降り注ぐ閃光

リフトが最上階に上がりヴォルケンリッターのメンバーはリフトから出るが、なのはやはやてはいまだに座り込んで涙を流しショウはじたばた暴れクロノがそれを後ろから拘束していた。

なのはとはやてはクルスを助けられなかった事に対し涙を流し続けショウはまだ納得出来ていないのか暴れている。


『皆さん早くナデシコに乗ってください!』


ショウ達の上空をルリ達が乗っているナデシコBが浮かんでおりハーリーが皆に声を掛けてその声にシグナム達は動くがショウ達は動こうとしなかった。


「離せよクロノ!クルスを置いてはいけない!もう一度下へ戻るんだ!」

「そんな事無理に決まってるだろ!」

「無理でも何でも行くんだよ!クルスをあんな所に置いていけるか!」

「落ち着けショウ!」


クロノに拘束されてもショウは暴れる。

戦いが終わってクルスとまた一緒に戦えると思ったのに、あんな終わりかた納得出来るわけがない。

もう少しでわかり合えたのにだ。


「なのは…」

「主はやて…」


ヴィータとシグナムは座り込み泣いている二人に近付き優しく声を掛ける。

なのはやはやての脳裏にはクルスがあの洞窟で消えていった姿がいまだに離れなかった。

あの状態では助からないとわかっているのに、現実を見なきゃいけないのに心がそれを拒絶しているかのように二人は顔を俯かせ涙を溢す。


「私っ…クルス君を助けて…あげられなかった…」

「クルス君…何でやねん…」


なのはは後悔していた。

自分はクルスと話し合いをすると言っておきながらクルスの言葉に動揺し話など出来なかったのだ。

少しでも話せていればと涙を流す。

はやてはクルスの行動を許せなかった。

全てを自分達に任せこの戦いから消えていったから。

あんな別れ方をして自分達が悲しまないと思ったのか?

残された人のフェイトの気持ちを考えなかったのかと。


「私…フェイトちゃんに何て言えばいいの。無理だよ…クルス君…」


なのははクルスと一緒に過ごし幸せそうに笑っているフェイトの姿を知っていた。

フェイトがクルスが死んだと知ったら悲しむに決まっている。

かつてプレシア・テスタロッサに人形と言われた時のように心が壊れる可能性だってあるのだ。


「くそっ!離せよクロノ!」

「ダメだって言ってるだろ!」

「離せぇぇぇ!!」


ショウはじたばた暴れそれを拘束するクロノは顔を歪める。

クロノだってクルスのあの行動に対し納得などしていない。

本当なら自分だって下へ戻りたいに決まっている。

しかしもう下は水で浸水しきっているはずだしクルスが生きている可能性はゼロに近い。

私情を捨てここから脱出する方を優先するしかないのだ。


「ショウいい加減にしろ!」

「クロノ…」

「アイツがクルスがどれだけの覚悟で僕達を逃がしてくれたと思う?アイツの気持ちを考えてやれ!」

「けど…!」

「頼む、わかってくれショウ…」


クロノの声にショウは力なく俯く。

ショウはクロノの声を聞いて気付いたのだ。

クロノがどれだけ悔しく悲しんでいるのか。

信頼する友を失いこの中で誰よりもクルスの死を受け入れられないのだ。

しかしクロノはそれを口にすることなくクルスの覚悟を無駄にしないために動いている。


「なのはとはやても今はこの星を脱出する事だけを考えてくれ。ヴィータとシグナムは二人を頼む。ザフィーラはショウを支えておいてくれ。シャマルはその間に転移の準備を」


クロノの指示に従いヴォルケンリッターは動きショウを中心に皆が集まっていく。

なのはとはやては気持ちの整理が出来ないまま歩き、ヴィータとシグナムは二人の様子を見ながら悲し気な表情になる。

今の二人に下手な言葉はかけられない。

何も出来ないのかと悲し気な表情のまま拳を握り締める。


そしてクロノはショウをザフィーラに任せチラリと視線をリフトに向けた。


(本当にこれしか道はなかったのかクルス。僕はそんなに頼りにならなかったのか)


自分はクルスを本当に友だと思い一緒にいた。

フェイトの事もクルスなら心配ないと思って見守っていた。

それなのにクルスは全てを託しあの洞窟に消えていった。

あの時のクルスの顔を忘れる事なんて出来やしない。


(バカ野郎…ッ!)


クロノは誰にも気付かれないようにギュッと拳を握り締める。

クロノの目から一筋の涙が流れそれはナデシコに転移されるまで消えることはなかったのだった。






~ナデシコ・ブリッジ~

「艦長、ショウさん達の転移完了しました!」

「ありがとうハーリー君。それじゃあこの星から脱出しましょうか」

『了解です!』


ルリの言葉にハーリーを始めとしたクルー達は動き出す。

そんな中でルリは顔を俯かせ悲し気な表情を浮かべ拳を小さく握る。


(…クルスさん)


ルリはクルスと話した時の事を思い返す。

クルスがこれからする事やこれから起こるであろう事を話し、クルスは頭を下げて協力してほしいと頼んできた。

ルリとしてはかつての戦いの事もあり協力する事はよかったが、クルスのあの顔はまるで死地に行く人の顔をしていた。

そしてあの星から転移していないとなるともうクルスはこの世に―――


「……ルリ!」

「…ッ!どうしましたリョーコさん?」


リョーコの声にハッと我に返りルリが顔を上げると、リョーコは心配したような表情をしルリをジッと見つめていた。


「リンディって人には連絡しといたぞ」

「ありがとうございます。それではリンディさんに会うためにも何処かに…」

「それはこっちでやっとくから休めよ」

「……えっ?」


リョーコの言葉にルリは不思議そうに首を傾げる。

自分はいたって問題ないし休むような事はないはずだ。

それなのに何故そんな事を口にするのかと。


「今のお前見てらんねぇよ」

「私は大丈夫ですよ?それよりも…」

「サブ!」

「はいよ」


リョーコはルリの言葉を聞く前にサブロウタに無理矢理ルリを連れ出してもらった。

ルリはその間も首を傾げていたが、付き合いが長いリョーコは気付いていた。

あの星からクルスが帰ってこないとわかった時のルリの顔がどれだけ悲しんでいたか。

涙こそ見せてないが今のルリの顔はかつてアキトやユリカを失った時のルリと酷似していた。

そんなルリをほっとける訳ない。


「とりあえずアースラと合流するまでか。だけどアースラの方も同じだろうな」


アースラの方がもしかしたら酷い状態かもしれないとリョーコは思う。

リンディやエイミィはクルスを家族と言ってたのだ。

家族を失って悲しまないはずがない。


「俺は信じねぇからなクルス」


あの男がそう簡単に死ぬとは思えないと昔を思い出しながらリョーコは一人目を閉じるのであった。






~ナデシコ・会議室~

ロンド・ラグナからナデシコに転移され##NAME1##達は会議室に案内され今現在誰一人口を開こうとしなかった。

いつもならショウやクロノが率先して何か口にするのに、二人は口を閉ざし意気消沈している。


「……俺のせいだ」


そんな中で静まり返った会議室内で小さくだがポツリと呟き始めるショウ。

その声は皆にも聞こえたのか皆の視線がショウに集まり、皆の視線に気付いていないショウはポツリと呟きを続ける。


「…俺が無理矢理でもアイツを連れ戻せばよかったんだ…。……俺がしっかりしていればクルスは」


拳を握り締め震える口調で呟くショウになのはは再び涙腺が緩んだのか涙が溢れていく。

クルスはあの瞬間、誰よりも大切なフェイトを託しリフトを見上げていた。

あの時のクルスの顔は今まで見たことがないぐらい微笑んでいたのだ。


「…ズルいよねクルス君は…」

「なのはちゃん?」


儚げに笑いながら口を開いたなのはにはやては目を腫らした顔を上げ首を傾げる。


「いつも一人で決めて一人で抱え込んでショウ君やフェイトちゃんを頼らなくて戦っていたのに……」


あの時のリフトを見上げながら微笑んでいたクルスは初めて本気で自分達を頼っていた。

あれが最初で最後になるなんて誰も思わない。


「あんな時でしか本心を言わなかったんだよ。私達……友達なのに仲間なのに…あんな別れ方…ズルいよ…っ!!」

「なのはちゃん……」


最初からクルスはわかっていたのかもしれない。

レンは言っていた。
【時間稼ぎ】だと。

全てがわかったうえでクルスはこれから先の事を託した。


(ホンマにクルス君の……アホ)


どれだけ仲間に涙を流させれば気がすむのかとはやては肩を震わせ顔を俯かせる。


「ならキミ達はこれからどうするんだい?」

『!?』


悲壮感漂う会議室に聞こえてきた新たな声。

その声の人物を全員知っているが、この場にいるのはおかしいのではないか?

皆の視線が会議室の入り口に向けられ、そこにいたのはいつもの白いスーツを着ていつになく真剣な表情をして立っている男がいた。


「ヴェロッサ…」

「僕だけじゃないよクロノ君」


ヴェロッサが入り口から離れると再び扉が開いて中に入ってきたのは本局にいたはずのユーノだった。

ヴェロッサとユーノの姿に皆が驚くなかでクロノがヴェロッサに目を向け口を開く。


「どうしてお前達がここに?」


クロノの問いにヴェロッサとユーノは皆に向かい合うように椅子に座り、ヴェロッサは一息吐いてクロノの問いにゆっくり答えていく。


「彼女に頼まれたからね」

「彼女だと?」

「レンだよ。クルスのデバイスの彼女に頼まれたんだ。キミ達を頼むと」

「なん…だと…」


ヴェロッサの言葉にクロノは目を丸くする。

ヴェロッサの言葉通りならクルスと自分達が戦う事を知っていた事になる。

しかもこの場にいるという事はヴェロッサだけでなくユーノも頼まれたはずだ。


「知ってたんか二人とも…」

「それはクルスが裏切ることをかい?それともキミ達と戦う事をかい?」

「どっちもや!!」


はやては立ち上がりテーブルを叩きつけ感情を激しく露にし鋭い目付きでヴェロッサやユーノを見つめていた。

ヴェロッサははやての言葉にフッと笑いはやてがそれに反応したのに気づきながら口を開く。


「知っていたよ。もっと分かりやすく言うならクルスが何故ロスト・ロギアを強奪したのかもキミ達と何故戦わなきゃいけなかったのかも僕やユーノ君は知っていた」

「嘘やろロッサ……」

「本当だよはやて。まぁユーノ君には知らないふりをしてくれと頼んだのは僕だから悪いのは僕だけどね」


苦笑しながら悪びれた様子を見せないヴェロッサにクロノが立ち上がりヴェロッサの胸ぐらを掴み目には怒りの感情を宿しクロノは皆の気持ちを代弁するように口を開いた。


「何でそれを僕達に言わなかった!それに知っていたならアイツを止める事だって出来たはずだろ!どうして止めなかったんだヴェロッサ!!」

「仕方なかったんだよクロノ君」

「何だと!」

「クルスにはあれしか道がなかったんだ」

「だから何でと言ってるんだ!」

「何故わからないんだい!この場に彼女が、ハラオウン執務官がいないのが答えなんだよクロノ君!」
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