復讐者の最期
突如、紅牙の身体が紫色の光に包まれその光は試合を見ていた者達の視界すらも奪いその光が消えた時にはクルスの目の前にいた紅牙の姿は先程と変わっていた。
全身に紫色の鎧を身に付け背中には巨大な翼が装着され目は獣のように鋭く変わっている。
その紅牙の姿にクルスは無意識に息をのみ額からは汗が流れていた。
「それがお前の本当の力か?」
「そうだ。復讐者よ俺をガッカリさせるなよ」
「たとえお前がどんな姿に変わろうが殺す事に変わりはない」
双剣を双銃に変え魔法陣を展開させて魔力を込める。
先程と違い銃口に込められる魔力が冷たく感じ目を細めていく紅牙。
「アブソリュートバースト!!」
二つの銃口から放たれた氷結魔法。
その氷結魔法は物凄い速度で紅牙に迫り紅牙に直撃したのだが、
「ムダだ」
たった一度翼を羽ばたかせただけで氷結魔法は消え唖然とするクルスに紅牙は接近しながら殴り飛ばした。
「なっ……!」
「言ったはずだぞガッカリさせるなと」
紅牙に殴り飛ばされ目を見開くクルス。
アブソリュートバーストは先程放ったシャイニングバスターよりも威力を高めた魔法であり、紅牙を殺すためだけに編み出した技なのにこうもあっさり消されるなんて―――
「くっ……!」
「少しダメージを与えたぐらいで調子に乗るからだ。俺はまだ少しも力を出してはいないというのに」
「……」
「確かにお前の憎しみは成長し、お前自身を強くしたはずだ。だがお前がいくら強くなろうと【オレ】と【お前】では差がありすぎるのだ」
ただ圧倒的に立ち言葉を放つ紅牙。
その言葉に頭から血を流していたクルスはフッと笑う。
「偉そうにご託をならべるな。たとえお前が強かろうが関係ない。僕はお前を殺すと言ったはずだ」
魔法陣を展開させ双銃の銃口を紅牙に向けるクルス。
魔力を高め地面が小さく揺れ辺りが徐々に冷たい空気に包まれていく。
クルスを中心に冷気が集まり紅牙の頬を凍りつかせるほどの風が撫でる。
「ほぅ……まだ何かするつもりか。どれだけ魔力を込めようが俺を殺せるとは思えんな」
「なら受けてみろ。アブソリュートバーストをさらに凝固させて魔力を込めた一撃を!!」
「ただでさえ砲撃魔法は身体を傷つけ、リンカーコアにもダメージを与えるというのに出来るのかそんな氷結魔法を?」
「出来る!オーロラエクスバースト!!」
先程放ったアブソリュートバーストよりも威力が魔力が冷気が上がった氷結魔法を放つ。
その砲撃は紅牙に向かいながら地面を木々を凍らせていく。
周りをも凍らせる氷結魔法を紅牙は片手を伸ばし、
「成程、確かにさっきの砲撃よりも遥かに上がっているようだ。褒めてやる」
「なっ……!」
「だがこの俺の力の前では……無意味だ!!」
紅牙の拳に荒々しい風が集まり両手を振り下ろすと、オーロラエクスバーストは真っ二つに割れ目標を失った砲撃は周りの木々を凍らせるただけで紅牙には一撃もダメージを与える事が出来なかった。
『アブソリュートバースト』も『オーロラエクスバースト』も奴にダメージを与える事が出来ず、己の全力を目の前の男はなんなく消滅させていく。
自分では勝てないのか?
手が届かずただこの男に殺されてしまうのか?
佑奈を殺しフェイトを傷つけたこの男を殺せず死んでいいのか?
いやっ!まだだ!
まだ終わるわけにはいかない!
「んっ?」
「まだだ!まだ戦える!」
立ち上がり双銃を一つにして魔法陣を展開させる。
もう空っぽに近い魔力を全て銃に注ぎ込む。
血を流しすぎて身体は震え、銃を持つ手がカタカタ震えながらも瞳だけはまだ静かに燃えていた。
「アブソリュートバーストでもオーロラエクスバーストでもお前を殺せないなら‥‥最期の氷結魔法をぶつける!!」
ブレイカー級の魔法を放つのはおそらくあの時の闇の書事件以来だ。
あの時は双銃で放ったが今回は違う。
レンと共に編み出したこのブレイカーで奴を殺す。
「何だ奴のデバイスから膨れ上がる魔力は?」
「フューチャーデバイスはマスターの想いに反応して答えてくれるデバイスなんだ。僕の想いにレンは答えてくれた。だから――」
銃口の魔力が凝縮されまるで全てを飲み込むかのような魔力が集まりそれはクルスとレンの声と共に放たれた。
『アブソリュート・フィナーレ!!』
一気に放たれた一撃は何もかも凍らせまだ紅牙に当たってもいないのに紅牙の身体を氷付けにしていき、鎧は足元から氷だし紅牙は顔を歪めていく。
「ぬぅぅぅぅぅ!!」
「このままお前を殺す!!」
アブソリュート・フィナーレは紅牙を飲み込むように当たりクルスの視界から紅牙の姿が見えなくなる。
これでやっと奴を殺せた。
僕の勝ちだ―――
「……えっ」
それは誰の声だったのだろうか?
確かにクルスの放った最期の氷結魔法は紅牙に当たっていた。
それなのに――
「そう簡単には殺されんぞ!復讐者!」
紅牙は魔法陣を展開させ両手で氷結魔法を受け止めていた。
下半身が凍っているのにも関わらずクルスの放った砲撃を。
「レン!まだだもっと力を!」
『マスター!これ以上はマスターの身体が!!』
「かまうものか!もう少しであの男を殺せるのに!!」
トリガーを持つ手から次の瞬間、血が吹き出してさらにクルスの足や手や背中や目から血が吹き出してクルスはなんとトリガーを持つ手を離してしまう。
身体に限界がきたのだ。
それを見ながら紅牙は受け止めていた魔法を己の手で球体に変えてクルスに向かって跳ね返したのだ。
「終わりだ復讐者よ……聖壁」
「クソッ……!」
『クルス!!』
聞こえるはずのない声。
眠っているはずのフェイトの声がクルスの耳に届く。
それは果たして幻聴だったのか?
それを確かめるすべをクルスは知らない。
球体となった一撃はクルスに直撃しフィールドは光に包まれていく。
あの一撃で勝負はついたと誰もが思った。
ショウや仲間達はクルスが無事だと祈りながらモニターを見ていたが光が消えてモニターに映ったのは、
「嘘…だろ…」
「クルス君……」
「こんなん夢やろ…?」
仲間達の目に入ったのはフィールド全てが凍りフィールドで両手を上げて立っている紅牙の姿だけだった。
そこにクルスの姿はなかったのだ。
それはつまり―――
「俺をここまで追い込むとはな。その威力だけは認めてやる。復讐者よ」
静かにただ紅牙はそう口にするのだった。
~??~
僕は死んだのか?
結局あの男を殺すどころか逆に殺されてしまったのか?
「……ここは?」
男の目の前に広がる花畑。
暖かく懐かしい気持ちにさせる場所で男は目を細め辺りを見回していた。
「僕には似合わない場所だな。でも何でかな、ここは落ち着く」
「だってそれはアナタが心のどこかで望んでいたからじゃないのクルス?」
「えっ?」
背後から聞こえてくる懐かしい声。
その声に反応して振り返ったクルスの視界にはあの時失った存在。
自分が守れなかった幼馴染みの少女【柊佑奈】がそこにはいたのだ。
「佑……奈……?」
「久しぶりだねクルス」
その声も笑った顔も変わらない少女。
その姿にクルスはおぼつかない足取りで進み手を伸ばすと、クルスの手を佑奈は己の手で包み込むように握りニッコリ笑う。
「こんなにボロボロになるまで戦っていたんだねクルス」
「佑奈、これは夢なのか?それとも――」
「夢であって夢じゃないのかもね。でも今ならまだクルスは戻れる」
少女はクルスの手を握ったまま悲し気な表情で話を続けていく。
「私が死んでからクルスはずっと戦い続けた。あの時からクルスを変えてしまったのは私の責任。ごめんね」
「佑奈」
「でも私はクルスにこれからも生きていてほしい。今クルスには生きる意味があるよね?あの女の子の為にも死なないで」
クルスの脳裏によぎるフェイトの笑顔。
自分の中でフェイトは特別な存在だ。
でも自分がこれからとる行動はフェイトを傷つけてしまう。
それなら――
「死んだ私が言うのもなんだけど、クルスは死んじゃダメ。あの時約束したよね?私の分まで生きるって」
佑奈は手を伸ばしクルスの頬に手を当てて優しく微笑む。
「私はずっとクルスの中で見守ってるから。だから泣かないで」
クルスの瞳から溢れる雫。
それにつられるように佑奈の目からも溢れていく雫。
「…僕は」
「アナタはもう泣かないで」
「……佑奈に何も」
「こうして会えたからいいの。だから生きてクルス」
視界に広がる眩しい光に目を閉じるクルス。
自分の中に何かが流れる感覚に驚きながらもクルスの姿はこの場所から消えていく。
『アナタやショウの幸せを私はずっと願ってるからね!』
微かに聞こえてきた佑奈の声。
彼女の願いを無下には出来ない。
だから僕は―――
~フィールド~
クルスを殺し終えた紅牙はゆっくりクルスがいた場所から背を向けて歩き出した。
自分と全力で戦った復讐者の最期に紅牙は笑みを浮かべて歩いていたのだが、
「何だこの雪は?」
空から降る白い雪を見上げながら眉を寄せる。
確かにあれだけの氷結魔法がこのフィールドで飛び交っていたが所詮は魔法にすぎない。
しかしこの空から降る雪は自然の雪である。
何故こんな時に降るのかと不意に視界を背後に向けて目を見開く。
己の目に入ったのは、
「……」
雪のように白いBJを身に付け背中からは蒼い翼を羽ばたかせ、まるでさっきの戦いがなかったかのように傷ひとつないクルスがそこにはいた。
「貴様生きていたのか」
「……」
クルスの雰囲気が違う事に違和感を感じつつ紅牙は手を突き出してその拳を振るう。
「聖拳!」
その拳はクルスを捉えていたはずだが紅牙の拳は何も捉えていなかったのか空振りをして、冷たい風が流れたと思ったらクルスはいつの間にか紅牙の背後から離れた場所で空を見上げていた。
「……」
「戦う気がないなら大人しく殺されろ復讐者」
あまりにも不気味すぎるクルスに紅牙は手を上げて振り抜く。
悠太を真っ二つにしフェイトでも避けるのがやっとだった一撃をクルスはフッと笑い手を伸ばしその一撃を凍らせてバラバラにしたのだ。
「なにっ!?」
「なぁ紅牙」
ゆっくり振り返ったクルスの瞳には先程とはうって変わり憎しみが感じられず穏やかでまるで全てを見通しているような瞳に変わっていた。
その瞳や雰囲気に紅牙はただ戸惑うばかり。
「綺麗だよね雪って」
「気でも狂ったか?殺し合いの中でそんなふざけた事を」
「狂ったのかもね」
ただ笑っている目の前の男に紅牙は拳を振るう。
その拳はクルスを捉える事が出来ないのか紅牙は少しずつ苛立ち怒りの表情を浮かべていく。
その時――
「光氷一閃」
クルスの剣が鎧を切り裂きその一撃は鎧を傷つけただけのはずが、
「ぐぉっ!」
その剣は紅牙の右肩からバッサリ切り裂いて紅牙は大量の血を吹き出して片膝をつく。
何の変哲もないただの一閃。
それなのにその一撃は自分の鎧を肩から切り裂きダメージを与えていた。
全身に紫色の鎧を身に付け背中には巨大な翼が装着され目は獣のように鋭く変わっている。
その紅牙の姿にクルスは無意識に息をのみ額からは汗が流れていた。
「それがお前の本当の力か?」
「そうだ。復讐者よ俺をガッカリさせるなよ」
「たとえお前がどんな姿に変わろうが殺す事に変わりはない」
双剣を双銃に変え魔法陣を展開させて魔力を込める。
先程と違い銃口に込められる魔力が冷たく感じ目を細めていく紅牙。
「アブソリュートバースト!!」
二つの銃口から放たれた氷結魔法。
その氷結魔法は物凄い速度で紅牙に迫り紅牙に直撃したのだが、
「ムダだ」
たった一度翼を羽ばたかせただけで氷結魔法は消え唖然とするクルスに紅牙は接近しながら殴り飛ばした。
「なっ……!」
「言ったはずだぞガッカリさせるなと」
紅牙に殴り飛ばされ目を見開くクルス。
アブソリュートバーストは先程放ったシャイニングバスターよりも威力を高めた魔法であり、紅牙を殺すためだけに編み出した技なのにこうもあっさり消されるなんて―――
「くっ……!」
「少しダメージを与えたぐらいで調子に乗るからだ。俺はまだ少しも力を出してはいないというのに」
「……」
「確かにお前の憎しみは成長し、お前自身を強くしたはずだ。だがお前がいくら強くなろうと【オレ】と【お前】では差がありすぎるのだ」
ただ圧倒的に立ち言葉を放つ紅牙。
その言葉に頭から血を流していたクルスはフッと笑う。
「偉そうにご託をならべるな。たとえお前が強かろうが関係ない。僕はお前を殺すと言ったはずだ」
魔法陣を展開させ双銃の銃口を紅牙に向けるクルス。
魔力を高め地面が小さく揺れ辺りが徐々に冷たい空気に包まれていく。
クルスを中心に冷気が集まり紅牙の頬を凍りつかせるほどの風が撫でる。
「ほぅ……まだ何かするつもりか。どれだけ魔力を込めようが俺を殺せるとは思えんな」
「なら受けてみろ。アブソリュートバーストをさらに凝固させて魔力を込めた一撃を!!」
「ただでさえ砲撃魔法は身体を傷つけ、リンカーコアにもダメージを与えるというのに出来るのかそんな氷結魔法を?」
「出来る!オーロラエクスバースト!!」
先程放ったアブソリュートバーストよりも威力が魔力が冷気が上がった氷結魔法を放つ。
その砲撃は紅牙に向かいながら地面を木々を凍らせていく。
周りをも凍らせる氷結魔法を紅牙は片手を伸ばし、
「成程、確かにさっきの砲撃よりも遥かに上がっているようだ。褒めてやる」
「なっ……!」
「だがこの俺の力の前では……無意味だ!!」
紅牙の拳に荒々しい風が集まり両手を振り下ろすと、オーロラエクスバーストは真っ二つに割れ目標を失った砲撃は周りの木々を凍らせるただけで紅牙には一撃もダメージを与える事が出来なかった。
『アブソリュートバースト』も『オーロラエクスバースト』も奴にダメージを与える事が出来ず、己の全力を目の前の男はなんなく消滅させていく。
自分では勝てないのか?
手が届かずただこの男に殺されてしまうのか?
佑奈を殺しフェイトを傷つけたこの男を殺せず死んでいいのか?
いやっ!まだだ!
まだ終わるわけにはいかない!
「んっ?」
「まだだ!まだ戦える!」
立ち上がり双銃を一つにして魔法陣を展開させる。
もう空っぽに近い魔力を全て銃に注ぎ込む。
血を流しすぎて身体は震え、銃を持つ手がカタカタ震えながらも瞳だけはまだ静かに燃えていた。
「アブソリュートバーストでもオーロラエクスバーストでもお前を殺せないなら‥‥最期の氷結魔法をぶつける!!」
ブレイカー級の魔法を放つのはおそらくあの時の闇の書事件以来だ。
あの時は双銃で放ったが今回は違う。
レンと共に編み出したこのブレイカーで奴を殺す。
「何だ奴のデバイスから膨れ上がる魔力は?」
「フューチャーデバイスはマスターの想いに反応して答えてくれるデバイスなんだ。僕の想いにレンは答えてくれた。だから――」
銃口の魔力が凝縮されまるで全てを飲み込むかのような魔力が集まりそれはクルスとレンの声と共に放たれた。
『アブソリュート・フィナーレ!!』
一気に放たれた一撃は何もかも凍らせまだ紅牙に当たってもいないのに紅牙の身体を氷付けにしていき、鎧は足元から氷だし紅牙は顔を歪めていく。
「ぬぅぅぅぅぅ!!」
「このままお前を殺す!!」
アブソリュート・フィナーレは紅牙を飲み込むように当たりクルスの視界から紅牙の姿が見えなくなる。
これでやっと奴を殺せた。
僕の勝ちだ―――
「……えっ」
それは誰の声だったのだろうか?
確かにクルスの放った最期の氷結魔法は紅牙に当たっていた。
それなのに――
「そう簡単には殺されんぞ!復讐者!」
紅牙は魔法陣を展開させ両手で氷結魔法を受け止めていた。
下半身が凍っているのにも関わらずクルスの放った砲撃を。
「レン!まだだもっと力を!」
『マスター!これ以上はマスターの身体が!!』
「かまうものか!もう少しであの男を殺せるのに!!」
トリガーを持つ手から次の瞬間、血が吹き出してさらにクルスの足や手や背中や目から血が吹き出してクルスはなんとトリガーを持つ手を離してしまう。
身体に限界がきたのだ。
それを見ながら紅牙は受け止めていた魔法を己の手で球体に変えてクルスに向かって跳ね返したのだ。
「終わりだ復讐者よ……聖壁」
「クソッ……!」
『クルス!!』
聞こえるはずのない声。
眠っているはずのフェイトの声がクルスの耳に届く。
それは果たして幻聴だったのか?
それを確かめるすべをクルスは知らない。
球体となった一撃はクルスに直撃しフィールドは光に包まれていく。
あの一撃で勝負はついたと誰もが思った。
ショウや仲間達はクルスが無事だと祈りながらモニターを見ていたが光が消えてモニターに映ったのは、
「嘘…だろ…」
「クルス君……」
「こんなん夢やろ…?」
仲間達の目に入ったのはフィールド全てが凍りフィールドで両手を上げて立っている紅牙の姿だけだった。
そこにクルスの姿はなかったのだ。
それはつまり―――
「俺をここまで追い込むとはな。その威力だけは認めてやる。復讐者よ」
静かにただ紅牙はそう口にするのだった。
~??~
僕は死んだのか?
結局あの男を殺すどころか逆に殺されてしまったのか?
「……ここは?」
男の目の前に広がる花畑。
暖かく懐かしい気持ちにさせる場所で男は目を細め辺りを見回していた。
「僕には似合わない場所だな。でも何でかな、ここは落ち着く」
「だってそれはアナタが心のどこかで望んでいたからじゃないのクルス?」
「えっ?」
背後から聞こえてくる懐かしい声。
その声に反応して振り返ったクルスの視界にはあの時失った存在。
自分が守れなかった幼馴染みの少女【柊佑奈】がそこにはいたのだ。
「佑……奈……?」
「久しぶりだねクルス」
その声も笑った顔も変わらない少女。
その姿にクルスはおぼつかない足取りで進み手を伸ばすと、クルスの手を佑奈は己の手で包み込むように握りニッコリ笑う。
「こんなにボロボロになるまで戦っていたんだねクルス」
「佑奈、これは夢なのか?それとも――」
「夢であって夢じゃないのかもね。でも今ならまだクルスは戻れる」
少女はクルスの手を握ったまま悲し気な表情で話を続けていく。
「私が死んでからクルスはずっと戦い続けた。あの時からクルスを変えてしまったのは私の責任。ごめんね」
「佑奈」
「でも私はクルスにこれからも生きていてほしい。今クルスには生きる意味があるよね?あの女の子の為にも死なないで」
クルスの脳裏によぎるフェイトの笑顔。
自分の中でフェイトは特別な存在だ。
でも自分がこれからとる行動はフェイトを傷つけてしまう。
それなら――
「死んだ私が言うのもなんだけど、クルスは死んじゃダメ。あの時約束したよね?私の分まで生きるって」
佑奈は手を伸ばしクルスの頬に手を当てて優しく微笑む。
「私はずっとクルスの中で見守ってるから。だから泣かないで」
クルスの瞳から溢れる雫。
それにつられるように佑奈の目からも溢れていく雫。
「…僕は」
「アナタはもう泣かないで」
「……佑奈に何も」
「こうして会えたからいいの。だから生きてクルス」
視界に広がる眩しい光に目を閉じるクルス。
自分の中に何かが流れる感覚に驚きながらもクルスの姿はこの場所から消えていく。
『アナタやショウの幸せを私はずっと願ってるからね!』
微かに聞こえてきた佑奈の声。
彼女の願いを無下には出来ない。
だから僕は―――
~フィールド~
クルスを殺し終えた紅牙はゆっくりクルスがいた場所から背を向けて歩き出した。
自分と全力で戦った復讐者の最期に紅牙は笑みを浮かべて歩いていたのだが、
「何だこの雪は?」
空から降る白い雪を見上げながら眉を寄せる。
確かにあれだけの氷結魔法がこのフィールドで飛び交っていたが所詮は魔法にすぎない。
しかしこの空から降る雪は自然の雪である。
何故こんな時に降るのかと不意に視界を背後に向けて目を見開く。
己の目に入ったのは、
「……」
雪のように白いBJを身に付け背中からは蒼い翼を羽ばたかせ、まるでさっきの戦いがなかったかのように傷ひとつないクルスがそこにはいた。
「貴様生きていたのか」
「……」
クルスの雰囲気が違う事に違和感を感じつつ紅牙は手を突き出してその拳を振るう。
「聖拳!」
その拳はクルスを捉えていたはずだが紅牙の拳は何も捉えていなかったのか空振りをして、冷たい風が流れたと思ったらクルスはいつの間にか紅牙の背後から離れた場所で空を見上げていた。
「……」
「戦う気がないなら大人しく殺されろ復讐者」
あまりにも不気味すぎるクルスに紅牙は手を上げて振り抜く。
悠太を真っ二つにしフェイトでも避けるのがやっとだった一撃をクルスはフッと笑い手を伸ばしその一撃を凍らせてバラバラにしたのだ。
「なにっ!?」
「なぁ紅牙」
ゆっくり振り返ったクルスの瞳には先程とはうって変わり憎しみが感じられず穏やかでまるで全てを見通しているような瞳に変わっていた。
その瞳や雰囲気に紅牙はただ戸惑うばかり。
「綺麗だよね雪って」
「気でも狂ったか?殺し合いの中でそんなふざけた事を」
「狂ったのかもね」
ただ笑っている目の前の男に紅牙は拳を振るう。
その拳はクルスを捉える事が出来ないのか紅牙は少しずつ苛立ち怒りの表情を浮かべていく。
その時――
「光氷一閃」
クルスの剣が鎧を切り裂きその一撃は鎧を傷つけただけのはずが、
「ぐぉっ!」
その剣は紅牙の右肩からバッサリ切り裂いて紅牙は大量の血を吹き出して片膝をつく。
何の変哲もないただの一閃。
それなのにその一撃は自分の鎧を肩から切り裂きダメージを与えていた。