託されし光
「何なんこの地割れ!?」
「せっかく戦いが終わったのに!」
崩れていく足場から離れようと魔法を使おうとするが、魔法は一切発動されず二人は驚く。
さっきまでは使えたのに何故このタイミングでと驚いているのはクロノ達も同じである。
魔法が使えないとなると脱出が出来なくなるからだ。
「…まさか!!」
この事態に一早く気付きクロノは崩れていく足場に膝をついているクルスに目を向ける。
「ここでのクルスとの戦いは罠だったのか!?」
『えっ……』
クロノの言葉に皆が驚く。
確かにタイミングが良すぎるからだ。
まるでこの戦いを見ていたかのように洞窟が揺れ始めていた。
しかも魔法を封じている事からこれは明らかにクルスだけでなく自分達まで始末しようとしているからだ。
『流石ですねクロノさん』
「レン」
『この戦いは全てある人物が画策した【時間稼ぎ】です。この瞬間までアナタ達を足止めすればある人物の計画が始まるうえに邪魔になるであろうアナタ達も抹殺できますからね』
クルスの身体から出てきたレンはクルスの肩に乗りニッコリ笑いながら話を始める。
時間稼ぎ・足止めという単語も気になったが、ある計画という単語の方が気になりはやてが口を開く。
「ある計画ってなんやの?」
『マテリアルコアを使った計画ですよ。ヴォルケンリッターの方々なら知っているんじゃないですか?古代ベルカ時代に使用され封印された兵器【ベルエス】と言えば』
レンの言葉にヴォルケンリッターの者達は目を見開く。
自分達の記憶が正しいならその兵器でいくつも国が滅び大勢の人が死に世界を地獄に変えた兵器のはずだ。
「お前らわかってんのか!そいつがどれだけ危険な兵器か!」
ヴィータはあの兵器の恐ろしさを知っておりこの計画に荷担さていた二人に怒りの表情を浮かべ叫ぶ。
それはヴィータだけではない。
シグナムやザフィーラやいつもは微笑んでいるシャマルですら表情は怒りに満ちていた。
ベルエスと呼ばれる兵器がどれだけ危険なのか。
あれのせいでどれだけの人が国が消えていったのかとその目には浮かんでいた。
『私もマスターも後悔はしてませんよ』
激しく揺れる洞窟内で静かに響くレンの声。
『私達は守りたい存在の為にアナタ達と戦ったまでです。だから後は皆さんをお願いフローラ姉さん』
『レン!何を…』
レンの言葉にフローラが言葉を返そうとしたが、洞窟内の岩壁がヒビ割れそこから一気に大量の水が流れ込んできた。
「いかん浸水が始まった!」
「皆逃げるのよ!」
シグナムとシャマルが大量の水から皆を逃がすように先導しショウ達は動き出す。
しかしクルスは動かず息を吐いているだけ。
「クロノ待ってくれ!まだクルスが……!」
「まずは僕らが生き延びる事を考えるんだ!クルスだってそう簡単に死にはしない!」
クルス以外のメンバーは脱出出来る場所を探すように洞窟内を駆ける。
そんな中でクルスはただ冷静にこの状況に対しポツリと呟く。
「――これで終わりか」
『そうですね。【あの人の思惑通り】ならですけど』
レンの言葉にクルスは笑みを微かに浮かべる。
自分の役目はこれで終わりのはず。
あの人の計画はもう始まっているだろうし、ショウ達の足止めもしたなら彼女に手は出さないはずだ。
「ショウ君!来た道はもう塞がっちゃってるよ!」
「なのは、あそこにリフトがある!あれなら上に繋がってるしこの星から脱出できるはずだ!」
なのはとヴィータの言葉にショウ達は急いでリフトに乗り込みリフトにあるスイッチを押す。
スイッチを押してはいるものの電源が入っていないのかリフトは全く反応せずピクリとも動かなかった。
「このまま黙ってあの人の言うことを聞くのも癪だし少しは反抗するか」
『ナイスアイディアですよマスター!』
ゆっくり立ち上がりクルスはふらふらしながらある場所に足を進める。
(ショウ達なら僕では出来なかった事をきっとやってくれるはず)
自分の想いをショウ達に託す。
これから先の戦いも彼女の事も全てショウ達に。
「せめて魔法が使えれば」
クロノが悔しげに呟き拳を握り締めている時だった、ガシャンとリフトの入り口が閉まりリフトがゆっくり動き始めた。
リフトが動き出した事に全員が驚きリフトの外に目を向けると、そこにはリフトの電源を入れたクルスがいてクルスはショウ達の方に顔を向けている。
「クルス君!」
はやての声にクルスはフッと息を吐き優しく微笑み口を開く。
「――上についたらルリちゃん達が乗ったナデシコがいるはず。それに乗って早くこの星から逃げて」
「クルス!お前ボロボロのくせに何してんだ!早くリフトに…」
「ちょっと待ってショウ君…」
ショウの声を制止しはやてが己の抱いている疑問を口にした。
何故あれだけの地割れがこのリフトに影響がない?
普通ならこの場も危ないはずなのに――
「まさかクルス君!」
はやてはリフトから身を乗り出し気付いた。
リフトの周りを結界が覆いまるでリフトを守るようにそれは発動していたのだ。
しかし何故魔法が使えないこの状況で結界が発動した?
(考えるんや!考えろ!……まさか最初の砲撃の本当の意味は!)
クルスが一番最初に白い閃光を放った時おかしいと思っていた。
隊列を乱すだけでなく他にも理由があると思っていたが、あれは設置していた結界の発動も考えての一撃だったのだ。
「クルス君どういうつもりや!ここまで散々私達を苦しめておいてなんの説明もなしに勝手な事ばかりせんといて!私達はまだ……クルス君の口から聞きたいことがいっぱい…」
「全ての真実は生きて自分の目で確かめるんだ。僕の役目はここまでだ」
「あかん!それだけはあかん!」
はやてはすぐに理解したのだ。
クルスは死ぬつもりなんだと。
全てを自分達に託し舞台から消えるつもりなんだと。
「クルス君ダメだよ!クルス君が死んじゃったらフェイトちゃんがフェイトちゃんが!」
「なのは。フェイトを支えてあげくれ。一番の親友であるキミにお願いする」
「そんな……」
なのはは座り込みそれと同じようにはやても座り込み二人はポロポロと涙を流し始める。
その姿に誰もがハッとする。
皆の脳裏によぎるクルスが死ぬということ。
「クルス!僕との約束を破るつもりか!!フェイトを守ると言ったのはお前なんだぞ!それなのに――」
「すまないなクロノ。お前を裏切るような事をして。でも僕はこの道を選んだ。それに後悔はないさ」
フッと笑い伝えるクルスにクロノはそれ以上何も言えなくなる。
クルスは最初から死ぬつもりだったのかとクロノは強く拳を握り締めリフトを殴る。
「何言ってるんだよクルス!お前も生きて俺達と一緒に行くんだろ!約束したじゃないか!」
誰よりもリフトから身を乗り出し叫ぶショウにクルスは悲し気に笑いゆっくり口を開く。
「僕はそんな約束交わしたつもりはない。それに言ったはずだよ。僕はこの道に迷いはないと。だから――」
おそらくこれから戦いはさらに激しくなるだろう。
誰かが死ぬかもしれない。
誰かが傷つくかもしれない。
それでも彼女をこの友や仲間達に託す。
「あとは任せたよショウ」
「クルスーーー!!」
リフトは上へと進み洞窟内にはクルスとレンだけが残る。
洞窟内は今もなお大量の水が流れ込みクルスは身体を岩壁に寄せリフトが上がったであろう場所を見上げ息を吐く。
「つき合わせてごめんねレン」
『私はどこまでもマスターと共にいます。私はマスターの傍にいるだけで幸せです』
レンの言葉にクルスは儚げに笑いレンを自分の方に引き寄せ優しく包みこむ。
最後にフェイトの声を聞きたかった。
フェイトの笑顔を見たかった。
フェイトはきっと悲しむだろう。
ごめんねフェイト。
「……フェイト愛してる」
そう呟きクルスはゆっくり目を閉じ己の死を覚悟するのであった。
次回予告
ショウ
「守れなかった約束」
なのは
「クルス君に託された想いを私達は忘れない」
はやて
「そして私達は目にする事となる。ベルエスを――」
クロノ
「次回S.H.D.C第三十五話。
『降り注ぐ閃光』に…」
リンディ
「ドライブイグニッション」
「せっかく戦いが終わったのに!」
崩れていく足場から離れようと魔法を使おうとするが、魔法は一切発動されず二人は驚く。
さっきまでは使えたのに何故このタイミングでと驚いているのはクロノ達も同じである。
魔法が使えないとなると脱出が出来なくなるからだ。
「…まさか!!」
この事態に一早く気付きクロノは崩れていく足場に膝をついているクルスに目を向ける。
「ここでのクルスとの戦いは罠だったのか!?」
『えっ……』
クロノの言葉に皆が驚く。
確かにタイミングが良すぎるからだ。
まるでこの戦いを見ていたかのように洞窟が揺れ始めていた。
しかも魔法を封じている事からこれは明らかにクルスだけでなく自分達まで始末しようとしているからだ。
『流石ですねクロノさん』
「レン」
『この戦いは全てある人物が画策した【時間稼ぎ】です。この瞬間までアナタ達を足止めすればある人物の計画が始まるうえに邪魔になるであろうアナタ達も抹殺できますからね』
クルスの身体から出てきたレンはクルスの肩に乗りニッコリ笑いながら話を始める。
時間稼ぎ・足止めという単語も気になったが、ある計画という単語の方が気になりはやてが口を開く。
「ある計画ってなんやの?」
『マテリアルコアを使った計画ですよ。ヴォルケンリッターの方々なら知っているんじゃないですか?古代ベルカ時代に使用され封印された兵器【ベルエス】と言えば』
レンの言葉にヴォルケンリッターの者達は目を見開く。
自分達の記憶が正しいならその兵器でいくつも国が滅び大勢の人が死に世界を地獄に変えた兵器のはずだ。
「お前らわかってんのか!そいつがどれだけ危険な兵器か!」
ヴィータはあの兵器の恐ろしさを知っておりこの計画に荷担さていた二人に怒りの表情を浮かべ叫ぶ。
それはヴィータだけではない。
シグナムやザフィーラやいつもは微笑んでいるシャマルですら表情は怒りに満ちていた。
ベルエスと呼ばれる兵器がどれだけ危険なのか。
あれのせいでどれだけの人が国が消えていったのかとその目には浮かんでいた。
『私もマスターも後悔はしてませんよ』
激しく揺れる洞窟内で静かに響くレンの声。
『私達は守りたい存在の為にアナタ達と戦ったまでです。だから後は皆さんをお願いフローラ姉さん』
『レン!何を…』
レンの言葉にフローラが言葉を返そうとしたが、洞窟内の岩壁がヒビ割れそこから一気に大量の水が流れ込んできた。
「いかん浸水が始まった!」
「皆逃げるのよ!」
シグナムとシャマルが大量の水から皆を逃がすように先導しショウ達は動き出す。
しかしクルスは動かず息を吐いているだけ。
「クロノ待ってくれ!まだクルスが……!」
「まずは僕らが生き延びる事を考えるんだ!クルスだってそう簡単に死にはしない!」
クルス以外のメンバーは脱出出来る場所を探すように洞窟内を駆ける。
そんな中でクルスはただ冷静にこの状況に対しポツリと呟く。
「――これで終わりか」
『そうですね。【あの人の思惑通り】ならですけど』
レンの言葉にクルスは笑みを微かに浮かべる。
自分の役目はこれで終わりのはず。
あの人の計画はもう始まっているだろうし、ショウ達の足止めもしたなら彼女に手は出さないはずだ。
「ショウ君!来た道はもう塞がっちゃってるよ!」
「なのは、あそこにリフトがある!あれなら上に繋がってるしこの星から脱出できるはずだ!」
なのはとヴィータの言葉にショウ達は急いでリフトに乗り込みリフトにあるスイッチを押す。
スイッチを押してはいるものの電源が入っていないのかリフトは全く反応せずピクリとも動かなかった。
「このまま黙ってあの人の言うことを聞くのも癪だし少しは反抗するか」
『ナイスアイディアですよマスター!』
ゆっくり立ち上がりクルスはふらふらしながらある場所に足を進める。
(ショウ達なら僕では出来なかった事をきっとやってくれるはず)
自分の想いをショウ達に託す。
これから先の戦いも彼女の事も全てショウ達に。
「せめて魔法が使えれば」
クロノが悔しげに呟き拳を握り締めている時だった、ガシャンとリフトの入り口が閉まりリフトがゆっくり動き始めた。
リフトが動き出した事に全員が驚きリフトの外に目を向けると、そこにはリフトの電源を入れたクルスがいてクルスはショウ達の方に顔を向けている。
「クルス君!」
はやての声にクルスはフッと息を吐き優しく微笑み口を開く。
「――上についたらルリちゃん達が乗ったナデシコがいるはず。それに乗って早くこの星から逃げて」
「クルス!お前ボロボロのくせに何してんだ!早くリフトに…」
「ちょっと待ってショウ君…」
ショウの声を制止しはやてが己の抱いている疑問を口にした。
何故あれだけの地割れがこのリフトに影響がない?
普通ならこの場も危ないはずなのに――
「まさかクルス君!」
はやてはリフトから身を乗り出し気付いた。
リフトの周りを結界が覆いまるでリフトを守るようにそれは発動していたのだ。
しかし何故魔法が使えないこの状況で結界が発動した?
(考えるんや!考えろ!……まさか最初の砲撃の本当の意味は!)
クルスが一番最初に白い閃光を放った時おかしいと思っていた。
隊列を乱すだけでなく他にも理由があると思っていたが、あれは設置していた結界の発動も考えての一撃だったのだ。
「クルス君どういうつもりや!ここまで散々私達を苦しめておいてなんの説明もなしに勝手な事ばかりせんといて!私達はまだ……クルス君の口から聞きたいことがいっぱい…」
「全ての真実は生きて自分の目で確かめるんだ。僕の役目はここまでだ」
「あかん!それだけはあかん!」
はやてはすぐに理解したのだ。
クルスは死ぬつもりなんだと。
全てを自分達に託し舞台から消えるつもりなんだと。
「クルス君ダメだよ!クルス君が死んじゃったらフェイトちゃんがフェイトちゃんが!」
「なのは。フェイトを支えてあげくれ。一番の親友であるキミにお願いする」
「そんな……」
なのはは座り込みそれと同じようにはやても座り込み二人はポロポロと涙を流し始める。
その姿に誰もがハッとする。
皆の脳裏によぎるクルスが死ぬということ。
「クルス!僕との約束を破るつもりか!!フェイトを守ると言ったのはお前なんだぞ!それなのに――」
「すまないなクロノ。お前を裏切るような事をして。でも僕はこの道を選んだ。それに後悔はないさ」
フッと笑い伝えるクルスにクロノはそれ以上何も言えなくなる。
クルスは最初から死ぬつもりだったのかとクロノは強く拳を握り締めリフトを殴る。
「何言ってるんだよクルス!お前も生きて俺達と一緒に行くんだろ!約束したじゃないか!」
誰よりもリフトから身を乗り出し叫ぶショウにクルスは悲し気に笑いゆっくり口を開く。
「僕はそんな約束交わしたつもりはない。それに言ったはずだよ。僕はこの道に迷いはないと。だから――」
おそらくこれから戦いはさらに激しくなるだろう。
誰かが死ぬかもしれない。
誰かが傷つくかもしれない。
それでも彼女をこの友や仲間達に託す。
「あとは任せたよショウ」
「クルスーーー!!」
リフトは上へと進み洞窟内にはクルスとレンだけが残る。
洞窟内は今もなお大量の水が流れ込みクルスは身体を岩壁に寄せリフトが上がったであろう場所を見上げ息を吐く。
「つき合わせてごめんねレン」
『私はどこまでもマスターと共にいます。私はマスターの傍にいるだけで幸せです』
レンの言葉にクルスは儚げに笑いレンを自分の方に引き寄せ優しく包みこむ。
最後にフェイトの声を聞きたかった。
フェイトの笑顔を見たかった。
フェイトはきっと悲しむだろう。
ごめんねフェイト。
「……フェイト愛してる」
そう呟きクルスはゆっくり目を閉じ己の死を覚悟するのであった。
次回予告
ショウ
「守れなかった約束」
なのは
「クルス君に託された想いを私達は忘れない」
はやて
「そして私達は目にする事となる。ベルエスを――」
クロノ
「次回S.H.D.C第三十五話。
『降り注ぐ閃光』に…」
リンディ
「ドライブイグニッション」