亀裂

~本局会議室~

クルス・アサヅキのロスト・ロギア強奪事件。

ユーノからそれを伝えられたショウ達はパーティーを抜け出し今は本局の会議室に来ていた。

ナギの屋敷にいたセフィリア達ファントムナイツは話し合いをするために自分達の屋敷に戻り、協力者である悠季や将輝達はとりあえず事態がどう動くかを待つらしくパーティーに残っていた。

ショウ達がユーノと一緒に本局に着いた時本局は慌ただしく局員が走っており、その中にはリンディの姿もありリンディはショウ達に気付くと顔色を真っ青に信じられない表情をしていた。

あのクルスがロスト・ロギアを強奪したのだから当たり前の話である。

ショウ達はこの事態になった経緯を聞くためにも空いている会議室に入ると比較的冷静な表情をしているはやてが口を開いた。


「それでクルス君がロスト・ロギアを強奪した話やけど本当の事なんやね?」


いつになく真剣な表情ではやてはユーノに問う。

ユーノは真剣な表情をするはやての問いに小さく頷いて自分が知っている情報を全て話始めた。


「信じられないかもしれないけど本当の事だよ。保管庫を守っていた局員のデバイスの映像にクルスの姿が映っていたんだ。他にも目撃者がいたから間違いないと思う」

「ホンマなんやね」


ユーノの言葉にはやては頭を抱える。

最悪な事になってしまった。

この一連の事件ははやて自身一番なってほしくなかった事だったからだ。

今日学園で見たときはそんな素振りすらなかったのに何故こんな事をしたんだ?


「奪われたロスト・ロギアって何やのユーノ君?」

「おそらく氷のエナジーと光のエナジーだと思う」


ユーノは皆に見えるようにモニターを操作しそのモニターには二つの球体が映し出される。

その二つのロスト・ロギアを見てショウが何かに気付きハッとした表情で口を開く。


「こいつは…」

「ショウどうしたんだい?」


ハッとするショウにユーノが首を傾げ問い掛ける。

ショウの反応は明らかに知っている反応だ。

それもそのはず。

何故ならこの球体をショウは見ているからだ。


「ノヴァの身体から同じような球体が抜き取られていた。色は赤かったから炎のエナジーだと思う」


あの神魔杯でノヴァの身体から赤い球体が抜き出されていた。

鎌を持った人物がやっと手に入れたと口にしていたから、おそらくクルスが強奪したロスト・ロギアと同じはず。


「それでこのロスト・ロギアは何なのユーノ君?」

「‥‥ロスト・ロギア【マテリアルコア】。その用途まではまだわからない。けど僕の予想が正しいならあれ一つで星を破壊する力を持っていると思う」

『…ッ!!』


なのはの問いにユーノが眼鏡を光らせ顔を歪めて答えると会議室にいたメンバーは目を丸くし息を呑む。

たった一つでも星を破壊する力があるロスト・ロギアが複数ありその二つをクルスが強奪したのだ。

その事実に皆は驚く事しか出来ない。


「クルス君どうして…」


リンディは一人顔を俯かせる。

リンディはいまだに信じられなかった。

フェイトやエリオやキャロと一緒にいたクルスは本当に三人を大切にしていた。

あんな優しそうな顔をしていたクルスがロスト・ロギアを強奪したなんて思いたくもない。

悪い夢なら覚めてほしいとリンディが俯いていると、


「全く!なんてバカなことをしてくれたのかしらね」

「ユリナ…」


会議室の扉が開いて中に入ってきたのは今の今までこの事件に対して動いていた元帥であるユリナだった。

ユリナは部屋に入ってくるとため息を吐き口を開く。


「もう知ってると思うけどクルスがロスト・ロギアを強奪したわ。目的はわからないけどクルスはロスト・ロギアを強奪する時に局員を一人殺している。本当に勘弁してほしいわよ」


ユリナの表情には呆れという感情しか浮かんでいない。

クルスはまだ管理局と契約していたはずだ。

いきなりこんな事をしたクルスにユリナは頭を悩ませている。


「ユリナさん」

「何かしらショウ?」


ショウは真剣な表情で立ち上がりユリナを見つめる。

ショウ自身まだクルスがロスト・ロギアを強奪したなど信じられなかった。

あのクルスが自分達と敵対する事がわかってまで動く理由があるとは思えなかったからだ。


「俺はまだ信じられません。本当にクルスが…」

「信じたくないと思うけどこれは現実よ。それにこうなるってはやては予想してたんじゃないの?」

「……」


ユリナはそう言いながら視線をはやてに向ける。

はやてはユリナに何故自分の名を呼ばれたか疑問には思っていなかった。

はやては局員としてクルスを観察していたからこそいろいろ予想を立てていたのだ。

そしてその中で一番最悪な予感が当たってしまった。


「クルス君が誰も頼っていないのはわかってました。せやけど…」

「本当に裏切ったとは思えない?」

「……」


ユリナの言葉にはやては何も言えなかった。

否定したとしても自分はクルスを疑っていた。

あの神魔杯でクルスは局員を殺していたのだ。

復讐を果たしショウにやることがあるとクルスは口にしていたらしい。

そのやることがこれだったのか?とはやては考えていたからだ。


「アナタ達がどう思うかは勝手だけどクルスが裏切ったのは確実。そしてこれは元帥としての命令よ――」


ユリナは真剣な表情になり会議室を見渡しゆっくりとただ冷たく告げる。


「クルス・アサヅキが強奪したロスト・ロギアを回収すること。そしてクルス・アサヅキの捕縛。生死は問わないけど私が言いたい事はわかるわよね?」

「……ッ!!ユリナ!!」


ユリナの命令にリンディはハッと驚いたように立ち上がり声を上げる。

今自分の友はなんと口にした?

最悪生死は問わないと言ったが、その言葉の意味はすぐに理解できた。

つまりユリナは――


「クルス君を殺せと言うの!?」

「抵抗するならよ。それにクルスはすでに広域次元犯罪者として指名手配されたしね」

「何ですって…」


ユリナの言葉にリンディは力なく座り込んでしまう。

いくら何でも早すぎる。

クルスがロスト・ロギアを強奪してそんなに時間はたっていないのに、まるでこうなる事がわかっていたかのような動き。

力なく俯くリンディにユリナは目もくれずショウ達に指示を出していく。


「クルス・アサヅキを追うメンバーはアナタ達よショウ。クロノにもこの事は伝えてるしヴォルケンリッターにも連絡はした。いいわね?」

「ユリナさん!でも俺は!」

「命令よショウ・ヤナギ。反論は聞かないわよ」

「……ッ!!」


ユリナの冷たい目にショウはこれ以上何も言えなくなる。

逆らったらどうなるかとユリナの目は語っている。

そのユリナの目や雰囲気にショウだけでなくなのはやはやても何も言えずユーノはそのやり取りを見ながら目を細めていた。

その目にユリナを捉えユーノは何かを考えるように腕を組む。


「クルス君が今どこにいるかわかりますか?」

「はやて!」

「はやてちゃん!」


ユリナの命令をはやてが返事した事にショウとなのはは驚くがはやては真剣な表情でユリナを見つめていた。


「ショウ君もなのはちゃんもわかって。どっちにしても私達はクルス君と話さなあかん。私だって戦いたくない。でもこの命令は私らにしかできへん」

「はやての言う通りよ。今のアナタ達に出来ることはクルスを追うことしかないの」


ユリナの言葉に会議室は静まり返る。

自分達に残された選択肢は一つしかない。

はやての言う通りこれは自分達にしか出来ないのだから。


「それでクルスの居場所だけどおそらくロンド・ラグナよ」

「そこって……」


はやての脳裏に浮かぶのはあの神魔杯でが行われていた世界。

何故今さらあの世界にクルスが行く必要がある?

あの世界に何があるのだ?


「あの世界の事少し調べたんだけど、どうやらあの世界には【マテリアルコア】が封印されているようなの。もしクルスがあれを集めているならロンド・ラグナにいる可能性が高いわね」


あくまで可能性だけどとユリナは付け加えるが今のところそれが一番の可能性なら行くしかない。


「あの~ユリナさん」

「どうしたのなのは?」

「フェイトちゃんもこの任務を?」


なのはの言葉にリンディがハッとなりショウやはやてもリンディと同じようにハッとする。

あのフェイトがクルスがロスト・ロギアを強奪したと知って動かないはずがない。

おそらく必死になってクルスの居場所を突き止めるはずだが今この場にフェイトはいない。



「彼女はまだ仕事が終わってないのよ。だから全て終わってから話すつもり」

(後で話す……?)


ユリナの言葉にユーノはピクリと反応する。

クルスを説得するなら誰よりもフェイトが適任のはず。

フェイトなら仕事を終わらせすぐにでもこの会議室に来るはずだ。

ユリナさんは何を考えている?


「それじゃ頼むわよ。私も私で動かないといけないから」


そう言ってユリナは会議室を去っていき残ったメンバーはすぐに動く事が出来なかった。


「はやてさん」

「はい」

「私も行くわ。クルス君の真意を私自身で見極めたいの」

「わかってますリンディさん」


目指すはロンド・ラグナ。

そこにクルスがいて自分達は戦えるのか?

あれだけ一緒に戦ってきた友に刃を向けられるか?


(どうしてだよクルス……ッ!!)


ショウは拳を握り締めテーブルを叩きつける事しか出来なかった。










~ロンド・ラグナ~

「……」


ロンド・ラグナにある海底洞窟でクルスは一人何かを待つように立っていた。

この場所に来る際に傷ついた身体を回復させ無傷の状態でクルスは立つ。


『マスター』

「何も言わないでくれレン。僕はこの決断に後悔はない」

『わかっています。私は最後までマスターと戦います』

「すまない。――ありがとう」


悲し気に笑うクルス。

おそらくここにショウ達は現れるだろう。

僕が強奪したロスト・ロギア回収するために。

でも僕はロスト・ロギアを渡すつもりなどない。

僕には―――


『わかっているわよねクルス?アナタが逆らえばあの子がどうなるか?』


脳裏によぎるある人物の言葉。

今の僕は命をかけてでも守らなきゃいけない者がいる。

その為ならこの命簡単に捨てられる。

たとえそれが友と戦うという事になろうともだ。


「クルス」


クルスの背後に仮面をはめた人物が現れクルスはそれに気付き視線を向ける事なく口を開く。


「わかってます。僕の役目ぐらい」

「せめて私達が動くまではお願いよ。じゃないとなんの為に『鎖』を用意したのかわからなくなるから」

「……」


仮面をはめた人物はそう口にして霧のように消えていきクルスは目を閉じる。


(ショウ……。今こそキミとの約束を果たすよ)


あの神魔杯で果たせなかった約束。

こんな形で果たすことになるなんてね。
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