ!樹!」


稟は己のデバイスを起動させ斧を肩に担ぎエグザと向き合う。

その目に宿るのは覚悟と言うなの赤い炎。

その稟に続くように純一にハヤテもデバイスを起動させ構える。

樹は覚悟を決めた親友の姿に嬉しそうに笑い眼鏡を光らせ再びトンファーを構えた。


「かっるいがやるか」

「お嬢様達の為にも」

「親友の為にもね」


三人の目にも稟同様に赤い炎が宿り戦士のような顔つきに変わっていく。

ここにきて戦士として覚醒した四人にエグザはフッと笑みを浮かべた。


(こうして新たな戦士が時代を作っていくのだな。ならばこちらも全力でお相手しよう)


自分がこの四人と戦うという事にエグザは胸を踊らせ少しだけ神に感謝するのであった。







次回予告

ショウ
「ついに始まったジョーカーズとの最終決戦」

なのは
「ボルキアさんとの戦いで目覚めたフェイトちゃん」

クロノ
「そしてフェイトが口にした言葉に動揺する者達」

将輝
「次回S.H.D.C第三十八話
【銀世界の戦い前編】だぜ」


フェイト
「私は信じてるから」
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