裏切りの足音

あの神魔杯から月日がたち季節は冬へと変わっていた。

あの大会以降ジョーカーズも目立った動きをみせる事なくショウ達は少しばかりの安息な時間を過ごしていた。

雪が降る街中をショウとなのはとはやて達三人は仲良く歩いている。

そもそも何故この三人が街中を歩いているのかというと、


「相変わらずナギの発想には驚きだな」

「にゃははは」


実は今日からショウ達は冬休みに入り記念として皆でパーティーをしようとナギが言い出して、急遽ナギ主催でパーティーが行われる事になったのだ。

しかもこのパーティーはナギが急に思い付いた事であり、全校生徒がいる時にハヤテに大声で言ってしまったため一つの騒ぎとなってしまった。

その騒ぎで紅女史と暦の二教師は特に騒いでいた樹と東宮と春原と杉並を瞬時に沈めていた。


『パーティーですって!?つまりお酒は飲み放題って訳よね?こうしちゃいられないわ!』


二教師が動いている間に雪路は目をキラキラ輝かせて参加する気を誰よりもナギにアピールしていた。

そのアピールに勿論ヒナギクが気づいて説教したのは言うまでもない。



「ナギちゃんにもびっくりやな~。今日はショウ君もなのはちゃんも私もお休みやったからよかったけど」


ショウの隣を歩きながら苦笑するはやて。

この場にいないフェイトは仕事でありパーティーにはなんとか間に合うように終わらせると口にしていたものの、本当に大丈夫なのかとはやては本局で走っているであろう親友の姿を思い浮かべる。


「シグナム達はどうなんだよはやて?」


はやての横を歩きながらショウははやての家族が今日参加できるのかと問い掛ける。

はやての家にいるザフィーラとアインスとツヴァイは来るだろうが、今日は地上本部で仕事のシグナムとヴィータとシャマルはどうなのかというショウの問いにはやては申し訳なさそうに口を開く。


「シグナムとヴィータとシャマルは無理やろなぁ~。特にシグナムとヴィータはレジアス中将の開くパーティーの警備って言っとったし諦めてもらうしか‥」


「レジアス中将なら仕方ないか」

「確かにね」


はやての言葉に小さく頷くショウとなのはの二人。


【レジアス・ゲイズ中将】

首都防衛隊代表で地上本部のトップとも呼べる人である。

中将は古くからの武闘派で地上本部の武装強化や独立化を計画している人でもある。

彼の地上を守るという気持ちは誰よりも強く、彼のカリスマ性に魅了しついていく者達も多い。

本局所属でもあるショウやなのは達も彼を知ってはいるものの関わりはないに等しい。


「クルスも珍しく今日は学校にいたからパーティーには来ると思うけど」

「目の下に隈があったからどうだろうね」


あの大会が終わってクルスはどこかスッキリした顔で学園に通っていた。

ただ管理局の仕事を手伝っているらしくどちらかと言うとそっちを優先しており眠る暇などないのだ。

今日は珍しく学園に来ていたが、ずっと眠ったままで紅女史や暦先生や勇人先生の恐怖のツアー行きが決まったのにクルスは特に反応を示す事なく夢の世界に旅立っていた。

その姿に楓が心配してクルスを保健室に連れて行ったが、一人戻ってきた楓が顔を赤くし恥ずかしそうに俯く姿に誰もがなにかあったのだろうと確信してイヴやレナが保健室に向かったのは言うまでもない。


(クルス君……か)


そんな会話をしているショウとなのはに気づかれないようにはやてはため息をこぼす。


はやてから見てクルス君はジョーカーズの出生や目的を知っている可能性がある。

本局で何かをロッサと調べていたのははやても知っているが、それについてロッサに聞いても誤魔化されてしまう。

ユリナさんが言ってた『一人で戦っている』という言葉から自分はクルス君を一歩引いた目線で観察していた。

捜査官としてクルス君の姿を見ていた自分だから言えるかもしれないが、彼はおそらくショウ君は勿論の事フェイトちゃんにも本当の事を話すつもりはないだろう。

彼が何故それを話そうとしないのかは分からないが、自分の中でクルス君をこのまま信用していいのかと胸にしまいながらはやては空から降る雪を儚げに見つめる。


「どうしたはやて?」

「何でもあらへんよ」


ショウに悟られないようにはやてはニッコリ笑う。

せめて自分が想像する最悪のシナリオだけにはならないようにとはやては願う。





~ナギの屋敷~

「「宴だ~!!」」

「「お父さん!」」

「「お父様!!」」


ナギの屋敷にやって来たショウとなのはとはやてが目にしたのは、すでに酒を飲み盛り上がっていた神王と魔王の姿とその二人に対し娘であるシアとキキョウとネリネとリコリスが怒っている光景で三人は顔を見合せ小さく笑う。

どうやらパーティーはこの両王が先に始めていたようで、周りにいた将輝や湊や奏也達も食事をしながら騒いでいたのだ。


「いらっしゃいませ皆様」


苦笑している三人の元にハヤテが瞬時に現れ三人にドリンクを渡す。

相変わらず出来る男だとショウがドリンクを口にしながら想っていると、


「ショウ待っとったで」


ハヤテの横からドリンクを持った咲夜が現れ咲夜はショウの腕をとり引っ張っていく。


「咲夜?」

「今日はなのはちゃんにもはやてにも譲らへんで。たまにはウチがショウといてもえぇやろ?」

「あっ、はい」


日頃からなのはとはやてはよくショウと一緒にいる。

咲夜も一緒にいたいのだが自分も自分で忙しい時がありなかなか一緒にいる事が出来ない。

しかし今日こそはショウの隣は自分だと言わんばかりにショウを引っ張る咲夜になのはもはやても目をパチパチさせるのであった。


そんなショウと咲夜のやり取りを見つつ将輝は同じテーブルで食事をしている奏也の皿に人参を置いていく。


「将輝」

「んっ?どうかしたか?」

「俺の気のせいならいいけど、さっきから人参を俺の皿に入れてないか?」

「それは俺じゃねぇよ。きっと人参の妖精が俺の身体を使ってお前の人参嫌いを克服させようとしてるんだ」

「成程な。……よし!表に出ろ」

「何で!?」


将輝と奏也による不毛なやり取りをシリアと悠季は呆れたように見つめている。


「男二人で何してるんだか」

「でも楽しそうでいいと思うぞ俺は」

「そう?」


そんな会話をしながらシリアは悠季の口に食べ物を運び頬を赤くさせながら差し出し、悠季はそれをクスッと笑みを浮かべ口にするとシリアは恥ずかしそうに視線をそらす。


シリアと悠季のやり取りを湊の横にいた叶が反応し一人小さく頷くと湊の口に卵焼きを運ぶ。

叶としては普通にしているつもりが緊張のせいか手は震え顔はトマトのように赤くなっていた。


「……叶?」


そんな叶に湊が心配して声を掛けると、


「やっぱり恥ずかしいよ!」

「……えっ?」


叶は恥ずかしさのあまり手を勢いよく箸をつきだし箸は湊の口に勢いよく入り込み湊はその勢いで小さく悶絶してしまう。



(湊よ不憫な奴だ)


湊の悶絶を苦笑しながら見つめる純一の手元にはかなりの食べ物があり、純一はそれを次々と口にしていく。

彼はこれを食し妹の料理を回避しているようだが、ここで悪戯っ子のさくらがこっそり現れどこから取り出しのか紫色の物体を然り気無く純一の皿に乗せ、バレないように離れていき純一はそれに気付かぬまま紫色の物体を笑顔で口にしたまま固まる。

顔色は青くなり紫色に変わり土色に変わるとそのまま口から白い魂のようなものが飛び出す。


(あれ~これは音夢の料理の味がするぞ~。何でだろう?)


純一が最後に見た光景はニヤリと笑みを浮かべ計画通りと言わんばかりに純一を見ていたさくらの姿だった。


「稟、殴っていいかい?キミの幸せを銀河に轟かせるまで」

「土見!僕は今猛烈にキミを殴りたい。理不尽な世の中を恨むがいい」

「さぁ!観念しなさい!」


気絶する純一の傍で男三人に囲まれどうしようかと悩む稟。

何故こうなったのかと思い返せば、先程シアが手料理を持ってきてくれてそれを口に運んで自分がそれを食べた瞬間に三人は現れたのだ。

樹は拳を握りしめ、東宮は木刀を構えて春原は両手に蟹を持っていた。

樹と東宮がそれを武器にしているのは理解できるが、春原は蟹で何をするつもりだ?

あと生臭いからあまり近寄らないでほしい。


「いたぁぁぁぁぁ!!」


蟹を手にしていた春原の頭上に蟹が手を振り下ろし春原は痛みに声を上げながら床を転がり蟹がそれを物凄い勢いで追っていく。


「岡崎!ヘルプ!ヘルプ!」

「頑張れ~。……蟹!」

「ちょっ!?酷すぎますよ!」


春原が助けを求める相手の岡崎は蟹の応援をしそんな蟹は岡崎に答えるかのようにスピードが上がる。

春原が蟹に殺られるのも時間の問題だろう。


「賑やかだな~」

「そやな~」


ショウと咲夜は皆から離れた場所でグラスを持ちながら話していた。

こんな風に皆が集まっている光景を見るのは本当に久しぶりだとショウは自然と笑みを浮かべる。

あの神魔杯で稟や純一やハヤテ達は少しずつ変わっている気がした。

稟はエグザの戦いで王というものをしっかり考えているようだった。

純一やハヤテ達は神魔杯で己の力を実感しさらに強くなろうと努力している。

そんな姿を見ているとあの大会はいろんな意味でプラスになったんだとショウは小さく頷いていた。

「なぁ、咲夜」

「どないしたん?」

「こんな風にバカやるのも楽しいよな」

「せやな~」


ショウと咲夜の目に入る光景。

樹と東宮と春原がヒナギクに説教される横でジェノスがシャオリーにぐるぐる巻きにされ、それを麻弓が興奮しながら写真を撮り泉達がビデオでそれを録画していた。

いつまでもこんな時間が続けばいいなとショウがドリンクを口にして息を吐いた時だった、


「ショウ!なのは!はやて!大変だ!」


パーティー会場の扉が勢いよく開きそこから血相を変えたユーノが現れ汗をかきながら三人の名前を呼ぶ。

三人とも額から汗を流すユーノに首を傾げながら近付き、ユーノは三人の姿に一度息を吐き気持ちを落ち着かせるようにもう一度息を吐くとゆっくり口を開いた。


「三人とも緊急事態だ!ついさっき本局のロスト・ロギア保管庫が襲撃されてロスト・ロギアが奪われた!」

『なっ!?』

「保管庫が襲撃されたのも緊急事態だけど本当に大変なのはそこを襲撃した人物なんだ」


ユーノの言葉に三人だけではなく、話を聞いていたファントムナイツのメンバーに協力者でもある将輝達も嫌な予感を感じた。


「目撃者の証言によると保管庫を襲ってロスト・ロギアを奪ったのはクルスだったらしい!クルスは奪ったロスト・ロギアを持って姿を消したらしいんだ!」

「…えっ」


ゆっくりと確実に崩壊の序曲は奏でられているのであった。


次回予告

ヴィータ
「ロスト・ロギアを奪ったクルスは行方不明」

シグナム
「その事件により元帥から伝えられる命令」

シャマル
「その命令に私達は」

ザフィーラ
「次回S.H.D.C第三十一話
【亀裂】に…」

アインス&ツヴァイ
「「ドライブイグニッション」」
1/1ページ
スキ