神魔杯終結

ショウ対ノヴァの戦いは謎の乱入者によりノヴァが殺され、試合としてはショウの勝ちとなったが戦っていたショウは勿論だが試合を見ていた者達も納得していない。

ブーイングの嵐に包まれている状況で主催者の一人でもある魔王がマイクを手に持ち口を開く。


『会場に集まっている皆様、先程の試合で思うことがあるだろうけど落ち着いてくれないかい』


魔王の言葉に騒がしかったブーイングはひとまず止まり会場は静まり返る。

それを確認しながら魔王はマイクを同じ主催者である神王に渡し、神王はそれを受けとると真剣な表情で口を開く。


『本当なら次の試合エグザ対湊戦をやるつもりだったが、さっきの試合でイレギュラーが起こった以上次の試合を始める事が出来ねぇ。こっちとしても不本意だが今回の大会は中止とさせてもらう』


神王の言葉に会場中が一気にブーイングに包まれた。

あれだけ熱いバトルや興奮するバトルを見ることは出来たが、一回目で優勝者がいないのはおかしいだろうという空気になっていた。


「どうしようかシンちゃん」

「こうなる事は予想していたが……」


両王は会場中に響く声に困ったように頬を掻く。

この中止に関しては他の主催者も納得しておりそれを取り消すつもりはない。

このまま納得しない観客達をどう諦めさせようか考えていると、


『そこでお詫びと言ってはなんですが今から神界のプリンセスや魔界のプリンセスや管理局の女神達との握手会を始めたいと思います』

「「えっ?」」


『なんだとぉぉぉぉぉぉ!!』


突如会場に聞こえてきた声に魔王と神王は目を点にし会場からは驚きの声が上がる。

それを口にした人物は身体中に包帯を巻いて金色の女神に支えてもらいながらマイクを手にしていた。


「……クルス」

「ごめんねフェイト。でもこうしないと暴動が起きそうだったから」

「う~」


ジト目で見つめるフェイトにクルスは視線をそらし困惑している両王にアイコンタクトを送る。

そのアイコンタクトにはすでにシアやネリネ達には話しているという意味が込められており、両王は苦渋の決断をして握手会を開く事にした。


「クルス君とは後でお話なの」

「加勢するでなのはちゃん」


白い悪魔と狸がこの時笑っていたなど知るよしもなく近くにいたユーノや将輝は震えていたらしい。







「あっけないもんやな~」


会場で行われている握手会を見ながら退屈そうに息を吐きながら恭介は口を開く。

恭介の横にはファイやボルキアやエグザやスパーダがいて、ジョーカーズの五人はアリーナを見ながら冷めた目をしていた。

あれだけの試合がさっきまで繰り広げられていたのに、今はあんな茶番で終わらせようとしているのだ。

笑い話にもなりはしない。


(せやけどおもろい戦いは見せてもろた)


クルス対紅牙の戦いでクルスは勝利して、ショウ対ノヴァの戦いは結果がどうあれショウが勝っていた。

クルスが生き残った事に恭介は勿論だがアズールやボルキアは狂喜に近い笑みを浮かべていた。

これで自分があの男を殺せるのだから。


「それでこれからどうするの?」


金髪を靡かせながら首を傾げる少女ファイの問いに次の試合で戦うはずだったエグザが口を開く。


「私達の役目は終わっている。植え付けた種がそろそろ芽を出す頃だ。基地に帰ればいいのではないか?」

「ええっ!?せっかく握手会やってんだし俺行ってきていいかな?」


エグザの言葉にスパーダは不満そうな顔をしてアリーナを指差す。

アリーナでは何百という数を一人一人丁寧に握手しながら対応している美女達を見つめスパーダはニヤニヤ笑う。

まるで下品なおっさんのような顔をしているスパーダをボルキアは虫を見るかのように冷たい目で見ながらガシッと頭を掴む。

ミシミシと音が聞こえてくるスパーダは顔色を真っ青にさせてガタガタ震えながら口を開く。


「あっ、あの…ボルキアさん?どっ、どうして俺の頭を……」


この世の終わりのような心境でスパーダは問うと、ボルキアは全身が凍えるような口調で優しく答える。


「私は実に寛大よ。地獄に堕ちた先でも言論の自由を許そう。好きなだけ言いなさい」

「ひっ!ひぇぇぇぇぇ!!」


ズルズルとスパーダを引きずりながらボルキアはその場から消えていく。

消える前にアリーナにいるフェイトの方を冷めた目で見ていたが、それに気づいたのはエグザだけであろう。


(ボルキアの狙いはあくまであの復讐者だろうな。あの復讐者を殺す為なら何でも利用するか)


「ひぇぇぇぇぇ!!」

「……」


情けないスパーダの悲鳴をBGMとして聴きながらエグザは腕を組み目を閉じて考え込むのであった。






~??~

神魔杯が行われている会場をモニターで観ていた者達は、そのモニターの電源を消し別のモニターの電源をつける。

モニターにはいくつかの球体が映し出されその中心には巨大な砲台が映し出されていた。


「――これでようやく炎のエナジーを手に入れた。旧雷帝の真里が持っていた雷のエナジー。木帝が持っていた木のエナジー。そして管理局にある氷と光のエナジーが揃えば私達の計画が始められる」


モニターを見つめながら一人の女性は歪んだ笑みを浮かべる。

その目に宿る狂気という感情を露にする女性に他のメンバーは静かに笑っていた。


「それであの男はどうするんです?」

「クルス・アサヅキの役割はまだ残ってるわ。あの男の存在はぎりぎりまで私達の計画を隠してくれるから」


男の問いに女性は別のモニターに映るクルスを歪んだ笑みのまま見つめる。

神魔杯は自分達にとって+となるイベントとなった。

そのおかげで自分達は計画を進められあの男を動かす口実も出来たのだから全てが上手くいったのだ。


「あの男は私の命令に必ず従う。逆らう事なんて出来やしないわ。その為に『鎖』まで用意したのよ」

「アナタは本当に人が悪い」

「最高の誉め言葉よ――アンリ」

女性の言葉にアンリと呼ばれた男はクックックッと歪に笑う。

このアンリと呼ばれた男はジョーカーズの闇帝でもあり、彼は自分の前に立つ女性に片膝をつき頭を下げ忠誠心を示している。


「地帝・水帝・氷帝・風帝の四人も時が来るまでは利用するとして問題は光帝ね」

「それなら心配ないですよ」


いまだに歪な笑みを浮かべるアンリに女性は目を細める。

光帝はジョーカーズの一人だが基本的に自由に動いており、他のジョーカーズ達も光帝に対し困っていたり気にくわなかったりしていた。

始末するにしても実力は未知数な相手なのに、女性に片膝をついているアンリは簡単に解決策を生み出したのだ。


「彼女も『鎖』の一人だ。それなら鎖をまとめればいい」

「成る程ね」


こうして誰も知らない所で一つの計画が動き出す。

それはショウ達もたがクルスの運命を変える事件となり世界を揺るがす事件の始まりでもあったのだ。






~会場~

長時間の握手会も終わり、会場はあの熱気が嘘だったように静まり返っていた。

その会場の中心でショウとクルスは立ちながら黄昏るように空を見上げている。


「あっという間に終わっちまったな」

「だね」


ショウの言葉に同意するようにクルスは答える。

二人とも倒すべき相手を倒したがショウは不完全燃焼だった。

ノヴァとは激しく戦ってお互い全力を出したのに乱入者のせいでノヴァは死んでしまった。

唇を噛み拳を握り締めるショウにクルスは何とも言えなくなる。

自分が倒れている間にショウとノヴァの戦いが始まって、目が覚めたときには終わっていた。

乱入者の事はセフィリアやベルゼーに聞きすぐに犯人がわかったが、それに関してクルスは何も言わなかった。

それを口にしてしまうと誰が傷つくかわかっているから。


「クルス……」

「んっ?」


物思いに耽っていたクルスにショウが真剣な表情で口を開く。


「お前はこれからどうするんだ?」

「‥‥‥」


ショウの問いにクルスは視線を空に向ける。

復讐者として戦いは終わった。

自分がこれからすべき事は最初から決めていた。

全ての因縁にケリをつける。


「僕は僕のやるべき事をやるよ。たとえ死ぬことになったとしても」

「クルス……」


空を見上げるクルスの目に迷いなど一切感じられなかった。

クルスは紅牙と戦っていたように命懸けで戦っていくつもりだろう。

ユリナさんが言ってたように誰にも頼らずたった一人で――


「でも今は…」

「んっ?」


クルスとショウの視線は会場の入り口に向かいそこには自分達を待つようになのはやはやてやフェイト達がいた。

その傍で樹と東宮と春原がボロボロになって倒れていたが触れないでおこう。


「「ショウくーん!」」

「クルスー!!」


彼女達は向日葵のように明るい笑顔を浮かべ手を振っていた。

全員が二人を待ち二人はそれを見ながらお互い笑みを浮かべ歩き出す。

こんな日が続けばいいなと、ショウが願っていたが残酷な運命はゆっくり動き出していた。

こんなに笑っていた日々があんな形で失われるとは誰も思いもしなかっただろう。









次回予告

なのは
「激しい戦いが終わり私達は楽しい一日を過ごしていた」

フェイト
「でも私達の知らない所で動いていた闇の鼓動」

はやて
「そして始まる崩壊の序曲」

クロノ
「次回S.H.D.C.第三十一話―
【裏切りの足音】に……」

ユーノ
「ドライブイグニッション!」


??
「これは命令よ。氷と光のエナジーを奪ってきなさい」
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